第53話 光龍の神事
17449年7月7日。今日は、コロラド王国にとって、記念すべき日になった。翌年からこの日は、『光の記念日』となり、国民の祝日に加えられる。そしてカランでは、光の大神殿の最大の祭典『光龍降誕祭』が始まる日でもある。
4日かけて行われる神事の中でも、最終日の10日にある神事、『光龍降加』。これは、光龍の加護を与える神事だある。前年度までは、大神官が形だけの加護を、毎年神殿に大きく貴賤した者に与えていた。しかし今年からは、『光の神子』であるヒカリが、直接光龍に問い、意に叶った者に直接与える方式に変更された。つまり、神事に参加している者なら、誰にでも加護を受けるチャンスがあるのだ。
この4日間、カランの町は、神事に参加するもので埋め尽くされる。特に今年は、『光の神子』を迎えて初めての神事になる。また、各町の入る門から、中心にある大神殿までの大通りには、露店が立ち並び、神事の開催期間中は、カランの町には馬車の通行が禁止されている。
7月7日の早朝、日の出とともに始まる神事のため、ヒカリは、前日から大神殿に詰めていた。神事が終わる7月10日まで、ヒカリは、神殿から出ることが出来ず、また神官以外、誰とも会う事もない。新婚ほやほやのヒカリにとっては、生殺しに等しいが、タケシやサトミも似たような状況らしい。
タケシたちには、今回から加護者に渡す予定の、それぞれの属性の聖霊を宿したヒカリ謹製の『加護のネックレス』を1ダースづつ渡してある。
他の神子たちも、今日から4日間は、各神殿に籠っているのだ。もちろん、カランに来ていた各神殿の大神官とともに、光の大神殿の地下にある『転移ゲート』で、各大神殿に、昨日のうちに飛んでいった。このゲートは、前日までにヒカリが各地を回り、設置していたモノだ。大神官たちは、たいそう驚いていたみたいだが…。
ヒカリが唯一、民衆の前に姿を出すのは、1日3回、早朝、日の出とともに始まる神事と、昼の鐘とともに始まる神事、後は、夜9時の最終の神事のみ。後は、最終日にある神事、『光龍降加』だけだ。
神殿の最奥にある禊の間で、身を清めたヒカリは、特別に用意された『光の神子』の衣装に着替えた。光沢のある純白の和服のような前身頃に返しのあるワンピース。着丈は踝まであり、返しのある襟は、7色の布を虹のように重ねて仕立てられている。そこに、黒地に金糸で刺繍された太い帯を腰に巻き付け、背中側で『華文庫』に似た結び方で結び、床すれすれまで垂れている。腰まである長い黒髪は結い上げられ、金細工が映える黒漆塗りの簪で留められている。履物は、黒漆の塗られた厚底のサンダルを履いており、神事の際には、雛壇の手前で脱いで裸足になって神事を遂行する。
早朝、まだ日の出前にもかかわらず、大聖堂の1階の椅子には、前日に抽選で選ばれた礼拝者が座っていた。1日3回の神事は、1階の椅子に座れる分しか中に入れない。
ヒカリが、大聖堂の入り口に立つと、椅子に座っていた礼拝者が一斉に立ち上がり、右手を胸の前に置き跪いた。赤絨毯の敷かれた花道を、ヒカリは、純金でできた大きな杓子のような神器を両手で持ち進んでいく。普通なら純金でできた神器を持つなど、ヒカリの力では無理なはずだが、魔法による手助けで容易にこなせていた。
神像の前の雛壇に着くと、ヒカリは一度深くお辞儀をしてから、履き物を脱ぎ裸足になる。裸足のまま雛壇に上がり、神像の前に立つ。ヒカリが神像の前に立つと、神官の合図で礼拝者が立ち上がり、右手を胸の前に置き、ヒカリに続いて3度お辞儀をした後、そのまま頭を垂れた。
ヒカリは、神器を両手で持ったまま、神像の前で跪き言霊に乗せて祝詞を詠みあげた。祝詞を詠み終えると、ヒカリは、その場で正座して深くお辞儀をすると、立ち上がって深くお辞儀をする。これを3度繰り返したのち、神像の下を流れる聖水の流れに、神器で水を汲むと、大神官の掲げる純金の聖杯に聖水を入れる。一度神器を神像の前に置くと、大神官から聖杯を受け取り、聖水を飲み干した。ヒカリが飲んだ聖杯は、そのまま大神官に渡し、ヒカリは、神器で聖水を聖杯に汲み入れる。大神官は、ヒカリが口を付け、再び聖水が満たされた聖杯の聖水を飲み干すと、聖杯をヒカリの前に置かれた机の上に置いた。続いて、雛壇の上で神事をヒカリとともに遂行している神官が、聖杯に汲まれた聖水を飲んでいく。その際、3度のお辞儀をヒカリとその後ろにある神像に向けて行う。
ヒカリが再び神器で水を汲むと、礼拝者の方を向いた。礼拝者は神官の後、順にヒカリの前まで進むと、3度深くお辞儀をして、持参した杯に神器から聖水を入れてもらい、その場で飲み干していく。水を飲みほして礼拝者は、再び元の椅子に座っていく。これを礼拝者がなくなるまでひたすら続けていく。礼拝者は、加護持ちでもない限り、聖杯から聖水を飲む事は出来ないのだ。
最後にもう1度ヒカリは、神器に聖水を汲んだ。ヒカリは、そのまま神像に、3回深くお辞儀をする。礼拝者は、ヒカリに続いて3度深くお辞儀をする。その後ヒカリが、神器の中の聖水を飲み干して神事は終了した。ヒカリが、花道を歩いて退場した後、参拝者が席を立つ。これをあと3日間続けるのだ。
7月10日、早朝の神事を終えたヒカリは、正午から始まる神事、『光龍降加』のため、短い休憩をとっていた。ソファーに腰掛け、久しぶりに、フレアのモフモフを堪能する。
「そういえば、フレア。」
「ニャンだい?ヒカリ。」
「フレアのその喋り方も、大分と板についてきたねぇ。そうじゃなくて、この後行う神事で選ぶ加護持ちって、何人なの?」
ヒカリは、そういえばとまだ聞いていなかった事をフレアに訊いた。
「それは、その時の気分かニャ。ボクは、ヒカリが選んだ人に加護を与えるつもりだから、ヒカリが、適当に選んでくれて構わないニャ。人数も適当でいいニャ。1人でもいいし、10人でもいいし…、選ばなくても別に構わないニャ。何なら、その辺にいる野良犬でもいいニャ。」
「そんな適当に選んでもいいの?」
「別に構わないニャ。すでにヒカリは、4人の女の子に加護を与えたニャ。」
そうこうしているうちに、神官がヒカリを呼びに来た。
「ヒカリ様、そろそろお時間です。フレア様も、顕現なされておいででしたか。御一緒に大聖堂までお越しください。」
ヒカリの膝に抱かれている白猫が、光龍であることはすでに神殿関係者なら、周知の事実であった。また、”光龍”は呼びにくいだろうという事で、ヒカリから、顕現しているときは、”フレア”と呼んでも構わないと言われている。もちろん神殿関係者限定だが…。
ヒカリは、ソファーから立ち上がると、フレアを抱いたまま神官の後に続いて、部屋を後にした。
大聖堂の中は、2階席まで埋まる黒山の人だかりになっていた。神像の前に行くまでに、その光景を横目で見たヒカリは、さてどうしようと頭を悩ませた。ちなみに、加護者を選ぶのが、光龍ではなく、何を隠そうヒカリだという事は、大神官しか知らない。
フレアからは、適当に選べばいいと言われていても、やはり神事っぽく演出をしたかった。神像の前に跪き、形ばかりの祝詞を詠み上げながら、ヒカリはそんな事を考えている。
そして、ふと思ったことを頭に思い浮かべて、魔法の詠唱を始める。別に魔法を発動させるのに、言葉に出さなくてもいいのだが、ここはあえて詠唱をする。詠唱の言霊は、祝詞を少しアレンジして、他には、魔法を発動させている事には、気づかせないように心掛ける。祝詞の中に混ぜ込まれた発動キーによって、白く光る漣が、大聖堂を満たしていった。
祝詞を詠み終えたヒカリが、参拝者の方を向いた。そこには、ヒカリしか視認できない、ちらほらと光り輝く人がいる。数にして20人ほどだろうか。強く光っている者もいれば、淡い光を放っている者もいる。実はこれ、ヒカリが即興で考えた魔法だ。大聖堂に満たされた漣は、”光属性”を持つ者を探し出す魔法の副作用である。先程起こった光の漣は、後でなんとでも説明できる。例えば、「数多の者の中から、加護を授ける者を、光龍様が私に示すために行った神技である」とでもいえば、たいていの者は納得するだろう。
適当に選ぶにしても、ある程度基準が欲しかったのだ。さてと今光っている20人の中から、何人選ぼうかな。おっ!最前列に座っている王女様も光っていらっしゃる。それも一際大きく。王女様は、とても強い光属性をお持ちのようだ。では、とりあえず1人は王女様と、後2~3人くらい選ぼうかな。ヒカリは、神妙な顔つきを心がけながら、大聖堂を見渡した。そして、近くにいた神官に耳打ちをして、ここまで連れてきてもらうように頼むと、ヒカリ自身は、王女の下に歩み寄った。
「王女様、こちらへお越しください。」
そう言って、ヒカリは、王女の手を引いて壇上まで連れてくる。5分ほどして、ヒカリが指示した者が、神官に手を引かれて、壇上に上った。王女を含めて今回は5人、まあ、初回という事で、大判振る舞いした方だ。
ここから先の神事は、はっきり言って行き当たりばったりの思い付きだ。この場を支配し、事を進めているのは紛れもなく私。私が今この場で思いついたやり方で、神事を進めていく。
まずは、壇上に連れてきた者をその場で跪かせ、胸の前で腕の前で腕を交差させた。王女だろうと関係なしに、私の指示に従ってもらう。そして、新たな魔法を用意する。祝詞に混ぜて言霊を唱え、発動させた魔法で、私の前で跪いている者たちに、『加護のネックレス』を転送させて付けた。いきなり首元に現れたネックレスに、皆驚きの顔をしている。
驚きついでに、魔法でそれぞれの血を一滴拝借し、水晶石に勝手に付着させる。瞬間水晶石が光り輝くが、すべては神事の一環だと、皆が納得しているみたいだ。
その後、私は、『光龍降加』の神事の終了を宣言した。
魔法による演出は、自分の中ではうまくいったと思う。そういえば、来年以降も同じ事をしないといけないのか?まあ、別にいいか。これが私のやり方なのだ。選別方法も私しか知らない。黙っていれば、ばれる心配もない。ちょっと腹黒い部分が見え隠れしている自分に苦笑しつつ、ヒカリは壇上を後にした。
~コロラド王国第4王女 メーリア=サンダレスの視点~
光る漣が私を通り過ぎた後、光の神子様が、私の下に歩いてきた。そして私の手を引いて、壇上まで連れてきてくれた。
壇上では、私の他にも、大聖堂の中から4人の男女が、神官に連れられて昇ってきている。私たちは、光の神子様の指示に従って、胸の前で両手を交差させて跪いた。光の神子様が、祝詞を詠みあげている。すると、私たちの体が、淡い光に包まれていった。
そして、突然胸元に、純金製の台座に水晶石が填められ、シルバーの鎖のついたネックレスが現れた。その光景にしばし意識を何処かへと飛ばしてしまった。さらに驚くことに、ネックレスの水晶石が、いきなり光り輝いたのだ。
何が起こったのか分からないまま、光の神子様が、神事の終了を宣言された。暫く、壇上で意識をなくしていた私は、神官に起こされて我に返った。胸元には、既に輝きを失っているものの、真っ白で綺麗な輝きを放つ水晶石が埋め込まれたネックレスがある。
それを見つめながら、私は、状況を少しずつ状況を飲み込んでいった。私は、今この瞬間に、『光龍加護』を授かったのだ。その現実を受け入れた時、私は、なぜか涙を流していた。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。
話の内容を、大幅に改稿しました。




