第83話 個人戦②
開会式も終わり、いよいよ第1回戦が始まります。私がこの大会の主賓である皇太子だという事は隠して、ただの10歳の少女として大会に出場しています。
今の私の服装は、鷺宮魔法学園のセーラー服。まだ半月ほどしか袖を通していませんが、私の持っている中ではこの服が一番動きやすいからです。カランにいる時は、学園が休みの日以外では、1日中着ている事もあります。
周りの大人たちは、そんな私に微笑ましい視線を送っています。この視線は、この世界で生きる者の視線ではないですね。『見た目』だけで相手を判断するなんて…。この中には何人か騎士団の者たちもいるようなので、あとで近衛騎士団の団長さんに進言しておきます。騎士団の中には、たとえ下っ端でも、私を見た事くらいはあるはずなのに。
私と『暁のトラ』のメンバーは、うまくばらけています。戦うことになるのなら、3回戦以降になります。参加人数は、個人戦が総勢480人、団体戦が総勢16組。個人戦1回戦は、30人が一斉に戦うバトルロワイアル方式。2回戦以降は、1回戦で勝ち抜いたものによるトーナメント方式です。優勝するには、4回勝ち抜かなければいけません。団体戦は、はじめからからトーナメント方式です。こちらも決勝まで勝ち抜かなければ、『暁のトラ』とは戦うことはありません。ちなみの私とヒカリさんのチーム名は、『チーム鷺宮』、サトミさんとサキさん、ナオコさんのチーム名は、『水の踊子』となっています。
1回戦第1試合は、タケルさんが出ています。試合開始とともに近くにいる人たちを、怒涛のごとく蹴散らしていくタケルさん。5分ほどで、全体の半分近くを戦闘不能にしてしまいました。そして程なくして1対1になります。相手は、冒険者で同じSランクに人らしいです。話を聞いている感じでは、知り合いらしいです。
「タケルじゃないか、久しぶりだな。元気してたか?」
「ダニエルこそ。まだくたばっていなかったか。」
「おお、この通り5体満足だ、お互いにな。まあなんだ。準備運動も終わったことだし、早速本番と行くか。」
「そうだな。まずは俺から行かせてもらうぞ。…『雷嵐暴風』!」
タケルさんは無詠唱で自然災害級の大魔法を放ちます。フィールド上には、小さな嵐が発生しています。相手のダニエルさんは、慌てずに防御魔法を展開させましたが、その防御すらもやすやすと突破していく雷。暴風が収まったときは、剣技による応酬が始まっていました。最初の魔法攻撃で、ダーメージを負っているダニエルさんは、タケルさんに押し負けてしまいました。最後は、地魔法で作った落とし穴にはまり、首筋に剣を突き付けてタケルさんが勝利しました。
2回戦に出てきたヒトミさんは、1対1まででは持ち込んだのですが、そこまで至るのに体力を消耗してしまい、相手の攻撃を流し切れずに負けてしまいました。サトヒサさんは、難なく2回戦に勝ち上がりました。
そしていよいよ私の出番です。ヒカリさんからは、瞬殺しろと指示が出ています。周りの対戦相手は、私の事を無視しているかのようです。この身なりでは仕方のないことですが、少しカチンとしました。なので私は試合開始の合図とともに、少し強めに魔力を込めて無詠唱で魔法を発動させました。
「氷結地獄」
私が発動キーを呟いた瞬間、フィールド上いっぱいに高さ約3メートルの氷の壁が出現します。氷壁は、私以外の対戦者すべてを飲み込んで、氷漬けにしてしまいました。この氷柱の温度は、ー150℃と極寒仕様です。何の対策もしていない対戦者たちは、一瞬で全身が凍傷にかかります。また氷柱には、魔力と体力を限界まで一瞬で奪うように別の魔法が組み込んであります。魔法を放とうにも、体力と魔力を限界まで奪われていては、発動する事も闘う事出来ません。
きっかり5秒数えたのち、私は氷柱を解除しました。フィールド上には、凍傷で全身の皮膚が青紫色に変化しガクガク震え、体力と魔力を限界まで奪われ戦闘不能になった対戦者たちと、無傷で元気な私だけ。当然私の勝利です。かかった時間は、僅か10秒。
私は闘技場の端で観戦しているヒカリさんのもとに駆け寄ります。
「10秒でしたか。なかなかのタイムです。これでは準備運動にもなりませんでしたね。後で少し体を動かしましょうか、メーリア。」
「はい、ヒカリさん。よろしくお願いします。」
「2試合後はノリコの試合です。ノリコ、解っていますね。10秒以内に倒さないと、お昼はノリコの奢りですよ。」
「解っているわよ。10秒以内に倒して、メーリアちゃんに奢ってもらうんだから!」
タケルさんが、私に耳打ちをしてきました。
「ノリコさん。お昼ご飯はゴチになります。」
私は、軽く微笑みノリコに向かって軽くお辞儀をした。
「メーリアちゃんたら、すでに勝った気でいるわね。」
談笑しながら、次の試合を鑑賞する私たち。
「終わったみたいだな。次のメーリアちゃんの相手は、あいつか。あいつは確か、Sランクの強者だぞ。テラテクス程度なら、数匹現れても平然と殺していたと記憶している。名を確か…アクセルドとかいったか。」
「テラテクスをねえ。」
「そろそろノリコの出番だな。がんばれよ。」
試合の結果は、ノリコさんの圧勝だった。しかし、殲滅にかかった時間が1分と、私の10秒に到底及ばなかった。ちなみに、私の戦闘時間が、今大会最速だったみたいです。
結果、闘技場に隣接しているレストランの一角では、テーブルにぎっしりと並べられた料理を前に、私を始めとした6人が座っています。
「ノリコさん。ゴチになります。」
私の勝利宣言?の挨拶の後、がっつりを食べ始める面々。午後から試合だというのに、そんなに食べて大丈夫なのか?と疑問がわくが、冒険者なのだから大丈夫なのだろう。かくゆう私も、結構な量を食べている。
食後のデザートを食べながら、ヒカリさんが話し出した。
「ヒトミは残念だったけれど、後のメンバーが戦うのなら準決勝からだね。特に、メーリアとノリコの試合は、とても楽しみにしているから。」
ヒカリさんが、この後の試合の事を話しています。
昼食をはさんで最初の試合、そう、タケルさんの試合です。タケルさんの相手は、我コロラド王国近衛騎士団の副長です。開始の合図とともに、お互い最速の速度で間合いを詰めました。そして始まる剣技と魔法の応酬。剣技の方はお互い互角なのですが、魔法合戦になると、タケルさんの方が1枚も2枚も上手です。副長は詠唱をしてからの魔法ですが、タケルさんは、無詠唱で魔法を放ちます。それもかなり強力な魔法です。その差が、時間とともに開いていき、試合開始から約35分後、とうとう副長の剣が弾かれてしまいました。
「まだやるか?」
「…いや、このまま魔法合戦といきたいところだが、君の無詠唱魔法が僕の魔法を上回っているだろうから、この辺でやめておくよ。また機会があったら闘おうか。」
「そうだな、機会があったらまた闘おう。」
剣を突きつけながら言うタケルさんの問いかけに副長は、降参宣言をしました。
一試合挟んで、次は私の試合です。フィールドの上で、私とSランク冒険者のアクセルドが対峙しています。
「お嬢ちゃん、1回戦みたいに瞬殺されると面白くないから、真面目に戦おうぜ。」
この人も、私の正体をある程度は予想しているはずなのに、『嬢ちゃん』呼ばわりしてきます。私にしてみれば、とても好ましい相手ですが。折角なので、お互いに罵り合いをしてみます。
「私の師匠からも言われているので、今回は剣技をメインに戦いたいと思います。小出しに魔法は使いますが。…でも、面倒くさくなったら、大技の魔法で終わらせます。」
「はっはっは!その感じだと、嬢ちゃんが飽きるまでに試合を終わらせれば、俺の勝ちに持っていけるな。」
「そうですね。私が飽きるまでに終わらせれられれば、あなたの勝ちになるかもしれません。それでも勝つのは、私ですが。私には、無詠唱で発動できる魔法がたくさんありますから。」
「言うじゃないか、嬢ちゃん。無詠唱魔法は少し恐怖だが、それでも勝つのは俺だ。」
そして始まる剣技勝負。大きく開いている間合いを、走って無しにしようとする相手に、水と地の混合魔法を使って、足元を底なし沼に変えてみました。途端に固いフィールドが沼地になったため、足元を掬われ踏鞴を踏む相手に、私は魔力強化をして聖剣『月夜見の剣』を振り回します。と言っても、ある程度は、近衛騎士団団長から剣に指導を受けている私です。さらにいまは、今上流格闘術も習い始め、剣技はおろか体術にまでも手を出しています。
それらをうまく合わせて、相手の冒険者と切り結んでいる私。小出しに出す魔法はもちろん無詠唱。発動キーすら唱えません。相手の真下に落とし穴を作ったり、周りの風を操って相手を揺さぶります。
少ない体力は、魔力強化で補っています。この魔力強化、少ない魔力で最大限の効果を発揮する優れものです。まだ習ってから2日しか経っていない私ですら、劇的な効果があります。魔力強化を習っていなければ、武術大会にすら出れなかったでしょう。
「嬢ちゃんすごいな。俺とこんなに長い時間、剣はおろか格闘までもこなせる女性はいなかったぞ。」
「それは、褒め言葉として受け取っておきます。でも、少々飽きてきましたので、次で決めさせていただきます。」
「大技の魔法を出してくれるのか!それじゃあ気合を入れないといけないな。」
私は、鍔迫り合いの持ち込んだところで、地属性の拘束魔法を使い、地面に両足を縫い付けて相手の動きを止めました。そして5メートルほど離れて宣言します。
「次で最後です。防げるものなら防いでみなさい。」
そして私は、今さっき考えた魔法を、言霊を使って詠唱します。イメージするのは天空より穿つ一筋の閃光。相手を殺さないように、込める魔力を必要最小限にする。
「暁に染めるは日天の終焉
されど始まるは夜天の煌めき
漆黒を染め上げるは女神らの輝き
我求めるは月輝の調べ、一筋の閃光
大地に穿つは破滅を分かつ光の宣下
『月より奏でる暁の交響曲』!」
メーリアが言霊を詠唱すると、天空から降りそそぐ一筋の閃光。その閃光は、対戦相手であるアクセルドを直撃する。すべてが白一色に染まった後、徐々に霧散していく光の柱。景色の色が元に戻った後、そこにあったのは、すべての防具や武器を木っ端微塵に破壊され、立ったまま気絶しているアクセルドだった。
「勝者、メーリア!」
審判の宣言で、静まり返っていた会場が、大声援に包まれた。10歳の少女が、Sランクの冒険者を撃破したのだ。ヒカリさんの元に駆け寄っていく私に、ヒカリさんは、ねぎらいの言葉をかけてくれました。
「よく頑張りましたね。メーリア。Sランクを相手に、剣技だけで互角に戦えていました。まだまだ少し雑な部分はありますが、まあ、そこら辺は今後の課題ですね。最後に放った魔法は、あなたのオリジナルですか?」
「はい、戦いながら考えました。これって、何かまずい事でしたか?」
途端に不安になる私。しかし、ヒカリさんは、やさしく頭を撫でながら、私の不安を解消してくれます。
「いや、その場で最適な魔法を作る事は、あなたが柔軟な考えを持っている証拠なので構いません。しかし、魔法の威力が少々強すぎですね。あの魔法だと、Sランクに分類されている魔物でも、一瞬で消し炭になるでしょう。次からは、相手に合わせ体力の魔法を作るのを心がけてください。」
「その事は、使った後に思いました。必要最低限の魔力しか込めていないのに、あの威力だったのですから。次からは気を付けます。」
「それから、これはまだ仮定の話ですが、メーリアの力は、月の運行に左右されているかもしれません。」
ヒカリさんが私の持つ力について、仮定の話をした。
「月の運行と私の力が、どんな関係があるのですか?」
私の問いに、ヒカリさんは親切に答えてくれました。
「あくまで仮定の話として、心の片隅に留めておいてください。
今日の2試合で使った魔法、属性的で見れば、第1試合は『氷』、つまりは『水属性』。第2試合は『光属性』の魔法です。」
「はい、言われてみればそうですね。」
私は、素直に頷きます。
「メーリア、少し訊きますが、2つの魔法に込めた魔力量は、同じくらいの量しか込めていなかったはずですね。」
「…、はい。多少の違いはあるでしょうけど、ほぼ同量の魔力しか込めていません。」
私は、2つの魔法に込めた魔力量を考えて答えた。
「しかし、2つの魔法には、明らかに威力が違いすぎます。」
言われてみれば、確かに威力が違いすぎます。
「そこで私は考えました。3柱の月の女神は、それぞれが違う属性を担っているのではないかと。もちろんメーリアは、すべての属性の魔法を放つ事は出来ます。しかし、天空に出ている月の違いによって、属性間で魔法の威力が違ってくるのではないでしょうか。
第1の女神エクシア、第2の女神ガイア、第3の女神タリン、今天空にあるのは、ガイアです。これらの事から考察するに、第2の女神ガイアは、『水属性』の魔法に加護を与えているという事になるでしょう。月の大きさから察するに、大きい順に上位の属性の加護を2つづつ持っていると考えられます。」
「という事は、ヒカリさんの話から察するに、第1の女神エクシアが、『光属性』と『闇属性』、第2の女神ガイアが、『風属性』と『水属性』、第3の女神タリンが、『火属性』と『地属性』の魔法を加護しているという事になりますか?」
「メーリアも結構、頭の回転がいいですね。臨機応変に、その場で魔法を作れるだけはあります。」
ここまで話して、ヒカリさんは目を瞑り、少し黙考を始めました。そしてそのまま、私に指示を出します。
「メーリア。」
「はい、何でしょうか?」
「このままいけば、次の対戦相手は、ノリコになります。ノリコは、『精霊の神子』です。次の試合は、魔法の打ち合いになるでしょう。」
「はい、多分そうなるでしょうね。」
ヒカリさんとの会話の最中、目の前のフィールドでは、ノリコさんが相手を魔法で打ち負かしています。多分そろそろ試合も終了するでしょう。
「ノリコとの試合では、検証も兼ねて、それぞれの属性の魔法を1回以上使いなさい。そろそろ今日の月の暦では、エクシアが東の空から登ってくる頃です。試合が始まる頃には、天空には、エクシアとガイアがいる事になります。仮説が正しければ、多分光と闇、風と水属性の魔法が威力が強くなるはずです。」
ヒカリさんが立てた仮説を検証するため、私はノリコさんとの試合では、すべての属性の魔法を使うことになりました。




