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ツマミナツムテとモザイクの姫

作者: 砂臥 環
掲載日:2026/04/05


「エミリア殿下! 私は『真実の愛』と出会った! 貴女との婚約を破棄する!!」


アッシュフィールド王立学園の在校生有志による、卒業の夜会──

後ろに可愛らしい女性を携え『ズビシ!』と効果音でもしそうなくらいの勢いで指をさしたのは、今しがた私の()婚約者になった、侯爵令息。


しかし、彼が指をさした先。


「あらあらまあまあ、貴方、この場がどんな場か理解しておいでかしら?」

「ハッ?! ……あ、貴女は!」


そこに私はいません。


侯爵家が私に贈った派手なドレスに似たもの(・・・・)に身を包み、それに合わせて誂えたヘッドドレスのベールを捲ると……


なんということでしょう!

そこにいるのはエミリア殿下ではなく彼女の姉殿下ではないですか!!


──という仕込みである。

ちなみに、贈られたドレスはちゃんと私が着ている。一応、礼儀なので。


「た、謀ったなァ~!!」


激昂すると同時に姉から逃げるように早足で向かってきた令息が、腕を掴む。


「きゃあ! なにをするのですか!」

「うっ?! その声は!?」


しかし、それも私に非ず。


それは私が頼み、似たようなドレスを着て貰った侍女だ。


「不敬だわ!」

「最低!」

「こんな場で非常識な……!」

「う、うう……」


私が贈った似たドレス姿の友人達が人混みの中から彼の元へと集まり、口々に非難する。


(う~ん。 私が描いた絵とはいえ、なかなかのカオスだわ)


ちなみにドレス代は勿論、私費。

『どうせ慰謝料貰うし』と、そこで補填するつもりで大判振舞いしてみた。


「お、俺は悪くない! 殿下が凡庸で見分けがつかない(・・・・・・・・)のが悪いんだぁぁッ!!」


(本音が出たわね)


凡庸はともかく、見分けがつかない──つまり見目から私個人を判断するのが難しい(・・・・・・・・・)のは事実。

夜会の度私に贈ってくるドレスが趣味の悪い派手な物ばかりなのは、目印(・・)である。


アッシュフィールド王家の末娘である私は、とても美しく産まれたらしい。

だがそれを妬んだ美貌の魔女に、認識阻害の呪いをかけられてしまったのだ。

美醜も含め自分ではわからないが、他者からはどうも見目や容貌が印象に残らなくなる様子。


とはいえこちらが乗り気でないのに捩じ込まれた縁談からの婚約。

なのに息子はこの為体(ていたらく)


趣味の悪いドレスも含めこっちだってイヤイヤだったが、己の特性のこともあり我慢してきた。

しかし舐められてばかりいられない。

こうしてちょっとした意趣返しはする。


なので今残念に思うのは、婚約破棄ではなく『前世で小説家になれたんじゃないかしら?』と自画自賛したオリジナリティ溢れる断罪劇……になる筈のモノが、なんかただの喜劇になってしまったことだ。


そう、私には前世の記憶もある。

今のところ、特になんの役にも立っていないが。


強いて言うなら精々『卒業の夜会≒婚約破棄』の目星(・・)くらいだが、喜劇的仕込みはしてもロマンス的な劇的(ドラマチック)展開には程遠いこの有様。

どうせ卒業の夜会で婚約破棄というテンプレを踏襲するなら、イケメンによる救済があってもいいところだというのに。


(まあ私には大それた願いよね~)


そんなことを考えた自分を鼻で笑う。


なにしろ呪いのせいで実は備わっているらしき美貌も『なんか超印象薄い女』変換されているのだ。

そんな都合のいいイケメンが現れる筈がない。

私自身、政略的な旨味から救済イケメンを気取りたい腹黒イケメンが、『あれッ!? 王女どこいった??』と困っているところくらいしか想像できないのだから。


「にしても、凡庸は余計よね……」


元婚約者が、オマケで自らやらかした不敬罪と無関係の女性への暴行未遂で騎士達に捕縛され、しょっぴかれて行く様を見ながら、そうボヤいた時だった。


「全くです」

「──えっ?」


横には見知らぬ怜悧な美貌の男性が立っており、ブルーグレーの鋭い双眸が射抜くようにこちらを見ている。

『すわ、救済イケメンか!』と大それたことを考えてしまい、内心で狼狽えた。


「失礼。 私はフリードリヒ・フォン・アルヴェンスと申します。 こちらにはヴァルデンベルクより留学した、妹と共に参加を」

「まあ……! アルヴェンス嬢のお兄様?」


学園には然程通っていなかった私も、留学生であるアルヴェンス嬢は知っている。

隣国であり友好国であるヴァルデンベルクから来た、優秀で美しい女性だ。

その兄君も有名なので、評判と名前くらいはわかる。


「……『白銀の(ズィルバー・)殲滅者(フェアニヒター)』というふたつ名をお持ちの?」

「お恥ずかしながら、どうやらそんな呼び名もあるようですね」


アッシュフィールドと隣国ヴァルデンベルクには、両国に面する広大な未開の地より豊かな大地や水源の恩恵と共に発生する、魔獣の脅威に晒されている。


彼……アルヴェンス小公爵は公爵家の嫡男という身分にも関わらず齢16にして出陣、最前線で兵を率いるばかりでなく自らも活躍し、多大な功績を挙げた。

そこで付いたのがこの『白銀の殲滅者』なるふたつ名だ。

隣国だけにこのふたつ名は耳にしていても、姿までは知らなかった。


(てっきり(いかめ)しく、猛々しい方だとばかり思っていたわ)


「愉快な劇を観覧する機会だけでなく、こうしてアッシュフィールドの宝石・第三王女エミリア殿下にお声掛けできる好機に感謝を」


彼は『目立ちたくない』というこちらの意を察し、軽い礼に留めながら小声でそう言う。


「あ、あら……私がエミリアとよくお気付きになられましたね?」


その美貌もさることながら、呪いと地位のせいで見つめられることに慣れない私は、アルヴェンス小公爵の真っ直ぐな視線に少しドギマギしてしまう。

しかも彼は──


「一目見てすぐわかりました」

「!?」


こんなことを宣ったのだ。


すわ、救済イケメンか!(※二度目)


「凡庸どころか、特別な方だ。 それに大変お可愛らしい」


(か、可愛らしいですって?! 馬鹿な……認識できてるワケがないッ! 怪しいわ!!)


コレは救済イケメンでは……という都合のいい考えが過ぎるも、言われ慣れていない褒め言葉に、湧き出る込み上げる不信感。


やはり(・・・)貴女が──」


続く言葉に身構えながら尋ねる。


「私は『やはり』……なんですの?」


しかし、返ってきたのは予想外の言葉。


「『ツマミナツムテ』です」


小公爵はキリリとした顔で、変わらず真っ直ぐな瞳でこちらを見ている。


「……」

「……(キリッ)」

「…………」


(……つま……なんですって?)


予想外……というか。

正直『なんそれ?』な謎の単語。

むしろなんて言われたか、イマイチ覚えきれなかった件。

こんなの予想できようがない。


いつの間にか会場は既に落ち着きを取り戻し、数多の視線がこちらへ注がれていた。

それに気付いた小公爵が誤魔化すように私をダンスに誘う。このままでは収拾がつかないので一旦受け、そのまま踊ることに。


「ええと……アルヴェンス小公爵? 先程のは一体……なにか聞き慣れない単語のようでしたが」

「ふっ。 そうでしょうとも」


出会ってから終始無表情な彼だが、ドヤっているようなのはなんとなくわかる。


解せぬ。

何故そこでドヤる。


「実は……私には特別な力があるようなのです(ドヤァ)」

「えっ」

「そして貴女はきっと、私の探していた『ツマミナツムテ』……!」

「……だからなんて?」

「それは、私がまだ14の頃……」

「え、長そう」


ダンスが終わった後でちゃんと聞くつもりだったものの、小公爵は私を王女と認識していない女子達にあっという間に群がられてしまい……卒業の夜会とあってそれを無下にできない、と思った私とその意を汲んだらしい小公爵との会話は視線で終了した。




☆☆☆




「お兄様、それで殿下はどうでした?」

「うむ……やはりあの方が『ツマミナツムテ』に違いない……!」

「まあ! やっぱり!」


私の言葉に妹も喜ぶ。



──私フリードリヒ・フォン・アルヴェンスは、生まれついての魔力の多さからか、人を取り巻く祝福や呪いが靄のように見えるという特技(・・)を持っていた。


幼い私はこの特技を嫌悪するどころか、自慢とすら思っていたのだが、残念ながらそれらは魔力が多ければ感じ取れるモノなので『異能』という程のことではなかった。ただ通常の場合には肌感覚のモノが、私の場合視覚にスライドしていただけである。


それに気付いた時は、非常にガッカリした。

『視界を塞がれてしまえばわからない』というのは、『肌感覚でしかわからない』よりもなんとなく下な気がして。


それから数年の時が経ち。

妹のリーゼロッテが7歳になったある日のこと。


「お兄様、私このままでは『悪役令嬢』になっちゃうの!」


朝からご機嫌ナナメだった妹は、私だけを部屋に呼び出し唐突にそう言った。

『前世の記憶』云々という妹の話は、まだ9歳の私ですら荒唐無稽と思う内容だった。

だが、私にはあの特技(・・・・)がある。

生まれた当初から妹についていた『祝福のようなナニカ』は、その時からなんと『妹に被さってチラチラ見える、異国の成人女性』に変わっていたのだ。


私は妹の話を信じ、両親に話した。


半信半疑だった両親も、妹の予言が当たったかのようにやってきた王宮からの茶会の招待状に認識を改めた。


その後、理解ある大人達の手を借り学園の体制の見直しや、王子並びに高位貴族子息への心構え及びハニートラップ等の教育を必須科目とし教育に組み込んだことで、私が14の頃にはもう妹の懸念する未来は概ね回避に至っていたけれど──それはさておき。


私の中には忸怩たる思いがあった。


(ぐぬぬ……何故妹だけが……!)


──コレである。


だってズルくない?

前世の記憶とかさぁ……

めちゃカッコよくない?


「私とて、誉と歴史あるアルヴェンス家嫡男ッ……! その為の努力は重ねてきた!!」

「齢14にして『氷の貴公子』のふたつ名を授かっただけで充分じゃないの」


いきり立ち、腹立ち紛れに稽古をつけながら公爵家騎士達を薙ぎ倒す私に、見事王太子の婚約者を回避し、ちゃっかりふたりの友人枠に収まったリーゼロッテはそう諫める。


「リーゼロッテ……」

「大体私の前世の記憶だって、未来の危機に関わること以外は、殆どしょうもないことしか思い出してないわよ? もう重要なこともほぼ忘れたし」

「未来の危機に関わることを思い出しただけでそれこそ充分だろう。 大体なんだよ『氷の貴公子』って」


確かに日々の訓練の賜物により、鉄壁のクールな表情筋は手に入れた。

しかし『氷の貴公子』は頂けない。

ふたつ名はともかく、嫌だ、そんな坊ちゃんじみたダサいのは。


ちなみに『妹に被さってチラチラ見える、異国の成人女性』は気付けばリーゼロッテと一体化しており、『祝福のようなナニカ』に戻っていた。

実際、私のこの能力も日々の中で育っているのだろうとは思う。


だが──しかし!


「私はこう……なんていうか『人智の及ぶところに非ず!』みたいなのが欲しいのだ」

「お兄様ったら、相変わらず厨二病なんだから~」

「『厨二病』? なんだそれは……前世知識か?」

「大体は成長と共に自然治癒する、黒歴史を作る病よ」

「『黒歴史』か……ほう……」

「あ、『黒歴史』って響きがちょっとカッコイイとか思ってるわね?」


思っているが、それはまあいい。


「神に願えばなんとかなるんじゃないの~」というリーゼロッテの言葉を『いい加減』と思いつつ。その夜、私は「なんか奇跡をください!」と神に願いながら寝た。

ただ妹を羨むよりも願う方がまだ建設的で能動的であることは間違いない。

また、日々努力はしているし『もしかしたら』という思いもあったのだ。


なんと願いは叶い、神は私にある歌を与えたもうた。


のんびりとしたメロディに乗る詩は天国のような情景の、なんとも意味深なモノ。


「これは……神の啓示に違いない!」


夢の中でそれを思い出した私は、起きるや否や覚えている限りをすぐに書き綴ったのである。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

緑色の風そよぐ 良き日──

蝶々が舞い踊る(不明)

七色の畑には(不明)

ツマミナツムテが愛らしい

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


不明な部分はあれど概ねこんな感じだ。

しかしひとつだけ、どうしてもわからぬ単語があった。


(──『ツマミナツムテ』とは……一体)


私はツマミナツムテを探す為、討伐に参加したりもした。内容からなにか愛らしく不思議な獣なのでは、と考えたのだ。


しかしそこでツマミナツムテだと思い捕えたものは、どうやら氷嵐竜(ブリザード・ドラゴン)という種であった。

まあ、折角なので『ツマミナツムテ』と名付け可愛がってはいるものの、私は真のツマミナツムテがなんなのかを知りたかった。


なので『隣国に留学する』と言い出した妹に、詩に出てくる『七色畑』と思しき場所が隣国にあったら知らせるようにと頼んでおいたのだが──


「お兄様……『ツマミナツムテ』はもしかしたら、アッシュフィールドの末の王女様のことではなくて?」


卒業式を前に一時帰省したリーゼロッテは、こんなことを言い出したのである。


私は『氷の貴公子』などという、クソダサふたつ名をつけたセンスのなさなどから、すっかり社交と女性が苦手になっていた。

そもそも話が合わないし、着飾った女性は正直皆同じに見える。

大方、そのせいで未だに婚約者のいない私に、隣国の末の王女という良縁を捩じ込む気なのだろう。

立場的に立候補する権利くらいはあるだろうが、王女殿下にも大変失礼な話である。


「同級生であることくらいしか繋がりがないくせに、全く図々しいヤツだ……大体、殿下は婚約されているのではなかったか?」

「それがここだけの話、卒業の夜会でその婚約者が婚約破棄を目論んでいるみたい」

「ほう?」

「ふふ……でも殿下は面白い趣向での断罪を考えておられるご様子で……私も友人の家でたまたま知ったのよ」


殿下とリーゼロッテに直接的な関わりはないが、ひとつ上に共通の友人がいるらしい。

その令嬢は招待状と共に趣味の悪いドレスを殿下から贈られたらしく、手紙に計画が記されていたようだ。


その話や殿下の呪いのことには興味を唆られたので、卒業の夜会でのエスコートを了承した。




(──なんということだ……!)


そこで拝謁したエミリア殿下のお姿は、衝撃的であった。


全体に美しくモザイクがかかっている。

私はその美しさに暫し見惚れていたが、次第に動きの愛らしさに心がときめいた。


今まで目にしたなによりも、不思議で愛らしい。

私は確信した。

彼女こそ、『ツマミナツムテ』に違いない──と!


(というか不用心だな、あんなところにおひとりで……)


卒業の夜会とはいえ殿下の御身が心配になり近付くと、途中で殿下の元婚約者の声。


「殿下が凡庸で見分けがつかない(・・・・・・・・)のが悪いんだぁぁッ!!」


(あ、皆にはわからないのか。 なるほど、これが呪い……)


素晴らしい。

なんて便利なんだ。


(しかも私だけは容易に判別可能というのも、なかなか……おっと、これは良くないな)


自尊心と独占欲が満たされるのを感じ、私は反省した。まだ婚約を申し込んでいるワケでもないのに、甚だ図々しいことを考えてしまった。

それに、呪いなだけに殿下はお望みのことでないに違いない。少なくともそれで婚約破棄に至った様子のこの場で喜ぶのは不謹慎だ。


ただその割に呪いを利用したこの意趣返し。

これを自ら計画していたなら、なかなか強かな方でもある。



殿下は終始こちらを警戒している様子で、それは私にとって大変好ましく映った。

社交を避けがちな私は当然ダンスも不慣れだが、流石は王女。殿下とのダンスは全く負荷を感じずもっと踊っていたい程。


ダンス後、煌びやかに着飾った女生徒達に群がられたが、失礼にならないようやんわり躱していると、妹が助けにきた。


「ごめんなさいね、皆様。 お兄様はあまり時間がなくて……今夜も私の卒業祝いに少し立ち寄って頂いただけなのです」

「リーゼロッテ」

「さあお兄様、参りましょう。 見送りますわ」


そう言って私の腕を組み会場の外へと連れ出すとすぐ、妹は尋ねた。


「お兄様、それで殿下はどうでした?」

「うむ……やはりあの方が『ツマミナツムテ』に違いない……!」

「まあ! やっぱり!」


私の目に、女性達はどれも同じような感じに映るが、殿下だけは特別だ。

輝いていた。

モザイク模様がチカチカと。


それは感情豊かで非常に愛らしく、私の心を弾ませときめかせたのだ。


(成程。 これが…………恋!)


しかし、少ししか話せなかった。


「ハッ、こうしてはおれん……!」

「お兄様?」

「魅力溢れる殿下には釣書が山のように届いているに違いない!」

「お兄様ッ?!」


相手は隣国の王女殿下、縁談はヴァルデンベルク王家からの打診になる。

焦った私は我が氷嵐竜『ツマミナツムテ』を召喚した。母国に戻る為に。


「他の縁談が決まる前に、整えてくるッ!」

「おにィさまァァァ!!」


妹の声が遠く聞こえる。

しかし私は一刻も早く戻らねばならないのだ。


そう『人生の伴侶(ツマミナツムテ)』を手に入れる為に──!




☆☆☆




「お兄様ったら……」


私は遠ざかっていく氷嵐竜を見詰め、そう呟いた。



──私リーゼロッテ・フォン・アルヴェンスは7歳の時、異世界転生したことに気付いたいわゆる転生者だ。

なんか悪役令嬢モノの小説の世界に転生したのだが、回避したらそのへんの記憶が薄れてしまい、もう殆ど覚えていない。


自身の問題を回避してからの心配は専ら兄のこと。

全体的にハイスペックだというのに、重度の厨二病に罹患しており、妙な方向性で能力を発揮するようになっていた。


謎奇跡を起こし夢で見たという『神の啓示』などと宣う詩は、厨二病変換でおかしなことになってはいたが、おそらく童謡『みどりのそよ風』……


だが、兄は詩を厨二病変換しただけでなく、わからない部分の独自解釈により『ツマミナツムテ』という謎の存在を創り出したのである。


まあ面白いから放置してたんだけど。


第一、折角の奇跡ではあるわけで。

それに対し「お兄様、それは多分『摘み菜 (を) 摘む手』よ」とか水を差すようなことは言えないわ。ガッカリしちゃうだろうし。


しかし、そのせいで討伐に行くと吐かした時は流石に動揺した。

童謡だけに。

しかもピンピンして帰ってきただけでなく「ツマミナツムテを捕まえたぞ!」と氷嵐竜を捕まえ使役した時には更に動揺……というか驚愕した。


(そういや殆ど覚えてないけど、この兄って小説ではシスコンで、王太子の婚約者となって虐げられた()の為にとんでもねぇ物理ざまぁをぶちかましたような……?)


私が読んでいた小説の詳細はもう忘れてしまったが、流行りの『悪役令嬢モノ』である程度テンプレを踏襲している為、今もあらすじくらいは余裕で思い出せる。


流行りのテンプレらしく、最終的には悪役令嬢(ヒロイン)大逆転&ざまぁオチ。

逆転ざまぁとはいえ、なんやかんやゴタゴタの末、王家の意向で早くから王宮に入りそこで酷い目に遭う。

そんな不遇体験ノーサンキューなので回避に走ったワケだが、誤解やすれ違いはあれど元々家族とは仲良し設定だった筈。


幸い、今の兄はシスコンでもなければ私も虐げられてはいない。

しかし私は、この兄を『ハイスペック厨二病危険人物』と認定した。


とりあえずまだ覚えている限りの小説の記憶を駆使し、私は早くから隣国に留学をすることにした。

確か小説のシスコン兄は留学する(それで妹のピンチに気付けなかった)筈なので代わりに行っとこう、的な。



留学先の隣国・アッシュフィールドはなかなか素敵なところで、お世話になっている先の伯爵令嬢とも仲良くなった。

そこから色々出会いもあり私はこの国に骨を埋めることにしたが、両親も特に反対しなかった。


ただ気になるのは兄である。

兄は相変わらず厨二病に罹患しっぱなしのようで、『氷の貴公子』というふたつ名を嫌い社交に出ず、婚約者どころじゃないと言う。

尚、『白銀の殲滅者』の方は割と気に入っている模様。


私が気にしているだけでなく、両親も心配しているようで、

『そちらに我が家と釣り合いの取れた、フリードリヒが気に入りそうな相手はいないだろうか。 貴族で嫡男の嫁に相応しい胆力と品性が備わってさえいれば、多少身分は低くとも構わない。また、品性はこの際ポテンシャルでも可』

という、なかなか切羽詰まった手紙が送られてきた。


(『気に入りそうな相手』ねぇ……それが一番難しいっていうか)


「──あ、でもいることはいるな?」


思い当たるのはひとりだけ。

呪いを受けしアッシュフィールド第三王女・エミリア殿下である。


条件は『ポテンシャルでも可』どころか、むしろ最高。

友人からの話や各所の評判での為人(ひととなり)は、真面目ながらも柔軟。呪いを上手く利用し、市井での奉仕活動や息抜きに使ったりしているというなかなかの面白さ。

本当は物凄い美女らしいが、それはまあどうでもいい。容貌や富や権力は価値基準としてわかりやす過ぎて、厨二病である兄は大した興味を示さないのだ。


両親にはなにひとつ親孝行をできなかったが、このお膳立てが上手くいけば泣いて喜ぶこと請け合い。


殿下にしてもアッシュフィールド王家にしても、少なくとも今の婚約者よりは望ましい相手であることは間違いない。


(勝算はあるわ)


私を助けてくれた兄の特技……アレだ。

評判通り強い呪いなら、兄の目には殿下がなんかしら特別に映るんじゃなかろうか。

『特別』──それは厨二病患者の心を揺さぶるのに、最も有効なモノと言っても過言ではない。



「お兄様……『ツマミナツムテ』はもしかしたら、アッシュフィールドの末の王女様のことではなくて?」


兄は厨二病だがボンクラではないので、私の意図するところなどお見通しだった。

だがどうせこの兄は、こうと決めたら誰の言うことも聞かないので、興味を引くことができれば問題ないのだ。


そして『ツマミナツムテ』を引き合いに出せば、兄は十中八九食いつく。

あとの展開はそれこそ『神のみぞ知る』だ。



結果──

兄は殿下を『ツマミナツムテ』認定したらしい。


「他の縁談が決まる前に、整えてくるッ!」


こう言い残し、兄を乗せた氷嵐竜(ツマミナツムテ)は母国ヴァルデンベルクへと旅立って行った。

最早その姿は見えず、夜空には星が輝くばかり。


(どう見えてるか聞きたかったのに……)


「──ま、いっか」


どうせ戻ってくるし。

私は踵を返し夜会会場である学園大ホールにに戻り、友人達と合流することにした。



夜も兄の恋(?)も、まだ始まったばかりなのだから……!





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― 新着の感想 ―
白銀の殲滅者>>>氷の貴公子、圧倒的に軍配が上がりますね。 呪いはひどいと思いましたが、それにへこたれないお姫様、そしてその呪いによって惹かれるヒーロー! 呪いが祝福に代わった瞬間、って思いました。 …
『白銀の殲滅者』カッケェ( ˘ω˘ )
タイトルから、はじめは「ホラーかな?」 と思いますたw 婚約破棄ザマァテンプレの面白い捻り方でした♪ フリードリヒの厨ニっぷりが素晴ら〜、ですた♪wwwwww 是非ともエミリアとツマミナツムテと三位…
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