第48話 大神官の訪問
ヒカリの朝は、早い。ここに来てからの習慣で、皆の朝食を作るためだ。さすがに昼食と夕食は、トーマスと一緒に雇った料理人に任せているが。それに合わせて、ヒカリの侍女も早く起きている。
「おはようございます。ヒカリ様。」
「おはよう。ダリア、チサト。」
ダリアとチサトは、私に新たに就いた侍女だ。鷺宮家にトーマスたち、元貴族の使用人を雇い入れた時、鷺宮家の家族の仕事の再編も同時に行った。まずは、リョウコとマナミが行っていた仕事のうち、侍女の部分の仕事をダリアたちに任せた。そのため、リョウコは、私付きの秘書に、マナミは、サトミさん付きの秘書に就任した。もちろん2人にも、専属の侍女が付いている。
私に就いている侍女のダリアは、この屋敷の侍女長をしており、チサトは代理の地位にある。
あと、家族のほとんどが、各地にある別邸に行ってもらい、支店長として、そこを拠点に各々商売をしてもらっている。
私は、寝着から着替えて厨房に立っている。今日の朝食は何にしようかな。昨日は昼夜と、少しくどい料理が続いたから、朝は、さっぱりとした味付けにしよう。献立が決まると、食材とのバトルがスタートする。なんせ、100人前の料理を作るのだ。ちなみに鷺宮家では、家族と使用人は、同じ料理を同じ食堂で食べる。これは、ヒカリが決めたことだ。
ヒカリの朝は、趣味であり、楽しみである朝食作りから1日が始まる。
朝食を終えると、仕事場である商会の社長室に、リョウコとともに向かう。
最初にする仕事は、早朝から開いている雑貨店と食堂の報告を聴くことだ。基本これと言った事件事故は起こらないが、時々、血の気の速い冒険者が、いろいろやらかしてくれる。その時は、あとでこってりと搾ってあげるんですけど。さて、今日はどうか平和でありますように、と思いつつ、
「サリュース、こうはどうでしたか。」
「はいヒカリさん、本日は、雑貨店の方では、何もありませんでした。少しいざこざがありましたが、コウサさんが取り持って下さって、大事になる前に事を収めることが出来ました。」
「コウサさんには、いつも悪いはねえ。今度何かお礼をしないといけませんね。」
「あのヒカリさん、ヒカリさんがそういうと思いまして、独断でコウサさんのお買い物の金額を割引させていただきました。」
「アラ、サリュース、気が利くわね。ありがとう。それで食堂の方はどうでしたか。」
「はい、食堂の方は、何もありませんでした。いつも通りです。」
「分かりました。今日も一日頑張ってください。」
「それでは失礼いたします。ヒカリさん。」
サリュースが部屋を退出した後、今度はリョウコに訊いた。
「リョウコ、今日の予定はどうなっていますか。」
「はいヒカリ様、本日のご予定ですが、午前中は、何もご予定はありませんので、魔道具の製作に充てられてはいかがでしょう。午後からは、お屋敷の方で来客のご予定がございます。」
「アラ、今日誰か来る予定なんかあったのかな。昨日までは、そんな予定入ってなかったはずですが。」
「はい、今朝、急に来客のアポが入りまして、急遽ご予定を割り込ませていただきました。」
「ふ~ん、そうなんだ。誰が来るのかな。」
ヒカリは、どうでもよさそうに相槌をうった。
そして、昼食後の午後、件の来訪者が、鷺宮家にやってきた。ヒカリは、屋敷の応接間で来訪者を迎えた。
「本日は、突然押しかけましたこと、お許しください『光の神子』様。」
「いえ、別に構いませんが、どのようなご用件でしょうか。大神官様。」
「昨日行われた神子様の誕生日会で、神子様は、タケシ様、…、『闇の神子』様の告白を受けられ、了承されました。」
「はい、たしかにしましたが、それと今回のご来訪と、何か関係ありますか?」
「不躾で申し訳ありませんが、ヒカリ様は、何処でお式を挙げられるご予定でしょうか?」
ヒカリは、大神官の問いにふと思った。そういえば、何処で結婚式を挙げることが出来るのかと。こちらに来てから約2年。そういえば、結婚式たるものをまだ一度も見たことがない。サトミさんの時は、ただ身内で軽く祝っただけで、式自体は上げていない。ただ役所に届けただけだ。
「まだ何も考えておりませんが。そもそも何処で式が挙げれるのかすら、分かっていません。」
「やはりそうでしたか。そこで相談と言うか、こちらからお願いしたのですが。我『光の大神殿』で結婚式を挙げてみてはいかがでしょうか。」
ヒカリの眉がピクリと上がった。
「大神官様、また私に何かやらせようとしているのではないですか?」
「いやはや、ヒカリ様には、隠し事は出来ませんな。実は、少し問題が上がってきているのです。」
「問題とは?」
「先日、ヒカリ様方たちが、新年の神事の際私のところに押しかけてきましたよね。」
「はい、あの時は大変失礼しました。こちらの暇つぶしに付き合う形になってしまって、申し訳なく思っています。」
「まさかあんな事を、賭けの対象にして楽しんでおられたとは、後から聞いて魂が抜かれる思いでした。たしか、サリュース殿でしたか、あの時掛け金を総取りしていったお方は。」
「はい、どんな風に使ったのかは知りませんが、サリュースが総取りしていきましたね。」
その時の事を思い出したのか、2人して暫く笑いあう。
「そんなことは、どうでもよいです。終わった事ですから。あの時、神殿のホールで、それぞれの神子を紹介したのを覚えておいででしょうか。」
「はい、たしかにしていましたね。それがどうかしましたか?」
「あの後、各地の神殿から問い合わせが殺到しまして、そして、つい先日、王都にある総本山からも使者がやってきました。」
「はい、それで?」
ヒカリは、相槌を打ちながらお茶を啜っている。
「その時は、神子様たちは、ただの一般人であり、神殿関係者ではないと言って、使者が押し通そうとしていた面会を阻止いたしました。それでも押し通してきたので、『神子様は、神と同一ですよ。その意味がお分かりですか?』と言ったら、青い顔をなされて引かれましたが。」
「それは有難うございます。」
ヒカリは、素尚に感謝の言葉をだした。
「そこまではいいのですが、ここで初めのお話に戻ります。我々各6神殿の大神官で話し合った結果、只の一般人のままだと、今後、王都からの招聘には、従っていただかないといけなくなります。総本山の方は、納得されて招聘云々の話はなくなったのですが、王族や貴族になると、納得されない方もいると思われます。それは、私ども各大神殿としても快く思っていませんし、ヒカリ様達も快く思えないと思います。」
「確かにそうですね。」
「我々神殿に仕える者たちは、先ほども申した通り、『神子様』と『神』は、同一と考えており、そもそもただの人間風情が、神を己の都合で呼び寄せるなど考えておりません。しかし、中には、そんなこと関係ないかのごとく、振る舞われる方もございます。」
「それは、確かに存在してますね。特に、貴族の方たちなどは、その考え方が浸透しているようですね。」
「そこで、そういう輩から、神子様をお守りするため、ここで正式に神殿にお迎えしてはどうかと言う話になりまして、機会を伺っておりました。そこで出てきたのが、『光の神子様』と『闇の神子様』のご結婚のお話です。結婚式と同時に、神殿にお迎えする神事を行い、バカどもから神子様たちをお守りできる体制にしようと画策したのですが。ヒカリ様、どうかこの話に乗っていただきたいのです。」
「神殿に正式に迎えられれば、そういう馬鹿どもは私たちに近づいてこなくなるのですか?」
「絶対とは言い切れませんが、神殿…メシア教は、この国の国教ではありますが、国政には干渉していません。また、神殿関係者は、神の使徒と言う立場にあり、関係者の意志を尊重しなければいけません。それが、たとえ国王であっても、その意思を覆すことはできません。もしそのような行為をすれば、神からの加護を受けられなくなります。」
「バカどもの脅威から守っていただけるのでしたら、その話、快くお受けいたしましょう。」
「快くお受けしていただき、ありがとうございます。こちらのお願いを聞いていただく代わりに、結婚式に関わるすべての費用は、こちがらご負担いたします。
大変失礼ですが、何時頃に式をお上げになるご予定でしたか?」
「まだ何も決めていませんが、早いうちに挙げたいとは思っていました。5月の前半は、学園の方が忙しいので、その後になりますが。」
「こちらにもいろいろと準備がありますので、そうですね、7月1日はどうでしょう。7月7日がちょうど光の教会の最大の祭典『光龍降誕祭』があります。」
「あの、その『光龍降誕祭』とはどんな祭典なんですか?フレア、知ってる?」
ヒカリは、膝の上で転寝していた白猫に話しかけた。
「その祭りニャら、たしか毎年ボクが、誰かに加護を授けるという建前の祭だニャ。昔はしっかりとボクも参加して加護を授けていたけど、ここ500年くらいは、面倒になって参加してないニャ。」
白猫がヒカリの問いかけに喋っているのだが、大神官は何も不思議に思わなかった。なんせその白猫が何を隠そう『光龍』その者だからだ。
「確かその白猫が、『光龍』様ご本人でしたね。申し遅れました。わたくし、現『光の大神殿』の大神官をしております”アキヒロ”と申します。以後お見知りおきください。」
「分かったニャ。その祭典、ヒカリが出るなら、ボクも参加してもいいニャ。」
「話の流れで言えば、私もその『光龍降誕祭』に参加し、尚且つそれに参加している誰かに、私から加護を与えるのですね。」
「話が早くて助かります。ここ500年は、形だけの行事でしたが、今年からは、本当に加護が与えられるようになります。」
「ちなみにその加護を貰うと、どんな風になりますか?」
ヒカリは、疑問に思ったことを口にした。それには、フレアが答える。
「ボクの加護を貰った人は、魔力が多くなったり、神霊や魔獣と仲良くなったり出来るニャ。あとは、生命力が上がって病気をしにくい体になるニャ。
ヒカリが与えた加護は、ボクが与えた加護と同じ能力を出すニャ。それから、鷺宮家に関わる者は、既にボクたち6神の誰かの加護持ちだから、与えても無駄ニャ。」
「へえ、そうだったんだ。」
フレアの言った事は、初耳だったらしく、ヒカリは、感嘆の声を上げた。
「それでは、私の結婚式は、7月1日に決定しましょう。私は、その後にある『光龍降誕祭』にも参加する話でいいですね。それから、タケシたち、…後の龍神の神子は、どうなりますか?」
「はい、こちらからのお願いを聞いていただき、大変ありがとうございます。ヒカリ様以外の龍神の神子は、光の大神殿で『神殿にお迎えする神事』の後、各大神殿の大神官とともに、各地の大神殿に渡ってもらいます。そして、各地の大神殿で行われる『降誕祭』に参加していただきます。そして、神事のたびに、カランと大神殿を行き来していただく予定です。」
大神官の言葉を聴いて、ヒカリはあることを提案した。
「それでは、こうしましょう。今現在、鷺宮商会の本店と支店には、『転移ゲート』が設置してあり、各店舗の行き来を容易にしております。このゲートは、鷺宮商会の関係者しか利用は出来ないのですが。これと同じものを、各大神殿に設置しましょうか。そうすればそれぞれの行き来が容易になり移動時間の短縮に繋がります。」
ヒカリの提案に、大神官は、少し考えて答えを出す。
「鷺宮商会で使用されている、『転移ゲート』を各大神殿に設置するとなると、費用はどれほどになりますか?これはヒカリ様が考えられた魔法ですよね。また使用者は、何処までの地位まで認めましょうか?」
「たしかに私が構築した新しい魔法です。この魔法の存在が公になると、大きな問題が起こりそうなので、あまり普及はさせたくないのが本音ですね。」
「そうですね。特に国に発覚した場合は、平時、有事に関係なく強制的に使用されそうですね。」
「今回は、私たち龍神の神子の移動手段として設置し、その恩恵を各大神殿の一部の者が受けるという形にしましょうか。なので、設置したことを秘匿する条件で、費用は頂きません。神殿側の使用者、所謂詠唱を教える者は、各代神殿のトップ5人にしましょう。鷺宮家がカランにある関係上、光の大神殿と各大神殿間の移動に限定しましょう。
もし国家に発覚して、何か言ってきたら、法外な料金で使用を許可しましょうか。まあ、使用する際、移動する人数で、魔力の消費量が変わりますので、軍が使用するのは、あまり向かないと思いますが。」
「ヒカリ様、大所帯を移動させる、『転移ゲート』を作る事は可能でしょうか?」
大神官は、ふと思った事を聞いてみた。それに対するヒカリの答えは簡潔だった。
「はっきり言いますと、『可能』です。しかし、私の、いや、鷺宮家の利益にならない事を、何故わざわざやってあげないといけないのですか。仮に国家、…軍がそのような事を言ってきたら、それこそ国家が転覆するほどの料金を提示します。」
大神官は笑うしかなかった。基本新しい魔法の普及は、開発者次第なところが大きいからだ。
「魔方陣の設置に関しては、各大神殿との調整もあるので何とも言えませんが、多分この条件なら大丈夫でしょう。あと、式の日取りが決まりましたので、発表は、神殿の方で行いますがよろしいですか?」
「その後の事もありますので、よろしくお願いします。」
翌日、光の大神殿から、カラン中及び、各神殿にお触れがあった。
『来る7月1日、光の大神殿において、『光の神子』と『闇の神子』の御婚礼の神事を執り行う
同時に、6神の神子様を、各神殿にお迎えする神事を行う
参加者は、こちらから追って連絡をする』
と。これより約1ヶ月の間、神殿関係者が、慌ただしく動くことになる。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。
話の内容を、大幅に改稿しました。




