食
気がつけば病院のベッドにいた。
彼が私を殴り続けたことで、気絶してしまったようだ。
彼は慌てて救急車を呼んだのだろう。
「大丈夫ですか?」
綺麗な看護師さんが声をかけてくれる。
「あ、全然、。」
「痛みとかは」
「ないです」
手続きをして、病院を出た。
彼は私を病院において先に帰っていたようだった。
結局死ねなかったな。
幸運なのか不運なのかはわからないが、私はまだここにいる。
そういえば、カツ丼、食べに行こうと思ってたんだ。
お腹も空いたし、お昼ご飯程度に食べに行くか。
カツ丼屋につくと、店長が私に真っ先に声をかけてくれた。
「おいおい、大丈夫か?顔腫れてるけど、、、」
「あはっ、大丈夫ですよ、蚊に刺されまくったんです」
「絶対ちがうだろ、病院レベルだぞ、、、」
店長は勘が鋭いな。
「あら、大丈夫?」
「心配ね」
厨房の奥から親しいおばさん達が出てきて、心配してくれた。
店長の言葉を聞いていると、こんなだめな私でも前向きになれる。一種の精神安定剤だ。
「いつものカツ丼で、あ、量は少なめでお願いします」
「はいよ」
店長の声が厨房に響く。
運ばれてきた卵が乗ったカツ丼は、食欲をそそった。
「いただきます」
箸を手に持ち、カツ丼を食べ進める。
おいしい。
気がつけば涙が零れていた。
「おい、ほんとに大丈夫なのか、」
「だ、だいじょぅ、ぶですよぉ」
「嘘つけ、大丈夫じゃないだろどう見ても」
嘘、だよ。
大丈夫じゃないよ。
ずっと、大丈夫じゃないよ。
「うぅ、、、」
涙も鼻水も出てくる。
いつだって映画のヒロインは、鼻水を全く出さずに可愛げに泣けるけど、私はそうじゃない、汚い泣き方で嫌になる。
「あの、」
とっさに顔を上げる。聞きなれない声だったから。
「カツ丼、嫌いですか」
目の前には、この店ではあまり見ない、若い男性が立っていた。