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百円玉の記憶  作者: 仙道 神明


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第4話「すれ違う時代」

やっと、暗い自販機から出られたぼくは、チャリンとレジの中に吸い込まれ、金属の仲間たちとぶつかり合った。

そこには、ぴかぴかに光る平成の顔を持つ新入りたちがいた。


「お前、昭和か?」


無邪気な声に、ぼくは少しだけ胸を締めつけられる。


彼らは軽やかに銀色を輝かせ、まだどこにも傷ひとつない。ぼくは長い旅の痕を刻み、少し曇った顔をしていた。


チャリン、とレジの中から呼ばれたのは久しぶりだった。ぼくはレジ係の女性の指先から、小銭受けに移された。


そこには、買い物を終えた主婦らしき女性の手が待っていた。その手は、細く、少し荒れていて、爪の端に小さなひび割れがあった。


袋とお釣りを受け取り、彼女は足早に店を後にする。


夕暮れの道を歩きながら、時折買い物袋が揺れ、ぼくはその中でカランと鳴った。アパートの前で「おかえり!」と小さな声が聞こえる。


出迎えたのは、小学校低学年くらいの男の子。母子家庭らしく、家の中は質素だが、温かい匂いが漂っていた。


「すぐご飯作るからね」


そう言って彼女は小さな缶の貯金箱を取り出す。

ぼくは他の硬貨たちと一緒に、その小さな口から暗がりへと落ちていった。


そこは狭く、静かで、でも不思議と安らぎを感じる場所だった。


世の中はまだバブルの余韻を引きずっていたが、この家には関係がないようだ。スーパーのチラシを何度も見比べ、数円でも安い店を選ぶ声。


「今月は…ちょっと厳しいな」


小さくつぶやく母親の声が、缶の外で響く。


ある晩、静かに貯金箱の蓋が開いた。

中に差し込む蛍光灯の白い光が、ぼくを照らす。

ごそごそと手が入り、ぼくたちは一枚ずつ外へ運び出されていく。


財布へ、そして翌日にはレジの中へ。


ぼくは知っていた。


これは“貯金”ではなく、“やりくり”のための一時預けに過ぎなかったのだ。


昭和から平成に変わっても、景気の波はこの小さな台所まで届かなかった。


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