第75話 鷺宮魔法学園の新入生
5月10日、北の帝国では、やっと雪が溶け行軍が出来るようになった頃、カランにある鷺宮魔法学園では、初等部と高等部合同の入学式が執り行われていた。まだ開校2年目だというのに、今年の新入生の顔ぶれを見ると、王都ロンドリアにある国立の魔法学園と引けを取らなかった。
まずは、高等部に入学するタケルとノリコの子供である獣人の双子、コリンスとワイス。2人はこの半年間、死に物狂いで勉強をし、学校が定める初等部卒業時の知識を詰め込まれた。知識と言っても、基礎部分のみだが。元々2人とも冒険者として、剣メインの魔法剣士で前衛だけあり、剣の腕はそこそこあるので、高等部で実戦向きの知識を習得した際、どう伸びていくのか今から楽しみである。
ついで、第4王女であるメーリア=サンダレス様が、王都の魔法学園ではなく、わざわざこちらに入学してきた。第5王子である末弟、マルコ=サンダレス様は、初等日1年に入学している。メーリア様は、去年カランの光の大神殿で、『加護のネックレス』を上げた1人だ。彼女の肩には、その際顕現した聖霊(メーリアによって”コロナ”と名づけられた)がニコニコ顔で座っていた。弟のマルコ様は、サトミさんが、水の大神殿で『加護のネックレス』を上げた1人だそうだ。
そして初等部には、私の結婚式の時、ウエディングドレスのトレーンの裾を持った4人の女の子も入学している。つまり、『加護のネックレス』を持っている子が6人と、鷺宮家の関係者が2人いるのだ。あと、何故か解らないが、それぞれの州牧の家族のうち、入学年齢である6歳と10歳の子たちも入学してきている。
学園の名前に『魔法』と関していることから、ある程度魔力がある者しか入ることが出来ない。入学資格として、初等部では、魔法は使えなくてもいいが、その代わり保有量が基準以上ないと入学できない。高等部は、さらに各属性魔法のうち、最低限の攻撃魔法と防御魔法が使えないといけない(この2つは、初等部卒業時に使えるようになっている魔法だ)。
それらを測るのが、私が作った魔道具『魔力計測器』だ。この魔道具、実はすごく高性能に出来てしまった。地球にいた頃に読み漁ったファンタジー小説や漫画、趣味の一環で、2年1組のみんな(今の鷺宮家の家族たち)とはまり、やりまくったMMORPGではおなじみの要素を再現していたら、高性能な魔道具が出来てしまった。だって、こうゆうステータスを測れる機械には、このくらいは出来て当たり前みたいな部分があるでしょ。そして、お嬢様と呼ばれていた今宮家の私の部屋(総2階建てで50メートル四方あった)にある書斎の本棚には、8割方そんな本でぎっしりと詰まっていた。その本たちは、私が別空間に所有する『知識の図書館』の本棚に並べられているので、魔道具などを製作する際のきっかけとして利用されている。
まあ、言ってしまえば、私を含め鷺宮家の面々は、実は所謂オタクの集団だったのだ(こちらに来てその話をサトミさんに話したら、私たちがゲーム内で組んでいたパーティメンバーで、外部から参加していた1人だった事が判明し、皆で大笑いしたのは記憶に新しい出来事だ。まさかこんな所にも、私たち家族の奇妙な縁があったとは…)。オタク要素全開なので、テラフォーリアに来た時も、現実離れしていた世界に抵抗なく受け入れることが出来た。
話を戻して…、計測できるのは、作った目的である魔力保有量のほか、魔法属性や使用できる魔法の種類、戦闘のレベルやスキル、体力や知力、身長と言った身体的、肉体的特徴までもが解るのだ。それらを、洒落で追加した機能『カード化』によって、カードに記して学園生に学生証として手渡した。カードは、自身のステータスがすべて記載されているので、普段は魔法によって体の一部と化している。登下校時の確認など、カードを見せる時だけ具現化する仕組みにした。
これを始めたのが、去年の年末ごろ。魔道具が弾き出す個人のステータスが、個人の能力その者と遜色なく同じであったため、噂を聞きつけた冒険者ギルドから魔道具の購入の打診があった。今までは、ギルドランクと実力があっていない場合があり、ただ単純に、ギルドへの貢献度のみでランクを決めていたらしい(実力はけた違いにあるのに、只ストレス発散のためだけに、降魔の森に出かけて蹂躙してくるだけのヒカリを筆頭に、鷺宮家の面々は、本来ならばSランクにいてもおかしくない)。しかし、この魔道具で測れば、ギルドへの貢献度の他に、正当な実力も考慮に入れてランクを決めることが出来るのだ。
今、この魔道具は、コロラド王国にある全ギルドのほか、コロラド王国軍、各州軍に設置されている。そして、コロラド王国で冒険者として登録している者と、騎士や兵士は、全員ステータスカードを持っている。ちなみに売値は、魔道具本体が金貨1000枚、ステータスを記載するカードが、1000枚単位で金貨10枚としてある。
それはそうと、先日私は、初めてこの国の王様にお会いしました。お二人が鷺宮魔法学園に入学するにあたり、王様自らが私を訪ねてきたのです。その時の事を思い出すだけで、いまだに背筋が凍りつきそうです。だって、その場にいたメンバーが、…濃すぎる!
5月1日。この日私は、神殿でのお仕事が終わり、屋敷の門を足早に潜ったのだけど、玄関でトーマスから来客がある事を告げられた。ちなみに私が光の神殿で働く日は、毎月1日と前後2日間の合計5日間となっている(当初は月3回だったが、いろいろあってこうなった。ちなみに、すべての龍神の神子が、神殿に行く日は、それぞれ連続5日間で、別々に設定されている)。今の時刻はすでに夕刻であり、本来ならば、訪問者はいない時刻だ。
「誰が訪ねてきているのかは解りませんが、もう既に夕刻です。一緒に晩餐を摂りましょうと伝えてください。調理場には迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします。」
「畏まりました。」
ヒカリは、晩餐の用意をトーマスに頼むと、一度着替えるために自室へと歩いていく。着替え終わったヒカリは、訪問者とダイニングで面会する。ダイニングに入った瞬間、ヒカリは硬直した。ダイニングのドアが開き、ヒカリが部屋の中に入った瞬間、訪問者全員が片膝をついて臣下の礼をとったからだ。思わず後ずさりしようとするのを堪えて、一頻り訪問者の顔ぶれを確認するヒカリ。中には見知った顔があるのに安堵するが、何故ここにいるのかが疑問に思う。よって、ヒカリは、訪問者の中で一番の顔見知りに、訪問者の顔ぶれの紹介を頼んだ。
「…ご無沙汰してます、カトリア様。本日のご訪問の目的と、失礼を承知で頼みますが、この場にいる人たちの紹介を頼んでもよろしいでしょうか。私とは、初対面の人もいますので。」
ヒカリに指名されたカトリアは、その場で立ち上がり、順番に紹介をしていく。カトリアの紹介で、訪問者を把握していくヒカリ。訪問者は、国王陛下と王妃、各州牧夫妻、そして今年鷺宮魔法学園に入学するそれらの子息たち。訪問目的は、ヒカリに自分たちの子息の紹介を兼ねて、親睦を深めるためだった。ヒカリは子息の中の一人に声をかけた。
「本日は、国王夫妻と、州牧夫妻自らご訪問くださり有難うございます。それと、メーリア様、お久しぶりですね。肩に乗っかっている仔とも、仲良くしているみたいでなによりです。」
突然話を振られたメーリアは、一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに立ち直って、ヒカリに挨拶をする。
「光の神子様から、『加護のネックレス』を頂いてから約10カ月が経ちました。あれ以来、”コロナ”と一緒に暮らしております。弟のマルコには、水の神子様から『加護のネックレス』を頂き、マルコも、ネックレスから出てきた仔と仲良くしております。」
「そう”コロナ”と名付けたの。神事の際にも言ったと思うけど、その仔と深く絆を結べば、貴方を守ってくれるし、何よりも魔法の手助けをしてくれるから、これからも仲良くしていくのよ。マルコ様も、ネックレスから現れた聖霊と仲良くしてください。
それと、皆さんにもお願いしますが、私的な空間では、私ども『龍神の神子』は、名前で呼んでいただけるとありがたいです。ですから私の事は、『光の神子』ではなく、『ヒカリ』と呼んでください。」
「「はい、畏まりました。ヒカリ様。」」
姉弟が仲良く返事をする。ヒカリは、それを見守ると、王様に向き直した。
「立ち話もなんです。拙い物で申し訳ないのですが、心ばかりの晩餐を用意しました。食事でもしながら、お互いの親睦を深めましょう。」
ヒカリは、食卓に座るように促した。ついで、鷺宮家の家族も入室してくる。ヒカリから、一通りの紹介をしてもらい、全員驚くが何という事もなく、全員が椅子に座ると、料理が運ばれてくる。ちなみに今日の席は、”ロの字”に造られており、上座にヒカリ、右側にタケシとタカヒロ、左側にサトミとダイゴロウ。ヒカリの正面には国王家族、両サイドに各州牧家族が座っている。食事をしながら、和気あいあいと会話が進んでいく。ある程度会話が進んだところで、そういえばと言う感じでヒカリが尋ねた。
「今更で何ですが、地元であるカトリア様のご子息は別として、他のご子息は、これから数年間、カランのどこから学園に通われるんですか?」
ヒカリの問いには、国王が答えた。
「実は、今更なのですが、まだ決めかねております。第一候補は、他の新入生と同様学園の寮ですが、警護の関係でそれもままなりますまい。何処かに家を購入するにしても、今のカランの実情では、無理でしょうし。光の神子様に、何かよい知恵を拝借したいのですが。」
「カトレア様は、要請があればカラン城のお部屋をお貸しするという、ご予定はありますか?」
ヒカリは、とりあえずカトレアに聞いてみる。
「そうですな。警護を考えると、カラン城から学園に通って頂くのがベストですな。」
ヒカリは少し考えて、結論を出す。
「メーリア様。並びに、他のご子息様にお聞きします。学園を卒業するまで、基本的にはカランに住んでいただきますが、その際、あなた方の考えを確かめたいと思います。
候補は2つあります。
1つ目は、カラン城に住み、城内と言う狭い空間でのみ完結させる生活です。その際、自白の外に出るのは、基本的に、学園に通う時だけになります。住んでいる場所が違うだけで、今まで通りの生活になります。
2つ目は、市井に溶け込んで生活していくやり方です。住む場所は、この屋敷の北側にある鷺宮商会の従業員寮になります。幸い、部屋はたくさん余っていますので。こちらの生活は、基本的にはご自分で全て行って頂く必要があります。
どちらを選んでいただいても構いません。あなたたち次第です。しかし、メーリア様様は、後者を選んだ方がいいかもしれません。」
「ヒカリ様、それはいったい何故でしょうか?」
メーリアは、唐突に言われたことが理解できないため、ヒカリに聞いた。
「神事の時は、他の人の目もあるので何も言わなかったのですが、あなたは、とてつもなく大きな力を持っています。今はまだ、体の中で、その目覚めを待っている状態です。貴方の努力次第では、コロラド王国内でトップクラスの実力をつけることが出来ます。
貴方の意志の任せますが、私の下で、その力を引き出してみたくはないですか。」
「…それは、つまりヒカリ様の弟子になるという事ですか?」
「ぶっちゃけた話、そういう感じになります。私の修行を受けるのなら、私の身近にいたほうが何かと都合がいいでしょ。もちろん、他のご子息も、ここに住んで修行を受けたいと仰れば、喜んで稽古をつけてあげます。
今すぐ決めろとは言いませんが、早いうちに決めておいてください。出来れば明日中にお願いします。今日のところはカトリア様、ここにいる全員分の部屋を、カラン城に用意してあげてください。」
「分かりました、ヒカリ様。そのように致します。」
カトリアは、従者の一人に、カラン城へ言付けを頼む。今晩の予定を詰めている時に、王様がヒカリとカトリアに頼んだ。
「カトリア、私は、もう少しヒカリ様とお話ししたい事があるから、あと少しこの場に残りたい。ヒカリ様もよろしいですか?」
「何を話すのかは解りませんが、別にいいですよ。」
「では、王を除いた全員を、カラン城にご案内いたします。王よ、お迎えの馬車はどうしましょうか。」
「そうだな、2時間後に迎えに来させてくれ。」
「畏まりました。それでは、ヒカリ様、王、我々はこれにて失礼いたします。」
カトリアが、代表してあいさつをし、屋敷を後にした。
「国王様、ここではなんですし、応接間の方でお話をしましょうか。」
カトリアたちが屋敷を出ていった後、ヒカリは、国王を応接間へと案内した。




