始まり
物語の舞台は、世界帝国 【クルンセル】の中央に位置する 絶対王政を掲げる ギオーレの引き越した戦争から始まりました。
戦争は、数十年に渡って 続き 人々は、確実に 疲労してゆきます。
兵隊は、倒されても 新たに招集され 働き盛りの男達は、帰ってこなくなってしまうのですから。
そして ギオーレの兵士は、次々と周辺諸国を侵略してゆきました。
刃向かう者は、血を持って 思い知らされていったそうです。
侵略された土地の人々は、奴隷としての身分しか 与えられませんでした。
男は、労働作業を強いられ 女は、欲望を満たす為の道具として。
けれど 侵略を続けていた ギオーレに 不利な状況が起こりました。
それは、ギオーレ兵の中から 裏切り者が出たからです。
元々 その者は、かつて 侵略された土地の生き残りでした。
その者の得た情報によって ギオーレを討つ為だけに結成されたプルトンは、続々と勢力を伸ばしていったそうです。
結果として ギオーレの戦況は、悪化する一方でした。
そして 1人 プルトン側から犠牲者を残したものの ギオーレ王と王太子は、打ち取られたのです。
こうして 残虐な戦いを大きくしていた ギオーレは、プルトンの支配下となりました。
プルトンは、リーダーを国のトップとして ギオーレの処遇を【クルンセル】に委ねられることになったそうです。
ギオーレ王と王太子を打ち取った プルトン軍勢は、少人数仲間を引き攣れて ギオーレに 足を踏み入れた。
「随分と 浅い忠誠心だったようだな?王と王太子達が戦死したと聞いて こんなにまで 迅速に 逃げ出していくなんて」闇のように黒い馬を操る 男は、呆れたように 城下を眺めながら 呟いた。
「仕方がないだろうな?この国は、元々 そんなに大きな領地を持っていなかった。だが あの(・・)妃を迎えてから王は、別人になったかのように 侵略を続けていったらしい。数年の間に独裁的な支配者が成り立ったことで 表向きは、従っていた。だが 内心は、憎くて堪らなかったはずだ」
毛並みの良い はねっ返りのような 茶色い馬に乗っている男は、静まり返った 王都を見回す。
何人か 家の中から 馬で城に向かっている 一団が、通り過ぎるのを息を殺し 眺めている。
どのような感情を抱いているのかはわからない。
だが どちらにせよ 彼らは、何も期待していないようだ。
侵略を繰り返す王の政治は、民を苦しめるばかりだったのだろう。
軍事資金の為 重税を強い 男達は、出兵させていたのだから。
「城に残っているのは、ギオーレの王妃と王女………数人の臣下だけらしい。ジャンが飛ばした 精霊の話によれば みんな 戦う意思を持っていないそうだ。エミリオ………非情な決断になるかもしれない。だが 王としての決定を期待するからな?」
「わかっているさ。俺達の生まれ故郷の仇である ギオーレを赦すわけにいかない。死んでいった あいつらの為にも……俺達は、進まなくちゃいけないんだから」
「わかっているのなら それでいい。とにかく………気を引き締めるべきだろう。あの王の妻と娘だ。一筋縄でいかないことは、間違いないだろうからな?女の涙に惑わされるんじゃないぞ?お前は、人を信じすぎることがあるんだからな?見た目と違って お前は、純粋すぎるんだ。もっと 黒くなれ」
「お前みたいに 腹黒くはなりたくないんだがな?」
エミリオ―――この男は、【プルトン】の若き王。
そして 彼の横を馬で進んでいるのは、カイウス―――王を補佐する 宰相だ。
2人の後ろを発言せずに従っている 兵士達も、昔から知った仲の者達。
元々 【プルトン】とは、小さな部族の集まった 村であり エミリオ達は、その村出身の若者だった。
村は、戦渦に巻き込まれ 人々は、離散し 助けを求めても 容赦なく 切り捨てられた。
若い女は、奴隷のように連れ去られ 兵士達の慰み者にされ 飽きれば 殺されていく。
それは、地獄絵図のような光景だった。
兵士達は、村人をまるで モノのように扱っていたのだ。
それこそ 命の重さを知らない行動。
エミリオは、幼馴染達と武器を手に 立ち上がった。
そして 実践に実践を積み重ね 勝機を手に入れる。
エミリオの元には、様々な 腕に自信のある者達が集まってきた。
こうして 村の名前から国の名前と変え 国のリーダーとして エミリオは、王を名乗り 仲間は、それぞれの役職についていったのだ。
「ここまでたどり着くのに 多くの仲間が、死んでいった。あいつらの想いを無駄にさせない為にも 俺達は、鬼にならなければならない………お前が言いたいのは、そういうことだろ?」
「わかっているのなら………無駄口を叩くな。お前は、黙ってさえいれば………威厳があるんだからな?」カイウスは、鼻で笑いながら言う。
エミリオは、訝しげな顔で 肩をすくめた。
「放っておけ。お前………ルシンダのことで 気が立っていることはわかっている。けど……自分を見失うなよ?ルシンダだって………そんなお前を見たいわけじゃない。あいつの最期の願いは、いつだって みんなの幸せだったんだ」
エミリオの言葉に カイウスは、無言のまま。
そうこうしている間に 一行は、城門に到着した。
本来ならば 国の要を守るべき門には、番人がいない。
門は開き切ったままで 加護の結界も 王の死と共に 消え去ってしまったようだ。
ガランとした 崩れた門が、寂しく佇んでいる。
「大国と呼ばれた ギオーレのなりの果てか。何とも…哀れなものだな」
「この国の連中は、それだけのことを仕出かしたんだ。俺達は、奪われたものを取り返す為に ここまでやってきたんだからな」エミリオの独り言に カイウスが答える。
そして 一行は、王宮に入っていった。