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第7話「願いの中で揺れる」
あの家族はどうなったのだろう。
父も、母も、長男も、まだ幼い妹も。あの日、あの家から逃げられたのか。
ぼくには知る術がない。瓦礫の下で長い時間を眠っていたぼくは、今は神社の賽銭箱の中にいる。
硬貨たちが落ちるたびに、木の箱が低く響き、周りからは柏手の音や祈りの声が聞こえてくる。
「どうか今年こそ、いいことがありますように」
「家族が健康でありますように」
「受験に受かりますように」
人の願いの数だけ、ぼくたちは積み重なっていく。
けれどぼくは、投げ入れられるたびに胸の奥がざわつく。
ある晩のことだった。
境内が静まり返り、人影もまばらになった頃、賽銭箱の中へ伸びてきた手があった。
ざらついた指先が、ぼくたちをかき集める。息をひそめるような動き、
――それは賽銭泥棒だった。
「すまん、神さま……もうどうにもならんのや」
そう小さく呟いた声が、耳の奥に残った。
その人のポケットの中でごちゃりと揺らされ、やがて深夜のスーパーへ。
割引シールが貼られた弁当を手に取り、レジでぼくは放り出される。
「198円になります」
機械的な声と共に、ぼくはまた別の誰かの手に渡った。




