第46話 鷺宮魔法学園開校
思えば、ここテラフォーリアは、ここに落ちてくるのもにはとても優しいが、ここで生まれたものについてはとても厳しい。
落ちてきた者には、最初から、共通言語と、共通文字の知識が与えられ、生活していく上では、不自由を知ることはなかった。もっぱら与えられるのは言語のみで、金銭面では無一文。その後のし上がるのは本人次第なのだが。
そしてここで生まれ育ったののには、何も与えられない。両親が子供に、己の知識を分け与えれば済むことなのだが、日々の生活に追われる者たちにとっては、子供に知識を分け与える時間すら惜しいかのようだった。
それは、ここカランでも御多聞に漏れず、子供の識字率は、30%ほどで、仕事を探すうえでは、とても不利な状況に陥っていた。コロラド王国には、そもそも子供を集めて文字などを教える学校という組織がないことに、ヒカリは驚きを隠せなかった。
そこでヒカリは、識字率を上げようと、自費で学校を作ることを決意した。そして、学校を開く場所として、カランの行政から買い取った土地の中から、元貴族の屋敷を使用することにした。この屋敷は、生活していく上ではとても不便な場所にあるが、敷地自体広く、街の外れにあることから、大きな音を立ててもあまり迷惑にはならない。
そして今日5月1日、開校する運びとなったのである。教える科目は、国語、算術、理科、魔法、神学、武術、あと教養とした。教える期間は、初等教育4年、高等教育4年間とした。コロラド王国では、16歳で成人するため、修学期間もそれに合わせている。神学が入ったのは、学校の出資者に神殿が入っていたからだ。その後神職に進むかは、本人次第だが。
学校の名称は、『鷺宮魔法学園』とした。授業料は月1万テラ。これでも安く設定した方である。学園は、慈善事業ではなく、「将来に役立つ知識を買う所」なので、それに見合った対価を要求することにした。授業料を払うのが嫌な人は、この学園に来なくて結構。その代わり、将来仕事の選択肢の幅が、狭くなるだけである。それは、学校に通わせる親が決めることであり、私には関知しない事柄である。
入学条件は、6歳以上で学園まで通って来れる者。もしくは、10歳以上で下宿が可能な者なら誰でもよいが、庶民優先で教えていくつもりだ。言い方は悪いが、貴族やお金持ちには、それぞれ優秀な家庭教師がいるので、わざわざこんな場所に出向いて勉強しなくてもいいと思う。まあ、来るもの拒まずの精神で行くつもりだが。
開校するにあたって、まずしなければいけないのが、教員集めだ。これは、神殿と冒険者ギルドが全面協力してくれたおかげで、すんなりと人員が集まった。
神殿から派遣される者が教える科目は、国語、算術、神学の3教科と、魔法の中で回復魔法を教えてもらう。
タケシは、私と結婚するにあたり、カランでの定職を探していた。マコトも、ついこの間、サリュースに告白をして、結婚する運びとなったのである。サリュースの望みで、私が結婚した後、私が行う神殿での最初の結婚の神事で結婚したいみたいなので、マコトもそれを同意した。ちなみに、私の結婚式が、7月1日、最初の結婚の神事が、7月15日だ。
私は、タケシとマコトに、仕事を探しているのなら、学園の教師にならないかと打診をした。2人にとっては、渡りに船だったみたいで、2つ返事でOKを貰った。教える教科も、2人の得意なものにしてみた。
タケシについては、武術でも基礎武術を担当し、実践武術の方は、タケシの剣の師匠であるスレイブが担当することになった。スレイブは、何かの依頼をしていた時に、たまたま知り合って、タケシがその剣捌きに感銘を受けて、師弟の関係になったそうだ。今でも自宅の庭で、朝稽古と称して打ち合いをしている。
マコトが教える理科は、カランではなじみの薄い教科だが、魔法を使用するにあたり、自然現象の成り立ちを知ることは、とても重要なのだ。魔法の基礎は、『想像』。つまり、自然現象や化学現象を理解していれば、魔法の幅もそれだけ広がるのだ。
あと、魔法の基礎学習を、キャロルにお願いしたらあっさりと承諾を得た。どうも、何かを他人に教えることが好きらしい。また、暇つぶしにはちょうどいいらしい。キャロルの正体は、皆には黙っておくが…。
教養として教えるのは、基本的な礼儀作法と社交ダンス、料理とした。教える教官は、礼儀作法にリョウコとマナミ、社交ダンスに私ことヒカリと、執事長であるトーマス島田、料理はサトミさんにお願いした。
教える体制も決まり、いよいよ生徒の募集となった。さあ、集まるだろうかと心配していたのは、ついこの間。蓋を開けてみれば、予定数の1・5倍の応募があった。今回の募集人数は、初等部は、各学年ごとに50人の計200人、高等部各学年ごとに50人の計200人。定員400人に対して、応募者は、初等部300人のうち6歳が200人。高等部は300人応募が来た。まあ、部屋も余っているし、教員数にも余裕があるので、今回は全員入学してもらう事にした。そのうち1割ほどが貴族や金持ちの子女だ。
さて、今は、入学式の最中である。この学園の学園長である鷺宮タカヒロの挨拶が始まっていた。
「新入生諸君、当学園に入学してくれたことを、とてもうれしく思っています。さて、入学案内にも書いてありましたが、字の読めない親御さんもこの中にいらっしゃると思いますので、ここで改めてご説明したいと思います。」
このような言葉で、学園長の話は始まった。
「…、ここで最も重要な事をお伝えいたします。当学園では、身分による差別は一切行いません。危険を伴う授業で、仮に怪我を負っても、それは当人の技量不足として、一切の責任を当学園は負いません。また、この学園が、鷺宮家が開いたものだという事を、貴族やお金持ちの方々は、肝に銘じておいてほしいのです。仮に、報復として、当学園の教員を襲撃などすると、あとの…、これ以上喋ると、私が後でヒカリさんから叱られるので言いませんが。
当学園に通っている間は、身分の上下は関係なく、1人の生徒としてそれぞれ扱っていきます。つまり、貴族のお子さんであろうが、庶民のお子さんであろうが、この学園の敷地にいる間は、1人の生徒という事です。
それでは、生徒諸君。この学園で学んだことが、将来の糧となることを願っています。」
こうして、鷺宮魔法学園は、華々しくスタートした。
余談だが、貴族たちが、子供の怪我に対して、学園関係者を襲撃するなどと言う、バカなまねはしないと思う。なんせ、教員すべてが、Bランク以上の冒険者や、神殿関係者なのだ。さらに理事長は、カランでは知らぬ人はいない『光の神子』である鷺宮ヒカリ本人である。仮にそんな事をすれば、それはすなわち、神殿と鷺宮家に喧嘩をするようなものであるのだから。




