王女の出生
「王妃が心の病になったのは、じゃあ 目の前で愛していた男を殺されたからなのか?」エミリオは、気の毒そうな顔をして 言う。
その言葉に リリアンは、泣きそうな顔になっていた。
「きっかけは、そうです。
けれど 完全に心を壊してしまった理由は、もう1人の姫様と引き離されてしまったからです」
乳母の言葉に 一同は、言葉を失う。
「どういうことなのです?
あたくしには、妹がいるのですか?
もう1人 王女がいるというの?」リリアンは、声を張り上げる。
「リリアン姫様のお姉さまに当たるお方です。
陛下は、姫様が、ミレアム様が愛していた男に似ていたということもあって 引き離してしまったのです。
彼女の存在を知っているのは、もう 私しか 残っておりません。
出産に立ち会った医師も、侍女も………陛下に逆らったことを理由に 殺されてしまいましたから」
「俺達も そういう情報は、得ていなかったな。
その王女は、どうなったんだ?
まさか………殺されたなんてことは……」
「私は、リリアン姫様の乳母となってからは、姫様の情報を知ることを許されませんでした。
おそらく リリアン姫様を通して ミレアム様のお耳に入ることを嫌がられたのだと思います。
ただ 生きておられることは、確かでしょう。
彼女が生まれた時に訪れた 守護精霊は、城内で目撃されておりますから。
侍女達の噂では、幽霊と間違われておりましたが」乳母は、ばつが悪そうに言う。
「それじゃあ………城のどこかに いるということなのね?
お姉さまの名前は、何というの?」リリアンは、目を輝かせながら言う。
「残念ながら………姉姫様には、名はありません。
この国では、名を与えるには 神殿に届けを出さねばならないのですが 陛下がそれをお許しにならなかったのです」
「名前を与えないなんて………祝福を与えないのと同じじゃないッスかッ!
ギオーレの王サマってば 心 狭すぎッスよ」
ジャンは、呆れたように 溜息をつく。
「チェルシー………お姉さまが、どこにおられるのか 何も手がかりがないの?
何か 1つでも…」リリアンは、乳母に聞く。
「私のわかる範囲では、ないのですが………姉姫様の守護精霊を見つけることができましたら わかるかもしれませんが」
乳母―――チェルシーの言葉に リリアンは、今にも部屋を飛び出しそうに身動きする。
けれど それは、すぐに カイウスに止められてしまう。
「リリアン王女………貴女は、ギオーレの王族です。
貴女への不信感が、少し減ったとはいえ 完全に晴れたわけではありません。
姉姫の捜索は、我々で行いますので しばらく この部屋で王妃と乳母殿とお待ち下さい」
「カイウス………俺も、この部屋に残るぞ。
姉姫は、お前が探せよ。
人探しは、得意だろう?」エミリオは、軽い口調で言う。
王の言葉に 宰相は、目元をピクピクさせた。
けれど 溜息をついてから わかりました…と 肩を落とす。
「リリアン王女………ご心配なさらず お待ちください」
カイウスは、一礼して 部屋を後にした。