第24話 指名依頼③
テラテクス討伐決行日は、生憎、土砂降りだった。しかし、討伐を延期するわけにはいかない。それだけこちら側の被害が大きくなるだけだからだ。今はまだ町全体に備蓄があるが、それも持ってあと1ヶ月くらいだという。
さらに悪い知らせも届いている。昨晩、斥候からの緊急の知らせで、ケルンとカエデテラスを結ぶ街道沿いに、ファイアーバードの番が現れたとの報告がなされた。この街道は、ケール山脈の山裾を縫う形で整備されている街道で、メインとなるセイルンとカエデテラスを結ぶ街道の脇街道の役割を持っている。これにより、カエデテラスへと抜ける街道が、即時閉鎖され、物流が停滞してしまったのだ。
ファイアーバードは、討伐ランクSの魔物で、別名『空の王者』ともいわれる鳥型の魔物だ。翼を広げれば、有に30メートルを超える。軽く5トンを超える体重を大空へと持ち上げる翼は、羽搏きひとつで、小さな建物なら、木っ端微塵に吹き飛ぶほどの強風を受ける。
口から出される炎は、全てを焼き払い、鋭い爪には、猛毒を射出する器官があり、その毒は、テラテクスさえも一瞬で殺せるほどの猛毒なのだ。
半面、ファイアーバードは、素材としての価値もあった。その一つ、猛毒を精製したものは、この世にあるすべての毒を無毒化する解毒薬として高値で取引されていた。
昨日の夜遅くに開かれた会議で、テラテクスに関しては、南側から討伐するセイルン側が担当し、ケルン側は、ファイアーバードの討伐を担当することになった。
「…、以上説明の通り、我々ケルン側は、ファイアーバードの討伐を行うことになりました。テラテクスより、格段に強く厄介な相手ではありますが、皆さんの頑張りでこの危機を乗り越えましょう。」
ケルン領主のミステリク=カスタイルが、討伐対象が変わったことの説明をしていた。真夜中の会議にもかかわらず、討伐の依頼を受けた冒険者がすべて参加したことは、ミステリクには、うれしい誤算だった。その中の冒険者の一人が領主に質問を投げかけた。
「ファイアーバードといやあ、Sランクの空飛ぶ魔物だ。当然依頼金も上がるんだろうな。」
それには、ケルンギルドギルド長、コミエル=スレイマンが答えた。
「今回は、突然の討伐対象の変更、さらに、ランクもSランクということですので、成功報酬も、もちろん上げさせてもらいます。
領主様とも相談した結果、討伐達成後、生存者には次の通り報奨金を支払います。まず騎士のみなさんには、報奨金として、金貨150枚、冒険者の方には、本来のファイアーバード討伐時の報奨金である金貨500枚の他、特別報奨金として金貨100枚、あとファイアーバードから得られる部位を、何処でも一つプレゼントします。
後、光莉さん。」
「…何でしょう?」
突然、話を振られた光莉は、飲んでいたお茶を机に置いて、困惑顔で答える。
「我々ケルンの騎士団では、今まで空を飛ぶ魔物の討伐を行ったことがありません。多分ここにいる冒険者の方々も、空を飛ぶ魔物の討伐をされていないと思います。」
コミエルが、冒険者のほうを向くと、冒険者たちも、渋い顔で頷いた。コミエルは話を続けていく。
「恥を重ねますが、何かいい案はありませんか?出来れば、空を自在に飛べ、尚且つ戦闘が出来る魔法具などはありませんか?」
光莉は、少し考えて、思いついた作戦を話した。
「空を飛ぶものを、地面から攻撃するのは、至難の業です。空を飛ぶものを撃ち落とすには、こちらも空で戦わなければなりません。作戦を話す前に、前提条件として、皆さんに質問します。皆さんの属性を正確に教えてください。できれば、騎士団からは、風属性の人はすべて参加させてください。」
「分かりました。早速風属性の者を集めさせます。」
「お願いします。それでは、私が考えた作戦を説明します。」
光莉から作戦の全容が明かされていく。作戦を聴いていた皆が、驚愕の表情を隠しきれていなかったが…。
「一人一人が有する力は弱くても、たくさんの人が同じ魔法を同じタイミングで放てば、魔法の相対的な力は強くなります。
多分皆さんが使っているのは、新代魔法文字だと思いますが…。」
聞きなれない言葉が、光莉の口から出たことではてなマークを浮かべる面々。代表して隊長が、光莉に聞いた。
「光莉君、話の途中で申し訳ないのだが。」
「はい、何でしょう。」
「新代魔法文字とは、何の事なのかね。少なくとも私は、聞いたことがない単語なのだが。」
光莉が周りを見渡せば、隊長の言葉を肯定するかのように、皆が頷いている。
「こちらこそ失念していました。…まず前提条件からお話します。魔法を発動させるために唱える詠唱ですが、言霊、古代魔法文字、新代魔法文字の3種類があります。今現在、テラフォーリアで使われているのが、新代魔法文字による詠唱が主流であり、前述の2つは、あまり使われていません。この場で詳しく説明する事は省きますが、新代魔法文字は、魔力があれば誰でも使用できるように改良された詠唱です。しかし、改良の過程で、大きな問題を抱えました。」
ここまで話して、光莉は、お茶を飲んで一息入れた。
「この前提条件を踏まえて話を進めていきます。多分いないと思いますが、この中で飛行系の魔法を使える人はいますか?」
光莉の質問に、幾人かが手を挙げた。
「俺は一応『高跳躍』と『滞空』が使えるが、『滞空』は、数秒間しか維持できない。」
手を挙げた人は、大体同じ回答をしていた。光莉はそれを聴いた後で、話を進めていく。
「今しがたお答えして頂いた方は、風属性の中で高位に属する飛行系の魔法を、曲りなりにでも使えているという事です。それはすなわち、潜在魔力量が多いという事になります。改めてお聞きしますが、飛行系の魔法を、使いこなしてみたくありませんか?」
「それは、せっかく『高跳躍』と『滞空』が使えるんだから、もう少し使用時間を増やせるのなら増やしたい気持ちはある。しかし、どうもうまくいかないんだ…。」
「それが簡単に出来ると言ったら、どうしますか?」
「今まで試行錯誤をして出来なかったモノが、本当に出来るのか?」
この言葉はもっともである。しかし、光莉は、構わず話し続けた。
「皆さんがこれまでうまく飛行系の魔法を扱えなかった原因が『詠唱』です。これは、風属性だけが言える事ではなく、すべての属性においても言える事ですが、ここでは端折ります。
新代魔法文字での詠唱で、高位の魔法を使う場合、魔力が多く必要になります。これが前提条件で話した『問題』の1つです。しかし、古代魔法文字で詠唱してみるとどうでしょう。この問題が不思議と解決してしまいます。さらに魔法の威力が、格段に上昇します。」
「光莉君、それではなぜ、皆が古代魔法文字で詠唱しないんだ?」
隊長が大きな矛盾点をついた。
「そうですね。古代魔法文字の詠唱が廃れていった理由は、詠唱時間が、新代魔法文字での詠唱よりも長いからです。時間がかかれば戦闘時において、それだけ術者の危険が増していきます。だから廃れていったのです。
しかし、戦闘時に多用する魔法ならともかく、そうじゃない魔法までも、わざわざ威力が落ち、尚且つ魔力消費量も多くなる新代魔法文字で詠唱しなくてもいいと私は思います。少なくとも飛行系の魔法は、これに当たります。」
光莉の説明に、皆が納得していた。
「では、古代魔法文字で詠唱してみましょう。まずは、先ほどから出てきている『高跳躍』と『滞空』で行いましょう。」
光莉は、『高跳躍』と『滞空』における古代魔法文字の詠唱を教えた。そして、覚えた詠唱で、皆が唱えてみる。するとどうだろう、『高跳躍』は、新代魔法文字での詠唱の時よりも高く跳べたではないか。続いて使用した『滞空』に至っては、数秒間しか持たなかったモノが、1分以上滞空している。さらに驚いたのが、地上に戻っても、魔力の枯渇が見られない事だ。つまり、その気になれば、長時間の滞空も夢ではないのだ。
「これでお分かりいただけましたね。今後の魔法の詠唱は、新代魔法文字ではなく、古代魔法文字での詠唱をお勧めします。」
「光莉君、疑問なのだが。詠唱を変えただけで、何故こんなに威力も魔力消費量も違いが出てくるんだね。」
「それはですね。新代魔法文字での詠唱は、自分自身の魔力のみで魔法を発動させています。対して、古代魔法文字での詠唱は、自身の魔力の他に、周りにいる精霊たちの力も借りて魔法を発動させます。つまり、同じ魔法を使っても、与える魔力が多くなります。」
光莉は、ここで新たな魔法を提示した。
「先程から見ていると、『高跳躍』と『滞空』と別々に使っていますね。」
「それは、その2つの魔法は、それぞれ別の魔法だからな。」
冒険者の一人が光莉に相槌をする。
「別の魔法を同時、もしくは別々に行使すれば、それだけで魔力と詠唱時間の無駄遣いになります。ではその無駄を無くすにはどうすればいいか。答えは簡単です。別々だった魔法を一つに纏めてしまえばいいのです。」
「そんな事出来るのか?」
「出来るも何も、今現在使われている魔法は、すべて過去に誰かが開発したものです。過去の誰かが出来た事が、今生きている我々が出来ないのは矛盾しています。では、どうしてやらないのか。それは、魔法を開発するのは面倒くさいからです。」
光莉の説明に、なるほどと皆が頷いた。
「ではここにいる風属性の皆さんに、私から新しい魔法を授けましょう。魔法名は、『武空』。効果は、旧来からある『高跳躍』と『滞空』の機能に加え、『空中飛行』と、『風属性の防御』を加えました。この魔法一つで、空中での戦闘が可能になります。
この魔法の継続時間は、発動時に込めた魔力量に依存します。そのため、術者それぞれに、発動時間が異なります。込める魔力は、各自で決めてください。
通常は、魔法剣同様、魔法を教えるのにもそれ相応の対価を支払って頂くのですが、今回は特別に無料でお教えします。」
光莉と対面する形で、新しく開発された魔法、『武空』を教えてもらう風属性の面々。風属性を持たない者たちは、別の場所で鍛錬に励んでいた。
「それでは詠唱を教えます。私に続いて詠唱してください。
我は求める、風舞の舞姫
風と共に在り、風と共に舞う
風を纏い、千里を超える武闘の要となれ
武空」
発動キーを唱え軽くジャンプすると、全員の躰に風が纏わりつく。光莉の合図で大空を翔れば、全員が童心に帰ったかのように騒ぎ出した。さすがは武人と言ったところか。5分もしないうちに、全員が魔法の制御を完璧にこなし、そのまま、大空で武器や魔法を交えて訓練を始めた。1時間ほど空での訓練をして、地上に降り立った面々。全員が魔力切れを起こさず、少し休憩をすれば、すぐさま討伐に迎える状態になっていた。
ケルンを西へと進んでいく光莉たち。土砂降りだった雨は、何時しか上がり、西の空には、雲の隙間から光が差し込んでいる。魔力の踵腓を抑えるため、ケルンから半日ほど徒歩で行った場所で、番のファイアーバードと対峙した。まずは、風属性の者たちが、大空へと上がっていく。
大空へと舞い上がった風属性の者たちは、各々の武器を携えて、片方のファイアーバードに挑んでいく。魔法剣をいろいろな形状に変え、ファイアーバードを切り刻んでいく。しかし、もともと魔力量も光莉ほど多くないため、固い鱗で覆われた胴体を切る事は出来なかった。そのため、比較的固くない両翼を中心に切り刻んでいく。翼を封じて、地上戦に持ち込むのだ。
数十分による波状攻撃で、翼をもがれたファイアーバードは、地上へと落下していく。地上でもがくファイアーバードに、地上で待機していた者たちが襲い掛かる。魔法剣を使い、次々とファイアーバードに攻撃を仕掛けていく。
その頃、光莉は、もう一匹のファイアーバードと対峙していた。こちらは光莉と騎士団の隊長の2人で相手をしていた。隊長は、光と闇の属性以外はすべて使うことができ、その中でも風と水の属性を主に使用している魔法剣士だ。
光莉の右手に持つ魔法剣は、緑色の風属性の刃を輝かせていた。光莉にとっては、木の小枝でも使うことが出来る魔法剣だが、それ専用の魔道具から出された剣先は、木の小枝よりも、思い通りの形状を作り出すことが出来ていた。籠手はただの魔力の増幅器だけの存在なので、光莉は、素手で柄を握っていた。
隊長の手には、魔法剣が緑の刃で輝いている。
「さて光莉殿、こちらは我ら2人で相手をするが、どう攻める?」
「そうですね、昨日も言いましたが、魔法剣の剣の形状は、術者の思いのままです。なので、剣を振り下ろす時に、剣に魔力を与えて刃の長さを伸ばして、遠くからファイアーバードに切り刻みましょう。」
「分かりました。タイミングはそちらに任せます。」
そんな会話をしながらも、襲い掛かってくるファイアーバードと戦闘を続ける2人。すでに2人によってファイアーバードには、無数の傷がつけられていた。光莉は、ファイアーバードの反撃が鈍ってきたのを戦闘しながら確認していた。
「隊長さん、次で仕留めましょう。私は横から、隊長さんは、上から最大出力で切りましょう。」
「わかりました。」
光莉と隊長は、それぞれファイアーバードの上と横に移動し、魔法剣に魔力を注ぎ込んだ。魔法剣は、それぞれの魔力に反応し、剣先を数十メートルの長さに伸ばした。ヒカリと隊長は、数十メートルの長さになった魔法剣を、渾身の力で振りぬいた。
ファイアーバードの躰を、風の刃が縦方向と横方向に切り抜いた刹那、ファイアーバードは、躰を大きく4つに切断されて地面に落下していった。
光莉と隊長が、ファイアーバードの片割れを倒したのとほぼ同時に、もう1匹の方も命を刈り取られた。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。
話の内容を、大幅に改稿しました。




