第55話 アースドラゴンとの契約
「光の神子様、お初にお目にかかります。巨体ゆえ、見下ろす形になってしまい、申し訳ありません。」
「はっ!はい、こちらこそ初めましてでよろしいでしょうか?」
つい疑問形でドラゴンの挨拶に、挨拶で交わしてしまったヒカリ。アースドラゴンからしてみれば、頭を垂れている形なのだが、ヒカリからしてみれば、見上げる形になっている。
「あの、私が、『光の神子』だと知っているみたいですが、私に何のご用でしょうか?」
「光の神子様、不躾で申し訳ありませんが、私と契約していただきたいのです。」
アースドラゴンから出た言葉に、しばし呆然とするヒカリ。
「なぜ、私と契約を?失礼ですが、理由を伺ってもよろしいですか?」
「これは失礼いたしました、光の神子様。理由を話す前に、私たちドラゴンと言う、種族全体の歴史から話さなくてはいけません。」
こうして、アースドラゴンから、ドラゴンと言う種族の歴史が語られた。
「ドラゴンと言う種族も、テラフォーリアに生息する動植物と同様に、こことは違う次元からやってきた。
どうゆう理屈かは知らないが、当初、我々は能力の異なる、20の個体がそれぞれ1頭ずつ存在していた。それぞれが、姿かたちも違えば、繁殖方法も異なっていたが、長い寿命のおかげか、『子孫を残す』と言う最低限の生命活動をしなかった。ドラゴン種の寿命は長い。平均1万年は生きるのだ。
そしてその強大な魔力ゆえ、他の生態系を乱さないために、浮遊大陸であるサンマリオス大陸に集まり、ここテラフォーリアで、ゆっくりと暮らしていた。しかし、時と言うのは残酷に過ぎていく。いくら長い寿命とはいえ、徐々に老いていく中で、何とか我らの力を繋いでいかなくてはならない。
そこで我らがとった方法は、固体同士を融合させ、新たな個体を作る事だった。それにはメリットもあった。新たに生まれた個体は、融合したドラゴン双方の力を引き継いでいるのはもちろんの事、新たな力も発眼したのだ。そうやって何度かの融合の後、最後に生まれたのが私だ。我の中には、初めに力の元となった20頭のドラゴンの力と知識のほか、融合してできた個体の力も引き継いでいる。
だが、我には、もう融合できるドラゴンがいない。つまり、ここテラフォーリアでは、我が最後のドラゴンなのだ。
これが我等ドラゴン種が、テラフォーリアで歩んできた歴史だ。我は、すでに生まれて9千年以上生きておる。そろそろ寿命によってこの世を去る身だ。だが、せっかく我の仲間が、歩み蓄えた力と知識を、このまま永遠に無くなってしまうのは、せっかく我まで融合し、生きながらえてきた種の理に対し、申し訳なく感じる。」
黙ってアースドラゴンの独白を聴いていたヒカリだったが、ここにきての疑問を呈した。
「そこで、私との契約、いや、この場合、融合と称した方がいいのかな?どっちでもいいか。私と契約したいと仰るのですか?
それと、その契約をすると、私には、どんな変化が起こるのですか?」
アースドラゴンは、ヒカリの疑問に、懇切丁寧に答えた。
「光の神子と我とでは、根本的に種族が違うので、そのまま融合する事は出来ない。代わりに我が、光の神子の隷属となる契約を結ぶことで、我等ドラゴンの血統が守られる。これは、我等ドラゴン族の血の掟で、契約した場合、我の躰は霊体となって、契約者の中に取り込まれる。
その反動で、契約者の力、いや、ここテラフォーリアでは魔力になるのかな。契約者の魔力に我の魔力が溶け合わさり、契約者の魔力が爆発的に増える。また、契約者が思うままに、我を具現化することも可能だ。その時は、注ぎ込む魔力量に応じて、具現化される我の大きさも変化する。
何故そうなってしまうのかは、我にも解らない。融合していった知識の中にも、それに該当する知識はない。ただそうなると、血の中の記憶に刻まれているだけだ。」
「という事は、私があなたと契約すると、あなたたちドラゴンの知識と魔力、そして、特有の魔法も使用できるようになるのですか?」
「その見解で合っている。また苦も無く、浮遊大陸も行き来できるようになる。」
ヒカリは、メリットと、デメリットを瞬時に計算し、アースドラゴンとの契約に同意する。
「分かりました。では、あなたと契約をしましょう。契約はどのような方法なのですか?」
「契約の方法は、光の神子様は、我に神子様の血を一滴与え、我に名を与えてくれればいい。我からは、契約の証として、我の躰の一部を与え、神子様は、それを肌身離さず身に付けておいてくれればいい。体の一部である『闇の倉庫』の中に入れておいてもらってもよい。これは、我がたしかに、このテラフォーリアに存在していたという証なのだから。」
それではと、ヒカリはあるモノを考えた。
「それでは、私からは、あなたの全てをください。可能ですか?無理ならば、表皮の鱗と牙や角、爪だけでも構いません。」
「それはまた何故だ?出来れば理由を伺いたい。」
「理由ですか。一つ目の理由は、先ほどあなたが仰ったように、ここテラフォーリアに、たしかに存在していたという証ですかね。その美しい全体像を、これで見納めにするのはもったいないですし。『闇の倉庫』の中に保管しても、契約の証となるみたいですので。もちろん、見世物にする予定はありません。
もう一つの理由は、我々人間種側の我儘でもあります。ドラゴン種の血肉の加工品は、万病の薬になります。ギルドの依頼の中に、『血の一滴でも欲しい』というモノがあります。また、牙や鱗などで作られた武器や武具は、どんな攻撃も絶える代物です。これらが、過去に市場に出た際は、とてつもなく黄河烏嶽で取引されたという記録があります。
ましてや、既にあなた様を最後に、ドラゴン種は絶滅してしまいます。つまり、もう2度とドラゴン種が現れる事はなく、全身のすべてを所有しているのが、私だけとなれば、とてつもなく価値が上がります。まあ、ホイホイと市場に出すことはないですが。また、武器を作ったり素材を譲ったりする際は、それ相応の試練を与えるつもりでいます。
私の単なる、商売上の都合とでも思っておいてください。」
アースドラゴンは、ヒカリの説明に、目を見開いて笑った。
「そこまでぶっちゃけられると、こちらとしてもただ笑うしかなくなるな。
いいだろう、光の神子様の願い、たしかに聞き届けた。我の全身を、血の一滴たりとも失うことなく、神子様に進呈しようぞ。
我の意識は、これから魔力のみの霊体となり、この身から離れる。我の意識が、この身から離れたら、すぐさま神子様の内にある、『闇の倉庫』の取り込むがよろしいだろう。その後に、我に名を与えてくれればいい。
それでは我と神子様との、契約の儀式を始めようか。まずは、神子様の血を、我の躰に付けてくだされ。」
ヒカリは、アースドラゴンに血数いて、口から飛び出ている牙に、腕を押し当てて血を出した。地がアースドラゴンに付着した瞬間、ドラゴンの躰が白く輝く。
「光の神子様、これでこの躰の所有権が、我から神子様に移った。それでは神子様、我が魔力とともに魂がこの躰から抜け出した後は、この躰は完全に神子様の所有物となる。『闇の倉庫』に躰を回収してくだされ。」
アースドラゴンは、魔力を魂に練り込んで、体から出た。ヒカリは、アースドラゴンの躰を、『闇の倉庫』に取り込んだ。
「後は、あなたに名前を付けるだけね。そうねえ、どうしようかしら…。」
ヒカリは、腕を組んで名前を考える。
「そうだ!ミライ。あなたは、今からミライよ。」
「ミライか、我はこれよりミライと名乗り、光の神子様に付き従う事を、ここに誓約する。では神子様、最後に我を神子様の内に取り込んでくだされ。」
ヒカリは、両手をミライに差し出して言霊を紡いだ。
「ミライよ、我の一部となり、我に力を与えたまえ。」
するとミライは、ヒカリが差し出した両手から、霊体となった躰を、ヒカリの中に溶け込ませていった。
ヒカリは、実験とばかりに、ミライを具現化してみる。
「ミライよ、我の意志に従い、ここに具現化せよ!」
ヒカリの与えた魔力に応じて、ミライが目の前に具現化した。今は、少量の魔力しか与えていないため、大きさは1メートル前後だ。それでも多分、Aランクの魔物を瞬殺できるだろう。
「お呼びか、主。」
「ごめんね。ここじゃないと、あなたを具現化できないから。それと、私の事は、ヒカリと呼んでくれない。」
「それはそうだな。ヒカリよ、では我は、このまま消えるとしよう。」
「ありがとう、ミライ。私の意を汲んでくれて。」
「構わぬよ、ヒカリ。いつでも呼んでくれていいぞ。我は、ヒカリの中におる。ヒカリの魔力の糧となり、ヒカリを支えておるからな。」
そういってミライは、消えていった。ヒカリは、ミライを見送ると、瞬間転移で、カランに帰っていった。
翌日、ヒカリは、冒険者ギルドに久しぶりに足を踏み入れた。ヒカリには、サリュースも付き添っている。実は、今現在、鷺宮商会から、ギルドに出されている素材回収の依頼内容を、ヒカリは熟知していなかった。すべての回収依頼は、サリュースに回されてから、纏めて週に一回ギルドに出されているためだ。なので、ヒカリの元には、依頼の内容は回ってきていない。
昨日のうちにギルドへの訪問を伝えていたため、ヒカリがギルドの門をくぐると、すぐさま特別室の通される。そこには、ギルド長が住まいを正して待っていた。




