王妃の悲しみ
「乳母殿は、なぜ ミレアム妃が、このように心を壊してしまったのか ご存じなのですか?」カイウスは、平然と聞いた。
その問いかけに 乳母は、悲しげな表情を浮かべている。
リリアンは、乳母に縋り付いた。
「何か知っていることがあるのですか?
ならば 教えてください。
お母様は、なぜ 心の病になってしまわれたの?
前に 教えてくれたでしょう?
あなたは、元々 お母様付きの侍女だったと」
自分が仕える 王女の願いに 乳母は、真剣な表情を浮かべる。
「ミレアム様は、お可哀そうなお方です。
陛下に見初められた時 違う男性と夫婦になっておりました。
見るからに 仲睦まじい 姿でした。
それを 陛下の横恋慕によって 壊してしまったのです」
「王の命令ならば………民は聞かなければならなかったからか」エミリオは、気の毒そうに言う。
リリアンは、そのお話を知らなかったということもあって ショックを隠せない。
「陛下は、ミレアム様の結婚の無効を神殿に宣言し 反対する貴族方を黙らせる為 無理やり 侯爵家の養女にさせました。
そして 盛大な結婚式を挙げたのです。
この時 既に 王妃様は、姫様をご懐妊なさっておりました」
「その子供は、あたくしなの?」リリアンが、震える声で言う。
「王の子かは、確証はありません。
ですが 姫様が、ミレアム様に王妃様に瓜二つでしたから それは、可愛がっておられました」
「自分を見ない王妃よりも 幼い頃から自分を見てくれる 娘を溺愛していたというわけか。
まさか 最終的に 妻にしようとしていたなんて ありえないよな?」エミリオは、ハッとしたように呟く。
「ありえなくはないでしょうね?
あの鬼畜王ならば………成し遂げても おかしくない………あの王子の父親なんだからな」カイウスは、苦虫をかみ殺したように言う。
「けど リリアン姫には、婚約者がいたんじゃないのか?
侯爵家の嫡男………あたしらが、砦に乗り込んだ時 勝ち目がないとわかっていながら エミリオに切りかかった ギオーレに忠誠を誓っていた騎士だった」ベリンダは、思い出したように呟く。
「その忠誠心を利用して 後から お姫サマを奪うつもりだったのかもしれないッスね」
ジャンの言葉に リリアンは、何かを思い出したように 自分の体を抱きしめている。
「お父様のあの目は、そういう意味だったのね?」
リリアンの様子に 皆は、何とも言えない顔をしていた。
「陛下は、王妃様のこととなると 異常でした。
同じ子である 王子達を近づけることさえ 嫌がっておられましたから。
姫様に王妃様の過去を話そうとする者達を、排除してゆきました……中には、それを弱みとして 脅そうとする者もおりましたが」乳母は、悲しげに言う。
「ミレアム妃の前の夫は、どうなったのです?」
カイウスの問いかけに 乳母は、泣きたいのを必死で堪えているようだった。
「ミレアム様のお心が、いつまでも 自分以外に向くのを嫌い ミレアム様の目の前で 殺してしまわれたそうです。
特に 夫だった方は、より 苦しめる形で………簡単には殺さず じわじわと。
そして ミレアム様の前で 亡くなったそうです」
「随分と詳しいんスね」ジャンは、不思議そうに呟く。
乳母は、その問いかけに 悲しげな顔になった。
「亡くなった夫が、当時 陛下の供をしていたのです。
そして ミレアム様のお世話を言い遣わされた時 何があったのか、問いただしましたので」
「なるほどねぇ?
ギオーレの王は、自分を想わない妻の心を自分に向けさせる為 侵略を続けていた……か。
あの鬼畜王の行いを正当化するつもりはないけど 理由があったわけだな」ベリンダは、訝しげな顔をして言う。