第59話 精霊の神子
「そういえば気になったんだが、昨日そこの嬢ちゃんが言っていた『光の神子』って、一体何のことだ?」
朝食後、今でお茶を啜っていると、猛が思い出したかのようにヒカリに尋ねた。今日は日曜日で、ヒカリにとっては、2週間ぶりの休日だ。
「そういえば、何も言ってなかったね。猛たちがここを去った後、私たちはキャロルに師事して魔法の修行を続けていたんだけど…。ある時私を含めた6人から、6色の光が伸びていることが分かったの。その光を辿って行って、6人がそれぞれの龍神と契約して神子になった。
で、その際の契約によって、私が『光の神子』に、タケシが『闇の神子』に、サトミさんが『水の神子』に、リョウコが『風の神子』に、マナミが『火の神子』に、ケンジが『地の神子』にそれぞれなったの。
それからいろいろあって、10日に一度、各神殿に赴いて、神子としての活動をする事になった。各神殿で活動内容は異なるけれど、光の大神殿で私がやっている事は、午前中が結婚式での祝福、午後からは神事の進行よ。」
ヒカリが猛の質問に、簡潔に答えた。次に、仁美が気になる事を聞いた。
「そういえば、光莉ちゃんたちは、何で『鷺宮』を名乗っているの?光莉ちゃんにしても、恵子ちゃんにしても、もともとの苗字は違うよね。なのに、ここにいる元鷺宮学園2年1組にいた、いや、あの時バスの中にいて、光莉ちゃんと一緒に出ていった人たちみんなが、『鷺宮』を名乗っている。さらに、ここを運営している商会名も、『鷺宮商会』、各お店も『鷺宮』の名を冠している。どうしてかなっと思って。
それと、何でこんなにも大きくなっているの?『鷺宮商会』って言ったら、コロラド王国一の大商会じゃない。」
ヒカリは、仁美の問いに、苦笑いしながら答えた。
「あなたたちも知っている通り、最初にカランに来て冒険者ギルドに登録した時、『パーティ鷺宮』としたでしょ。」
「確か、そうだったね。」
「その後しばらくは、その名前で活動して、最初に私たちが、仮住まいとして与えられた建物を買い取ったの。その時の建物の所有者は、『今宮光莉』。つまり、私が建物を土地ごと買い取ったの。
暫くは、冒険者として、遠征組とカラン周辺組に分かれて活動していたんだけど、やっぱり向き不向きが出てきて、冒険者として向いていない女子たちの仕事として、最初にサトミさんが『鷺宮食堂』を開くことになった。
その時問題になったのが、建物の所有者と、食堂の所有者が違うという事。名前が違うと、いろいろとめんどくさい書類を作って、役所に提出しないといけなくて…。でも、家族ならば、それほど面倒な書類を作らなくてもいいことに気付いて。
ついでにいろいろな思惑も鑑みて、この際だから、『一つの家族になろう』と言う話に落ち着いた。その際に、何かと縁のある『鷺宮』に統一した次第。だから、今の私は、『鷺宮ヒカリ』であって、武は『鷺宮タケシ』と名乗っているの。ちなみにあなたたちは、『鷺宮家』の一員になる気はあるかしら。」
「鷺宮家の一員になると、何かいい事でもあるのか?」
猛は、ヒカリに疑問を投げかけた。
「鷺宮家の一員になると、コロラド王国内にある『鷺宮商会』の支店で経営している宿に、無料で泊まることが出来る。それと、各支店と本店を繋ぐ『転移ゲート』を使うことが出来るから、移動時間の節約になる。まあ、今すぐどうとかは言わないから、考えておいて頂戴。
話を戻すけど、今は『鷺宮商会』の下に、ぶら下がる形で商売を展開しているわ。で、商売の関係上、コロラド王国の各地に、私や、商会所有の建物や鉱山を持つようになって、それらを管理するために、各地に商会の支店を作っていった。気が付いたら、コロラド王国一の大商会に成長してしまっただけ。」
「ちなみにヒカリが、『鷺宮商会』の社長だ。さらに言うならば、先月に商業ギルドを立ち上げて、そこの会頭に就任している。隣の市場は、ヒカリが牛耳っているようなもんだ。」
タケシがヒカリの説明の足りない部分を補足していく。
「牛耳るって、何よ。ただ、市場にカランでは手に入りにくかった塩や海産物、鮮魚を卸して、食堂や屋敷で使用する食材を購入しているだけじゃない。まあ、市場全体の管理や、売買の値段の管理をカランの役所から頼まれているけど。」
「後半部分が牛耳っている証拠だろうが、ヒカリ。お前の機嫌を損ねると、市場どころか、カランで商売できなくなるだろうが。それのどこが、『牛耳っていない』って言える要素がある?」
タケシがヒカリをからかい始めた。ヒカリも、冗談半分でタケシと言い合いを始める。
「それだって、暴利を貪っていた商人と遊んでいたら、勝手にいなくなってしまっただけじゃない。何でも『適正価格』っていうものがあるのよ。その価格に商品の価格を揃えていっただけじゃない。
まあ、いいわ。ほかに何かある?そういえば、紀子さんだっけ。精霊たちと相性がいいのは。」
ヒカリは、話が不利な方向に向かっていたので、話題を変えた。それを見て、苦笑しながら猛が答えた。
「そうだ。昨日も話したが、紀子は精霊に好かれているらしいのだが、如何せん俺たちのパーティ内には、精霊魔法が使える奴がいない。誰か使える奴を知らんか?」
ヒカリは、猛の言葉に、しばし考えてから答える。
「紀子さんは、魔法は使うことは出来ないの?」
「はい、使う事は出来ません。使えても、微々たるものです。なんせ、精霊に頼めば、たいていの事は、魔法を使う以上にしてくれますから。」
「じゃあ、何故精霊に好かれていると感じているの?」
「それは…、今もですけど、何故だか解らないのですが、精霊らしき存在を見ることが出来るのです。それに、少しお願いしてみると、薪に火がついたり、小枝を集めたりできるのです。」
「紀子さんは、魔法の発動原理は知っている?」
ヒカリは基本的な事を紀子に訊いた。
「はい、ヒカリさん。猛さんに教わりましたので。たしか、頭の中でイメージをしてから、発動先を指定、魔法陣を展開するための呪文と発動キーを唱える。そうすれば魔法が発動する、でいいですよね。」
「それで正解。あとは、自身の属性を知ることが大事ね。では、自分自身の魔力を感じ取れますか?」
「猛に教えてもらって、自分の魔力を感じれるまでにはなりました。」
「では、視覚化はできる?」
そう言ってヒカリは、背後に、巨大な光球を出現させた。
「あい変らず、すごいでかさだな。…前見た時よりも大きくなってないか?」
猛は、ヒカリが出した光球に、苦笑いを浮かべて呆れている。紀子は、ただ唖然として見つめているだけだ。
「紀子さん、これが出来れば、魔法は使えたも同じ事よ。」
ヒカリは、光球を消すと、話の続きをする。
「魔法と呼ばれるモノには、私たちが普段使っている『詠唱魔法』と『神魔法』、『精霊魔法』、『召喚魔法』があるの。
今ここテラフォーリアで広く使われているのが、『詠唱魔法』と呼ばれているモノ。これは、その名の通り、決められた『新代魔法文字』を詠唱することで発動する魔法。
『神魔法』とは、『古代魔法文字』や『言霊』を使って詠唱する魔法の事よ。
『精霊魔法』と『召喚魔法』は、神魔法と同じで、『古代魔法文字』や『言霊』を使って詠唱する。詠唱して呼び出す相手が違うだけね。」
ここで紀子が、ヒカリに疑問点をぶつけた。
「魔法が使えないのに、何故精霊は、私の思った事をしてくれるのですか?」
「今まで精霊が、紀子さんの思ったことを実行してくれたものは、薪に火がついたり、小枝を集めたりとかの簡単な事だけだったんじゃない?」
「…そういえばそうだった気がします。少し高度な事をお願いしても出来ませんでした。」
「それは、紀子さんから自然に漏れている魔力を糧に、精霊が動いてくれていたからよ。
私たちの体からは、電池の自然放電のように、常に魔力が漏れているの。今までは、その漏れている分の魔力でしか、精霊は使えなかったのよ。
さっき私が造ったような魔力球を、紀子さんが造れるようになれば、もっとたくさんの魔法を使うことが出来るようになるよ。魔法と呼ばれる現象は、魔法陣に流した魔力量に依存するから。精霊魔法は、魔法陣の代わりに精霊に魔力を渡すだけだからね。」
午前中かかって、紀子は、自身の魔力球を作り出すことに成功した。昼食後、ヒカリが使った転移魔法により、どこかの草原へと来た一行。猛が代表して、ヒカリに尋ねた。
「今更お前の非常識さには何も言わんが、ここだ何処だ?ヒカリ。」
「ここは、浮遊大陸『サンマリオス』。詳しくは端折るけど、ここなら大きな魔法を使っても、誰にも迷惑をかける事はないわ。先住民とかがいたら、解らないけど。」
「そうか。じゃあ紀子、早速だが精霊を呼び出してみようか。」
さらっと流して言ってのけたヒカリに、『なぜ?』と言う疑問はかけずに、ここに来た目的を果たそうと考えた猛。それに対して、紀子が反論する。
「私、精霊を呼び出す方法、知らない。」
「ヒカリなら知っているだろう。なあ、ヒカリ。お前なら、精霊を呼び出した事もあるんだろう?」
半ば、確信しているかのように、ヒカリに問いかける猛。ヒカリは、じと目で睨み名がらも肯定し、紀子に大精霊を顕現させるための言霊を教えた。
「お前なら、絶対に大精霊を召喚できると信じている。」
「うん。」
紀子をやさしく抱きながら、猛は、思いをぶつけた。
「ヒカリも言っていただろ。『己の力を信じろ。信じ抜く者には、必ず大精霊たちは答えてくれる』と。俺も紀子を信じる。だから、お前も、自分自身を信じろ。」
猛は、紀子の肩を2回叩くと、ヒカリたちの元まで下がった。紀子は、大きく深呼吸をして、目を瞑ると、両手を大きく天に翳して、言霊を紡いていく。
「天より落ちる光の柱、大地に穿いて顕現の礎とする。」
紀子の足元に、直径5メートルほどの六芒星の魔法陣が現れる。
「六芒の頂は、6属の加護を分かち王の招来を待つ。」
六芒星の頂点に、小さな魔方陣が現れる。
「天を染める白夜の調べ、闇夜を照らす月光の安らぎ。
大地を潤すは水護の鎧、天を焦がすは紅蓮の頂。
6属の玉座に君臨する精霊たちよ、我の魔力を糧にしてこの地に顕現し、我と契約せよ。」
紀子の魔力が魔法陣に流れ込み、一際大きく輝く。そして、魔力が行き渡ったのを確認すると、紀子が最後の言霊を紡いだ。
「具現化『|6属の大精霊(キング=エレメント)』!」
各魔方陣から、6体の精霊が姿を現した。紀子は、大精霊の召喚に成功した。大精霊たちは、紀子の周りをゆっくりと回ると、6色の光になって、紀子の首の周りに集まり高速で回転しだした。高速で回転する光が収まった後、紀子の首から6色に輝く宝玉のついた首飾りが現れた。
「契約もできたようね。おめでとう、紀子さん。」
ヒカリは、紀子のそばまで歩いてくると、胸元で光る首飾りを見た。紀子は、首飾りを手で擦りながら、ヒカリに問いかける。
「ありがとう、ヒカリさん。ところで、この首飾りは何?」
「その首飾りは、『精霊の神子の首飾り』と言って、精霊の神子になった印。この世で一人だけが付ける事を許されているモノよ。つまり、紀子さんは、『すべての精霊の王』と言う肩書を得たの。これは、ここテラフォーリアでは、私たち『神々の神子』に次ぐ存在になったという事。
これからは、心の中で正確なイメージを浮かべて首飾りに念じれば、それに対応した精霊が、魔法を発動してくれるようになる。発動キーは、唱えても唱えなくてもどちらでもいけど、事象を確定するのに役立つから唱えたほうがいい。
物は試しに、何か魔法を発動してみなさい。」
ヒカリに言われて、紀子は、試しに魔法を使ってみた。右手を前方にそびえる岩山に照準を合わせるように突き出し、頂を破壊するイメージを首飾りに伝える。そして、発動キーを口ずさんだ。
「大地粉砕」
紀子の右手から、複雑な魔方陣が展開し、そこから青白い光球が岩山に向けて発射された。光球が岩山に着弾すると、岩山の2/3ほどが吹っ飛んだ。
「紀子さん、岩山をあれだけ吹っ飛ばす魔法を放とうとすると、普通なら膨大な魔力を消費するんだけど、そんなに魔力を使用したとは感じないでしょ。」
「…そうね。あれくらいの規模なら、後5発くらい撃てそうな気がする。」
ヒカリの問いに、そういえばと言う感じで紀子が答えた。それを聞いた他のメンバー、特に猛たちは、開いた口が塞がらなくなっていた。
「これが、『精霊の神子』となった特権。最少の魔力で、最大の効果を得ることが出来る。」
こうして、紀子は、精霊に愛され『精霊の神子』になった。パーティ『暁のトラ』は、これより先数ヶ月で、世界最強の称号を手に入れる事になる。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。
話の内容を、大幅に改稿しました。




