第54話 ヒカリのストレス発散法
「最近私、働きすぎて、ストレスが溜まってきているみたい。」
朝、起き掛けにヒカリが、侍女にささやいた一言だ。たしかにここ数ヶ月、ヒカリは、休みなく働いている。いろいろな事が、一気に重なってしまったためだ。学園の講師としての仕事に始まり、雑貨店の商品製作。先月から始まった神殿での仕事、商会の社長業。鷺宮家の当主としての仕事等、毎日が怒涛のごとく過ぎていき、気が付けば夜だったなんてことが多々ある。
ヒカリは、1ヶ月間の予定を振り返ってみる。まず、毎週月曜日と木曜日は、学園でのの講師の仕事で、1日鷺宮魔法学園に詰めている。後の日は、土日を除いて、午前中は、鷺宮商会の社長としての仕事、午後からは、取引業者の面会。実は、これが結構な数になる。鷺宮商会が大きくなっていく事は、私としてはとても嬉しい事なのだが、その弊害として、あちこちに取引先が拡大していった。そのため、ほぼ毎日のように、誰かかしらの面会を受けている。
今では、カランで商売をしている、商会や商店の3割くらいと取引をしている有様だ。隣にある市場の関係者とは、ほぼ全員と取引をしているだろう。なんせ、鷺宮食堂で提供している食材の6割は、市場から仕入れている。市場を通していないのは、海の食材と塩くらいなものだ。もっぱら、そちらの方は、鷺宮商会から市場に卸しているので、持ちつ持たれつの関係なのだが。
あとは、鷺宮家当主としての、各方面へのお付き合い。特に貴族連中は、こちらの都合などお構いなく、使者を寄越してくる。カランの貴族は、私が『光の神子』であることで、あまり無茶なことはしてこないが、他の町の貴族、特に、王都にいる連中は、自分の都合ばかり押し付けてくるのだ。
「俺の方が身分が上なのだから、王都まで会いに来い」
そんな本音が見え隠れしている、召集令状の如し手紙を寄越してくる貴族には、やんわりとお断りの手紙を出している。わざわざカランまで会いに来る者まで、無下には出来ないので、面会には応じているが。
予定がなければ、急遽面会を希望してくる業者や個人に対応するため、雑貨店裏の研究室で、魔道具の製作と開発をしている。道具を作るのは、私の趣味の一つです。
また、5日、15日、25日は、曜日の関係なく、光の大神殿で『光の神子』として働く日だ。当然、朝から夕方まで神殿に詰めている。この日は、曜日は関係ないので、すべての予定が神殿一色になる日です。
土日は、基本お休みで何も予定を入れていない。しかし、何故か毎週のように、どこぞかしこで開かれている晩餐会に御呼ばれしている。どれもこれも出席するのは、体が持たないので、月に1度だけ参加するように心掛けている。どれに参加するのかは、トーマスに丸投げしているため、私は関知していない。その代わり、月2回土曜日に、鷺宮家の庭園で、お茶会が開催されている。これは完全予約抽選制だ。予約の段階でかなりの数の応募があるため、毎回抽選で50人ほどに絞り込んでいる。
日曜日はと言うと、朝から晩までタケシといちゃつくのに忙しい。少し、お惚気が入ってしまいました。でも最近は、いちゃつく事も出来ません。日曜日のたびに、貴族共がわんさか押し寄せてくるのです。貴族共の面会理由が、「私に加護を与えてください」だとか、「私の家族に加護を」だとか、もう聞き飽きました。なぜに人気取りのために加護を与えなくてはいけないのか。これだから、貴族と言う生き物は嫌いです。
まあ、そんなこんなで、先月は、休日が1日もありませんでした。もちろん、タケシといちゃつく時間もなかったです。なので私は、ストレスを溜めこんでしまい、今にも爆発しそうです。久しぶりにあれをしようと決意をして、トーマスに言付けをして、2日ほど強制的にお休みをいただきました。
いつも来ている煌びやかなドレスではなく、冒険者スタイルの動きやすい服装になって、カランを出発します。目指す場所は、「降魔の森」の最奥。ここは、その名の通り、魔物が跋扈している魔性の森です。魔物のランクは、上から下までより取り見取り、奥に進むほど魔物のランクが上がっていきます。駆け出しの頃には、ランクアップでお世話になっていた場所です。また、試作段階の魔道具の実験場所としても使用しています。カランかは、10日ほど歩かなくてはいけない場所にありますが、そこは私、瞬間転移で一瞬に行き来します。
瞬間転移で森の最奥に到着し、テクテクと5分ほど歩けば、いきなり出くわしました。目お前に広がる光景は、テラテクスの群れ、およそ100匹ほどいるでしょうか。さあ、私のストレス解消に死んでいただきましょう。私は、愛用の魔法剣を片手に持ち、群れの中に突撃しました。
久しぶりに無双してしまいました。2時間ほどかけて、テラテクスの群れを殲滅。途中やってきた狼みたいな魔物の群れも、ついでに殲滅しておきます。やっぱりストレス解消には、魔物の殲滅が一番いいですね。素材の回収のため、殲滅した魔物はすべて回収し、闇の倉庫の中に放り込んでおきます。仕分けは、後でゆっくりすればいいし…。
その後は、テクテクと目的もなく森を歩き、遭遇する魔物を全て蹴散らしていきながら、お昼を迎えました。Aランクの魔物が跋扈する森のど真ん中で、堂々と弁当を広げて昼食タイムです。昼食中に襲ってきた魔物は、サクッと、魔法の餌食になってもらいました。昼食を食べ終われば、また森の中を当てもなく彷徨い続けます。別に迷ったところで無問題。出会った魔物を切り捨てながら、森の中を彷徨い歩くヒカリ。
午後からは趣向を変えて、新しく開発した魔道具の実験をしながら、森を探検しようと思います。午前中に、溜まりに溜まったストレスも、粗方解消できたことですし…。ヒカリは、闇の倉庫の中に放り込んであった魔道具の中から、黒色の環を取り出して、頭にかぶった。そして、環にごく少量の魔力を込める。すると環が一瞬白く輝きだし、すぐに黒色に戻った。
暫くすると、ヒカリの頭の中に、ヒカリを中心とした3次元の森の地図が浮かび上がった。範囲としては、直径100メートルほど。ヒカリは、環に込める魔力を徐々にあげていく。すると、与えた魔力に応じて、地図の範囲も広がっていく。今は、大体直径1000メートルほどだろうか。地図の中には、小さな光点が無数に散りばめられている。
「とりあえずは、成功かな。あとは、索敵範囲の調整と、この無数にある光点の調整だな。今のままでは、何が何やら、全然わからん。」
実はこの環は、魔力を込めるだけで、術者を中心とした一定範囲の魔力を、光点と言う形で脳内に3次元地図として表示するものだ。ここテラフォーリアに生息するすべての動物は、多かれ少なかれ魔力を有している。そのことに着目してこの魔道具を作ってみたのだが、実験の結果、今のままでは商品化するには問題がありすぎる。
問題点を確認しつつ、ヒカリは、カランに戻ってから改造することに決め、とりあえず実験を終えた。太陽もいい具合に傾き始めた頃、そろそろ帰ろうかなと思案していた私の前に、突然、あの伝説級の大物が現れた。
密集した木々を抜けて、少し開けた草原に出てすぐに、突風とともにそれは、突然空から舞い降りて、私の前に立ちはだかった。そして、その大きな真紅の瞳で私を見つめている。全長およそ50メートル。テラテクスを大きくしたような体躯には、金色の鱗が全身を覆っている。背中には、2対4枚の大きな白い翅が生え、今は畳まれているが、広げれば150メートルを超えるだろう。
そう、言わずと知れたドラゴン様のご登場である。文献(ヒカリが所有する、テラフォーリアのすべてが解る図書館にあった)の中に登場し、テラフォーリアの歴史の中でも確認されたのは、数えるほどしかない最強の魔獣。その中の数ある種族の中で、金色の鱗を持つのは、ドラゴンの王ともいわれるアースドラゴンただ一つ。それが今、ヒカリの目の前にいるのだ。それだけでも感動ものである。
アースドラゴンは、感動で硬直しているヒカリに、驚きの行動をとった。ヒカリに対して、頭を垂れたのだ。そして、ヒカリに話しかけた。
「光の神子様、お初にお目にかかります。巨体ゆえ、見下ろす形になってしまい、申し訳ありません。」
「はっ!はい、こちらこそ初めましてでよろしいでしょうか?」
つい疑問形でドラゴンの挨拶に、挨拶で交わしてしまったヒカリだった。




