第86話 団体戦①
いよいよ団体戦1回戦です。私とヒカリさんの師弟コンビ『チーム鷺宮』の相手は、個人戦決勝で私の相手だったオーガストさん率いる『近衛騎士団Aチーム』です。人数で行けば、2対6、さらに言うならば、女性2人対男性6人です。どう考えても勝ち目はないように思えますが、私たちは、『光の神子』と、『月夜見の神子』です。
「それでは武闘大会団体戦、第1回戦を始めます!第1試合の両者は、何と個人戦で決勝戦の死闘を演じた近衛騎士団団長、オーガスト=トランジェスト率いる『近衛騎士団Aチーム』!対するは、個人戦優勝の少女、メーリア=サンダレス&ヒカリ=サギミヤ!メーリア様は、我らコロラド王国の皇太子であり、『月夜見の神子』様でもあらせられるお方。そして、ヒカリ様は、かの有名な『光の神子』様であらせられる!騎士団は、この化け物2人を相手に、どんな闘いを挑むのか。それではお互い、悔いの残らない闘いを!」
司会者の紹介とともに、会場中が驚愕に支配された。なんだかんだ言っても、この国では、ヒカリさんは超が付くほどの有名人だからだ。会った事はなくても、『光の神子』と言う名前だけは、言葉を話せれば誰でも知っている単語だ。それが目の前にいるのだから、まあこうなるだろう。
さて話は変わるが、今日の私の服装は、いつものごとく、鷺宮魔法学園のセーラー服。ヒカリさんの服装は、白色の長袖のTシャツに袖なしの黒のジャケットを羽織っている。白黒のボーダー柄のタイツに赤白のチェック柄の膝丈よりやや短めのミニスカート。踵の低い黒色の靴を履いている。ヒカリさんが着ている服にも、私の着ているセーラー服同様、『始原還元魔法』が何処かに刺繍されているみたいだ。私たち弟子にいろいろと魔法を教えてくれる際に着ている服だ。本人曰く『冒険者』として活動する時に着ている服装の1つだという事。つまり2人とも、鎧などの防具を一切身に着けていない。武器は、それぞれ専用の武器を持っていますが。
対する『近衛騎士団Aチーム』の皆さんは、フル装備です。「何処かに戦争に行くんですか?」と、思わず隊長さんに訊いてしまいました。隊長っさん曰く、「姫様とヒカリ様を相手取るには、1国の軍隊を相手取るのと同義」だと、言われてしまいました。化け物2人を相手にするようなものなので、何も言い返せませんでしたが。
「初め!」
審判の合図とともに試合が始まりました。私は先制攻撃とばかりに、魔法を放ちます。
「団長さん、まずは昨日の続きから行きます!
天に輝く月夜見の女神よ
我の願いを受け入れ、我に力を与えよ
白き球は光の刃、全てを包む始まりの詩
黒木球は闇の刃、全てを無に帰す終焉の詩
緑の球は風の刃、全てを切り裂く破邪の落とし仔
青き球は水の刃、全てを飲み込む水禍の漣
赤き球は火の刃、全てを焼き清める業火の礎
黄色き球は地の刃、全てを包む永久なる凍土
6属全て揃いしは月夜見の断罪
『月の女神の怒りの鉄槌』」
私が言霊を詠唱する間、ヒカリさんが私を援護して、騎士団からの攻撃を風魔法で防いでくれています。ヒカリさんは、アイコンタクトもなしに、私と合われてくれました。魔法の感性とともに放たれたのは、昨日団長さんの頭上に現れた6色の球体。今回は躊躇なく球体を、6人の騎士1人ずつに落とします。後衛として魔法で援護していた宮廷魔導士の2人は、すかさず防御魔法を唱えました。
「我は願う、光の障壁
聖なる光は全てを守る
『光の防御陣』!」
放たれた魔法は、光属性の最大防御魔法です。しかし、詠まれた詠唱が『新代魔法文字』では、『言霊』で詠まれた魔法に敵うはずがありません。したがって、私の放った魔法は、展開された障壁を軽々と破壊しました。障壁に接触した瞬間に、各属性ごとに設定している攻撃魔法が、騎士団の頭上に降り注ぎます。
この魔法は、球体が何かに接触すると、各属性ごとに数十から数百の『刃』を生み出し、相手を縦横無尽の襲う魔法です。今回は、それほど魔力を込めていないので、『刃』の数は、50本と少なめです。まだ『刃』の形が視認できる属性は、それなりに対処できるのですが、『光の刃』と『風の刃』だけは別です。この2つは、視認する事が困難なため、感覚だけを頼りに攻撃を捌かなくてはいけません。
攻撃対象は、『それぞれの球体に一番近くにいた人物』なので、今回は、『光の刃』を団長が、『風の刃』を宮廷魔導士の魔術師長が相手をします。この人は、私がヒカリさんに師事するまでの、魔法の師匠でもあります。さてこの2人は、見えない『刃』にどう対処するのでしょうか?
「光属性の最大防御魔法が、破られただと!姫様の魔法は、何故防げないんだ?」
魔術師長が、大きな疑問を呈しています。私は、その疑問にある程度の正解を話してあげました。
「魔術師長、『魔法』には、大きく分けて3つの詠唱があります。この事は、ヒカリさんに教えて貰うまで、私も知りませんでした。そして、あなた方が先程唱えた詠唱は、一番威力の低い詠唱方法です。ちなみに私が放った魔法は、一番威力の高い詠唱方法で唱えました。あと違うとすれば、込められた魔力量の違いですね。ヒントはこれくらいにしておきましょうか。
とりあえずは、襲い掛かってくる『刃』を何とかしてみなさい。私は、その間に、新たな魔法を構築していますので。」
私のサポートに徹していたかに見えたヒカリさんから、少し意地悪な声がかかりました。
「メーリアばかりやらせていたら、腕が鈍ってしまうわね。ここで一つ、騎士団の皆さんにもう少し意地悪な事をしてみましょうか。」
ヒカリさんは、息をするように高度に構築された魔法を詠唱しだしました。
「天より貫く一筋の光の帯よ
大地を穿ち、天を焦がすは獄炎の御剣
全てを無に還し、すべてを生に誘う
我求めるは、遍く降り注ぐ光の雨音
『降り注ぐ千条の光の矢』」
ヒカリさんが発動キーを唱えると、天から無数の光の矢が騎士団に向けて降り注いだ。光の矢は、私の魔法で作られた『刃』も無に還して騎士団に降り注いでいく。全ての光の矢が降り注いだあと、そこに残っていたのは、武装を解除された騎士団の面々だった。
「本来ならば、全てを無に還す魔法ですが、武闘大会のルール上殺してしまうのはいけないので、武装のみを無に還しました。
宮廷魔導士のお2人は、もう少し魔法の勉強をした方がいいですね。私のような相手と闘う時、保有する魔力を効率よく運用しないと、すぐに魔力が枯渇して闘うことが出来なくなりますよ。」
ヒカリさんは、諭すように宮廷魔導士に語り掛けます。
「では、次の魔法で最後にしましょうか。メーリア、やっちゃいなさい。」
「はい、ヒカリさん。」
私は、個人戦で使用した範囲魔法を使用しました。
「全てを閉ざす氷の世界
生なるものを無に誘い
全ての営みを極寒の地に閉ざさん
6属の営みさえも無に還す
我誘うは氷結の漣
『氷結地獄』」
個人戦では、フィールド全てを氷の世界に閉ざした魔法ですが、詠唱をすれば、氷柱を作り出す範囲を指定できます。その結果、6個の氷柱が出来上がりました。5秒後、氷の中から出てきた騎士団は、体力と魔力を枯渇寸前まで奪われ、全身凍傷にかかり戦闘不能です。今回は、反撃すらできないように、限界ぎりぎりまで吸い上げました。よって騎士団の6人は、立ち上がることさえも出来ないはずです。
「降参しますか?それとも、根性で立ち上がってまだ闘いますか?どうするのか、10秒以内に決めてください。」
私は、最後通告を突きつけました。
「これが魔物との戦闘ならば、根性で立ち上がるのだろうが、今は生死をかけた死合ではない。なので、降参する事にする。」
その結果、『チーム鷺宮』は、2回戦に勝ち進みました。
観客席の下に設けられている選手用観覧席で、鷺宮家一行は観戦していた。
「あいつら、やりやがった。」
「何を?」
タケルの呟きに、ヒトミが問いかける。
「本当にすごいわね。ヒカリちゃんとメーリアちゃんは。」
サトミも、タケルに同意する。
「だから、何がすごいの?」
「ヒトミ、よく見てみろ。ヒカリもメーリアも、試合開始の場所から1歩も動いていないぞ。」
タケルの指摘に、その場にいた鷺宮家の面々が、改めてヒカリとメーリアを見た。たしかに試合を開始してから今まで、ヒカリとメーリアは、1歩も動いていない。それどころか、武器すらも出さず、只魔法を数発放っただけだ。この事実を、この会場内にいる者の中でどれだけが気づいているのだろうか。
「最強コンビね、ヒカリちゃんとメーリアちゃんは。」
続いて行われた第2試合は、冒険者のチーム同士の戦いです。剣同士のぶつかり合いに、魔法の援護があり、かなりの見応えです。試合を見学している私たちの元に、先ほど闘った『近衛騎士団Aチーム』の皆さんがやってきました。
「姫様、完敗いたしました。まだ鷺宮魔法学園に通い出してから1ヶ月も経っていないのに、お強くなられました。一体どんな特訓をしたのか、お聞かせ願えるとうれしいのですが。」
オーガストさんが、私の隣の椅子に腰かけて、特訓の仕方を聴いてきました。
「姫様、私からもお願いします。姫様の魔法は、私が展開した光属性の最大防御魔法を、紙切れのごとく突破しました。試合中に、詠唱がどうのこうのと仰っていましたが、私には何がなんやらさっぱり解りかねます。」
魔術師長のカラリスさんも聴いてきました。私は、ヒカリさんの方を向きました。
「まあ、いずれかは解る事だから、2つの質問に答えてあげなさい。」
ヒカリさんの許しが出たので、私は、質問に懇切丁寧に答えました。
「まずは、オーガストさんの質問からお答えします。まずは2つの質問の前提条件として、私が『月夜見の神子』だという事は知っていますね。」
「ああ、姫様が試練を受ける場面にも立ち会っているからな。それと今回の事と、どう関係しているのだ?」
「私は、見ての通り10歳なので、体力はあまりありません。実際、普通に戦った場合、私は、個人背で優勝する事も出来ず、1回戦で敗退しています。」
「確かに…、姫様の体力なら格闘はおろか、姫様の持つ聖剣『月夜見の剣』すらも振り回す事は出来んな。」
「私はこの中で1番体力がないでしょう。しかし、私は、大人たちの混じって試合をしました。ちなみにヒカリさんもあまり体力はないと言っています。」
「ヒカリ様、それは本当ですか?ヒカリ様の武勇伝はいくつかお聞きしていますが、とても体力がないとは思えませんが。」
「それは事実ですよ。実際体力勝負なら、ノリコやヒトミにも劣ります。それを補うために、私とメーリアは、『魔力強化』を自身にかけて戦っています。」
オーガストの問いに、ヒカリは答える。しかし、新たな単語が出てきて、オーガストは首を傾げた。
「ヒカリ様、その『魔力強化』とは一体何なのでしょうか?」
「『魔力強化』とは、自身の体内のある魔力の一部を体力や筋力の補助として使うことです。熟練の域に達しれば、無意識化でも解除されることもなく、また、最低限の魔力で強化する事が可能です。メーリアが、どれだけの魔力を魔力強化に回しているのかは解りませんが、教えてまだ数日しか経っていないのにも関わらず、あれだけの動きをして見せたのです。その効果は、闘った者ならばお解りのはずです。ちなみに私は、小指の先ほどの魔力しか使っていません。」
「それであの強さですか。その『魔力強化』は、私どもにも使うことが出来ますか?」
「はい、誰でも使うことが出来ますよ。鷺宮魔法学園では、選択講義の中で、生徒に教える技能の1つです。魔力強化については、簡単な魔法ですので、金貨1枚でお教えします。」
「教えて貰うのに、お金を取るのですか?」
「これは、テラフォオリアに昔からある魔法ではなく、私が考えた魔法です。体力のあまりない私が、冒険者としてやっていくにあたり、いろいろ考えて作り上げた魔法です。お金を払うのが嫌なら、ご自分で魔法を作ればいいだけの話です。」
「姫様には無償で教えたではありませんか。それと、魔法は、新たに造りだす事なんてできるのですか?」
「メーリアは、私の弟子です。他の9人いる弟子にも、追々教える予定ですよ。弟子になった特権ですね。実際、学園の生徒よりも高度な事をやらせています。学園の生徒は、高い授業料の中に教える料金が含まれています。
新たに魔法を作る行為は、最初に提示された質問の2つ目の回答と、少し被る所がありますね。」
こうして、試合を観戦しながら、ヒカリによる魔法講義が始まった。メーリアも、まだあまり魔法について詳しくないので、ヒカリの話に真剣に耳を傾けていた。




