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プロローグ
百円玉が見つめた半世紀。人の温もりと時代の記憶をつなぐ、静かな物語です。
ぼくが生まれたのは、昭和四十五年のある日。
鋳造所の明るい灯の下で、銀色の仲間たちと一緒にこの世界に送り出された。
最初はピカピカで、表面の桜もくっきりと輝いていた。
ぼくの値打ちは、間違いなく百円。
けれど、そこに込められる意味は、人によってこんなにも違うとは、その時のぼくはまだ知らなかった。
鋳造所から運び出され、厚手の布袋に詰められたぼくたちは、金属同士がカチカチと鳴る音に包まれながらトラックに揺られていった。
袋の外から差し込む光は眩しく、どこか遠くの知らない世界へ向かう予感がした。
最初に降ろされたのは、地方都市の銀行だった。
ガラスの大きな窓から差し込む陽の光が、ぼくの表面を一層輝かせた。
数日後、銀行員の白い手袋がぼくを掴み、別の袋へと移す。それが、ぼくにとって“最初の旅”の始まりだった。
この先、どんな手に握られ、どんな瞬間に使われるのか⸻
ぼくはまだ何も知らず、ただ胸を高鳴らせていた。




