成り上がり王
しばらくすると 外が騒がしくなった。
おそらくいつまで経っても部屋から出てこないリリアンに 痺れを切らせたのだろう。
乳母が呼びに来てから 1時間が経とうとしているのだから。
リリアンは、相手の器の小ささに 呆れ果てた。
乳母の悲鳴のような声が聞こえ 扉は、強引に開かれる。
「ギオーレ王国 王女……リリアン姫。
そっちの立場は、わかっているはずだろう?
ギオーレは、我が国に負けた……生き残った 貴女には、拒否権はない。
それを いつまで 待たせるつもりだ?」
そう言い放ったのは、血の染みついた 軍服を着こんでいる黒髪の男。
美丈夫というべきか 整った顔立ちをした 筋肉質な男だった。
精霊の加護を感知しただけでも 3つ以上いる。
それも―――皆 彼に心酔しているように見えた。
リリアンは、その姿を確認して 息をつく。
「野蛮な方ですのね。
待つという 意味を知らないだなんて。
女性の準備は、時間がかかるということをご存じありませんの?」
リリアンの言葉に 男が纏う 空気が変わる。
精霊達が、男の気持ちを察知して リリアンの周りを囲うようにいる その存在を感じた。
「ひ……姫様ッ!後生ですから 逆撫でなさらないよう…」
乳母は、悲鳴のような泣き声で 見知らぬ女騎士に支えられていた。
「驚いた………血を見て倒れちゃうような弱弱しいお姫様だと思っていたのに しっかりした お嬢さんみたいじゃないか」
小声で聞こえた嫌味は、聞こえないフリをしておく。
「随分と予想に反する 姫君のようだな?
もっと 先を見越していると思っていたというのに。
聞いた話によれば 民から慕われた 心優しき王女だと聞いていたが………ただのじゃじゃ馬だったようだ」
リリアンは、真っ直ぐ 扉の前に立つ 男を見上げた。
見る限り 噂で聞いた容姿と似通っていることから この男こそが、プルトン王―――エミリオだと確信した。
「あら………それは、残念でしたわね?
でも あなたは、噂通りの王のようですわ?
ご自分の行動すべてが、正しいと思い………戦いが、自分の生き甲斐だと思っておられるのでしょう?
元々は、名も知らぬ 村のガキ大将だと伺っておりますわ?
薄汚い小さな部族から成り上がった 血に染まりし ケダモノの王者」
リリアンの発言に エミリオの背後に控えている 数人が、剣に手をかけていた。
乳母は、もう 悲鳴が出ないくらい 全身が痙攣しているようだ。
けれど それは、王の合図によって 止められる。
「あら……止めてしまいますの?
思うままに 切り捨ててしまえばよろしいのでは?
あたくしの父や弟達………そして 婚約者や我が国の民を殺したように。
憎いのでしょう?あなた方の仲間を殺した 王族の血が……ッ!
さぁ 殺すがよいじゃありませんの。
あなた達にとって憎いのは、あたくし達 王族なのでしょう?」
リリアンの悲鳴のような甲高い叫びは、部屋に響き渡る。
彼女の目には、もう 希望など存在せず 深い悲しみと絶望しか残っていなかった。