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白い女神Ⅱ

 フクロウも鳴く夜、男は先を急いでいた。空には唯一の明かりである星が輝いている。今いるのは森の中だが、人の気配どころか動物の気配さえもしない。また、春なのにもかかわらず、少し肌寒い。しかし、もう何時間を歩いている彼にとっては辺りに何もいないことや、寒いことなど微塵も感じなかった。それよりも

(早く、早くあいつに会わなきゃ・・・早く助けなければ・・・)

という思いが彼の足を進めた。すると辺りが開けてきた。どうやら目的の街に辿りついたようだ。ほっとしたのも束の間、急に眠気が襲ってきた。

(今日は森で寝て、明日会いに行こう)

と休もうとすると、ふいに一人の少女が目に入った。眠気よりも好奇心が先に出て、歩を進めた。


 昼 アングウィス→レスディフ

 アイリーンはリオとアベルと一緒に道を歩いていた。道といっても、自分達が歩いているのは看板が無ければ道に見えないような代物だったが。

「これからどこ行くんだ?」

とアベルがリオに向かって声をかけた。

「レスディフという街だ。」

「レスディフ?聞いた事ねえ街だな。」

「元々の名はユリエールという。」

アイリーンは全然ピンとこなかったが、アベルは納得したようにあーあそこか、と呟いた。

「知ってる街なんですか?」

「一回行ったことがあってな。そこには知り合いがいるから宿代がタダで済む。」

「知り合い?」

「ああ、アミーっていう古いダチだよ。」

「その街では一週間ぐらい滞在するつもりだ。」

「結構短けぇな。」

「アミーにあまり迷惑をかけるわけにはいかないだろう」

確かに、とアベルが呟く。アミーさんとはどんな人なのだろう、とアイリーンは考えた。少し小難しい人なのだろうか。

「アミーさんってどんな人なんですか?」

「アミーか・・・アミーは・・・昔の」

「アベルの彼女だ。」

「アベルさんの?」

「んなわけねぇだろ!」

「と、昔一人でアベルが豪語していた。」

とリオは言った。反論しようとしたアベルだったが急に押し黙った。アイリーンは不審に思ったが、そのままスルーすることにした。


 夕方 レスディフ街関所

 日も暮れ始めるころ3人はレスディフに着いた。そして、しばらく歩くと家が見えてきた。

(アミーの家を訪れるのも久しぶりだな。元気だろうか。)

アベルは家の前に着くと2回戸を叩いた。するとはーいと元気な女性の声が聞こえた。

「はい、えっ!!」

思わぬ訪問客にびっくりしたのか少し固まっている。しかし、すぐに笑顔になって

「ご、ごめんなさい。いきなりでびっくりしたものだから。いらっしゃい。さあ、中に入って。」

と中へ誘導した。

「久しぶりね、リオ、アベル。相変わらずのようね。」

「ああ、アミーも元気そうで良かった。」

「あら、私元気だけが取り柄なことくらい知っているでしょう。」

「まあな。」

確かにアミーは人の何倍も元気だった。というより健康すぎるのだ。たとえ毒を飲んでも平気で生活していると自身を持って言えるほどだった。以前にも普通の人なら一00%お腹が痛くなる木の実を3コも食べてピンピンしていたという経歴もある。

「少しの間滞在させてもらうけど、良いか?」

「もちろん。あなた達ならいつだって大歓迎よ。それより、立ち話もなんだし、夕食、まだなんでしょう?今作るからちょっと中で待ってて。」

と中へ3人を誘導した。中は相変わらずシンプルで、6人掛けのテーブルとイス、後は花なんかが花瓶と一緒に置いてあるだけである。しばらく待っていると大きな鍋を持ったアミーが戻って来た。

「ごめんね、急いで作ったから、簡単なものしかつくれなかったけど。」

「別に気遣わなくてもいいのに。」

「でも、明日に飢えで倒れられたら大変だもの。」

と笑いながら言った。

「それよりその娘は?」

「ああ、ここに来る前のアングウィスで知り合ったアイリーンだ。」

「はじめまして。よろしくお願・・」

いします、と言おうとしたアイリーンの声を遮り、いきなりアミーが彼女に抱きついた。

「かわいいー!私かわいいものに目がないの。このままここに居てもらおうかしら。」

「さすがにそれはだめだろ。」

「だって、こんなかわいい娘、リオは良いけどアベルと一緒にいさせたら危険だもの。」

「ったく、なんでこいつがOKで俺がダメなんだよ。」

「格の差ってやつか。」

「てめぇまで何言ってんだよ!」

と、ふと横を見ると、アイリーンがうつむいて肩を震わせていた。

「え・・・泣いてるのか?俺なんか変なこと言ったか?」

「いえ・・・違うんです・・・笑いが・・・笑いがこらえきれなくて・・・」

と顔を上げたアイリーンは確かに目を潤ませていたものの、笑っている。

「なんだ、笑ってるのか。びっくりさせんなよ。」

「お前が心配性なだけだ。」

「なんか今日お前俺に冷たくねぇか?」

この後、4人はずっと色んな話をして、この日は終わった。


 翌朝 アミーの家

 日が完全に登り切った頃、朝日の眩しさでアイリーンは目が覚めた。今アイリーンが使っているのはアミーと同じ部屋。リビングに向かうと、朝食の支度をしているアミーと朝食を取っているアベルがいた。

「おはようございます。」

「おはよう。よく眠れたか?」

「ええ。それより、リオさんの姿が見えませんが・・・」

「ああ、あいつなら朝早くに出かけたよ。夜には帰るそうだ。」

「へぇ。」

「あら、リオのことが気になるの?」

とアミーがパンが乗った皿を持って来ながら輝いた目で言った。その言葉に思わずアイリーンは赤面した。

「いや・・・なんとなくです・・・」

「あら、なら良いけど。それより、」

と皿を机に置きながら身を乗り出して言った。

「今日、ショッピングに出かけない?」

「ショッピング、ですか?」

「そう。リ、アイリーンちゃん服一着しか持ってないんでしょう?だから服を買わないといけないし、他にもいろいろ生活必需品を買わなきゃね。」

確かに、アイリーンが持っている服は今身につけている一着のみ。アングウィスから持って来たものも他は護身用の剣と少々のお金のみ。不自由はないが、服がいざ濡れたときとか非常事態が起こった時に困るかもしれない。

「行きます。」

「そう、良かった。ちなみにお金はアベル持ちね。」

「なんで俺が!?」

「あら、女の子に払わせる気?」

アミーが意味ありげに笑ってアベルを見る。アベルは苦虫を噛み潰したような顔になり

「分かったよ。」

と答えた。その答えを待ってましたと言わんばかりにアミーは堂々とした態度で言った。

「じゃあ、朝食を食べ終わったら皆で行きましょう!ああ、今からなんか楽しみになって来たわ。」

「他人事なのにか?」

「他人事だ・か・ら・よ。」

とアミーは鼻歌交じりに答えた。傍から見ると当たり前のやりとりなのかもしれないが、アイリーンにとってはとても羨ましいことであった。


 朝 レスディフ商店街

 商店街はアミーの家から少し歩いた所にあった。朝なのに、多くの人でにぎわっていた。

「二人とも、こっちこっち。」

と先を歩くアミーがアイリーンとアベルに対し手招きをする。それに従い、しばらく彼女についていくと、一軒のお店の前で止まった。看板には「ローズマリー」と書かれている。扉を開けると、一人の女性が品物を整えていた。

「あら、アミーじゃない。今日もあなたに似合いそうなの色々あるわよ。」

「ありがと、ルイ―ザ。でも、今日は私のじゃなくてこの娘の買いに来たの。」

とアイリーンを前へ押した。ルイ―ザと呼ばれた女性はアイリーンの姿を少し見て、

「ちょっと待ってて。探してみるわ。」

と店の奥に消えて行った。

「知り合いの方ですか?」

「ええ、私の幼馴染。ちなみに、夫持ちよ、アベル。」

「なんで俺に言うんだよ。」

「だって・・・ねぇ。」

確かに言わなくても何が言いたいのかアイリーンでも分かってしまった。これは、良いことなのか、はたまた悪いことなのか分からなかったので、首を傾げるだけにした。少し待つと、ルイ―ザがかえって来た。

「一応似合いそうなの探してみたけど、試着してみる?」

「お願い。3、4着くらい選んでくれる?」

「分かった。じゃあ、行きましょうか。」

とルイ―ザは奥へとアイリーンを連れて行った。

「んん、ちょっと待ってね。これが良いかしら・・・それとも・・・」

と服を選びだした。当の本人はどうしていいか分からず、じっと待っていた。


 朝 服屋「ローズマリー」

 奥に消えてから何分か経って、ルイ―ザが帰って来た。

「一応3着選んだんだけど、これとこれは良い?」

と持ってきたのは半そでの白いワンピースと茶色のコートだった。どちらもリボンなどがあしらっていて今時の女の子が着ていそうな服だった。

「かわいい。とっても良いと思うわ。でも、もう一着は?」

「どうせだから着てもらったの。」

と後ろを振り向いた。よく目を凝らして見ると、壁に隠れるようにしてアイリーンがいるのが見えた。

「一体どんな服選んだの?」

「私一番の一押し!むちゃくちゃかわいいから。」

早くとルイ―ザにせかされ、アイリーンは顔を伏せながら一歩前にでた。それは、淡いピンク色のドレスを身に付けた異国の姫を思わせるほどだった。

「うぅ・・・眩しい・・・眩しすぎるわ・・・」

とアミーは今にも倒れそうなくらい顔が赤くなっている。アベルも鏡を見たら、自分でも信じられないような顔になっているだろう。

「は・・・恥ずかしいです・・・」

とアイリーン自身は顔をうつむかせてもぞもぞしている。その仕草も今までにないくらい可愛く見える、とアベルは思った。

「でも、この服一体どうしたの?」

「私が一カ月かけて作ったの。一回こんな服作ってみたくて。仕上がったのは3日前。でも、私は多分合いそうになかったから着てもらえる人がいて、良かったわ。あ、そうそう。この服は私の試作品だからお金はいらないわ。2着分払ってくれたらいいから。」

「ありがと。」

そこで、チラとアイリーンを見ると、まだ困惑したような顔をしている。今度は下ではなく、まっすぐ自分達の方を見ている。

「アイリーンちゃん、どうかしたのか?」

「あ・・・いや・・・そ、の・・・」

と下をもう一度見たが、やがて決心したような顔に変わり、アミーの方に向き直って言った。

「あの、アミーさん。頭、キノコ生えてます。」

「キノコ!?」

驚いてアミーの頭を見ると、黄色のキノコがニョキッと生えていた。しかし、驚く二人に対しアミーとルイ―ザは涼しい顔をしている。

「またキノコ生えたのね。今日はキノコ料理にしようかしら。」

「二人が驚くのも無理ないけどね。でもここら辺では良く見る光景なのよ、これ。」

未だ茫然とするアベルとアイリーンを見て、二人の女性はクスクス笑っていた。


 昼 レスディフ商店街

 軽く昼食をとった後、アイリーンはアベル達と別行動したいとお願いしてみた。二人は少し驚いたようだったが、

「じゃあ、お金は渡しとくから一時間後、またここで落ち合おう。」

ということになり、二人は商店街の奥の方へ歩いて行った。実は、金髪の男を見たことが無いか尋ねてみようと思ったのだ。しかし、30分尋ね歩いても、結局見たことがある人は一人もいなかった。もう尋ね回っても結果は同じだろう。尋ね回るのはあきらめ、これから何をしよう、と考えながらぶらぶら歩いていた。屋台を一軒一軒見ながら歩いていると、ふと一つの屋台が気になった。というより、その屋台で売られているペンダントが気になったのだ。それは星のマークが描かれており、真ん中には透明な玉がはめ込まれている。とてもシンプルなデザインだったが、何か惹きつける物が感じられた。そこで屋台のおじさんに思い切って声をかけた。

「おじさん・・・あの、このペンダントなんですけど・・・」

「ん?これかい、嬢ちゃん。これなんだけど、非売品なんだよね。」

「非売品・・・ですか。」

「ああ、これは『呪われたペンダント』って言われてるんだよ。なんでも、持った奴らみんなこのペンダントのせいで死んじまったらしい。それでいろんなの経由して今はここにあるんだが。さすがに客を自分が売った商品で死なせたくないからな。」

アイリーンは『呪われた』というのが気になった。自分も呪われた子と呼ばれた立場として、このペンダントに同情心が生まれたのかは分からないが、どうしてもこのペンダントが欲しくなった。そして、結局おじさんの反対を押し切り、アイリーンは『呪われたペンダント』をもらった。


 夕方 アミーの家

 リオが帰ると、アミーとアベルがいた。

「アイリーンそのペンダント、どうしたんだ?」

「買い物途中で見つけて、買ってきたんです。」

「それ・・・」

「?」

アイリーンは気になったがリオが何も言わなかったので、訊かないことにした。

「ところで、今日はどこに行ってたんですか?」

「そういえば教えてなかったな。少し調べものがあったからそれを片付けて墓参りに行って来た。」

「墓参り?」

「ああ、昔の知り合いだ。」

「懐かしいな。」

「さあさあ。昔話に思いをはせる前にご飯にしましょう。」


 夜 アミーの家

 食事を終えるとおもむろにアイリーンが切り出した。

「あの、外に出てもいいですか?」

「外にって何するの?」

「剣の素振りをここのところやっていなかったのでやっておこうと思って。」

「本当にするのか?」

アベルのずっと剣を持っているのは知っていたが、あくまで非常事態用だと思っていたので、まさか素振りなどのけいこをするとは思っていなかった。そもそも華奢な少女に剣なんて似合わないだろうに。そうアベルが思っている一方でアイリーンは、手元にいつの間に置いていたのかバッグの中から鞘にきれいな装飾を施した剣を出した。

「自分の身ぐらい自分で護らなきゃと思って。すいませんが出てきます。」

「いってらっしゃい。あんまり遠くに行かないようにお願いね。」

アイリーンはにっこり笑ってはい、と答え外へ行った。

「それにしてもあの年頃で自分の身を護らなきゃって、すごいな。」

「ああ。でも生い立ちから考えれば頷ける。」

確かに、リオの見解には頷けた。自分達と出会うまで森の中で一人で過ごしていたことを考えるとそう考えるのも仕方ないのかもしれない。

「勇敢に育ってきたのね。見た目以上に強い娘。」

「俺ら以上かもしれないな。」

そうね、と言いアミーはリオの方を向いた。

「それより今日はありがとう、夫の墓参りに行ってくれて。きっと夫も喜んでるわ。」

「もうあいつが亡くなって3年になるんだな。」

アイリーンには内緒にしていたが、アミーには亡くなった夫がいた。前に会った時は彼も健在だったが3年前病気で亡くなったらしい。ということを同じく3年前に届いた手紙で知った。そこで、アイリーンに気づかれないように時間差を設けて、アベルとリオは墓参りをしてきた。

「一人でさびしくない?」

「ここには知り合いも多いし、何より彼が死んでも私の胸の中にいるって、そう言ってたから。」

「あいつらしい言葉だな。絶対俺にはまねできねぇよな。」

「それぐらいが言えるようになったらアベルもモテるんじゃない。」

「確かに。」

「なんか二人共冷たくないか?」

「そんなことは・・・あるわね。」

「率直に言うなよ!」

この後しばらく三人は昔話に花を咲かせていた。


 夜 アミーの家の外

 レスディフには街灯が無く、アイリーンは家々からこぼれる光を頼りに剣を振っていた。外で素振りを始めて30分ぐらい経ったのも感じないくらいに集中してやっていた。額には1km走って来たかのように発汗している。

(自分の身ぐらい自分で護らなきゃ。彼らの足手まといになんかなりたくない。)

旅の道中ずっと考えていた。自分は本当について来て良かったのだろうか、と。ただ二人の旅の邪魔をしているだけなのではないか、と。だから少しでも二人の負担を軽くしようと自分で出来ることは自分で行うようにしていた。旅について来たのは自分のわがままなのだからこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。と気を改めて引き締めた時、後ろで何かが動くような気配がした。振り向くと見る限り誰もいないが、確かに何者かの気配を感じる。少しずつ間合いを詰め、一番手前の木陰へ剣を振りかざすと誰かが動く音がした。剣を鞘に納め、人影を追うと少し見晴らしのよい場所に出た。人影は月から逆光になっていて誰かは分からなかったが影で男であることが分かる。体はリオやアベルより一回り大きく左手には短剣を握っていた。少し呼吸が乱れていたようだったが、しばらくすると身をかがめ戦闘態勢に入り、アイリーンに迫り、腹めがけて刺そうとした。が、アイリーンの剣がそれを払い男の腹に峰打ちをくらわせた。一瞬気を失ったかのように見えたが、すぐに後退し態勢を立て直し、また接近して来た。アイリーンも態勢を立て直し待ち構えていたが、その前に男が膝から崩れ落ちた。

「っ!?」

急いで駆け寄ると自分より5歳以上年上と思われる男が倒れていた。男の顔を見た瞬間アイリーンは言葉を失くした。その顔はアミーそっくりだったのだ。


 夜 アミーの家

 しばらく昔話をしているとドアを強く叩く音が聞こえた。ドアを開けるとアイリーンと気を失っている見知らぬ男が立っていた。

「に、兄さん!!」

とアミーが男に駆け寄った。顔立ちを見ると、確かにアミーに顔が似ている。

「大丈夫?一体何があったの?」

アベルの質問にアイリーンは上がった息を整え、一間置いた後頷いて言った。

「外で素振りをしてたら、見知らぬ人がいたので、追いかけたらアミーさんのお兄さんがいて、少しやりあったら急に倒れられて・・・」

「とにかく中に入るぞ。」


 翌朝 アミーの家

 アイリーンがアミーの兄を連れ帰った後、アミーの兄は熟睡状態だったし、もう夜遅くだったので、話は次の日の朝、アミーの兄が起きてからにすることになった。

「おはようございます。」

「おはよう。」

「あれ?アベルさんはどうしたんですか?」

今リビングにはアイリーン、リオ、アミーの三人だけである。

「少し行きたい場所があるって今朝言ってたから、多分出かけたんじゃないかしら。女の子の所な確率が高いわね。」

「はあ。そういえばアミーさんのお兄さん、大丈夫ですか?」

「ええ。今はぐっすり眠ってるわ。」

「でもアミーさんのお兄さんがいるなんて。なんとなくいるとしても弟か妹かなって思ってたものですから。」

「まあ、初対面で家族の事について話そうとは考えてなかったから。でも、一体どうしたんだろう。お兄ちゃんは今は結婚して、義理(おね)()ちゃんと仲良く暮らしてるって聞いてたのに。多分倒れたのは全く食べてなかっただけだと思うけど。」

「倒れるほど食べてないって・・・」

「お兄ちゃんって一つのことをしようとすると周りが見えなくなっちゃう性格で。騒がせちゃってごめんなさい。」

「そういえば、アミーさん頭のてっぺん、またキノコ生えてますね。」

「ええ、しかもいつもと色が違うけど、多分色んな種類があるのね、きっと。」

それから一時間程してアミーの兄が降りてきた。そして、アミーを見るなり

「お前・・・その頭・・・」

と魂でも抜かれたようなひどい顔をしていた。

「ああ、キノコの事?心配いらないわよ。よく生えるから。」

「とっ、とにかく今すぐ説明したいことがある。今回急いで来たのも、そのことについてだ。」

そう言って、皆が席に着くのを待ってからアミーの兄はおもむろに話し始めた。


 朝 アミーの家

 「実は三日前のことなんだが・・・」

その日の夜、アミーの兄は奥さんと一緒に世間話をしていた。そこに見知らぬ顔をした男が訪ねて来て

「あなたのご家族などで頭からキノコが生えた人はいませんか?」

と訊いてきた。もちろん二人は生えてないと答えたが、もう十一時も回っているのに、わざわざそんなことをなぜ尋ねてきたのか気になった。そこで訊いたみたところ、最近レスディフの街で頭からキノコが生えてくる病が発生しているという。

「でも、別にキノコが生えてくるだけで病気ってわけじゃあ・・・」

アミーの言葉に兄も頷く。

「俺も最初はキノコが生えてくるくらい何ともないと思ったんだ。」

しかし、おとずれた男は、こういったらしい。

『普通に生えてくるキノコは問題ないんだが、何度も頭から生えてくるうちに最終的には毒キノコが生えてくるんだ。そして、その毒キノコはその人の体力・精神力を吸っていき、突然死んでしまうんだよ。』

「そのキノコが、お前の頭から生えてるキノコにそっくりなんだ。」

「でも私の体が強いのはお兄ちゃんも知ってるでしょう。」

「でも、それは食べた時の話だろ。それに、いくら強くっても何時間も吸ってたら、いずれ毒が全身に回る。それ、いつから生えてるんだ?」

「えっと・・・朝起きたあたりか、な・・・」

「基本一時間でも体調を崩すらしい。もうすぐやばいぞ。」

「えっ!私どうすればいいの?」

「なんでも、ベニザクラの葉っぱが良いらしい。ただ、この街にも俺がいた街にも桜なんてなかったからな・・・」

途方に暮れる二人を見て、今まで全く口を出さなかったアイリーンが遠慮がちに口を開いた。

「あの・・・ベニザクラなら・・・森の方に生えてましたけど・・・」

「えっ!でも森には桜なんてなかったけど?」

「ベニザクラは桜ではなくてユリ科の一種なんです。花が桜みたいに見えるので「ベニザクラ」って言うんです。」

「じゃあ、あるんだったら・・・その・・・ベニ、ザ・・・クラを・・・」

と言う間にアミーが倒れてしまった。

「アミーさん!」

「大丈夫か!?」

「とにかくアミーの兄はアミーを寝かせて。俺たちはベニザクラを探しに行くぞ。」

「いや、もう倒れて5分ともたず死に至る毒だ。森へ言って帰ってくるだけでアミーが死んでしまう。」

「どうしよう・・・」

困惑する三人の事など知らず、能天気に

「ただいま。」

とアベルが帰って来た。しかし、アベルが帰って来た所で何もならない。そう思ったアイリーンだが、手にしたものを見た瞬間絶望が希望へと変わった。

「アベルさん!その花。」

「ああ、帰ってくる途中で見つけて摘んできたんだ。」

と持ちあげた花は、今探し求めていたベニザクラだった。

「すいません、もらいます!」

とアイリーンはアベルの手からベニザクラをつかみ取り、台所へ向かった。ベニザクラを薬として飲む際は、すり鉢などで細かくしないとなかなか吸収されない。荒っぽくすった後水で少し溶かし、すり鉢ですった後、アミーに飲ませた。

「おい、一体どうしたんだ?」

「いいからお前は黙っとけ。」

しばらくすると、アミーが目を覚ました。

「私・・・」

「おい、大丈夫か!?」

「お兄ちゃん、私助かったんだ。」

「ああ、とりあえずしばらく寝とけ。無理するのは良くない。」

アミーの兄の言葉に安心したのかすぐにまた気を失った。


 昼 アミーの家

 3時頃、4人で話をしているところにアミーが降りてきた。

「体、大丈夫ですか?」

「ええ。もうピンピンしてるわ!皆のおかげよ。本当に、ありがとう。」

アミーの様子に皆で安堵した。

「まあ、一番頑張ったのは俺だけどな。」

「お前は花摘んできただけだろう。」

「うぅ。良いじゃねぇか、別に。なんかお前ここにきてから俺に冷たくねぇか?」

「別に。」

「それじゃ、アミー。俺は帰ってベニザクラを役所にでも出してくるから。」

とアミーの兄が席を立った。

「うん。これ以上犠牲者を出したくないもの。お願いね。」

「ああ、それじゃあな。お前らも、妹救ってくれてありがとう。旅の道中気をつけろよ。」

「お兄ちゃんが言っても説得力無いわよ。」

苦笑し、兄は去って行った。それを見送った後、リオが困惑気に口を開いた。

「それで、アミーには悪いが、俺達も明日にはここを発たなきゃならない。」

「別に気にしないで。体は大丈夫だから。でも、寂しくなるわね。一気に皆押しかけて、一気に皆去っていくんだから。」

「悪いな。」

「気にしないで。もう慣れたわ。」

そういうアミーの顔はとても寂しそうに見えた。


 翌朝 アミーの家

 いよいよアミーの家を発つ時がやってきた。

「いろいろご迷惑おかけしました。」

「別にいいのよ。り、アイリーンは気にしなくて。でもやっぱりアベルと行かせるのは危険かしら?」

「何でだよ!」

プッとアイリーンを筆頭に、四人で笑った。

「それじゃ。」

「ええ、元気でね、リオ、アベル、リリー。」

「リリー?」

「あっ!ごめんなさい。どうしてもアイリーンって名前覚えられなくて、髪の毛も白だから「リリー」って勝手に呼んでたら、つい・・・」

申し訳なさそうにするアミーに対し、三人は笑って言った。

「でも、そのあだ名良いんじゃないか?」

「はい、自分もとっても嬉しいです。」

「俺らもこれからリリーって呼ぶか。」

「なんかリリーって呼ばれる方が、私としても嬉しいです。」

それじゃ、とアミーは咳払いをし、

「改めて、三人とも元気でまた会おうね。」

「ああ、元気でな。」

「ありがとうございました。」

三人はアミーに見送られ元気に出発した。アイリーンの胸元にはペンダントが怪しく光っていた。


投稿遅れてしまってすいません。(もし読んでる方がいらっしゃったら)今年の四月から華のJKとなりまして、勉強、部活などなどで結果的に遅れてしまいました。実は、この物語は本編15話、番外編5~6話で完結する予定なのですが、このままだと高校卒業までに終わらないかも・・・(泣)

とにかく、このまま勉強と部活とこれの3両立で頑張りたいです。

ちなみに、ベニザクラという花はありませんのでご了承ください。

あと、娘という字は全て「むすめ」とルビがない限りは全て「こ」とお読みください。

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