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失恋ソングは歌えない

作者: みけめがね

見える景色は青々とした田んぼと山のみ。そんな駅のホームに私はいる。

姿が見えない幾千の蝉の声がこだまして、森が風を受けてざわめくと、木々の隙間から漏れ出た木漏れ日がふわふわと頭上を動き回る。

朝10時。通勤ラッシュはもう過ぎている。

腰の曲がったおばあさんと、会社に向かうであろうスーツの社会人が2人待っていただけだった。



三分後、二両編成の都会人から見たらミニチュアサイズの電車が駅に到着した。

私は生まれてこの方、4両以上の電車には3回ほど旅行でしか乗ったことがない

こんな私が上京したらどうなってしまうんだろう。

多分今の自分じゃ五日で地元に戻ってくるか、一生戻って来ないかのどちらかになる。

そう思いながら電車に乗りこみどこに座ろうか車内を見渡す。


「?……!?」


私は華麗な二度見をかました。

そこにいたのは中学の時私が密かに片思いしていた男子の(はじめ)くんで

なぜか髪がピンク色に染まっていて、一人で座席に座っていた。

私の頭の中は混乱とハイ状態が入り乱れていた。


(えぇ…見間違いじゃないよね……? 創くんなんでどうして髪の毛ピンクにした??? てかなんで今日なんだ? メイクしてないオワタ……てかまじで創くんの髪の印象強すぎるだろおい)


最終的に私は一人の限界オタクに成り果てた。

電車のドアが閉まる。

ボケーっと立ち尽くしていた私は、急いで創くんの死角の別の座席に座る。

やっぱり意識し始めると人間というものはそう簡単に戻れないようで、電車に乗っている間もチラチラと見てしまう自分がなぜかやるせない気がした。

創くんは私が遊びに行く市街地のど真ん中にある高校に通っている。

今は何をしているかなんて、一つも知らない。知る由もない。

多分今日も学校なんだろうか、そう思っているうちにまた彼の座席の方を見ている。


彼との出会いは、小学生の頃だった。都会からの転校生だった創くんは何かといじられキャラというか、そんなポジションだったのを覚えている。

小学生の時に彼と教室で二人きりになったことがある。

胸がどきどきして、顔が異様に熱くて、


『ここで言っちゃえば?』


と心の中にいるもう一人の自分が急かす。最終的に袖を掴むこともできなかったけど、少なくとも、あの時撃沈してれば私はこの恋にここまで苦しむことは決してなかったのに。


中学生になって同じ部活に入った。当たりが強かった他の部員に比べてちょっと優しかったのかな、当時

の私はそれはもう嬉しかっただろう。多分その時は彼に彼女がいたのは風の噂で知ったけど、まぁ彼に彼女ができるのはしょうがないよな、と認めていた。諦めていた。


『終点〜』


気がつくと終点の目的地の駅に着いていた。

電車から降りて、まず創くんを探す。人波はラッシュじゃないため比較的緩やかだが、創くんの姿は見えない。


(もう行っちゃったかな……)


そう思って若干どんよりと気持ちが沈んだまま改札の方を向いた。


「よっ! スイじゃん、元気してた?」


先に行ってしまったであろう創くんが目の前にいた。

ピンク色に染まった髪が風にふわふわしている。


「はっ……創くん! こんにちわ……」


憧れの人を前にして、私の声はぐわんと裏返り、そそくさと陰に隠れるように急激に小さくなる。


「今日平日だけど、学校は?」 


「あ、今は定時制高校に行ってるから今日はその、なんて言うか……」


「気晴らし?」


「そ、そう! 気晴らし……!」

 

本当の理由は大方暇つぶしだけど、訂正しないことにした。

それからは、ほぼ無言で私たちは改札を抜けて駅を出た。

赤信号の前で創くんが立ち止まる。私も足を止める。

声をかけるなら今だ。


「創くんは今何してるの?」


「ん? 今は絵やってる」


「絵? 創くんスポーツ得意だったのに意外だな〜」


「まぁね、じゃあ俺、こっちの道だから」


目の前の信号がパッと青に変わる。まとまった人混みが一気に前へ動き出す。


「うん、じゃあ」


「またね」 「おつかれ」


私のまたねと創くんのおつかれ、二つの言葉はぶつかってそのまま宙に浮いた。

私は人混みに飲まれて消えていく、創くんの背中を見送ろうとしたが、背の低い私にはすぐに見えなくなった。

その時、私にはもしかしたら、創くんにまたねを言う機会はもう無いのかもと思って胸が少し痛かった。

そのあと私は全速力でカラオケへ走った。でも、失恋ソングは一曲も歌わなかった。

ここで私がこの気持ちを認めてしまったら、彼との距離がもう一生縮まらないような気がしたから。

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