第64話 闘技大会の余興②
「次は誰が行く?」
ヒカリの問いに、ケルンの騎士団団長が手を挙げた。
「俺でもいいのか?学園の関係者ではないが。」
「それは今更でしょ。すでに、幾人か冒険者が名乗りを上げているんだから。」
「それはそうか。それでは、俺と戦う相手を指名させてもらおう。大地を司る地の神子、ケンジ、お相手願おうか。」
団長は、剣を抜いてケンジを指した。ケンジは、ふっと笑うと、前に出て歩いていく。
「貴様は獲物を持っていないが、素手で戦うつもりか?」
団長がケンジに対して挑発をした。
「素手でもいいですが、ここは剣でも作って戦いましょうか。」
ケンジは、そう言うと、立ち止まった場所に右手路おいて、言霊を紡いだ。すると、大地に小さな魔方陣が現れる。ケンジが魔法陣から手を離すと、その場に一振りの両刃剣が姿を現した。
「そう言えば、木刀で戦うんだっかか?まあ、お互い実剣を手にしているから、別にいいか。」
「ああ、お互いが納得しているから、わざわざ木刀に持ち帰る必要もないな。」
団長も、実剣での戦闘に合意した。
「そういえば、団長の持っている剣は、何か属性はついていますか?」
「いや、何もついていないが、それがどうしたんだ?」
「今この場で作ったこの剣ですが、属性付与を施した所謂神剣の類でして。まあ、ヒカリが作り出して売っている『魔法剣』には、遠く及ばないんですが、それでもそれなりの威力があります。たとえば…。」
そこまで話したケンジが、剣を右から左に振りぬいた。すると、ケンジが降りぬいた軌道から、鎌鼬のような風が団長に迫ってくる。慌てずに団長が鎌鼬を躱すと、後方の石壁に大きな亀裂が出来ていた。
「まあ、こんなこともできます。」
「ケンジ君よ、その剣は、風属性が付与されているのか?」
団長が、剣に付与されている属性を聴いた。ケンジは、その問いに大きく首を横に振った。
「いえ、付与されているのは、風だけではありません。光と闇以外の属性は、すべて使用できます。即席で作った割には、よくできている剣でしょう。」
団長は、少しの間黙考し結論を出した。
「俺の愛用しているこの剣では、ケンジ君の剣には、到底敵わないな。降参しよう。」
「戦う前から負けを認めるなんて、騎士団団長としては、どうかと思いますが。」
「確かに騎士団団長の立場としては、如何なものかと思うが、これは『死合』ではなく、『試合』だ。いたずらに傷を作ることもあるまい。」
「それもそうですね。…、せっかく作ったこの剣ですが、このまま土に還すのも勿体ないですし、…、団長にプレゼントします。」
ケンジは、団長に剣を手渡した。ケンジの行動に驚く団長。
「本当に貰ってもいいのか?これをケンジ君の店で売れば、儲かるだろうに」
「別に売り物にする気はないですよ。先程実演したとおり、材料は足元にある大地ですのでタダ同然です。それに、いつでも作ることが出来ます。まあ、ホイホイと作る気はありませんが。」
「ケンジ君がいいというならば、ありがたく使わせてもらおう。」
訳も解らぬうちに終わってしまった試合。学生たちには申し訳ないのだが、これも一つの試合の結果である。団長が勝つ可能性もあったが、そもそも怪我をする事が前提で勝利を収めても、仕方のないことである。
神子でまだ戦闘をしていないのは、ヒカリとサトミ、リョウコとマナミ。対する冒険者の方は、このメンバーに挑めるほどの実力者がいない。いたとしても鷺宮家の関係者で身内みたいなものだ。身内同士の詰り合いは面白くないので、今回はこれまでとして、闘技大会の余興は終了した。
優勝した学生のチームには、豪華な優勝賞品がヒカリの手から贈与された。さらに活躍した生徒には、騎士団や冒険者パーティからお誘いがあったと後から聞いた。
「リョウコが練習していたあの魔法、見てみたかったな。サトミさんもマナミも、せっかくみんなして練習したのにね。」
ヒカリが、鷺宮家に向かう馬車の中でおどけるように話した。
「あれをお見せできなかったのは心残りですが、何時かお見せできる機会もありましょう。まだまだ、あの魔法には、改良の余地が残っているので、もっと練習しないといけません。」
「あたしの魔法も失敗する事がまだ多いから、おうちに帰ったら練習しなくちゃ。だから、今日失敗した瞬間を見せなくてよかったと思うんだ。」
リョウコの寸評に、マナミが苦笑しながら同意した。マナミが練習している魔法は、まだまだ失敗することが多く、制御を誤ると大惨事になりかねないのだ。現に練習場所である浮遊大陸では、焦土と化した土地が数多く存在している。
「私の魔法も、まだまだだな。あれが出来るようになると、水がある場所では、私を倒すことは出来ないんだけど。それはそうと、タケシ君とケンジ君は、既に完成の域に達していたみたいだね。」
「そりゃあ、俺たちの魔法は、サトミさんたちの魔法よりも仕組み自体は単純だからな。俺の場合は、2つの空間を闇と影で無理やり繋げる感じだ。これも練習と工夫次第で、複数の空間を繋げることが可能みたいだ。
ケンジのは、大地の中から武器になる鉱石を集めて、その場で属性を与えながら武器にするんだったか。」
「概ね、タケシの言った事で合っている。実際は鉱石を集めるのではなく、魔法陣の直下にある大地を、錬金して武器にしているのだが。属性付与については、その場にいる精霊に頼んでいるんだが。俺の魔法がこの中では一番単純な仕組みなんだが…。一番は、これらの魔法をすべて考えて、実行できるヒカリなんだがな。」
そういって、ケンジは、視線をヒカリに向けた。それに合わせて、みんなの視線もヒカリを固定する。
「何?」
ヒカリは、疑問符を浮かべて視線で返した。
「確かに、私たちが一生懸命練習している魔法の先生はヒカリちゃんだものね。」
「ヒカリを倒せる奴なんか、この世に存在すると思うか?」
タケシが真面目にみんなに聞いた。聞いたタケシも含めて、しばらく全員で考える。そして、ヒカリが口を開いた。
「私が知る限りでは、存在しないと思う。
しかし、世の中の常識として、『強大な力を持てば、それに対抗する力を持つ者が必ずいる』はずなのよ。それは、どんなことにでも当てはまると思っている。だって、『力』と一括りで言っても、その内容は多義に渡っているんだから。」
「そうだな、そう考えれば、『ヒカリに対抗し得る力の持ち主』は、この世の中に必ず存在しているな。まだ、俺たちが出会っていないだけだ。俺たちに対してもそれは言うことが出来るしな。まあ、何時かは出会うんだろうな。」
「そうね。その『何時か』が、明日なのか、10年先なのかは解らないけれど。」
そうこうしている間に、馬車は鷺宮家の門を潜った。
その頃、ケール山脈の北側にあるタリルトリア帝国では、コロラド王国に進行する準備が、着々と進められていた。




