第51話 ヒカリからの贈り物
カラン城に着いたヒカリ達一行は、広い城内を歩いて、それぞれの控室に通された。約3時間後に、城内の大ホールで、『光の神子』と『闇の神子』との結婚祝いと、各龍神の『神子』を迎えれた事への歓迎の宴が開かれるのだ。
ヒカリとタケシは、結婚式の衣装のまま、今回の宴の主催者であるカラン城の城主である、カトリア=センダレスに、結婚の報告と、宴を開てくれた事へのお礼の挨拶をするため、謁見の間に来ていた。カトリアは、ひな壇の上の玉座には座ってなく、ヒカリ同じ高さの位置で報告を受けていた。
通常謁見の間では、謁見をする者と、受ける者との距離は、その者の身分に比例して立ち位置が決まっている。ヒカリは平民のため、立ち位置は普通なら一番後ろなのだ。しかし、平民でありながら『光の神子』であるヒカリは、一番前で腰を折った。背中から床に長く伸びるトレーンを持つ女の子たちも、その場で腰を折っているだけだ。
光の守護神『光龍』の次に位置し、光龍の名代ともいわれる『光の神子』の地位は、地上界では王よりも立場が上になる。『光の神子』に対し、たかが人族の国が決めた臣下の礼を強要する事は、神に対して強要している事と同義なので出来ないのだ。それは、たとえ衣装の一部を持つだけの従者だとしても、その場にいれば『光の神子』の一部とみなされるため、女の子たちも臣下の礼をとらなくてもいい。本来ならば、上座に座っていただく存在なのだが、今回は、主催者に対する挨拶なので、このような形になっているだけである。
「今回は、私の結婚式のために、わざわざ名代を使わして下さり、有難うございます。それと、この後に行われる晩餐会を主催していただき、重ねてお礼を申し上げます。」
ヒカリが、カトリアに感謝の言葉を述べると、カトリアはそれに答えた。
「『光の神子』様に、感謝の言葉をいただけるとは、私の人生において、これほど名誉なことはございません。ささやかではありますが、この後行われる晩餐会を、楽しんでいただけるととてもうれしいです。」
「ありがとうございます。晩餐会を楽しみにしております。」
「さて、ヒカリ殿、堅苦しい挨拶はこれまでにして、私の執務室までお越し下さい。少し世間話などをしたいと思っています。」
「それでは、お言葉に甘えて、お邪魔させていただきます。」
こうして、ヒカリとタケシ、カトリアは、謁見の間を後にして、カトリアの執務室で時間の許す限り談笑をした。
夕方になり、カラン城の大ホールでは、来賓客が指定された席に着席して、主賓の入場を待っている。来賓客は、コロラド王国にいる貴族、鷺宮商会に関わっているすべての平民、冒険者、そして今回、ヒカリのトレーンを持つ女の子たちの家族。ちなみに女の子4人は、全員平民出身だった。
総勢1000人ほどが一堂に集まっていた。全員正装をしており、男性は身分に応じて、白黒紺のタキシード。女性は、色とりどりのドレスを身に纏っている。ドレスを持たない平民には、今回カランの町にある服飾関係の店が総出で、無料で貸し出しに応じてくれていた。『光の神子』に関連する行事での貸し出しにお金を頂かないのは、『光の神子』様の衣装のすべてをプレゼントしたオートクチュルやカマンドールに倣い、すべての経費が『光の神子』様へ渡す祝儀の一部と見做されていたからだ。これは、カランの町で、店を開く者たちすべての総意であった。カランの町で店を開いている者は、今回の結婚式や晩餐会では、何かかしら商いで扱っている商品を提供しているのだ。
静かな音調で流れていたBGMが、突然止まった。ホール内の喧騒が静まり、すべての者が、貴族も平民も関係なく花道に向けてその場に跪いた。腰は折られていないので、視線は花道に集中している。扉が開き、護衛の騎士に挟まれ、それぞれの神殿の大神官を先導に従えた『龍神の神子』が順に入場してくる。
最後に、カラン城城主のカトリアと、光の大神殿の大神官を先導に従えたヒカリが、ゆっくりと歩きながら花道を進んでいく。ヒカリの衣装は、結婚式で着ていたウエディングドレスそのままだ。背中から床に長く伸びるトレーンを持つ女の子たちは、ヒカリの歩調に合わせて、今日何度目かになる緊張に全身を覆われていた。あと、晩餐会の後半の前に行われる衣装替えの際に、ヒカリと一緒に退席すれば、お役目は終了するのだ。
ヒカリが上座の最上段の席に着席すると、続いてカトレアと大神官と神子たちがその下の段の席に着席する。護衛の騎士たちは、後ろの壁にずらりと並んでいる。司会役の合図で、跪いていた者たちは立ち上がり、それぞれの席に着席した。ヒカリのトレーンを持っていた女の子たちは、ヒカリの左右に造られた席に着席していた。今はまだ、ヒカリの一部となっているためだ。
カトレアが、晩餐会の開始を宣言すると、机の上に次々と料理が運ばれてくる。コロラド王国の晩餐会は、2部構成になっている。食事がメインの第1部と、ダンスがメインの第2部に分かれている。そのため、夕方に始まる晩餐会は、終了するのが日付が変わる頃になるのだ。
ゆっくりと流れるBGMの下、ヒカリたちは食事を楽しんでいる。ヒカリたち神子の周りには、次々と来賓の貴族たちが、贈り物の目録を渡しに挨拶に訪れていた。ヒカリたちの食事の邪魔をしない配慮は、もちろんしっかりと行われている。この配慮が出来ない者は、最低限のマナーさえ守れないという烙印を押されるのだ。それは、貴族にとっては、不名誉な事でもあった。
「これより『光の神子』様は、ご衣裳をお変えになるため、しばらく席をはずします。『光の神子』様の準備が整い次第、第2部を開始いたします。皆様、ダンスの会場までご移動をお願いします。」
食事会も終わりに近づいた頃、司会の男性の言葉で、ヒカリは、衣装を変えるために一時退席をするため席を立った。ヒカリとともに、4人の女の子が会場を後にしていく。ホールの近くの部屋に作られた衣裳部屋で、ヒカリは、女の子たちを労った。
「今日は1日お疲れ様でした。私から、ささやかながらもあなたたちに贈り物があるので、この場で受け取ってください。」
そういうと、侍女が女の子たちに、プレゼントの入った袋を渡していく。袋を受け取った女の子たちは、中身が気になっている様子で、そわそわとしている。
「袋の中に、細長い白木の箱があるでしょう。その中身を出してください。」
ヒカリに言われて、袋の中を覗けば、たしかに細長い白木の箱がある。女の子たちは、白木の箱の蓋を開けた。白木の箱の中身は、純金製の台座に水晶石が填められ、シルバーの鎖のついたネックレスだった。ヒカリが侍女に合図を送ると、侍女は、女の子たちの元に行き、「少しちくっとしますよ」と優しく微笑んでから、女の子たちの指の1つに針を刺した。そして、針に付いた血を、ネックレスの水晶に垂らす。すると、水晶が白く光り輝いた後、それぞれの属性の色になった。侍女はそのネックレスを女の子たちの首にかけてあげる。すると、水晶の中から、かわいい掌サイズの聖霊が現れた。聖霊は、女の子の周りをクルクルと楽しそうに回っている。
「これは、『加護のネックレス』です。数日後に行われる『光龍降誕祭』で、加護を授けた者に贈る予定のネックレスと同じものです。つまりあなたたちは、私から加護を授けたという事です。今後は、その子と仲良くなって、絆を深めていってください。そうすれば、その子が、あなたたちを手助けしていってくれます。
あなたたちのお役目は、ここで終了です。侍女さんが、家族の元まで連れて行ってくれるので、安心してください。」
女の子たちは、満面の笑みでヒカリにお辞儀をして挨拶をした。女の子の一人が、代表してお礼を述べた。
「今日は1日有難うございました。たくさん練習はしてきましたが、不便な思いをしたと思いますので、この場で謝罪します。それと、『光の神子』様から私たちに贈り物を頂き、感謝してもしきれません。
今日1日、ご一緒できたことは、私たちの一生の宝物にいたします。ありがとうございました。」
「さあ、ご家族も待っていると思いますので、元気な顔を早く見せに行ってあげなさい。」
最後に大きくお辞儀をして、女の子たちは、侍女に連れられて部屋をあとにした。手には、ヒカリから直に手渡されたプレゼントを大事そうに抱え、首元には、加護のネックレスが輝いている。聖霊は、女の子の肩に乗っかって、髪の毛で遊んでいる。
それを見届けると、侍女の1人が声を出した。
「さあ、『光の神子』様、皆さまがお待ちです。早くご衣裳をお変えいたしましょう。」
「そうね。お願いします。」
ヒカリは、侍女の手助けを受けながら、ダンスの衣装に着替えていった。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。
話の内容を、大幅に改稿しました。




