第74話 精霊魔法を使ってみよう
帝国との事後処理を終えたヒカリたちは、魔法の練習でいつも使っている浮遊大陸に来ていた。ここで、今回の依頼の追加報酬である魔法を伝授するのだ。
「今回伝授する2つの魔法を覚える前に、『精霊魔法』を皆さんには覚えてもらいます。」
開口一番、ヒカリがこんなことを言った。ここにいる冒険者は、皆Aランクだ。当然、自らの属性を極めている。ヒカリから見れば、まだまだ中学生レベルなのだが、独学でここまで出来ているのなら及第点だろう。
「ヒカリちゃん、ちょっといいか?」
「何ですか、カンザスさん?」
「精霊魔法は、とても難しいと聞く。俺が今まで見てきた中でも、精霊魔法を難なく使いこなしているのは、ノリコちゃんくらいだ。」
「教科書通りに謳うならば、確かに難しいですね。しかしそれは、精霊魔法の使い手が少ないだけです。普通に魔法が使えれば、使うのに難しいと言われる精霊魔法に、手を出そうと考える事がないからです。
私がなぜ、精霊魔法から教えようとするかは、単純に皆さんにお教えする魔法の1つ、『空間転移』が、魔力消費量がとてつもなく多いからです。これを解決するためにお教えするのが『精霊魔法』です。精霊魔法は、その名の通り、精霊にお願いして魔法の行使を代行してもらう方法です。精霊魔法は、術者の魔力と、精霊自身の持つ魔力、そして自然界に始めからある魔力を合わせて使用するため、結果的に、術者の魔力消費量が少なくて済むというメリットがあります。
精霊には、保有する魔力量と、生まれてからの年月、自然界に干渉できる力によって、等級が上中下と別れ、その上に各属性ごとに統括する大精霊がいます。精霊の等級が上がるごとに精霊自身が持つ魔力量も上がるので、結果的に術者が使用する魔力が比例して下がっていきます。大精霊を使役できれば、大規模攻撃魔法を使わない限り、術者はほとんど魔力を使いません。
薀蓄はこれくらいにして、実際にどれだけ魔力消費量が違うのか、試してみましょう。」
カンザスたちは、ヒカリに言われた通り、自身で1番強力な攻撃魔法を放つ。さすがに全員がAランク保持者だけはある。どれもこれも破壊力は抜群である。
「次は、精霊魔法を使用して、同じ魔法を放ってみましょう。先程の説明で、『精霊を使役する』と言いましたが、実際は、『精霊に協力してもらう』が正解です。必ず、精霊を呼びだす際は、『精霊を使役して魔法を使う』と言う考えではなく、『善き隣人であり親友である精霊と、協力して魔法を使う』と言う考えでいてください。それだけでも、魔力消費量が格段に違ってきます。
まずは、精霊に呼びかける言霊をお教えします。
『幾億の歳月を生きる者
6属の理を統べる遍く存在よ
我の傍らに在りし隣人
我の願いを受け
我とともに魔を統べる力となれ』
この言霊を詠唱してから、普段使っている詠唱を続けて言います。これで下級精霊か中級精霊が協力してくれます。上級精霊に協力してもらいたい場合は、後に続ける詠唱を、新代魔法文字で詠唱するのではなく、古代魔法文字で詠唱する必要があります。大背入れになると、すべて言霊で詠唱する必要があります。後、精霊に好かれ、契約まで出来るようになると、詠唱は必要なくなり、魔法に対するイメージと、込める魔力量、後は、発動キーだけで魔法が使えるようになります。
とりあえずは、先程使った魔法でどれだけ魔力消費量が違うのか、実際にやってみて実感してみてください。」
ヒカリに言われて、教えて貰ったとおりに詠唱し、先程使った魔法を放つ。すると、最低限の人でも、魔力消費量が半分近くに減った。その中でタケルとカンザスは、何と1割以下の魔力だけで魔法が使用できたのだ。
「タケルは、多分ノリコの旦那と言うステータスが影響しているかもしれません。カンザスさんは、精霊にとても好かれているみたいですね。うまくいくと契約できて、精霊を顕現できるかもしれないです。どうですか、契約と顕現、やってみます?」
「ヒカリ、上位の精霊と契約できれば、ノリコの足元に立てる可能性があるんだろ。」
「ええ、『精霊の神子』であるノリコには到底及びませんが、足元には立てる実力が身に付くでしょうね。」
「ならば是が非でも契約して見せないとな。カンザスも契約するんだろ?」
「当然だろう、そんな事。」
タケルとカンザスは、ヒカリに教えて貰った言霊を詠唱する。
「「天より落ちる光の柱、大地に穿いて顕現の礎とする。
六芒の頂は、6属の加護を分かつ
天を染める白夜の調べ、闇夜を照らす月光の安らぎ。
大地を潤すは水護の鎧、天を焦がすは紅蓮の頂。
数多に存在する聖霊よ
我願うは我と共に在りしもの
我の魔力を糧にしてこの地に顕現せよ」」
2人が詠唱を終えると、2人の前に大精霊が6体現れた。
「まさか、俺たちに力を貸してくれたのが、大精霊だとは思わなかった。」
「てけるは、大精霊を見たことがあるのか?」
「ああ、ノリコが、『精霊の神子』になった時に見たことがある。
それよりも、大精霊よ、俺とカンザスの2人と契約してくれるのか?」
タケルは、大精霊に意志を聴いた。6体の大精霊は、揃って微笑むと大きく頷いた。タケルはそれを確認すると、カンザスの方を向いて頷いた。カンザスもタケルに肯定の意味で頷く。
「それではこれより、契約の儀に移る。
我の名は、鷺宮タケル。
6属を司る大精霊と契約を交わしたい者。」
「我に名は、カンザス=オークレンド。
同じく6属を司る大精霊と契約を交わしたい者。」
「「我の魔力を糧に契約を遂行されたし」」
タケルとカンザスから、少量の魔力が、6体の大精霊に渡る。そして、右手の薬指に現れたのは、6色の小さな水晶が埋め込まれた金色の指輪。大精霊が姿を消した後、ヒカリが2人に近づいてきて祝福の言葉をかける。
「おめでとう。タケル、そしてカンザスさん。右手の薬指に嵌るのは、『契約者の指輪』と呼ばれるモノよ。大精霊と契約を交わした者だけに現れる指輪だから、これであなたたち2人は、ほとんどの魔法を、発動キーと唱えるだけで詠唱なしで放つことが出来るようになった。イメージさえしっかり出来れば、どんな魔法も使うことが出来るのよ。試しにやってみなさい。」
ヒカリに言われて、とりあえずやってみる2人。タケルは、ヒカリが帝都を破壊した魔法を使ってみる。右手に魔力を込め、イメージを形作り、そして一言、
「空裂弾」
と発動キーと唱える。すると、右手を向けた先に、風の弾丸が駆け抜けていき、2キロくらい離れた山肌に、大きなトンネルを作って貫通していった。自分がやったことなのに、呆然と貫通させたトンネルを見ているタケル。
「タケル、私と同じことをしちゃいけないよ。込める魔力は、指の先程度で十分だよ。かんざすさん、込める魔力を間違えないようにしてくださいね。」
続いて、カンザスが魔法を撃ってみる。ヒカリに言われた通り、込める間量は指の先ほどのごく少の魔力量。イメージしたのは、水で出来たハンマー。狙うは遠くに見える町並み。町全てを覆うほど大きなハンマーをイメージする。
「水の金槌」
カンザスが、発動キーと唱えると、近くにある湖から大量の水が上空に吸い上げられ、町の上空で大きな円盤状に形成されていく。カンザスが、右手を上から下に振り下ろすと、水の円盤が町に落下していく。唖然と見つめるカンザスに、ヒカリは止めを刺す事を言ってのけた。
「カンザスさん、標的にした町なんだけど、一応住んでいる人がいるんだよね。いきなりあんな大量の水が、殺意をもって襲ってきたから、今頃あの町はどんな惨状になっているのかな。」
その事実を知っているタケルは、含み笑いをしながら悶えている。
「おい、ヒカリちゃん、標的にしたあの町、廃墟じゃなかったのか?」
「あ、はい、カンザスさん。あの町は、ここ浮遊大陸の中で一番大きな町です。たしか町の名前は、『エデンシティ』とかいう名前だったような。まあ、人が住んでいようがいまいが、私は別にどうでもいい事ですけど。いつも魔法の標的として利用させてもらっているので、カンザスさんも気にしなくてもいいですよ。」
「そうだぞ、カンザス。あの町は、ほぼ月一のペースで、何かしらの天変地異が起きている町だ。無論、この大陸にあるすべての集落や町は、魔法の標的にされているから、あの町だけ特別ってわけではない。何なら、どんな効果があったのか、確認しに行ってみるか?
ヒカリ、俺たち二人は、教えて貰える2つの魔法は、既に難なく使うことが出来るんだろ。」
「ええ、タケルとカンザスさんは、既に使うことが出来るわ。でも、以前にも笑い話で話したと思うけど、転移させる対象物と移動先をしっかりとイメージしないと、とんでもない物を、とんでもない場所に転移させてしまうから気を付けてね。」
「ああ、それは承知している。下手をするとヒカリみたいに、宿ごと草原のど真ん中に転移させてしまうからな。
…とりあえずは、あのまちのちりを大体把握している俺が、あのまちまで転移してみる。カンザス、なるべく俺の近くにいてくれ。ノリコ、失敗した時の為に、一緒についてきてくれ。
ヒカリ、問題なくあの町に転移できたら、1発空砲を上げる。」
「分かったわ。気を付けて行ってらっしゃい。」
タケルは、転移をするためのイメージに集中した。
「空間転移」
タケルが呟くと、3人の姿が、魔法陣の中に消えていった。程なくして町の上空に、空砲が1発上がる。
「問題なく付いたようね。では、残りの皆さんも、頑張って魔法を覚えましょう。」
こうして、ヒカリとタケシの指導の下、残った冒険者17人(『パーティ鷺宮』の5人と、タケルのパーティ『暁のトラ』のサトヒサとヒトミ、ヒカリの依頼を受けた冒険者9人)は、魔法の修行を行った。
元々報酬として教える予定の転移魔法と、追跡魔法のほか、精霊と協力する事で可能となる様々な魔法も教えて貰えることになり、今回参加した冒険者たちはホクホク顔だ。午後になり、タケルたちが町から戻ってきたが、3人は何故か水浸しだ。
「カンザスさん、しっかりとイメージしないから、湖の中に転移してしまうんです。」
「しかし、ノリコちゃん。ヒカリちゃんのいる場所をイメージしろと言っても、何処にでもあるような草原のど真ん中じゃあ、イメージのしようがないんじゃないか?」
「そういう時は、ヒカリさんの魔力を辿るんです。他の皆さんの魔力は、どれもこれも同じように感じられますが、ヒカリさんの魔力なら、何処からでも辿る事が可能です。」
どうも、カンザスが転移魔法を行った時に、失敗して湖の中に転移してしまったようだ。その事をノリコが、ダメ出しをしながら教えているみたいだ。なので私からも少しアドバイスを出してあげようか。
「ノリコ、それじゃあ何を言っているのか誰も解らないわよ。他の人もしっかりと聞いてちょうだい。」
ヒカリは、ノリのの講釈を1度止めると、全員を見渡して話をする。
「みんなも不思議に思わなかった?『転移魔法』を練習している時、何故ランダムに転移していったのに、私とタケシは、難なくみんなが転移していった場所に辿り着けたのかを。」
ヒカリの問いに、「確かに」と頷く面々。
「それはね、『転移魔法』には、『行きたい場所』を特定させてから転移する方法と、『知っているモノの魔力』を辿って転移する方法があるの。前者は、転移する場所を細部まで『理解』している必要がある。後者は、知っている魔力がある近くに転移するから、『魔力』そのものを感じ取れないといけないの。で、さっきノリコが話したように、このメンバーの中で一番魔力が辿りやすいのが、私とタケシと言うわけ。それじゃあ、少し実験をしてみようかしら。みんな、精霊を介して周りの魔力を見てみなさい。」
ヒカリに言われる通りに、精霊を介して魔力を捉えるイメージをする。
「とてもきれいでしょ。草木の1本1本にまで魔力がある。ここテラフォーリアに『生息する生命体』にはすべて魔力が宿っている事が解るでしょ。その中で大きく輝いている魔力が、あなたたちよ。ノリコが言っていた通り、どれも似たり寄ったりの大きさしかないけど、その中の3つ、一際強く輝いている魔力が、私とタケシとノリコの魔力よ。もっとしっかりとイメージできれば、それが誰の魔力かまで解るようになるよ。この魔力探知は、何処まででも範囲を広げる事が出来る。とりあえずは、2~3キロの範囲の魔力が解るようになれば、護衛や討伐の依頼を受ける際、非常に役立つと思うよ。
じゃあ、これを踏まえて、『転移魔法』をやってみましょうか。タケシ、ここから2キロくらい離れた場所に飛んでちょうだい。」
タケシは、ヒカリに頷くと、何処かに転移していった。
「さて、タケシの魔力を辿って、タケシの元まで転移してください。その後、私の下に戻ってきてください。」
こうして、『魔力探知』による『転移魔法』を行う面々。全員が問題なく出来るようになるまで、2時間ほどかかった。
「あとは練習あるのみです。今どこにいるのかもわからない『知り合い』の所に行きたい場合は、『魔力探知による転移』を、自分の家など、何処に何があるのかを明確にイメージできる場合は、『空間をイメージした転移』をするといいです。
ではここで皆さんに、もう一つ魔法をお教えします。魔法名は、『写真魔法』。この魔法は、『一度でも言った事がある場所』を全方位に渡り脳裏に焼き付け、『いつでも取り出す』ことが出来る魔法です。『転移魔法』を使用する時に、補助的に使用する魔法です。」
こうして、ヒカリの魔法講座は、幕を閉じた。




