第49話 招待状
ヒカリの結婚式を行うと、光の大神殿からの発表があった3日後、神殿前には、長蛇の列が出来ていた。そこには、貴族平民関係なく、列に並ばされている。
年末年始の神事の後、光の大神殿から発布された改正神事典範により、神事の際の席執りは、当日の混乱を避けるため、事前に行われる抽選により決定するとあった。そこにはさらに、身分の差による優遇は、一切行わないと追記してある。この規約に唯一の例外が認められているのは、城主の家族と、『光の神子』の家族の鷺宮家だけである。鷺宮家は家族の祝事なので当然である。領主の家族は、ヒカリとタケシの結婚式における、神殿との共同主催者として、名を連ねていたからである。他の貴族も、その名に連ねようとしたのだが、結婚式の会場が『光の大神殿』であり、その後に行われる披露宴の会場が『カラン城』となっていては、諦めるしかなかった。
カランに本拠地を構える者ならば、この日は、都合を無理やりつけてでも参加することになる。今日は、神殿で行われる結婚式の会場に入れるパスの抽選会が行われるのだ。のちに、カラン城で行われる晩餐会の入場パスも同時に抽選されている。噂では、このパスを貰うために、カランの住民は全員申し込んだ。そのため、パスの倍率が、すごいことになっているらしい。
式場である大神殿の大聖堂の椅子の数がたしか500脚、そのうち200脚が、鷺宮家の関係者分であり、100脚が今回の主催者である神殿関係者と領主分、残り200脚を、招待客で割り振っている。晩餐会の方は、1000人規模のホールを使用する予定のため、結婚式の倍の人数が招待される。こちらの方は、城領主であるカトレアが音頭を執っているため、神殿の規約には関係なく、参加者を集めることが出来るのだが、カトリアは、「神殿の法に則り、参加者を招待する」と宣言したため、今日の同時抽選となったのだ。
とある冒険者パーティが所有する家に、1通の招待状が届いた。この招待状を前に、パーティのメンバーが、重く項垂れていた。メンバーが座る椅子の中央に置かれた机の上には、広げられた手紙と、メンバー全員分の入場パスが並べられている。
「ヒカリちゃんとタケシ君の結婚式が、1ヶ月後にカランで行われるみたいだ。結婚式に呼ばれることは、俺たちが一番仲のいいパーティだという事で誇ってもいい。『光の神子』たるヒカリちゃんの結婚式だ。俺たちの名前にも箔が付くというもんだ。
し・か・しだ。問題はその後に行われる晩餐会だ。
そこで質問だ。俺たちの中で、誰か、ダンスができるものはいるか?ちなみに俺は、自慢じゃアないが、生まれてこの方、ダンスなぞ嗜んだことなどない。」
「リ~ダ~。そんな事、何の自慢にもならないよ。ちなみに、あたしもダンスの経験はないなあ~。」
「…俺たちのメンバーには、ダンスの経験者は誰一人いないのか。」
「ダンスなぞ嗜んでいたら、冒険者なぞなってないわ。」
「それもそうだそな~。しかし、どうしよう…。」
沈み込むメンバーたちだった。
「困った時の鷺宮家だ。一度ヒカリちゃんに相談してみよう。何とかしてくれるだろう。」
リーダーのケイトがそういうと、残りのメンバーも賛同し、パーティメンバー全員で鷺宮家に押し掛けた。
鷺宮家の本宅の正門の前で、鷺宮家の執事をしているトーマス島田が、突然押しかけた『炎帝の鉾』のメンバーの用件を聞いていた。
「…つまりあなた方『炎帝の鉾』の中には、ダンスの経験者がいなく、ヒカリ様にご相談をしようと押しかけてこられた。そういうご用件でよろしいですか。」
「ああ、そういうことで構わない。ヒカリちゃんに、話を通してほしいのだが、よろしいか。」
「分かりました。実はヒカリ様から、『炎帝の鉾』のメンバーが来たら、ヒカリ様達の練習している所までご案内するように承っております。どうぞこちらへお越しください。」
トーマスの言葉に、ケイトは苦笑いを浮かべた。ヒカリちゃんが、こうなる事を予想していた事実が、とても嬉しかったのだ。トーマスは、『炎帝の鉾』のメンバーを敷地の中に招き入れると、屋敷の中にあるホールへと案内していく。ホールの扉の前で立ち止まると、トーマスが、『炎帝の鉾』に声をかけた。
「この中では、鷺宮家の面々と従業員、そしてあなた方のように、ヒカリ様に泣きついてきたカランの住民たちが、ダンスのレッスンを受けております。『炎帝の鉾』のメンバーも、その中に交じっていただきますが、よろしいですか。」
「ダンスのレッスンをしてくれるのなら、俺たちは文句を言うつもりはない。…ちなみにコーチは誰だ?」
「ダンスのコーチですか?ヒカリ様とタケシ様、リョウコ様、マナミ様、そして私ですが、それがどうかしましたか?」
ケイトは、それを聞いて苦笑するしかなかった。ヒカリちゃんたちは、なぜダンスなぞ高尚な貴族の嗜みみたいなものが出来るのかと。
「まあいい。早速ダンスのレッスンを受けたいのだが。」
「分かりました。それでは中にお入りください。私は、ヒカリ様に言付けをしてまいります。」
トーマスが、ヒカリに何か言付けをすると、ヒカリが彼らの所まで歩いてきた。
「ヒカリちゃん、タケシ君との御結婚、メンバーを代表して、『おめでとう』と言っておく。今日は、ヒカリちゃんに、ダンスを教えてもらいに来たのだが。」
ケイトは、開口一番に、ヒカリにおめでとうを言い、ダンスのレッスンを頼んだ。
「ケイトさん、わざわざ、有難うございます。そしてお久しぶりです。それと『炎帝の鉾』のメンバーもご無沙汰しています。ここに来たという事は、私の結婚式に出席してくださるという事でいいですか。」
「ああ、俺たち『炎帝の鉾』のメンバー全員は、ヒカリちゃんの結婚式に出席する。そもそも出席しなかったら、招待状を貰えなかった他の冒険者に、後で何を言われるのか分かったものじゃない。
そんな事より、ヒカリちゃんに相談なんだが、俺たちの中には、誰一人ダンスの経験者がいない。さっきトーマスから聞いたんだが、ヒカリちゃんがダンスのコーチをしてくれるみたいだから、俺たちにも、ダンスを教えてくれないか。」
「はい、いいですよ。それでは早速今からやりましょう。」
「今からって、こんな身なりでいいのか?」
「はい、練習中は別にどんな格好でも構いません。現に私たちも、普段着ている格好です。鎧や大きな武器は外してください。ただ、本番1週間前からは、正装で練習しますので、それまでには、しっかりした服を用意しておいてください。
正装でも目立たない武器を、何か用意しておくといいですよ。冒険者が晩餐会の呼ばれるのは、護衛の意味も兼ねています。城内では、騎士のみなさんが目を光らせていますが、基本壁際にいるので、会場の中央で起こる事には、対処しずらいのです。たとえ城内と言えど、何が起こるのかは分からないので。
晩餐会の会場内では、大きな武器を持ち込むのは禁止されています。しかし、目立たない武器の持ち込みは禁止されておりません。この規則を、悪事に利用する輩も中にはいるのです。」
「分かった。当日までに、正装しても目立たない武器を、全員に用意させておく。
早速ダンスを教えてくれ。ダンスが踊れるようになれば、今まで受けなかった舞踏会の護衛の依頼も、受けれるようになるからな。」
「はい、そうですね。じゃあ、まずは基本のステップから教えます。どうぞ中にお入り来ださい。」
こうして『炎帝の鉾』のメンバーは、ヒカリ監修の元、ダンスを覚えていった。もともと運動神経だけは、ずば抜けて高いメンバーである。瞬く間にダンスを覚えていき、レッスンが終わる頃には、免許皆伝の腕目になっていた。
そして、本番当日、彼ら『炎帝の鉾』のメンバーは、いくつか招待された冒険者パーティの中で、1番優雅にダンスを踊った。
『パーティ鷺宮』のメンバーたちは別次元にいる。彼らはなぜか最初からダンスが踊れていた。それは、鷺宮学園のカリキュラムの中に、『社交ダンス』が授業の一環として組み込まれていたからだ。
これにより、『炎帝の鉾』のメンバーは、『パーティ鷺宮』のメンバー同様、貴族が開く晩餐会の護衛を数多く受けるようになる。それは、護衛の中に、ダンスをすることが含まれているからである。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。
話の内容を、大幅に改稿しました。




