第35話 面接
日曜日になった。鷺宮商会が経営する食堂は、面接をする会場になるため、一部の者しか立ち入ることが出来なくなっていた。本日面接官を務めるのは、鷺宮雑貨店の店主であり、鷺宮商会の実質的なトップであるヒカリ、鷺宮食堂の店主を務めるサトミ、そして、2人についている侍女のリョウコとマナミ、雑貨屋の裏で鍛冶屋を営んでいるケンジとタケシの神子6人と、鷺宮商会の一応の社長である鷺宮学園元校長の鷺宮タカヒロ。あと面接に来た子を案内する役で、ケイコとタカコの2人である。ケイコはまだ働き出したばかりのため、私服を買うお金が貯まっていないため、居残り組になった。タカコは、ケイコの指導役のため、一緒に残っていた。
他の家族は、今日1日休暇を出し、バーガルの近郊にある別荘にバカンスに出かけた。
午前9時の鐘が鳴る前に、最初に、先日ヒカリと話したギルドの職員が来訪した。
「本日は、お忙しいところ、面接をさせていただきありがとうございます。私は、カランのギルドで、就職の斡旋を行っていますギルバートです。ヒカリさんには、先日、今日面接に来る子の詳細をお渡しいたしましたが、皆さんはもうご覧になりましたか?」
その問いにヒカリが答えた。
「ここの人たちには、事前情報として見せています。今日の面接でいい子がいれば、明日からでも働いてもらいたいです。」
ギルバートと話していると、9時を知らせる鐘が鳴り響いた。
「さて、ここに集まる時間は、今から1時間以内です。次の10時の鐘が鳴っても現れない場合は、失格といたしますがよろしいですか?」
「はい、時間を守れない者は、そもそも仕事をする資格がありませんから。」
ヒカリたちは他愛のない雑談をしながら、来訪者を待っていた。そうしているうちにケイコが、一人目を連れてきた。
「ヒカリ様、最初の方がお見えになりました。」
「どうぞ入ってもらってください。」
ケイコが扉を開けて、中に招き入れた。
「本日、ギルドから言われて参りましたサリュースです。よろしくお願いします。」
入り口を入ったところで自己紹介をしてお辞儀をしたのは、キツネ族の少女だった。
「どうぞ、おかけになってください。」
ヒカリは着座を進めた。こうして鷺宮商会に入社するための面接が始まった。来たもの順に面接をしていき、全員の面接が終わったのは、ちょうど1時の鐘が鳴る時間だった。食堂では、面接を終えた子たちが椅子に座って待っている。そこに最後の面接を終えたヒカリたちがやってきた。
「少し遅い時間ですが、皆さんには、昼食を用意しています。私たちも一緒に食べますので、先ほどの面接で何か言い足りないことなどがあったら、どんどん私たちに話しかけてください。」
ヒカリが話している間に、料理がどんどん運ばれてくる。中には、料理を運ぶのを手伝ってくれる子もいた。今回は、いろいろな事お話をしたいという事もあり、立食形式になっている。
「それでは冷めないうちにいただきましょう。」
面接に来た子らは、まさかここの料理を食べられるとは思ってもみなかった。食堂が開店して数ヶ月、既にカラン一の有名店になっている鷺宮食堂。連日行列ができ、中に入るだけで何時間と待たされることもある鷺宮食堂は、カランの住民でもなかなか食べに来れないのだ。其処の料理が目の前に並べられている。テンションはマックスまで跳ね上がり、料理をほぼ一人で作っているサトミに、料理好きの面々が群がっていた。
また、隣の鷺宮雑貨店の店主であり、そこで売られている魔法役の制作者であるヒカリには、魔法薬の作り方を聴きに集まっていた。
ヒカリたちは、それぞれ会話を楽しみながら、面談の続きみたいに話していく。
「そろそろ面接会を終了したいと思います。今日の結果は、明日にでもギルドを通して発表しますので、明日以降に、ギルドで聞いてください。
当商会は、朝がとても早いので、住み込みで働いてもらうことになります。各自部屋は用意してありますので、面接に合格した人は、三日後の午後3時に、生活道具を持参して隣の雑貨店の方に来てください。」
宴も闌、ヒカリの合図で本日の面接は終了した。
面接に来た子が帰った後、ヒカリたちは、選考作業に移った。ヒカリたちは、獣人族だからという偏見は持っていない。中には、獣人族だから雇わないという人間族もいるのだが。
「ヒカリちゃんは、何人くらい雇う予定なの?私の方は、厨房に2人くらい、給仕に5人くらい欲しいかな。」
「私の方ですか。雑貨店には、店番として3人くらい、魔法薬を作る人で2人くらい雇いたいですね。
そうすると全体で10人くらいでですか、今回雇い入れるのは。
そうですねえ、先ほど魔法薬について、いろいろ聞いてきた2人はとりあえず確保しましょう。詳しく聞くと、この2人は、ある程度中規模の威力の魔法が使えるみたいだから、魔法薬を作るのに適していると思います。
サトミさんの方は先に確保しておきたい子はいますか?」
「このことこの子は、厨房組として確保しておこうかな。趣味でいろいろな料理やお菓子を作っているらしいから。」
まずは専門職を確保するヒカリとサトミ。
「あとは、雑貨店の店番と、食堂の給仕ですね。リョウコたちも見ててもらっていた中で、いい子はいたかしら。」
「私としては、この子を押したいですね。」
リョウコが、一枚の用紙をヒカリに手渡した。
「この子を押す理由は?」
「はい、この子は、先ほどの昼食時、率先して料理を厨房から運んでくれていました。そのことから、いろいろと気が付くいい子だと思いました。私の下で侍女の見習いにしてもいいくらいです。」
「そう、じゃあ、その子は、サトミさんのところで給仕をしながら侍女の見習いもしてもらおうかしら。もちろん侍女見習いの給料も出しましょう。」
そこに選考を終えたサトミが話に入ってきた。
「じゃあ、ヒカリちゃん、その子も含めて私は、この4人にするわ。」
すでに選考を終えているヒカリが、他のメンバーにも尋ねた。
「マナミは誰か押す子はいた?」
「そうですねえ、私は最初のキツネ耳の子がいいですね。」
「キツネ耳というと、この子ですね。」
ヒカリは、選考し終えて手元にある紙の中の1枚を取り出した。
「で、この子を押す理由は?」
「この子は誰よりも早く来ましたし、何よりも頭の回転が早く、この中では一番賢いですので。経理に向いているかと思います。」
「儂は、このウサギ耳の子を私付きの侍女にしてほしいのだが。」
タカヒロが、選考に漏れて中央に積まれた紙の束の中から、ウサギ耳の子を取り出した。ヒカリは、その紙を見て頷いた。
「仕方ないですねえ。お爺様の願いも受け入れるのが孫の務めですしね。じゃあ、この子は侍女として採用しましょう。1ヶ月ほどは、リョウコの下につけて、この子と一緒に侍女見習いをしてもらいます。しばらくは、おじいちゃん専属のメイドとなります。そのあと侍女としてお爺様のところにつけたいと思いますが、いいですか?」
「それでいいぞい。後はその子の気持ち次第じゃな。」
「あとはないですね。それでは、選考会を終わらせていただきます。ギルバートさん、合否の連絡、よろしくお願いします。」
ヒカリは、採用不採用に分けた紙をギルバートに手渡した。採用人数は、雑貨店のほうが、店番3人魔法薬製作で2人の計5人、食堂のほうが、厨房に2人、給仕として4人の計6人、あとタカヒロの専属侍女をして1人の計12人を採用することになった。
「それでは、合格者には、三日後の午後3時ごろに隣の雑貨店のほうに向かわせます。私はこれにて失礼します。」
そう言ってギルバートは、食堂を出ていった。
「そういえば、タケシたちは何処かで人集めでもしているの?」
ヒカリが、選考に口を挟んでこなかったタケシたちに疑問をぶつけた。
「俺のほうは、今、いろいろな冒険者たちに声をかけている処だ。パーティをいろいろ組んで適性などを調べている。ある程度集まったら、属性ごとに分けて、いろいろしてみようを思っている処だ。おれの考えに賛同してくれているパーティもいるから、今は、そこと最終調整している段階だな。そのうちヒカリに紹介するよ。」
「俺の作った刃物は、カランでは、業物だと歌唱されて結構有名になっているらしいからな。刃物の製作にも慣れてきたから、今後は、オーダーメイドにも手掛けていこうと思う。まずは、いろいろと世話になっているサトミさんの商売道具である包丁を打とうと思っている。今は、サトミさんの癖とかを研究中だな。サトミさんの仕事を邪魔をしているみたいだが、あと少しで、試作品が出来ると思うから、その時は、ためしてもらってもいいですか?」
「ケンジ君が、最近よく厨房に遊びに来るのは、そんな理由からだったのね。私専用の包丁かあ、今は、市場で勝った量産品を使っているから、少し手に馴染んでいないのよね。楽しみに待っているから、どんどん私の癖を盗んでちょうだい。」
サトミは満面の笑みで、ケンジの申し出を快く受けた。
「応、必ずその手に馴染む業物を作って見せるから待っててください。」
「タケシもケンジもそれぞれ頑張っているみたいだから、今日はここでお開きにしましょう。そろそろバカンスに言ったみんなも帰ってくるころでしょうし。私は、夕食の準備をしてきます。今日は、食堂のほうに集まってください。」
「ヒカリちゃん、今日は私も手伝うわ。」
ヒカリとサトミは、夕食の準備をするため、厨房へと消えていった。




