第85話 個人戦④
いよいよ個人戦の決勝戦です。対戦相手は、この騎士団の団長であり、私の剣の師匠でもあるオーガストさん。当然ながら、剣捌きは私よりの数段上。無詠唱魔法も、タケルさんとの試合で、全くではないが、ほとんど無意味に等しい。唯一敵いそうなのは、詠唱で発動する魔法のみだろうか。
決勝戦は、時間の関係上明日の午前と決まった。午後からは、個人戦の表彰式があり、翌日からは団体戦が始まる。ちなみに3位決定戦は、タケルさんとノリコさんが夫婦だという事もあり、お互い闘っても無意味なため、旦那であるタケルさんを立てる形でノリコさんが棄権した。
実際は、私との試合で、ノリコさんは魔力をほとんど使ったためだ。『闇騎士の抱擁』の持つ漆黒の剣に貫かれると、保有する魔力の99%を吸い取られ、さらに全回復するのに最低24時間かかるのだ。私との試合で、ノリコさんが棄権したのも、魔力が枯渇したことが大きかった。
3位がタケルさんに決定した後、団体戦の組み合わせ抽選があり、『チーム鷺宮』こと、私とヒカリさんは第1試合、『暁のトラ』のタケルさん、ノリコさん、サトヒサさん、ヒトミさんは第4試合、『水の踊子』ことサトミさん、サキさん、ナオコさんは第6試合です。ちなみに団体戦の私の相手は、『近衛騎士団Aチーム』だったりします。
今は、鷺宮商会ロンドリア支店にある食堂で少し早めの夕食を、3チームのメンバーで机を囲んで摂っています。ここの食堂は、カランの本店で修業を積んだミーナさんが現料理長を務めています。今日は、師匠であるサトミさんが来店しているとあって、気合の入った料理が並んでいます。私はその料理に舌鼓を打ちながら、ヒカリさんに魔法についていろいろと聴きました。
「ヒカリさん、私、空を飛んでみたいんですけど、今の私でも可能ですか?」
ヒカリさんは、私の質問に的確に答えてくれます。
「メーリアなら楽勝よ。なんなら、水の中だって平然と戦えるわ。メーリア、空を飛びたいのなら、具体的にどのように空を飛びたいのかを『イメージ』するの。そうする事で、頭の中に構築された魔法陣に魔力を送って、浮かんできた発動キーを唱えれば空を飛ぶ事が出来る。ただし慣れないうちは魔力を無駄に使うから、明日の決勝戦で使用するのはお勧めしない。『魔力を温存しろ』とは言わないけれど、無駄に垂れ流す事は避けた方がいいわね。」
「では、ノリコさんが私との試合に使っていた『空間転移』についてはどうですか?」
「空間転移?これも慣れないうちは、実戦での使用はやめた方がいいわね。今のメーリアなら簡単にできるだろうけど、転移先の明確なイメージと、転移させる『モノ』の指定がしっかりと出来ないと。この闘技大会が終わったら、両方とも教えてあげるから今回はやめておきなさい。」
「分かりました。今回はやめておきます。」
「サトミさん。今回のこれは最上級に酷い『イジメ』です。」
私とヒカリさんの話が終わったのを見計らい、サキさんが話題を変えた。
「何が『イジメ』なの?」
サトミさんは、首を傾げました。
「町を散策して帰ってきたら、いきなり『団体戦に出場するメンバーに登録しておいたから。一緒に頑張ろうね』だもの。これを聴いた時は、2人して頭の中が真っ白になったわ。さらに話を聞いていけば、ヒカリとタケルも共犯だし。」
「サキもナオコもSランクなんだから、出場して当たり前。これで棄権でもしたら、あなたたちの給料、今後1年間、出さないから。」
「それはないよ、ヒカリ。労働基準法違反だわ。」
「この世界にそんな法律が通用するとでも思っているの?ちなみに、コロラド王国には、それに類似する法律はないわよ。他国に行ってもないんじゃないかしら。隣のタリルトリア帝国にも、そんな法律なかったからね。伊集院魁人率いる元2年5組が、国政を担っているのにも拘らずね。」
ヒカリさんの脅迫じみた言葉に、サキさんとナオコさんは項垂れています。
そんなこんなで楽しい夜は更けていきました。ヒカリさんたちは、今晩は鷺宮商会に泊まるみたいです。私も、ご相伴に預かり、ここで泊まる事にしました。
翌日、決勝戦の舞台に上がった私。目の前には、剣の師匠であるオーガストさんがいます。
「姫様、今日は本気で行かせていただきますよ。姫様が使われる魔法は、私にとっても脅威ですので。」
「オーガストさん、剣では確実に勝てませんが、ヒカリさん直伝の魔法や体術を駆使して勝たせていただきます。」
言葉の応酬をしながら、私は無詠唱で魔法を構築していきます。開始の合図とともに、私は、数種類の魔法を同時に放ちます。団長相手に出し惜しみなどいたしません。全力で叩き潰します。
私に向かって走り出す団長の足元が、団長を引きずり込むように大きく窪みます。団長は土佐に大きく上空へと退避しますが、そこには、団長を全方位から囲むように、火矢が無数に出現し一気に襲いかかります。団長は、踏ん張りの聴かない空中で剣を振り、火矢と格闘します。そして徐々に落下していき、地面の流砂に着地しました。私は、流砂の中に大量の水を流し込んで、団長を足止めします。
水を含み、さらに動きずらくなった流砂の中で、負けじと団長ももがきます。ノリコさんのように、空間転移を使うことが出来ない団長は、流砂から脱出できません。流砂でもがいている団長を見ながら、私はゆっくりと魔法を詠唱しました。
「天に輝く月夜見の女神よ
我の願いを受け入れ、我に力を与えよ
白き球は光の刃、全てを包む始まりの詩
黒木球は闇の刃、全てを無に帰す終焉の詩
緑の球は風の刃、全てを切り裂く破邪の落とし仔
青き球は水の刃、全てを飲み込む水禍の漣
赤き球は火の刃、全てを焼き清める業火の礎
黄色き球は地の刃、全てを包む永久なる凍土
6属全て揃いしは月夜見の断罪
『月の女神の怒りの鉄槌』」
魔法の発動とともに、流砂の中にいる団長頭上に、6色の拳大の球体が現れた。球体は徐々に高度を下げ、団長に向かって降りていきます。この魔法は、球体が目標に当たるか、球体を傷つけるかした時、属性ごとに指定した魔法が発動する仕組みになっています。
「オーガストさん、どうしますか?何もしなくても、頭上の球体が接触すれば魔法が発動します。球体に攻撃をかけても、球体が破裂して魔法が発動します。また私の意志で、オーガストさんに1つづつ当てる事も出来ますし、すべてを1度に当てる事も可能です。」
私は、両手を掲げて団長に問いかけます。
「…、姫様、魔法のみで私を凌駕するなど、成長しましたね。王都にある魔法学園ではなく、カランにある鷺宮魔法学園に通わせたのは、正解でしたね。さらにヒカリ様の弟子となり、『月夜見の神子』でしたか。王族の中から、神の一柱である月夜見の女神様の神子になられたのは、とても喜ばしい事です。」
「今はそんなこと関係ありません、オーガストさん。この試合、降参しますか?それとも、まだ闘いますか?どちらかを選んでください。」
「闘うを選ぶと、頭上の魔法が容赦なく襲ってくんでしょうね。どんな攻撃を受けるのかは、とても興味がありますが、まだ団体戦が残っているので、今回は降参いたしましょう。」
「勝者、メーリア!なんと、たったの10歳の少女が、並み居る強敵を蹴散らして、見事個人戦を制してしまった!歴史に名を残す快挙だ!」
司会者の優勝宣言で、私の個人戦優勝が決まりました。
「明日の団体戦、私たち近衛騎士団Aチームが、個人戦の雪辱を果たすとしましょうか。」
「それはどうでしょうか。明日は、私とヒカリさんの師弟コンビでお相手するんですよ。私がメインを張りますが、ヒカリさんの使う魔法は、私よりも脅威になると思いますよ。」
「ヒカリ様はともかく、姫様はまだ多対一を経験しておりません。そこらへんが明日の試合の勝敗を決めると思いますが、どうでしょうか?」
「確かにそうですね。個人戦の1回戦は瞬殺してしまいましたから、多対一の状況で闘った事はないです。まあ、これも修行です。騎士団の皆さんの胸をお借りします。」
「そう仰るという事は、明日の試合、姫様は瞬殺勝負はしないという事ですね。よろしい。明日は、姫様の修行にお付き合いいたしましょう。」
表彰式の準備の間、私と団長は、明日の試合について話していました。
「これより、闘技大会個人戦、表彰式を始めます。第3位。『暁のトラ』リーダー、Sランク冒険者、鷺宮タケル!」
タケルさんが一番低い雛壇に上ります。
「準優勝。コロラド王国近衛騎士団団長、オーガスト=トランジェスト!」
団長が、次に低い雛壇に上ります。そして最後に私が呼ばれます。
「個人戦優勝、我コロラド王国皇太子であり、『月夜見の神子』で在らせられる、メーリア=サンダレス王女殿下!」
私の肩書が告げられた瞬間、会場が一瞬静まりました。そして、最大級の歓声が会場を揺らします。この瞬間まで、一部を除いて、私の事を只の10歳の少女だと思っていたからです。
王様から優勝賞金として、金貨100枚を頂きました。オーガストさんには金貨50枚、タケルさんには、金貨25枚です。
こうして、私の初めての武闘大会個人戦は、私のぶっちぎりの優勝と言う形で幕を閉じました。




