第76話 メーリア様の秘密
国王と私は、いろいろな事を話した。政治的な話から、雑談まで。その中で、北にあるタリルトリア帝国の動きが活発で、何でもコロラド王国との国境に向けて、軍が移動しているそうだ。早ければ、来月の頭には、国境に到達するらしい。
「私の大切なものを蹂躙した場合は、帝国だろうが何処だろうが、容赦なく叩き潰しますが。」
こんなことを王様に言うと、王様は、朗らかに笑いながらこう言った。
「その時が来たら、よろしく頼みます。ヒカリ様。」
そして、先ほどの弟子云々の話になる。
「話は変わりますが、ヒカリ様。」
「はい、何でしょうか、王様。」
「私の事は、どうか『マルキネス』とお呼びください。先程メーリアに『弟子入りしないか』と話されていたみたいですが、実際のところ、メーリアには、どれほどの力があるとお思いでしょうか。」
「そう話されるという事は、マルキネス様も、メーリア様の力については、ある程度の予測めいたことを知っているのでしょうか?」
「はい、ある程度は。メーリアは、9人兄妹の中でもトップクラスの魔力を持ています。物心ついた時には、既にある程度の魔法も使うことが出来ていました。本人曰く、使っている所を見れば、大体の事は理解できるらしいです。しかし、ヒカリ様の使う魔法だけは、見ただけでは再現できないと言っていた。ヒカリ様は、何処かでメーリアに魔法を見せた事があるのですか?」
ヒカリは、マルキネスの問いに少し考えて結論を出す。
「メーリア様に魔法を見せたとすれば、『加護のネックレス』をあげた時でしょうか。マルキネス様には、本当の事を話しますが、この事は、どうか墓に入るまで誰にも話さないでください。」
「何か隠したい事情でもおありなんですな。…。解りました。その秘密とやらは、墓の中まで持っていきましょう。」
「ありがとうございます。この秘密は、私たち『龍神の神子』と、各大神殿の大神官しか知らない事です。秘密とは、『光龍降誕祭』についてです。他の神子たちも同様なんですが、実はここで授ける『加護』の事です。私の場合で説明しますが、光の大神殿から公表されている事は、『光龍が、私こと光の神子を介して加護を授ける者を選び出す』となっています。しかし実際は、『私の独断と偏見』で選んでいたんです。選ばれる人数にしても然りです。これは、この先私が『光の神子』である限り、変わる事はありません。」
「それは確かに、世間に公表したらパニックになりかねない内容ですな。しかし、『神子』と『龍神』は一心同体の存在。例え神子様の独断だとしても、それはすなわち龍神様が選んでくれたも同然。私は別に気にしません。実際、ヒカリ様たちが現れるまでは、『龍神の意志』など何処にもなく、只決められた者に形ばかりの加護を与えていただけなのですから。
して、興味本位でお聞きしますが、ヒカリ様はどんな基準で、メーリアに加護を授けたのですか?」
マルキネスは、事実をあっさり受け止めた。
「そう言ってくださると、私としてもうれしい限りです。私の場合は、『光龍降誕祭』で詠んでいた祝詞に混ぜ込ませる形で、『光属性を持つ者を、一定空間内から探し出す』魔法を発動させました。その魔法は、『光属性の者から淡い光を出す』のですが、その光は私にしか見えていません。その時、メーリア様は、一際強く光り輝いていたのです。
先程の話は、多分この魔法を再現しようとしていたのでしょう。しかし、メーリア様は、この魔法が『どんな現象を引き起こす』のかが解らなかったために、魔法を発動させることが出来なかったのでしょう。それと、祝詞に混ぜ込んで詠んだ言霊…、詠唱が、祝詞の中のどの部分なのかも解らないかと思うます。」
「…確かに、それではいくら天賦の才があっても、使う事は出来ないでしょうな。ちなみにヒカリ様は、今年の『光龍降誕祭』でも、同じ事をなさるのですか?」
「はい、これが私の選ぶ方ですので。今年は、何人選ぶのかはまだ決めておりませんが。」
ヒカリは、ニコリと笑い、当然とばかりに言ってのける。マルキネスも、只笑って追随するのみだった。
「先程の説明で、『言霊』と言いかけて、『詠唱』と言い換えられましたが、何故、『詠唱』と言い換えられたのですか?」
「その事ですか。失礼と存じますが、マルキネス様は、『魔法の詠唱』について、どれだけの事をご存知ですか?」
「詠唱ですか。私が受けた講義ではこうあります。
魔法のを使うには、『魔術』、『魔法』、『魔力』について知る必要がある。
『魔術』とは、『魔法』を発動させるために、『術者』が行う術式全体を指す言葉。『魔法陣を描く』行為、『呪文と唱える』行為、『発動キー』を唱えてる行為を合わせて『魔術』と呼ぶ。
『魔法』とは、術者の『発想力』、所謂魔法に対するイメージと、術者自身の『魔力』を使って行う。また魔法には、光闇風水火地の6属性があり、術者は己が持つ属性の魔法のみ使用する事ができる。
とありました。つまり『詠唱』とは、この中で言う、『呪文と唱える』行為と『発動キー』を唱えてる行為の事を指している言葉だと理解していますが、どうでしょうか。」
「やはり、宮廷魔導士でも、その程度しか理解できていませんでしたか。ちなみに、マルキネス様は、魔法を使う事は出来ますか?」
「魔法ですか。私はメーリアほどの才はないですが、使う事は出来ます。」
ヒカリは、マルキネスに詠唱について話していく。マルキネスは、その話を熱心に聞いていた。ヒカリは最後のこう締めくくった。
「今話した『3つの詠唱』については、一部の者には実際に使って実感してもらいましたが、宮廷魔導士の者に話しても、何の事だかは解らないと思います。今の世では、『新代魔法文字』を使うことが多く、『言霊』と、『古代魔法文字』に関してはほとんど使われていないのですから。」
「ヒカリ様の話を聞く限り、そんな感じがします。
話を戻しますが、メーリアは、誰も教えていない魔法を、初見で使ってみせるのです。宮廷魔導士長の下で学んだおかげで、魔法の祭を如何なく発揮し今では、王宮内でメーリアに敵う者はいません。さらにいまでは、『光龍の加護』まで加わり、少し力に翻弄されている感じです。
ヒカリ様の所に預けるのは、『暴走する力を何とか己自身で使いこなしてほしい』という親心もあります。また、本人の希望もありますが、王都ではもうメーリアに教える事がないからです。話を聞く限り、ヒカリ様は、新たな魔法を開発したり、高度な魔術を魔道具の力を借りて、誰にでも使えるようにしたりしているみたいですね。」
「お褒め頂き、光栄です。」
ヒカリは、マルキネスの言葉に相槌を打つ。
「まあ、今後は、メーリア様次第ですね。」
ヒカリは、お茶を啜りながら呟いた。
「はい、メーリアには、良い判断を期待するまでです。」
マルキネスも、ヒカリの呟きにお茶を啜りながら答えた。
「それと、マルキネス様、私としては、今日お見えになられた子爵令嬢全員が、ここで住んで姿勢に溶け込むのを願っています。」
「ほう、それは何故でしょうか?」
マルキネスは、ヒカリの呟きに楽しそうな笑みを浮かべて聞いた。
「あの方たちは、次代を担う者たちです。カランにもいましたが、『貴族は、民を虐げても構わない』と思っている馬鹿どもが必ずいます。カランの馬鹿どもは、私がすべて懲らしめてあげましたが。メーリア様達には、『民に寄り添う施政者』になってほしいのです。民の心が解り、民が何をしてほしいのかを知り、民と共にこの国を作っていく施政者に。それには、たとえ数年間でも、民草の中で生活する事が大事になってきます。学生ですので当然、貴族平民関係なく友達も出来るでしょう。その中で、身分の上下関係なく一緒にいてくれる『親友』と呼べ合える関係を作ってほしいのです。まあ、これは私の願いでしかありません。」
「メーリアが、ヒカリ様の下で暮らせば、その願いも敵うかもしれませんな。」
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メーリアは、カラン城で宛がわれた部屋で、一人月夜を見ながら考えていた。今日は満月。珍しくテラフォーリアを廻る3つの月が、すべて満月を迎えていて夜空を明るく照らしている。少し目を瞑り、集中してみれば、大気や大地を巡っている魔力が、いつも以上に密度を増し清浄に溢れている。こんな日は、月見酒と洒落込むのが、私のお気に入りだ。
「(私は、ヒカリ様の下でたくさん学びたいと思い、カランまで来ました。他の皆さんがどう出るか解りませんが、私は、ヒカリ様の弟子になるつもりです。ヒカリ様の下ならば、私のこの力、うまく使いこなせるようになれるかもしれません。)
よし!明日の朝一に、ヒカリ様に弟子入りさせてもらうように頼みましょう。」
メーリアは、気合付けとばかりに、グラスに注がれている葡萄酒を飲み干した。
翌日、鷺宮家に集まったメーリア達一行は、ヒカリを前にして、一人一人の決意を宣言していく。
「私は、ヒカリ様の弟子になって、私が持っているこの尋常でない力を、うまく使いこなせるようになりたいです。そのためにはヒカリ様、どんなことでも致しますので、どうか弟子にしてください。」
メーリアが、ヒカリに深くお辞儀をしながら、真っ先に弟子入りを頼んだ。
「ボクも、ヒカリ様の弟子になりたいです。よろしくお願いします。」
メーリアに続いて、弟のマルコも深くお辞儀をして頼み込む。それに続いて、全員がヒカリの弟子入りを頼み込んだ。この光景には、さすがの親たちも唖然とするばかりだ。
「分かったわ。あなたたちの意思を尊重して、弟子入りを認めましょう。ただし、学園の勉強は、しっかりとする事。それを守れない場合は、弟子入りの剣は反故にするからそのつもりでいてね。」
「「はい、ヒカリさま。」」
こうして、ヒカリは、10人の弟子をとった。
「早速だけど、今日からあなたたちは、この屋敷ん住んでもらいます。部屋の場所は後で案内しますが、まず覚えておいてもらいたいのは、『自分の事は自分でする』という事。1人に1人ずつ、侍女はこちらで用意しますが、基本的には最低限の事しか手伝いません。ほぼすべての事を1人で行ってもらいます。それが出来ないのなら、今すぐここから出て行ってください。」
ヒカリは少し待つが、誰も動こうとはしなかった。ヒカリは、次に移っていく。
「あなた方の意志は伝わりました。では、次に行きます。まずは、この屋敷で暮らす以上、あなたたちは、市井のど真ん中で暮らすのと同義です。何故ならば、道を挟んだ目の前は、カランの胃袋と言うべき中央市場があります。また、鷺宮家の経営する各お店には、日々いろいろな人たちがお見えになっています。食堂や雑貨店でお手伝いをした時は、それに似あったお小遣い…、給金を渡したいと思います。これは、毎月一定額渡すお小遣いとは別枠です。特に、冒険者や旅商人と話すのは、とても楽しいですよ。」
「あの、お小遣いとは何ですか?」
メーリアが、おずおずと聞いた来た。ヒカリは、ニコリとお笑って答える。
「この屋敷で暮らす以上、あなたたちは私の庇護下に入ります。つまり、今までのように国や州から生活費が出ません。この事はすでに、親御さん方も承認しています。これから出来るであろうお友達とも遊びたいでしょう。たくさん服も買いたいかもしれません。そんな時のために、私から年齢に応じたお小遣いを渡したいと思っています。」
「という事は、これから私たちは、何かを購入する時は、そのお小遣いの中から出さないといけないのでしょうか。」
「その通りよ。毎月出るお小遣いが足りない時は、お店で働いて稼いでほしいの。市井の中に溶け込むのも、立派な勉強の1つよ。あなたたちは、将来国ないし州ないし運営していかないといけない。その時、今日より4年ないし8年間、民とともに生き、民とともに笑い、民とともに泣いた日々が、きっと役に立つ事になる。それを学んでほしいと、私は願っている。」
「「はい、わかりました。ヒカリさま。」」
ヒカリは、メーリアたちの返事を受けると、次の行動に出る。
「まずは、1人あたり銀貨5枚を渡します。これから町に出て、あなたたちの生活用品を買い揃えましょう。今持っているのは、ここに来る際に持ってきている着替えぐらいでしょうから。暫くは、両親と会う事はありません。その分しっかりと甘えておきなさい。」
こうして、メーリアたちは、鷺宮家で暮らすための生活雑貨を買い揃えるため、それぞれの親とともに、カランの町に繰り出していった。




