第47話 ヒカリの誕生日
4月15日、今日は、ヒカリが19歳になる誕生日だ。しかし、ヒカリは今、目の前の現実に、少し頭を抱えていた。何故か知らないが、ヒカリの預かり知らぬところで、誕生日会が、5日前の4月10日から始まり、新しくなった鷺宮家の屋敷では、朝からたくさんの人の来訪を受けていた。
今日の主役であるヒカリは、新たに雇った侍女らによって豪華な衣装を身に纏い、屋敷内のホールで来訪してきた人から、山のようなプレゼントを貰っていた。ヒカリは、引きつった笑顔を振りまきながら、それらに答えていた。それもそのはずである。この5日間、ヒカリは、朝から晩まで椅子に座ってプレゼントを貰ってたからだ。終わる頃には、気疲れでぐったりとし、ベッドに横になると、そのまま夢の中へ旅立ってしまうのだ。
ホールの半分は、既にプレゼントの山で埋め尽くされているが、いまだにプレゼントを渡す列は途切れることなく、屋敷の外まで続いている。カラン中の人がプレゼントを持参して、この屋敷に尋ねてきているのではないだろうか。
今でもこの屋敷の自慢の庭では、急ピッチで誕生日会の会場の設営が行われている。本当は、このホールでする予定だったらしいが、ここは私へのプレゼントで埋め尽くされている。
「私、この後どうなるんだろう。」
そんなことを考えながら、ヒカリは現実逃避を試みていた。いっそのこと、どこかにバッくれようか、とも考えたが、黒い笑みを浮かべて、ヒカリを見ているサトミに気付くと、その後が恐ろしくなりその考えは、頭の中から消え去った。
時は遡る事4月1日、それは、サトミの一言から始まった。
「今月15日のヒカリちゃんの誕生日だけど、5日前の4月10日から始めるから。光莉ちゃん、そのつもりでいてね。」
「サトミさん、なんで?」
ヒカリは、巨大なはてなマークを頭上に浮かべて、サトミに聞き返した。
「私の時に、ヒカリちゃんがいろいろしてくれたでしょ。で、その時に私ヒカリちゃんに言ったよね。『覚悟しておきなさい』と、半分はその仕返しかな。みんなと相談して、どうせやるなら、とことん大きくしようという話になっちゃって…。ギルドと神殿にも話を通してみたら、町中にヒカリちゃんの誕生日会の参加を告知する事になっちゃって。
そしたら、参加申し込みの問い合わせが、来るわ来るわ。それで急遽、プレゼントを渡すだけで4日間の時間を設定しました。実際には、4日間でも足りなかったんだけどね。本番の15日は、午前中は、プレゼントを渡す時間にして、午後からは、家族と一部の知人だけで、誕生日パーティーを開きたいと思います。もちろんヒカリちゃんには、拒否権はないからね。
それでね、そのパーティーなんだけど、私たち家族と、従業員はもちろんの事、従業員の家族、大神官とカランの城主とその家族。あとは、申込者の中から抽選で選ばれた人たち総勢200人で開くことになったから。当日は、私が腕によりをかけた料理が並ぶと思うから楽しみにしていてね。」
「何でそんな大事になっちゃったの?ただの私の誕生日会でしょうに。元もっとこじんまりしたモノには出来なかったの?」
「さあ、企画した私にも、どうしてここまで大きくなったのか解んない。気が付いたらこんな事になっていたから。今更『やめます』とは言えないでしょ。」
「そりゃあそうだけど…、ここまでするなら前もって連絡ぐらい欲しかったな。誰一人として、私に何も言わなかったんだもん。」
「だって言ったら、ヒカリちゃん、絶対止めるでしょ。だから言わなかったのよ。」
4月15日の午後、私の誕生日会は、鷺宮家自慢の庭の一角に設えた特設会場で、立食形式のお茶会として始まった。お茶会と言えど、何処から呼んで来たのか、オーケストラの生演奏が響き渡っている。そこに、見事抽選に当たった住民が、正装して私の登場を待っているのだ。
私は、会場の雛壇まで伸びる赤絨毯の花道を、侍女やメイドをこれでもかと引き連れて歩かなくてはいけない。「これはイジメですか?」とマジ泣きして、これを企画した誰かさんに本気で訴えたい気持ちだ。それはともかく、始まってしまったものは仕方がない。気持ちを切り替えて、楽しんでいきましょう。たとえ主役で見世物扱いを受けていても、楽しまなくてはこれを企画した誰かさんに何も言えないではないか。
さて、ここでも大量のプレゼントを貰う事になった私こと鷺宮ヒカリ。ひな壇の上に設えた玉座のような椅子に腰かけ、とっかえひっかえプレゼントを貰っています。私の後ろには、着々とプレゼントの山が築かれていきます。
そして、最後にタケシがやってきました。タケシは、小さな箱を1つ手の身中で握りしめています。タケシは、平然と赤絨毯の花道を、私に向かって歩いてきます。そして私の前まで来ると、両手を私に差し出して、小さな箱を私に差し出しました。それから、私が一番欲しかった言葉を、顔を真っ赤にしながら言ってくれました。
「ヒカリ、お前が俺を意識しだしたあの頃から、俺もお前を意識していた。今日、ヒカリの誕生日に何をプレゼントしようかと真剣に悩んだ。今日のパーティーを知ってからは、さらに悩んだ。ここカランで買えるものは、誰かがプレゼントとして、ヒカリに贈るだろう。俺にしかヒカリに与えてやれないことを考えた結果、俺のプレゼントとして、これを贈りたいと思う。」
そう言うと、タケシは、一呼吸おいてから、ここにいる総勢200人の前で、高らかに宣言した。
「鷺宮ヒカリさん。」
「ひゃい!」
ヒカリは、思わず返事をしてしまった。言葉が変になった事を見て、自分でも緊張しているのが解る。
「俺は、ヒカリの事をずっと昔から好きでした。こっちに来て、『闇の神子』としての試練を受けている時、漆黒の闇の中から、俺に向けて微笑みかけてくれているヒカリの姿があった。
これから先も、俺は、ヒカリの傍らにずっといたい。俺と結婚してくれ!」
ヒカリは椅子から立ち上がると、タケシも元まで歩いて抱きしめた。
「私も、タケシの事がずっと好きでした。結婚しましょう。」
ヒカリの承諾を聴いたタケシは、その場でヒカリを強く抱きしめた。
会場は、割れんばかりの拍手で埋め尽くされた。そしてタケシは、ヒカリの左手の薬指に、小さな宝石のついた指輪をはめた。ヒカリは、指輪を見て極上の笑顔をタケシのむける。その笑顔を見てタケシは、さらに顔を赤く染めた。
夜になり、今度は家族だけのパーティーを開く。そこには、サトミさんの時の数倍は大きいケーキが鎮座していた。
「なに?あれ?」
その物体を見た私は、その場で固まった。どうも、他のみんなも固まっているようだ。
食堂のど真ん中に鎮座する、直径1メートル、高さ3メートルほどケーキ。
「何って、ヒカリちゃんの誕生日ケーキだよ、あれ。そして、私の時に宣言したでしょ。『覚えてなさい』と。」
サトミは、しれっとした口調で淡々と答える。
「あれはもう、誕生日ケーキのカテゴリーを超えてますよ、サトミさん。いうなればウエディングケーキですよ、この大きさは。」
ヒカリは、最大限反論してみるが、サトミに切って捨てられた。
「どっちでもいいじゃん、そんな事。ヒカリちゃん、さっきタケシ君の告白にOKサイン出してたでしょ。」
耳元でささやくサトミの言葉に、ヒカリの顔は一気に赤く燃え上がった。
「サトミさんのイジワル…。」
両手の人差し指をツンツンさせながら、ヒカリは小さく呟いた。
「それよりもヒカリちゃん。この大きなケーキにすること、分かっているわね。」
「やらなきゃいけないですか?やっぱり…。」
「もちろん、そのために用意したんだから。ケンジ君からも、私の時のように包丁を貰ったでしょ。なんなら、愛しのタケシ君と一緒にやる?お願いしてみれば?タケジ君なら2つ返事で、OKしてくれそうよ。」
サトミは、悪戯が成功したような笑みを浮かべて、ヒカリを焚き付ける。その言葉にヒカリの全身は、さらに沸騰していった。ヒカリは、人差し指をツンツンさせながら、タケシの方を振り向いた。ヒカリは、上目遣いで懇願するように、タケシに問いかける。
「タケシ…、一緒にやらない?」
「な、何をだ?」
「ヒカリちゃん、ちゃんと言わないとタケシ君も解らないぞ。」
サトミがさらに追い打ちをかけていく。ヒカリは、サトミを軽く睨むと、タケシに視線を向き直した。
「だ、…、だから、一緒に、あの化け物ケーキに、…、一緒にケーキを切り分けてくれない?」
「お!おう。ヒカリがそう言うのなら一緒にやるか。」
タケシは、思わず即答で答えてしまう。途端に、ヒカリの表情が明るくなり、満面の笑顔になる。平然を装っていたものの、タケシの心臓は、バクバクと音を立てていた。
(なに、この可愛い生き物は。こんなヒカリ、今まで見たことない)
その後のことは、全く覚えていない。気が付けば、巨大な物体はすでになく、皆の胃袋に収まったようだ。
しかし、サトミさん、いつの間にあんな大きなケーキを作ったんだろう。そんな事を思いながら、ヒカリは、昼間の事を思い出しながら、心地よい眠りについた。
翌日、事態はさらにおかしな方向へと進んでいく事を、ヒカリはまだ知らなかった。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




