第21話 ギルドでお仕事しよう③
セイルンからケルン迄の道のりでは、盗賊が出没する事はなかったが、街道が森の中を通っている事もあり、代わりに魔物が大量に出没する。光莉たちは、商隊を中心に前後左右に別れて全方位を警戒していた。森に入って1時間くらいたった頃、最初の魔物と遭遇する。Aランクの魔物、テラテクスだ。全長約20メートル、全高約10メートルの恐竜型の魔物は、光莉たちを捕捉すると、商隊の進行方向に移動し、鋭い歯を見せながら威嚇してきた。光莉は、とりあえず周りを確認する。基本単独で獲物を狙うテラテクス。ここら一帯は、テラテクスの縄張りらしく、他の魔物の姿がないことを確認すると、光莉が合図を出した。
「多佳子と沙希は、残りのメンバーを連れて商隊を護衛して、当初の打ち合わせ通り先へと進みなさい。尚子は、私とともにこいつの足止めをするわよ。尚子、『風の戒め』を詠唱して。同時に撃つわよ。」
光莉の指示で、尚子が、『風の戒め』を詠唱し始める。光莉に教えてもらって、初めて使うが頑張って詠唱してみる。失敗しても、光莉が同じ魔法を使うので、何とかなるだろう。
「我求めるは、永劫なる風雅の連鎖
天空より舞い降りし風衣は、業禍を縛る帯を呼ぶ」
光莉は、いつものように頭の中で魔法を組み立てる。尚子の詠唱が終わるのを見て、光莉は尚子と発動のタイミングを合わせた。
「『風の戒め』」
2人分の『風の戒め』が、テラテクスを地面に縛り付けた。その隙をついて、多佳子は、馬車を走らせ、商隊とともに、テラテクスの脇をすり抜けていく。
光莉は、次の一手を考える。相手はAランクの魔物だ。『風の戒め』などただの足止め程度しかならないだろう。こいつを切り刻むのは簡単だ。でもこいつの鱗や骨は、武器や武具の素材としていい値段で売れたはずだから、切り刻むのは最終手段にしたい。まあ、とりあえずは、
「尚子、今のうちに多佳子たちのところに行きなさい。とりあえずもう一つ『地の戒め』」
光莉が発動キーを唱えると、テラテクスの足元に土の鎖が出現し、テラテクスを覆っていく。
「光莉ちゃんはどうするの?」
「こいつを仕留める。だけど、誰かを守りながらの戦いは、正直きつい。」
いくら光莉でも、誰かを守りながら、Aランクの魔物と一戦交えるのは、出来ない相談だった。相手が、光莉ではないほうに向かっていったら、まずは守りながら戦わなくてはいけなくなるからだ。
「分かった。光莉ちゃん、気を付けて!」
尚子は、先にこの場を脱出した商隊の後を追っていった。尚子の姿が消えるのを確認した光莉は、テラテクスと向き合った。光莉は、足元に落ちている小枝を拾うと、魔力を流し始め無詠唱で魔法剣を作り出した。今回作ったのは、光属性の魔法剣。白く輝く刀身を下段で構えた。
風と地の戒めが解ける前に、光莉は、テラテクスに向かって走り出し、魔法剣を切り付けた。光の刃は、テラテクスの躰を上から下に通り抜ける。切ったという感覚はないが、テラテクスが、口から大量の血を吐いて地面に倒れていく。
光の魔法剣で切ると、表面は無傷だが、躰の内部の筋肉や内臓を切るのだ。
テラテクスは、血を吐きながら立ち上がり、光莉に向けて突進してくる。
「さすがAランクと言ったところか。まだまだ戦意を失っていないとはあっぱれです。でも、次で終わらせてもらいます。」
光莉は、大きく跳躍してテラテクスの上に出ると、上段の構えから一気に魔法剣を振り下ろした。そのまま着地すると、今度は、テラテクスの頭から尻尾に向かって、魔法剣を切り付けながら走り抜けていく。
躰を縦方向と横方向に切られたテラテクスは、躰を横向きにしながら地面に倒れると、血の混じった息で荒く呼吸している。光莉は、テラテクスの喉元まで歩くと、光の刃を風の刃に変えて、テラテクスを胴体と首に分けて命を刈り取った。
光莉は、絶命したテラテクスを、自分の陰に作った亜空間に放り込んだ。実はこの亜空間は、闇魔法で造られた倉庫みたいなもので、質量や体積を気にすることなく何でも入れて持ち歩くことが出来る。闇属性持ちしか使えない魔法だが。たしか『闇の倉庫』という魔法だったかな。魔術大全に乗っていたので、遠慮なく使わせてもらっている。もちろん『闇の神子』である毅にも教えた。
テラテクスを闇の倉庫に放り込んだ光莉は、多佳子たちの魔力を追って、空間転移をした。
「ただいま~。」
光莉は、多佳子に抱き付くように現れると、そのまま地面に着地した。
「ヒカリちゃん、何処から現れるの?ああ、空間転移してきたのね。ところで、テラテクスは、もう倒してきたの?」
「うん、ばっちり!解体するのが面倒だから、そのまま持ってきちゃった。」
ピースサインを突き出して、おちゃめに報告した光莉。多佳子は、内心恐怖を覚えていた。これがついさっきまで命のやり取りをしていた者のする態度かと。そういやあ玲子が言ってたなあ。
「光莉ちゃんは、精神が不安定になってくると、はっちゃけたようにおちゃめな態度をとる。そうなってしまった光莉ちゃんを止めるのは、至難の業。」
だと。この様子がそうなのかなあと、心で思いながら、自分では光莉を止めることが出来ないと悟る。気絶させるか、一眠りさせると、元に戻るらしいので、今回はゆっくりを眠ってもらうことにした。
「とりあえずご苦労様、光莉ちゃん。馬車の中でゆっくりを休んでください。後のことは、私が責任をもって商隊をケルンまで、護衛していきます。」
「ありがと~、多佳子ちゃん。お言葉に甘えて、馬車の中で一休みすます~。」
光莉は、そそくさと馬車の中に入っていった。苦笑いをしながら光莉が馬車の中に入るのを見送ると、多佳子は、みんなに指示を出していく。
とりあえず光莉は、このまま放置してケルンまで急ぐことにした。
ケルンに着いた多佳子は、門のところで、商隊の代表者から、依頼完了証を受け取り、馬車の中の光莉を起こす。サキたちに宿の確保をしてもらっているうちに、光莉とともにギルドに向かった。ギルドの受付で、依頼完了証を渡すついでに、光莉が、魔物を討伐したことを告げる。
「そういえば道中で、テラテクスを一匹退治しました。素材を売りたいんですが、何処に行けばいいですか?」
「テラレクスを倒したんですか!」
受付嬢は、光莉の報告に驚愕して机を叩いて立ち上がった。いきなり大きな音を出したので、部屋の中が一瞬静まり返る。受付嬢は、はっとして、光莉に小声で話しかけた。
「どこで遭遇したのか詳しく聞きたいので、少し時間をいただけますか。」
「いいですよ。」
「それでは、裏口の廻っていただいて、裏庭でお待ちいただいていいですか。裏門で、このカードをお見せください。」
受付嬢は、裏門の通行パスを光莉に手渡すと、その場を他の者に任せて、奥の部屋に駆け込んでいった。光莉は、そのまま裏門に廻り、通行パスを見せて裏庭に出た。すると先程の受付嬢と、貫録のある男性、後数人がすでに集まっていた。
「私は、ケルンのギルド長をしているラクラスという者だ。テラテクスを倒したのは、君かね。テラテクスとは、何処で遭遇したのか、詳しく教えてもらえんか。」
「冒険者をしております今宮光莉と言います。私の後ろにいるのは、仲間の瀬宮タカコです。それでこれが倒したテラテクスです。」
そういうと、裏庭の中央付近を開けてもらい、影から、テラテクスの死骸を取り出した。裏庭のほぼすべてのスペースを占領したテラテクスを見て、ギルド長らは、腰を抜かした。
「確かにテラテクスじゃな。それも成長した大人一匹とは、…ちなみにどうやって倒した?」
ギルド長の問いに光莉は、地面に落ちていた小枝を拾って、光の刃を出現させた。
「この光属性の魔法剣で、体内の内臓と筋肉を切り刻みました。」
「そうか、君は魔法剣を無詠唱で作り出すことが出来るんだね。」
ギルド長は光莉が無詠唱で作った魔法剣を見てさらに驚いていた。実はこの魔法剣、なかなかに高度な魔法なのだ。使用できる者も、一握りしかおらず、無詠唱で作りだす者など皆無に等しい。さらに、普通は、属性ごとの魔法陣を刻んだ柄を媒体に使用するのだ。まかり間違っても、その辺の地面に落ちている小枝を柄代わりに発動できる魔法ではないのだ。
「…、寄り道をしてしまったな。このテラテクスは、こちらで買い取らせてもらう。金額は、明日にでも確認しに来てくれ。ところで、こいつと何処で出会ったのか、詳しく教えてくれ。」
光莉は、テラテクスと邂逅した時の様子を詳しく話した。その後、ギルド長は、慌ただしく領主の下に駆け込んでいった。ケルンからセイルン迄の街道筋は、テラテクスが殲滅されるまで閉鎖となる。テラテクスは、狩りこそ単独で行っているが、集団で生活しているためだ。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




