第38話 みんなと会話ができるのは、どうやら俺だけらしい。
『アサヒ、君はもしかして、ドロップスと話せているのか?』
「――え、ええと。まあ」
俺の返答に、アイスは一層驚きを強める。
たとえ精霊であっても、その上にいる大精霊であっても、これまでドロップスと意思疎通できた者はいなかったらしい。
『ドロップスは何て?』
「あー、うーん……」
「……アサヒくん、誰と話してるの?」
『人間、その精霊は何を話しているのだ?』
相手を視認できない、もしくは言葉が通じない別々の種族が集う中、エルル、アイス、ドロップスが、それぞれ説明を求めるようにこちらを見ている。
木の陰でチーズフォンデュ会を続けていたほかの精霊たちも、何かあったのかとこちらを気にし始めた。
――これは、誰に何をどう説明したらいいんだ?
俺はこの世界に来たばかりで、この森のことや精霊のこと、ドロップスのことをほとんど知らない。
俺の独断で今の均衡を崩すのは、とても危険な気がした。
「――――こ、この翼が生えた馬は大丈夫そうだ。エルル、突然驚かせてごめんな」
「う、うん。私は全然。かばってくれようとしたんだよね、ありがと」
俺はいったんドロップスと精霊を無視して、一番状況が分かっていないであろうエルルを優先することにした。
俺の言葉だけは、今この場にいる全員に伝わる。
この状況で俺が何を考えたのか、アイスとドロップスなら分かってくれるだろう。
アイスは小さく肩をすくめつつも理解したようで、何も言わずに仲間たちの元へ戻っていった。
ドロップスもそれ以上は何も言わず、ただ「翼が生えた馬」を演じてくれている。
まあそれ自体、どう考えても無理があると思うけど!
「でもこの子、大人しいね! ここにいるってことは、元々結界の中にいたってことだよね? 閉じ込めちゃってごめんね」
エルルはそう言ってドロップスに近づき、そっと撫でる。
ドロップスは大人しくしているが、正体を分かってないとはいえこっちがハラハラしてしまう。が。
『――ふ。優しい娘だな。我は大丈夫だ、気にするな人間』
ドロップスはそっとこちらを見て、こっそりと思念を飛ばしてきた。
器の大きいドロップスでよかった……。
「ねえアサヒ、この子に食べ物を分けてあげるのはダメ? 人間の食べ物は食べないかなぁ? 馬って何が食べられるんだろう……」
「あ、ああ、いいんじゃないか? でもさすがに馬の食事情までは俺も」
『我は馬のような姿をしているが、あくまでドロップスだ。食に関する制限はない。ゆえに問題ない』
そう言ったドロップスの目が、心なしかキラキラ輝いているように見えた。
まあ元々チーズフォンデュ狙いだったしな!
「――と思ったけど、まあ大丈夫だろう」
「アサヒくん、分かるの!?」
「え。あ、ああー、まあ何となく?」
「すごい! 何でも分かっちゃうんだね。アサヒくんがそう言うなら私は信じるよ。えへへ」
よく分からないけど、またエルルからの俺の評価が上がってしまった。
大丈夫かな、俺……。はあ。




