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第5話「小さな変化、大きな日常」
平成になって間もなく、世の中に“消費税”という新しい風が吹いた。
世間は「たかが数円」と笑う声もあったが、ぼくにとっては大きな変化だった。
百円玉はもう“完全な一人役者”ではなくなったのだ。
それまで、ぼくは一枚で飲み物を買える存在だった。自販機の投入口に、軽やかに滑り込む。
それだけで、缶コーヒーは落ちてきた。
だがある日を境に、ぼくは必ず小さな仲間と一緒になった。
十円玉。
「お前一人じゃ、もう買えないんだぜ」
そんなことを言われた気がして、ぼくは黙り込んだ。かつては一人でゴールできた自販機のスロープも、今は必ずその子と肩を並べて走るようになった。
ある日、自販機の前で財布をまさぐる人たち。
「あ、あと十円足りない…」
そう呟いて、買うのをやめる人もいた。ほんの少しの金額なのに、その少しが届かない。
時代は変わった。
ぼくは一枚では、もう役に立てない存在になったのか。
いや違う、人々は確かにぼくを使い続けた。
「あとちょっと」の希望を託すように、ぼくを仲間と重ねて差し出した。
小さな変化は、やがて大きな日常になった。
それを受け入れながらも、ぼくは心のどこかで願っていた。
もう一度、あの頃のように、一人で誰かの役に立ちたい。




