第45話 鷺宮商会は、今日も大繁盛です
朝の4時半。鷺宮商会が経営する4つの店の入り口には、早朝のこの時間にも関わらず、既に長蛇の列が出来ていた。一番少ない王都とカランを結ぶ『鷺宮移動馬車店』の前ですら10人ほどの列が、最も多い『鷺宮食堂』の前には、40人近くの列が出来ている。朝5時の開店とともに、それぞれのお店の中に客がなだれ込み、鷺宮商会の1日はこうして始まる。
鷺宮商会は、この1年で大きく変わった。雑貨店、食堂ともに、あまりの大繁盛のため店舗面積が手狭になってしまった。そのため建物を大きくするため、商会の建っているブロック1つ(150メートル四方)を行政から買い取り、区画内の建物を一度すべて取り壊して、新たに建物を数棟建て直し再スタートをした。その際、カランにある数か所の土地も、建物ごと買い取らなければいけなかったが。こちらにつては、すべての土地の再利用が決まっている。
まず、敷地の南西側100メートル四方を鷺宮家の居住区とし、3階建ての屋敷と整備された大庭園が広がっている。屋敷の管理は、執事長のトーマス島田を筆頭にした、元貴族の屋敷に勤めていた人たちがそのままヒカリに雇われている。
建物内の管理は、主に侍女やメイドたちが取り仕切っているため、リョウコたちは、秘書活動に重点を置いている。大庭園は、主であるヒカリの好みに合わせて、庭師たちが丹精込めて作り上げた。鷺宮家を警備しているのは、光の大神殿から派遣されている神殿騎士団である。それは、大神官から、『光の神子』をお守りするのは、神殿騎士団の務めだと言われたためだ。
庭園には、四季折々の草花が咲き乱れ、中心に据えられた池を囲んでいた。池には中央に小島が作られ、東屋が造られている。池の水は、水底に敷き詰められた石が見えるほど透き通っており、中で泳ぐ魚が、太陽の光に当たってきらきらを輝いている。この庭園は、月に1度一般にも解放されており、その日は、早朝から庭園の入り口になる鷺宮家の正門前には、長蛇の列ができる。庭園には、無料で入ることが出来るが、混雑を避けるため、1度に入る人数が制限されるためだ。
敷地の北側には、商会に勤める従業員が寝泊りする3階建ての別棟と、馬車を整備する車庫と厩舎を合わせた『鷺宮移動馬車店』の営業所がある。この建物は、最初に買い取った元宿屋をそのまま使用しているため、鷺宮商会では最も古い建物だ。営業所と待合室は、昔の食堂部分をそのまま利用している。
ここは、サトミの旦那さんであるダイゴロウが経営する乗合馬車の発着場にもなっている。馬車1台から始まった移動馬車店も、今では20台の馬車を所有するまでに成長している。営業路線も、カランーロンドリア間を中心に、カランーカエデテラス間のほか、カランとナリスタリア州の各町を結んでいる。
姉妹で働くナレシアとアメリアのうち、姉であるナレシアは、ダイゴロウの侍女になっている。ナレシアは、キャロルの魔法修行で、風属性の移動補助魔法を極め、ダイゴロウが御者をする馬車に乗り込み、車掌兼、運行補助とした活躍している。また、魔獣使いとしての才能も有り、ヒカリと一緒に出掛けたギルドの仕事で、たまたま手懐けた天馬フローレンスに馬車を曳かせ、風魔法との運用で、カランと王都ロンドリアの間を、最速で半日で往復し、通常運行でも、日帰りで往復してくる。
風属性の車掌兼補助役を馬車に乗せることで、一番遅い馬車でも王都まで片道12時間で行ってしまう為、朝早くから馬車の乗車券を買う人が、店の入り口に列を作っているのだ。馬車の乗車券は、出発の2時間前に発売する。予約は一切受け付けていないため、乗車券を手に入れる為に並ぶしかないのだ。
ケンジが経営している『鷺宮武具金物店』は、昔の雑貨店をそのまま利用しているが、裏の工房を拡張して、5人の弟子とともに、毎日鉄を打つ音が聞こえいている。
妹のアメリアは、ケンジの侍女になってケンジをサポートするため、店の店員を進んでしている。一緒に手伝ってくれている元カラン騎士団隊長のスレイブに、武器の事をいろいろ教わりながら、店を切り盛りしている。
また、毎日一緒にいるケンジとは、結構いい仲に発展してついこの間結婚をした。休日には、仲良く手を繋いでデートに繰り出している。
東側1/3は、北側の昔の建物を除き、3階建ての建物が敷地いっぱいに建てられている。建物の大きさは、南北100メートル、東西20メートルあり、その1階の通り側には、サトミが経営している鷺宮食堂と、ヒカリの経営する鷺宮雑貨店。
食堂と雑貨店の間には、宿屋『鷺宮亭』のフロントとその奥に繋がる大浴場がある。大浴場は、庭に面して作られており、鷺宮家自慢の大庭園を眺めて入る温泉は、宿泊者に好評である。宿と従業員宿舎は、ケイコが管理しており、掃除や営繕作業のために、ケイコの下には、10人の従業員がいる。
鷺宮亭は、廊下を挟んで道路側と庭園側に部屋が造られており、2階には、道路側に1人部屋があり、庭園側に2人部屋がある。3階は、家族部屋とスィートが造られている。美しい庭園を楽しむことが出来る、庭園側の部屋が人気である。
部屋の料金は、1泊銀貨1枚から金貨1枚で、同規模の宿としては高いが、朝晩の食事(鷺宮食堂で指定されたメニューの中から5品選べる)と、大浴場での入浴が付いているため、常に満室状態である。
雑貨店の裏には、魔法具や魔法薬を製作する部屋と、材料を保管する倉庫、サリュースをリーダーとした総務部の部屋、商会を経営しているヒカリの執務室が造られている。
サリュースは、総務部の部長として、商会の金庫番をする傍ら、早朝の時間には、雑貨店に立ち、お得意様の冒険者の相手を相手にいる。サリュースについているお客様は、意外と多く毎日とても楽しく店に立っている。
鷺宮食堂では、宿の開業とともに、朝5時から夜10時まで開いているため、昼夜2交代制となっていた。朝、昼の部は、サトミから料理のスキルを吸収し、味を任せれるまでに成長したテレサとミーナが担当し、夕方から夜の部を、サトミとマナミが担当している。休業日はなく、従業員が交代で休日を取っている。そのため従業員の数も多く、厨房は、常時5~6人体制で働いており、給仕は、3~10人体制で動いている。
雑貨店では、エレンシアとサラがリーダーを務める2つの製作班が、日夜、魔法薬と魔法具を作っている。2人の元には、それぞれ3人づつ弟子が付いている。弟子も一人で初級の魔法薬くらいならくくることが出来る腕前だ。
2人の腕前は、魔法薬なら最上級の物まで作ることが出来、魔法具は、聖霊を使用しない物ならばたいていの物なら作ることが出来、さらには、それぞれのオリジナルの魔法具まで作り出すほどに成長したいた。もちろんオリジナルの魔法具が売れれば、すべて本人の収入となるため、仕事の傍ら日夜開発に勤しんでいる。
そのため、ヒカリは、聖霊を使用する魔法具以外は、2人に任せているため時間に余裕ができ、商会全般の経営に重点を置けるようになった。また、増えた従業員と鷺宮家の家族の食事は、すべてヒカリとリョウコが作り出している。
売り子の従業員は、キノエとマナシアがリーダーと他にあと4人おり、休業日のない雑貨店を交代で切り盛りしている。
あと、ウサギ族のフミエさんは、正式にお爺様の侍女になり、隣の部屋に住んでいるキャロルの世話も含め、毎日楽しくお世話をしている。
ちなみに、王都側の発着場である鷺宮商会の王都別宅は、正式に雇われた元担任と副担任の夫妻が常駐して切り盛りしている。こちらの建物は、カランの本宅ほどに大きくはないが、それでも50メートル四方の敷地を有している。王都の正門から少し離れた大通り沿いに建てられており、馬車置き場、厩舎、事務所の他には、夫妻が暮らす建物と、従業員の宿舎、依頼で王都に立ち寄った際に利用する宿舎、夫妻が経営する宿屋の建物で構成されている。
大きな建物は、夫妻2人では管理できないため、10人ほどのメイドが常駐して一緒に暮らしている。夫妻の侍女として使えているのはタカコである。タカコは、王都で暮らす夫妻の生活面のサポートをするため、ヒカリから直接頼まれていた。タカコが夫妻の生活全般と、ここで働くメイドの指揮を執ってくれているため、余計な雑務から解放された夫妻は、ヒカリから与えられた仕事をしっかりとこなすことが出来、また、時間にもある程度余裕があるため、王都での暮らしを満喫できるのだ。
あとの鷺宮商会が保有する(実際の所有者はヒカリ)各町の別邸には、それぞれその町で雇われた管理人が、敷地を含めた建物全体を管理している。王都の別邸と同様に、ヒカリたちが使わない部屋は、管理人が各々自由に使用してもよい事になっており、それぞれが日々の糧を得るため、様々な商売をしている。基本は宿屋を買い取っているため、宿兼職場を経営していることが多い。
鷺宮家の別荘として機能しているダーカル郊外の島に立つ別邸は、サキとナオコが常駐して管理をしている。島1つがヒカリの所有物のため、島全体が結界に覆われ、鷺宮家に関係のない者は近づくことも出来ない。さらに週に2~3度、ヒカリやサトミが、空間転移でダーカルに海産物の買い付けや、島の倉庫に保管している乾物や塩を取りに訪れている。
さて、話は変わるが、明日から1ヶ月ほど、鷺宮商会が経営するすべての業種が、長期休業をする。すべての管理人や従業員が、カランに集まるためだ。空間転移を使えるのが、鷺宮家の家族のみのため、カランまでは一番遠いところで10日ほどかかるため、往復の行程も含めて1ヶ月間の休業となった次第である。
ちょうど2週間後に、カランの光の教会において、我等が鷺宮商会の主、鷺宮ヒカリとタケシの結婚式があり、鷺宮商会に関わる者すべてに、招待状が届いたのだ。




