Lightning in the blue sky{18}
なんにせよ、
青い空に、稲妻は、よく似合う。
稲妻が、走る。
稲妻が、落ちる。
青天から、落ちる。
青天に、走る。
空から地へ。
いや、正確には、宙から地へ。
気象衛星は、観測する。
大気の動き等を観測し、地上に、伝える。
地上では、それを元にして、気象予測を、する。
気象衛星は、落とす。
人工的な稲妻を、地上に、落とす。
地上に、気象予測した結果を元に、気象制御の為の稲妻を、落とす。
未だ、人工的には、微々たる稲妻しか、起こせない。
そんな稲妻では、気象制御に、使えない。
稲妻の威力を、増幅する必要が、ある。
気象制御に使える稲妻にする必要が、ある。
それには、増幅装置が、必要。
増幅装置と云うか、そう云うものが、必需。
色々、試した。
無機物から、有機物まで。
鉱石・薬品から、昆虫・動物まで。
結果、一つのものに、落ち着く。
人間に、落ち着く。
それも、濃い記憶を所有している人間、に。
濃い記憶を持っている人間ほど、役に立つ。
気象制御の為の、稲妻増幅に、役に立つ。
記憶が濃い程、稲妻は、増幅される。
が、身体に、電気(稲妻)が走る訳なので、無事には、済まない。
人間の神経や脳には、電気信号が走っている訳なので、無事には、済まない。
代償として、増幅装置になった人間からは、失われる。
増幅装置として使われる度、記憶は、失われる。
新しい記憶から、最近の記憶から。
法律が、制定される。
その法律の為、気象制御を名目に、人が、強制的に招集される。
体のいい、祭の際の人身御供、戦時の赤紙招集。
招集する人間は、その資格から、高齢者が、多くなる。
が、『濃い記憶を持っている』資格さえあれば、若年者も、招集される。
表立っては、苦情を、言えない。
災害を防ぐこと、多くの人の利便に関わること。
そうやって、善意の犠牲者を出し、日々は、続いてゆく。
{case 18}
『なあなあ』
アンキ2号が、話し掛ける。
気象衛星のアンキ2号は、先日、帰って来たばかりだ。
話し掛けた先は、これまた気象衛星の、ローザ1号。
アンキ2号と入れ替わりに、ローザ1号は、宇宙に飛び立つことになっている。
だから、二人(二機?)の逢瀬は、今しかない、短い。
『今回は、どんだけ、落としたん?』
『う~ん。
一週間に一回ペースやったから、ざっと約二十四回』
『割と、多いな』
『うん。
読めない天候不順が多かったから、それぐらいになった』
『二十四回も、電気走ったんや。
かわいそうに』
『そやな。
カンペキ、記憶、失くしとるやろな』
アンキ2号とローザ1号は、搭乗員を、思いやる。
『すぐに、出発ちゃうの?』
ローザ1号が、アンキ2号に、問い掛ける。
『明日』
『誰が乗んの?』
『初老のご婦人』
『うわっ』
『「うわっ』やろ。
一番ダメージ受ける世代やん』
『そやな。
後、大変やな。
俺らは、知らんけど』
『知らんけど』
ローザ1号とアンキ2号は、苦笑する。
『あのさ ・・ 』
アンキ2号が、口を、開く。
『 ・・ やっぱ、温暖化って、進んでんの?』
『う~ん ・・ そやな』
ローザ1号は、認める。
『昔より、稲妻落とす回数、増えたし
昔より、航行日数、増えたし』
『そうなん?』
『そう。
昔は、一航行で一回くらいやった。
航行期間も、
「三ヶ月飛んで、三ヶ月休んで、三ヶ月飛んで、三ヶ月休んで』
みたいな感じやったし』
『今、一航行で六回落として、飛ぶ期間も六ヶ月になってるやん』
『そう。
だから、君が出来て、二機体制になってん』
ローザ1号は、アンキ2号に、明かす。
『なるほど。
これから、どうなるんやろか?』
『そやなあ。
温暖化は、ますます進むやろうから、今以上に稲妻落としが増えて、
俺ら気象衛星の負担が増えるわな』
『あかんやん、マズいやん』
『だから』
『だから?』
『三機体制になるんちゃうか』
『「俺に後輩ができる』ってことか』
『そやな』
アンキ2号は、満更でもない顔をする。
『どんなんやろ?
女の子やったらええな』
『俺らに、性別ないやん』
『性別無いけど、それはほら、雰囲気で』
『雰囲気な~。
まあ、俺も、その方がええけど』
『そやろ、そやろ』
アンキ2号は、満足気に、頷く。
『ほな、どんな子がええ?
ギャル系か?』
ローザ1号が、アンキ2号に、訊く。
『う~ん。
キル・ビル系、かな』
『キル・ビル系 ・・ なんとなく分かる』
『そっちは、どやねん?』
『う~ん。
特撮・戦隊もの系かな』
『ああ、なんとなく分かる』
『分かるやろ』
『三機揃って』
『揃って』
『フォーメーション組んで、決めポーズしたりして』
『それ、ええな』
アンキ2号とローザ1号は、笑い合う。
『あの子なんか、ええんとちゃうか?』
『誰や?』
『この間、俺に乗って記憶失くした子』
『女の子?』
『女の子』
ローザ1号は、肯定する。
肯定して、続ける。
『親分からんほど、記憶失くしてたし』
『あ~、それは、「一生、気象センター預かり』やな』
『だから、「死んだ者』として扱われるから』
『扱われるから?』
『その子の本能データ』
『うん』
『新しい機体に、インストールしたらええねん』
『なるほど ・・ ちゅーと』
『うん』
『新しい機体に』
『うん』
『人格、持たすわけか?』
『そういうこと』
ローザ1号は、頷く。
頷いて、続ける。
『そうしたら』
『そうしたら?』
『三人で、おしゃべりできるやん』
『そやな、それもええな』
『女性の視点も得られるし』
『なるほど』
アンキ2号は、感心する。
感心して、続ける。
『でも』
『でも?』
『最近の子は、SNSとか、むっちゃ駆使してるんやろ』
『まあ、産まれたからスマホとかに囲まれてた、
デジタル・ネイティブやからな』
『俺、インスタとかLINEとか、そんなん知らんで』
『そうなんか』
『話題の接点、全然無いやん』
『う~ん』
ローザ1号は、考え込む。
閃いて、続ける。
『「推し』を話題にするのは、どや?』
『推し?』
『特定の人物とかキャラとか、作品とか製品とかに、
むっちゃ愛情を注ぐこと』
『ああ、なるほど。
お前は、あんの?』
『あるで』
『何?』
『ゆるキャラ』
『ゆるキャラ?』
ローザ1号の答えに、アンキ2号は、顔を曇らす。
『うん、ゆるキャラ』
『あの、ご当地キャラみたいなやつ』
『そんな感じ』
『どこの』
『京都の亀岡のやつ』
『また、マイナーなやつを』
『そう言うなや。
「明智かめ丸』君って言うねん』
『明智かめ丸 ・・ 知らんな』
「ほれっ』とばかりに、ローザ1号は、アンキ2号に、スマホの画像を見せる。
『 ・・ かわいいやん』
『やろっ』
ローザ1号は、ご満悦。
『何で人気無いんやろ?』
『何でやろ?』
ポンッ
アンキ2号は、手を打って、思い付く。
『毒』
『毒?』
『かわいいのみで、毒が無い』
『かわいかったら、ええんとちゃうか?』
アンキ2号は、チッチッチッと、指を振る。
『それだけでは、あかんねん』
『あかんのか?』
『ミニオンしかり、ショーンしかり、ふなっしーしかり、
みんな、どこかにそこはかとなく、毒あんねん』
『 ・・ そういや、そやな』
ローザ1号は、得心する。
得心して、続ける。
『なら、どうしたらええねん?』
『方法は、二つある』
『一つ目は?』
『そのキャラに、毒を持たせるのが一つ。
でもこれは、諸刃の剣』
『何で?』
『上手くいけばええけど、ハマらんかったら、既存のファンも逃げてゆく』
『ああ、なるほど。
もう一つは?』
『そのキャラとは別に』
『別に』
『毒を吐くツッコミキャラを、新しく登場させる』
『新キャラか!』
『かわいいけど、毒吐くキャラなら、モアベター』
ローザ1号は、ここで、閃く。
『そや!』
『何や、急に』
『俺らも、ゆるキャラ作ろう』
『それ、ええやん。
気象衛星キャラ、ってことか?』
『そうそう。
モデルは、俺たち』
ローザ1号は、親指立てて、自らを、指差す。
『「かわいいけど、毒吐くキャラ」で』
『そうそう』
『案外無いから、イケるんちゃうか』
『そんな気がする』
アンキ2号は、考え込む。
『ほな、デザインが重要、やな』
『デザイナーの選定、やな』
『もへろんさんとか、どうよ?』
『もへろんさん?』
『ひこにゃんとか、たわわちゃん描いてる人』
ローザ1号は、ほくそ笑む。
『儲かりそう、やな』
『そやろ』
アンキ2号も、ほくそ笑む。
『 ・・ あ、でも』
『でも?』
アンキ2号の口籠りに、ローザ1号は、ツッコむ。
『「儲け過ぎはあかん」って言うやん』
『何で?』
『ほら、反比例的に動くから』
『何が?』
『ミクロ経済と、マクロ経済』
『はい?』
『だから、 ミクロ経済とマクロ経済』
急に、アンキ2号は、アカデミックな話題を、振る。
『ミクロ経済の範囲で儲けてる分にはええけど、
儲け過ぎてマクロ経済の範囲に、足を踏み入れてしまうと、
「結局のところ、損する」って言うやん』
『ああ、なんか、聞いたことある』
朧げながら、ローザ1号も、同意する。
・・ ・・
・・ ・・
ローザ1号も、アンキ2号も、動かない。
気象衛星が二台、屹立しているだけ、だ。
動いているのは、その二台を見つめてブツブツ言っているやつだけ、だ。
二台に、アテレコをしている、らしい。
アテレコしているのは、先日帰って来た、アンキ2号搭乗員。
記憶を失くした元搭乗員。
心情を吐露しているのか?
ローザ1号とアンキ2号に託して、自分の思いを、吐き出しているのか?
「どうします?」
「どうもこうも、家族が引き受け拒否してるんやから、
気象センター預かりにしなしゃーないやろ」
「ほな、一生、気象センター暮らし、ですか?」
「そうなるな」
「うわっ、無期懲役みたいなもん、ですやん」
「まあ、そうとも言えるわな」
「ゾッと、しますね」
「本人には関係無いやろ」
「無いんですか?」
「記憶とか無いんやから、そこらへん、分からへんやろ」
「まあ、そうですね」
「やから、俺らが気にすることは無い」
「はい。
粛々と、業務に従事します」
「それでOK」
{case 18 終}
{了}