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第8話「小さな安心」
ぼくは、しばらく財布の奥でじっとしていた。
景気が冷え込み、人々の財布の紐は固く、なかなか外の光を浴びることもなかった。
ある日、ぼくはようやく取り出される。
向かった先は近所の100円ショップ。
以前は「安かろう悪かろう」と言われていたその店も、この不景気ではすっかり人であふれていた。
若い夫婦が、かごに日用品を次々と入れていく。
洗剤、食器、ノート、子どものおもちゃまで、みんな百円でそろう。
「ここなら大丈夫だよ、全部百円だから」
そう言う夫の声に、妻は少し安心したようにうなずいた。
レジで次々と仲間たちが吸い込まれていく。
ぼくも手の中で汗ばんだまま待っていた。
やがて店員の手が伸び、チャリンと音を立ててレジの引き出しに滑り込む。
ぼくは思った。
いま、人々に必要とされているのは贅沢じゃない。
ただ「百円」で買える、ほんの少しの安心なんだと。




