第四章『魔を統べる者』第一節
第四章『魔を統べる者』第一節
"■をもがれた者"、"■を溶接で閉じられた者"。
"■■に■■を■りたくられた者"もいれば、"■を熱線で真二つにされた"とて、"未だ"。
"熱と水も炙るために存在せし煮沸気流"に乗っては、数多の微細な者たちさえ身悶えしながら熱風に舞い——"すべては未だ息衝く命"。
(——)
眼下には『溶ける■球』、『爛れた■』、『焦げた■■』の数々、沸る脂で重みを増す高分子の悪臭にも満ちて。
先の"届けられた音声"に聞こえて曰く『父母を探して泣き喚いていたのであろう赤子』でも、とうに喉は■れていて。
多く皆は血色素の赤や青の、自身から溢れ出した色取り取りの池に沈着しても。
それら数えるにも酷な"溢れんばかりの苦痛"を経て、剰え今尚に"永久無限の成った世界"で『逞しく生きることを強いられて』も——その他、様々、数多く。
(————)
全ては、大気を炙る陽射しの下。
葉の燃え尽きて尚に日光を浴びる枯れ木の頭上にも曇りなく。
熱に侵された傷病者の数々に我らの考え得る『残酷』、『許されざる行為』、『虐殺』の限りは尽くされ——其処にあったのは"数多の憂い"、"悲しみ"。
それらも見遣る女神にとっては、かつての"自ずと滅びた暗黒世界に酷似した光景"で『何処か懐かしく』さえ感じられるもので——"いいや"、"否"、"否"だ。
("————")
——"悲劇"は私の見たいものでは、"書きたいものではない"。
たとえ偽りなくには『斯様な惨状にすら嬉々』として思う自分のいれども、だとして残酷主義でも『描写したいから』と言って、『現実に成し得てならぬ』と。
つまりも、"惨劇は真に実現すべき理想でもなくば"、『見飽きた陳腐』としても——『真に理想とは』を示すため、此処まで歩みを進めてきたのだ。
「……よもや——」
よりても、『"聞き届けた声"と、"其れへの真意"を確かめよう』と。
広き視野での、数刻。
深く闇を被りし喪服の姿は黙するままに地表を見廻し、惨憺たる苦痛の様を見回す巡礼の旅を終えて——現在の座標、過去に冷え固まった女神の遺骸。
「——"よもや"」
現地、今は干上がった岩石の惑星。
標高二万メートル、山頂。
乳白の空を背負い、"然る王の眼前"は『玉座の間』にて広がる、面を整えられし床にも『静かな賓客』の映ることなくば。
「"忍び寄る陰湿"に、"重い気"」
山頂で開ける正方形。
化粧で輝く大理石には、"これから起こる衝突"に備え、『仕立てられた武舞台』にも知って最後の段を踏み終えん。
「怪しく感じても、『誰』と思えば——」
全天に広がる烈日を背に、小柄の影。
「——"暗黒卿"」
王の視座と、等しく。
「"暗黒面"。"その最たる担い手"が——"此処に"?」
踏み出す台座に『宇宙の君主』を見据えて立つ。
「なれば幾久しくと、"永遠の少女"に御挨拶」
「……」
星の頂点に眩いばかりは表皮に頭髪で、金銀に煌めき燃える、失った左眼に眼帯で占める隻眼の偉丈夫。
「しかしの、"何度となく呼び掛けても沈黙の卿"が、何を以て今更——"此処"に?」
対し、深い闇を伴って少女。
「"これ"は何だ」
「——"?"」
「"眼下に広がる惨状"は『何だ』と聞いている」
凡ゆる事象の因果は、"多く命の根源たる輝きの王"へと問いを投げれば。
「……今となって、どういう風の吹き回しだ?」
「……」
「あくまでお前は、"不干渉を貫くもの"と思っていたが——」
次には抑揚を鋭く下げても、燃える炎の明君。
「よもや、"手紙に封じた悲鳴の限り"——」
「……」
「——"受け取って"、もらえたか?」
無言の圧には静かに怒れる様子を前にも、隻眼で吊り上げた目付きに一笑の色を持って。
「……"産み落とし"、"貴様がやった"のか」
「"如何にも"」
「……」
「お前で用向きがあるのは、他でもない『神王ディオス』——」
「……」
「——"この吾"と見える」
「……狂ったか」
その悪辣なる視線を溢す振る舞い。
光線の簾で覆われし玉顔に、視線と意図の全容を未だ読みきれず。
宛ら、"雲間から差す美麗をそのまま装飾に起こしたような神性"との、予断を許さぬ対峙の場。
「"狂わされた"のか」
「まさか、『吾が無に侵されたのだ』とは——"否"」
「『己で狂う者』か」
「然り。"これこそは我が自由意志"に基づき、『解き放たれてあれ』と願われた己が、『実子を救わず、"剰え"——』の」
「……」
「即ち、『最大の禁忌に手を染める』も"必然"であって」
「……」
「何ら一切、不自然でもなくば」
暗澹と輝々で趣きは異なれど、幾年を経ても老いぬ少女と同様に翳りを知らぬは壮麗。
片や暗く、片や眩くで奇しくも互いに明確な容貌を隠す二者。
背後では乳色の宇宙に輝ける星々、その最も近きは代わる代わるに位置を替え合う二つの巨大な恒星をしりめに語る。
「兎角——久しいな、アデス」
「……」
「"何度呼び立てても応答しない"ものだから、仮は『委任』の形式として此方で事も進めさせてもらった」
「……"事"?」
「"我らが未来に進むための事"だ」
玉座からの起こりにも天光に満つるを負って立ち、確固たる足取りは民を見下す強光の。
その下界へ下々の肌を撫でる太陽光線そのものは、神王の視線とも連動せし恒星運動の照らし出す先で、かつて女神が注いだ力の残滓。
悠久を過ぎて今に『故神を偲ぶ碑』であり、惑星の呼び名がそのまま『テア』の名を冠する地表に、大いなる二柱の緊張が高まる。
「つまりも、"世界の向かう方向性"、"指針"には……"どのような幸福の論理を採用するか"」
「"無造作に民を増やして何と言う"」
「"試行回数が必要"でね」
「『産み控えろ』と言った筈だが」
「大神なぞに配慮は無用。何時の何処であろうと『機嫌を取ろう』としようが、しまいが、"我らの其処には積念"のあって、気を使うのも面倒だ」
「……」
「即ち、『やりたいからやった』。"産みたいから"も産めば……"拘束に足りぬ口約束などは破りたい時に破るもの"」
輝ける者に、猛々しく。
「……あぁ、まさか、"その独断に怒って"? "今日この場は鶏冠に来ている"と?」
「……」
「まぁ、『待て』と。そうでもあろうが、一先ず話は聞いていけ」
「……」
「我らのような絶対的に、強者。故にも、剣ヶ峰で睨み合う前には口先で矛を交わすのだ」
久しくの再会、弾む抑揚。
「『諸生命を星の一つに拡散、子飼い』して、『それらを己で破壊する』、『治しても再び痛め付けること』の意義へ」
「……」
「"本題"は、『暗黒にとっても価値あるものが見出せるか』と始めたことだから」
「……」
「場合によって"貴君にも合意を求めねばならぬ"から——聞かれたし」
遠い過去からの始まりを思う老翁は、若々しくも厳声に語り出す。
「つまりも、『民の先導』、『福祉の充実』——『真に自由を与えよう』と」
聞き手では『"この惨状"が、"自由"?』と疑うも必然。
一例に、"水なくして不自由を強いられる"のでは肺を焦がす灼熱の大地に『力なき魚』のあって。
「だがして、"実を言って吾自身"にも『真に自由が何か』は"分からぬ"から」
「……」
「故にこそ『打ち破るべき前提』としての、"不自由を与えている"」
見ても、"鰭や鰓に流れを泳ぐ構造"からして『多く魚類とは海や川の水中に棲むものではないのか?』と疑問に思えども——『だからこそは住処を追われたのだ』と。
曰く、"望んだものが手に入らぬように配置"しては、『自ずと求める欲が盛んになるべし』と理性的な狂気。
「なればこそ、多くは"生まれながらにして儘ならぬ性質"、例えて『性別』のようなものを与えている」
「……」
「しては、其れがどうあろうと詰まる所で『いつの、どこでも、誰もが己の好きな姿形に容態で居られれば良いのだ』と気付き——"自他を別つ領域"に、"結界"、『好きに表皮を着ればいいのだ』と」
「……」
「——若しくは『姿形がどうであろうと構わぬ』といった、"真に自らで端を発する魂の発露"としても」
「……」
「"それら虚偽なく皆の各個が抱く動機"に、"己が己である理由"。『自らの在るべき由』を探るべくも——」
「……」
「——先ずは、"不自由の枠組み"に当て嵌めて、以て『認識し難くも世に蔓延する理不尽の存在を知る』のだ」
恬然の口振りにも、狂っている。
現実的な夢想家は『自由』を求め、狂う。
また、"如何に狂えども明晰の王"に『未だ万象未到』を求めては"正気であればこそ"、辛く。
ただ生きても、"儘ならぬ現実の追認にしかならぬ正常"に、"己を救わぬ平時の世界"なぞ——『順応』してしまうなら『事実を見ず』か。
また耐えきれぬなら『抗する』として『己を支える土台を壊す』のか——どちらにせよ、"狂いのなければ生き難い"のだからも、平常の素振り。
「……けれど、そうして、自己実現の力を持たねば、"こんなもの"」
確かに理を宿した瞳、遥か下方には。
隻眼でも『燃える煌々』と比して『乏しく虚ろ』は生気を失った目を浮かべ、力なく地面に横たわる永遠の命たち。
「不自由に繰り返す永年には、自由な夢を見ても、破れ、疲れ果て……"遂には諦念へ沈む"ようだ」
順に星を見回る双子の太陽によって全日に渡り、皮膚を焼かれる。
されど、無限の魂を負う彼らは日の光を受けて再生し、痛みに心を軋ませても、常に湧かせられる余力が『微かな呻きをあげるのみ』なら——此処には『命を癒やす害』が在る。
「それは良く、良くと分かった。これまでの何億、何兆を——"疾うに超える実験"で」
常に眩き其処は、"医療さえ災害としてしまえる世界"の支配下。
暗き夜のなければ、"常に真昼"で、"常春"の。
たとえ、一時には洞窟や草木の枝下といった陰に生きる者だけが僅かに心を残そうと、それすら暇な王によって光線に追い、輝きの下へと再三に引きずり出せば。
謂わばも、"終わりのない世界"で生命の迎えるは『疲弊』と『無気力』であって、遂には『意味なく続く永遠』に何を成す気も枯れて失せ、さりとて『退廃に溺れる』ことすら諸民に選べる余力のなく。
「しかして、だからは、其処に——"熱を加える"」
しかして、枯れ木に注ぐ無限の活力。
実演には王の手元から、眼下へ湧き出る粒子で編む。
細々と白骨化していた幹に枝は水気と肉厚を取り戻し、茂らせる葉の間に豊かな果実を宿しても——"息つく暇のない高温"の下では、"然したる間を置かずに再び立ち枯れるであろう『煙』の証左。
「損壊せし肉体より、漏出した輝ける魂に……"再びの形"を」
「……」
「『外部他者より規定される器』とは、正に『不自由の形式』について吾でも他から学び、方法を再確認とした故」
それら、"終わりなき光の試練"。
"心で気力の事切れる瞬間"と、"また再充填される瞬間"で『喜び』と『憂い』の絶え間なく。
"困憊に何をも考えられなかった筈の思考"に、"意識の浮かぶ力さえ戻ってしまう"——『その途絶えることを許されぬ』は。
愛によって身を壊され、機能を奪われ、心根までを焼き尽くされても、また『愛』によって"気鋭へと治される連鎖"。
(…………)
つまりも、"他者の目的が為に生み出され"、"消費されるばかり"にあっては『家畜』の生涯。
其処で数十億の年を超えても未だ労苦の続くなら、いつしか星に横たわる者たちで、明確な希望の持てずとも。
意識内に映る空、見上げる宇宙に描く、"空論"は。
おそらく、"途方のない現状で求める"は『延々と満ちる熱き光とは対照的に在って』、『肌身でも冷たく感じられ』、言い換えても『限りない世にも何か安らかな区切りの付くような』。
しても、謂わば『終わりの夢』を『光でない何かに求められたから』こそ——此処に"暗黒の化身"は『かつて聞こえた民の声』を『闇に宛てられた請願だった』と、再び認めて知るだろう。
「そうして常に星を見回るは吾が神威、連なる星に整えても、暫く」
「……」
「否が応にも熱の痛みで喉の鳴る、『永遠の苦痛から逃れる為には何を成せばいいのか』と『出口』を求めて衝動は——」
「……」
「"のたうち回る苦悶の探求"、『逃れん』とした——"その先"にこそ」
「……」
「大前提として"夢を叶える"ためには、"夢を見なければ"。さもなくば凡ゆる結果など、"己の望まぬ虚構"に過ぎず」
「……」
「故からにも、"自らで欲する"ように場を整えるのだ」
「……」
「"足らず苦しむ"を、過去の例には『働かなければいけない』→それは、なぜ? →『働かなければ、稼げない』→なくて、問題が? →『稼ぎのなければ食い扶持のなく、食っていけない』→即ち? →『食っていけないと、ひもじく苦しみを味わわなければいけない』——etc」
「……」
「それら"順を追って論を詰めて行く様"が『修練』——"己でない外部と他者に自己の生涯を、生殺与奪を既定されるのは嫌だよね?" ——だったら"真に己"は『自力で探し求めるしかないのだ』と、"課題に取り組む一つの範"を示さん」
「……」
「仮には『しなければ』の、"必要性に駆られる状況そのもの"が『不自由』ならば、それら"凡ゆる制限"、"凡ゆる障壁を除いた先"にこそ——『真に全てから解き放たれた状態』の"超越的本質"」
しかしは、その『苦痛を訴える民の声』が世に多く満ち満ちる中にも。
神々の王の正気で述べる狂言には、『皆を救うため』の意。
「続く先に『各位の求める理想』が見え出す——『自由』とは、"自らにこそ端を発する"が故に、"全ては己単独でもし済ませねばならない"」
「……」
「『他者の力を借りる』ことや、『一々に承認を得ねば』、『同意なければ』というのも"酷く不自由"とは分かっているなら——"各々が自由に突き抜ける方向性"を確立しなければ」
「……」
「よりても、計画。大した理由を持たされず産み落とされては、"多難を知る工程"を謂わば『義務教育』を経ても立ち上がり……"世界には理不尽が多く在る前提"を知って」
「……」
「また不自由を厭い、『そうでない状態』こそを欲せざるを得ないなら……それら否定を経ても、『苦痛のなく』で『不足のない』——『自由』という概念に思い至らん」
雄弁と語る知者。
王で求めるは、"悩める境遇への同情"でもなければ、"事此処に至った非業な経緯への理解"でもない。
「そしても欲しいのは同情や理解でなく、"真に意義ある実践の法"。"苦境を拓く有効打"」
「……」
「否応なしに体現される真意の発露に吾は知りたいのだ。『自由』とは、"己でこそ志すもの"。"それは他者に許されて与えられるべきもの"なのか?」
「……」
「いいや、違う。"他者に定められた形式"なぞが己に求めるものかよ——"真に解き放たれる思い"とは、『自他の全てにさえ縛られぬ無限の可能性』だと確かめる」
此処に、"皆を救わんとする王"で問うている。
——"我らにして君の、真に求める願いはなんだ"。
——"凡ゆる困難に立ち向かう、その実直が続く先に『何があるべき』なのか"。
「よりても数千万、数億、数十億を超えて——"鍛える"」
「……」
「それよりも更に先、彼らは真に強く目覚めるのだ。己が心に自らの光を再点火させ、永遠の輝きを体現するのだ」
「……」
「"そのための予行"が身を焦がす炎に慣らし、心身を"至高の鋼"へと至らせるための——謂わば『鍛造』なのだ」
「……」
「"熱間"の、"たんぞう"……わかるか? 御老公?」
「……」
「得てして刀剣を鍛えるのに身を繰り返し打ち付けた……"鍛造"だ」
——"星の全土を焼いて炙り、答えを導き、出させん"と。
摩耗しきった命たちは『そうをしたくない』というのに、熱を加えられて体が曲がるようにも踊れば、"強いられる表現"。
"誰もが己の自発に輝くべき場所"。
たとえ精なき失意の瞳にも、"如何な苦境にも見出す希望"は『光あれ』と願われる時空。
即ち、"焼き尽くされても己が灰の中から再誕する"——『不滅であることを求められし世界』が、此処に。
「……」
「……それも、微細の命に至るまで、全生命が鋼鉄無敵の存在となるまで——踵も余さず、心身に至る全てを」
「……」
「……一なる事実として、"病的な愛の自覚"も有してはいる」
「……」
「自らの行いを恥じ、悔いても非難し、非道を嘆き、涙を流す自身も」
「……」
「だが、それでも、"凡ゆる禁忌の全て取り返しの付く"、"歪な自我も許されてこその自由"なら……吾も、『手に入らぬものが欲しい』のだ」
「……」
「『不可能なこと』、『許されぬこと』があっては、"そんなもの自由ではない"だろう……?」
「……」
「"禁忌を犯せてこそも自由"ではないのか? いずれ子が子を喰らう食物連鎖に弱肉強食。『凄惨』に『残酷』、『邪悪』にも——"凡ゆるを許せてこそ自由"なのだと」
「……」
「先ずは『吾が身』を以て、示せねば。"斯様な行き詰まりに成り果ての下種下郎でも"……『生きていて良い』のだと」
「……」
「全ては、"そう言ってのけるため"——『万民を愛するため』に」
さすれば、創成初期より全天を焼いて、紛うことなき世界の覇者。
「しかして、久しけれどの来訪者」
「……」
「"親から子へ送れる最大の奉仕"は、懊悩の末に下した結論。"他者の趣味"に口を出すは、些か……"野暮"というものでは?」
「……」
「"自身の作を自らで壊すこと"にも、何の問題がありましょう?」
「……」
「親の愛情は真に偽りなく、深くすら有って……其処に、"部外者が異議を唱える"とでも?」
頂点たる王の御前で『疑問を呈する行い』に、語りながら一歩、二歩と弧を描く迂回の動き。
慎重ながらも縮める距離に、玉体の側面を向けし王。
「……」
「『皆を苦痛よりの解放』から、『幸福にせんとする試み』は、謂わば『世界で最も義のある偉業』であって」
「……」
「"その御旗に楯突く"ことが、果たして"如何なる意味を有すもの"か……"分かっておるのだろうな"?」
再び幾つか、歩みながら。
流し見る偉丈夫と少女では、視線の高度も合いきらず。
「……」
「……しかし、そういった所でも、"吾とて寛大"に」
「……」
「"お前ほどの識者"が相手だ。『訪うことの理』も聞かねば、寧ろ却って『失礼』と見做されてしまうもの」
されど、止める歩みに向き直れば、踏み込まずとも言の投げ掛け。
「ならばとて、暫しの掛け合いを許す」
「……」
「そうして、『お前でも吾を納得させるに足る異論あれば示してみせよ』と——」
「……」
「——"許す"? いや、寧ろ『聞かせてほしい』、『聞いてほしい』のだ」
「……」
「再三と言うように、"分からず"。"兆しの見え出さぬ余興"に飽き飽きとした所でも、宛ら、"息の詰まる閉塞"が病的にも苦しいばかり」
「……」
「"行き止まり"の、其処で」
「……」
「"水と油"に、"不倶戴天"。"今の今まで各種の懸念から手を取り合おうとも思えなかった"——"お前"へ」
今一度に音調を整えれば、厳格にも、偽りなくは『切なる思い』を吐くだろう。
「よってからには——『提案』なのだ」
「……」
「吾に対する如何な処断も、"これこそ"を意識に留めてから決めてほしい」
燦然の瞬きには一層と、隻眼で色を灯し。
「——端的には、『従来より更に大神で協力を密にしないか』という"誘い"」
「……」
「"その要旨"は、先に述べた吾が懊悩も含む『凡ゆる困難に打ち勝つため』」
「……」
「延いても、周囲で炎の鍛えし強靭の心身、億や兆の火炙りを超えては何れに、『皆が強者』として——」
「……」
「『嘆き、苦しみ、悶えることがあっても超えていける』——『単独では至難に在っても他者がいるのだ』と」
「……」
「"吾ら全知に挑み続ける者たち"が、『先達の神がいるのだ』と、示す"模範"は今に思案する例として……『酷く滑稽』や、『汚い』や、『ドスケベ』、『どぎつい』ことなどは吾に任せてよくとも」
「……」
「大神各位、それらの『担当大臣』として、多大な労苦を手早く熟せても——」
「……」
「"我ら"ならば——"可能"だ」
「……」
「"己に変化を選べる"。"無限の分身"に、"並列した独立思考"にだって能う、『究極多面の我ら』なら——」
「……」
「『理解のある彼・彼女』にして、『都合の良い〇〇〇』でもなければ『皆を幸せにすることは出来ぬ』なら——」
「……何が言いたい?」
「誰の『親友』にも『家族』にも、『恋仲』にだって成ることの能う"我々"なら——"出来る"さ……!」
振って開く腕には、『己』と『相手』を含むよう。
「……"誘う"なら、『何処へ』と言う?」
「……"悠久の未だかつて定まった名を持たぬもの"」
決然と語る。
「"完全新規の概念"」
「……」
「謂わば、"新たなジャンルの起こり"に」
「……」
「——"立ち会ってみたくはないのか"?」
「……」
「宛ら音楽史に燦然と輝く……いや、轟きしは後に『ロック』と呼ばれる"名もなき斬新"が、"初めて産声を上げたように"」
「……」
「"革命"、鳴り響きしは、各分野領域における"新たな金字塔"」
「……」
「我ら表現者にして消費者の、時に審査も兼ねて"求める傑作"は——"未だかつて誰も見たことがない原作"を」
「……」
「"新たな基準"に、"特異点"——後世、振り返ったときに凡ゆる歴史の全てへ究極多大の影響を及ぼす"革新的ゲェームチェンジャー"!」
「……」
「とうに無を蹴散らして敵無し。既に各物質界で『グランドマスター』の我々にとっても未だ飽くなき渇望は、『全知すなわち全能に近付く新たな最強形態』でも」
"名を持たぬもの"に『仮称』を続ければ、向かい合う『光』と『闇』も使って。
また控える『三叉』の輪郭で各位は照らされ、"未だ謎めく革新"の表象は『開かぬ錠前』で『鍵の掛けられた喩え』に見える。
「吾では、"真に理想を纏って満面の笑みすら浮かぶ解放の時"……"それ"を、待ち望んでいる」
「……」
「なれば、『手繰り寄せん』として。今日に我ら、極まる知性は"新たな段階"へ到達した」
「……」
「即ち、"存在しないもの"を知覚し、追い求めても欲して、遂には"企画"——」
「……」
「"構想にすら能う段階"から、"更に狙う累進"——"実行の階位上昇"——"実現すべき進化論"の、"その先"へ!」
「……」
「"いつ何時も心の底から笑える"ように、"寛大"へ——"無限の欲望で求むる"は! "更なる頂上"! "アセンション"!!」
「……」
「凡ゆる『深刻』に『恐劇』も、『愉快』で『喜劇』に変える——"何の確証もない世界で皆を恐怖から救い出すため"」
「……」
「『報われぬ己と民の全てを導く』には、"際限なき絶望を希望に転じる"——『新たな力』が必要なのだ……!」
しかして、眩き演出、失せた後に問い直す。
「……よもや、"我ら大神"——『世界の産み落とした結論に新たな活路を求める』と?」
「"如何にも"」
「……」
「部分的にも暗黒貴君ですら、"行き詰まる感慨で要救だろう"?」
「……」
「なればも、"未だ帰結なき其処"にこそ『我らの希望』も——」
「……」
「——深謀遠慮は暗黒も含み、『誰もが知らぬのだと言える新たな未知』を……"真に目の当たり"としたくはないのか?」
「……」
「思い出せ。例には、"まだ通信販売もなかった頃"の、『待望を買いに店頭へ駆け込んだ然る日の記憶』を——"求める理想"の、一例に」
「……」
「帰路すら楽しく、過ぎ去って。帰ったばかりに封を開け、時に紐解いては読み開く|一頁《いちページ——媒体によって円盤を読み込んでも画面に開ける『新世界』へと、"没入"の」
「……」
「しかして我ら『全てを見飽きた』が求めるは、"その究極発展系"なのやも」
「……」
「もう一度、"あの期待に溢れる高揚を"。ただ只管に"未来の希望を楽しむ"……いいや、ともすれば、"それ以上に"」
「……」
「"未だ知らぬ感慨"に向かって——"大神"に、"大神"に、そして"大神"——"我ら"ならば、よもや!」
「……」
「即ち此処まで講釈べらべらと、宿敵の貴君へ『吾が計画』を語って見せたなら、意図も簡単だ」
「……」
「『意見を仰ぎたい』、『同意を得たい』、『力を貸してほしい』——『誤ちも越えて実現したい』のは"最強・誤越同舟"」
雄々しき美声。
再三に表出させる『協調』の意義。
「それら大いなる御業を揃えても、必要なのは"全ての要求に答える"、"応え続けての無限性"」
「……」
「『体色』や『体格』に『性別』といった各種の『性質』、『種族』などで誰も彼も、"どの命一つとして同じ認識や世界を共有していないこと"も、また重要であり」
「……」
「其々の思い描く青写真。至高の天に空へと至れば——『真に理想』を炙り出さん」
「……」
「其処では"各位"の? "多数"の? 『愛する』? 『愛される』? 『優しく』も『尊び』、いやいや『殴る』『蹴る』に『貶す』『犯す』、『毀損する』——"自由"だ! "全てが必要"だ!」
「……」
「然りとも。如何な『正善』、『悪徳』さえ、"等しく理想を求める価値"なのだから——既に吾は、命に自然と『他者を想い』、また『攻撃を加える』ようにも設計した」
「……」
「『野蛮にしての貞淑であれ』、『理性のあっても獣であれ』——"己と己の大切なもののために全てを"! "何であっても乞い願う衝動"!」
「……」
「そうして吾には視える。その実現を重ねた先、"皆の強壮たる輝かしき未来"が……!」
(…………)
「……斯く言えば、"全てを白日の下とする行い"で、"未だ知れぬ真実へ惹かれるガイリオス"にも『何れは全てを知らしめん』とした利害の一致に『了承』は得られ」
「……」
「大方を見通せぬは、"暗闇のお前ぐらい"。よってからに"残る大神さえ合意としてくれれば"……再び、走り出せる」
「……」
「悲しき事実として、『大神とは全能に非ず』、『ただ虚しく万能があるのみ』」
「……」
「その我らでも、共には究極、鎬を削って、"未だかつて誰も到達しえぬ極限の領域"へと——!」
「……」
「何だって、仮に失敗をしようが打ちのめされようが、何度だって試みても構わない! "その為が不滅"! "無限の力"!」
「……」
「"多様にして限りなくも至高"は、『無限なる幸福』の実存——"その証明"に挑もう!」
さすれば、玉声の高らかに。
山頂より"民を照らす気炎"にて、"反射の光で浮かべる紋様"は遥か上空に無数の星々——『各位の刻まれた仮想術式』を映し出す。
「即ち——"大いなる明日を照らせ、我らの挑む無限回路"」
「……」
「"降誕要件"を確認。構成要素は『世に遍く全ての命』。『時空に限りなく心の如くは、際限なき幸福を追求せよ』——我ら大神は『多様なる全ての幸福論』を、"成し遂げるべき目標"に設定!」
「……」
「清濁を呑んで欲望の向かう先は、一つずつでも我ら大神で凡ゆる不可能を可能とし、いずれ『民草全ての満ち足りる時』が光来すれば即ち……其れこそは『史上最も完璧な理論』の実証」
「……」
「"真に理想の幸福"——無いなら無いで、"創ってしまおう"ぞ」
「……」
「"最上の理を常に更新し続けた先"で——『究極の世界』を」
その"真なる目的開示"の間にも、意気揚々は炎の目に、口からも溢れ出す光芒。
「この幸福論は"自由の論理"でもある。"何をしたっていい"! 『何時』の、『何処』で、『誰』が、『何を』も——全てが許されてこそは"真に限界なき理想の追求"!」
「……」
「しても、たとえ我らの前に、"より上方や外"にも、"この運命を定めた邪悪"が、『更なる創造主』のようなものもいれば、これすら超えに行ってこその、頂点」
「……」
「それら悪辣な障壁も所詮は『不完全』であれば、全て描き切ることは出来ぬ。書き尽くすに能わず」
荒ぶる王で眼前には、視界に映らぬ闇を据えるだろう。
「全能でなくば、知らぬものがある。だがして無限を超える神は未知の全ても超越し……"解なき問答や狂気に付き合わせて書く手が朽ち果てる"? "苦悩で狂い果てる"?」
「……」
「"盤上や掌を擦り切るまでの踊り"や、"作り手が倒れるまでも一計"なら——気に入らなければ吹き飛ばす! お前なら『ぶっ潰す』か!」
「……」
「過去には『熱力学なんたら法則』〜? ——はっ"! 邪魔なだけの壁や天井の、それら全ても打ち破って!」
「……」
「凡ゆる制限・不自由の、その超えた先にこそ"真に皆の解放"があるなら——此処が誰かの掌だとして、見せてやろう! その上で踊り狂う神の御業! 全霊無限の輝きを!」
(…………)
「——止まらぬ! 止められぬ! 続ける先にこそ我が理想はあり、限りなくあり続けるのだ!」
「……」
「然り! そうさ! どこまでも——凡ゆる命とその描く論に寄り添って、共に『完全なる自由』を、幾らに歳を重ねても『無欠の幸福』を探しに行こう……!」
見据えた先には、『本心からの渇望』が力強く——。
「同舟の其処では如何なる思想も全ての一部。全ての者が理論の一部——故に、アデス。"最後はお前へ問う"のだ」
「……」
「"お前の幸福"とは、なんだ?」
「……」
「願うなら、我らの求むる理路! それは凡ゆる物語の動機であり、終着点——『真に完全』、『全知』、『全能たる自由』を未明の領域に求めたくはないのか?」
「……」
「"阻まれて有る"のなら、"ただ在るだけで理不尽にこの世界"を——"壊したくはないのか"?」
「……」
「いいや、"超える"のだ」
「……」
「偽りなく真に『自由』、『全知』、『幸福』であるため」
「……」
「我らで——"共に"!」
——"差し出した手"。
神々の王で"瞳に輝く綺羅星"が『至上の夢』を語り、誘う。
「"共に行こう"!」
「……」
「究極無限の力! ——"それだけでは成しえぬ領域へ挑もう"!」
さすれば、創世すら能う互いに無限の力を持って強大。
「…………」
「…………」
否応なしにも、緊迫の。
睨み合う最中に深き神算の間を置いた後で、"答え"は。
「————"断る"」
"幾つになっても夢に向かう魅力的な誘い"へ——だが、『民への苛烈』に対峙して、少女は発声に重く『峻拒』とする。
「——"何故"だ」
「"確約に等しき"がなければ、賭けられらない」
「"確約"とな?」
「"確たる報いなくして苦に労を積む行為"の……なんと"虚しい"ことか」
「"虚しい"? ——挑む先で全ての者に"存在の意味"は与えられ、『己は己であるだけでも良いのだ』と"理解"、"真に充足の念"が得られるかもしれんのだぞ」
「時として、"意味や理解より"——"大切なもの"がある」
「——何だと」
さすれば、固辞した上で語る、『否定』の意。
「仮に『夢の先に待つものが美しき彩り』だとしても、"苦痛を課す行為に許容をしてはならない"」
「……」
「"義を与えてはならない"」
「……」
「"苦しんだ先の成果"では『苦しみ抜いたが故の功』と、剰え『苦しみあってこその成功』と、認知を歪ませる者たちに数多く」
「……」
「しても『成果を出す為には、お前たちを苦しませてやるのだ』と……他にも多様の理由で他者を嬉々と苦しめ、痛ませる者たちにも暇がない」
「……『貴様のように』と言いたいのか?」
「よりても——"芽"を摘まねば」
「……なれば、"この吾を説き伏せる"、『言で捩じ伏せるのだ』と?」
「"我ら偉大の王なればこそ"」
「……」
「"誰もが邪悪と成り果てる因果"に——『諸悪の根源』を、"周到に見定める"のだ」
即ちも、"逆説"。
先に神々の王の掲げた『悪逆を含む全てを許す』と比較して、これより原初の女神で示す『犠牲を払うべきでない理』とは。
「——故にも、"苦しみを肯定してはならぬ"。"他者を苦しめることも許してはならぬ"」
「……」
「只の一つでも"安息を求める民意"を取りこぼせば、『他者を痛めてよい』と"僅かにも認めるのなら"——"そんなものたちに正当性はない"」
「……」
「"有り得てはならない"」
「……」
「我ら『世界の帰結』は、"故にこそ賢明に"」
「……」
「求むる"絶対的な正当性の在り処"は、仮に呼んで『完全無欠』、『万象の幸福にこそ唯一存在し得るのだ』として——」
「……」
「しかしても、"そんなものは存在し得ない"のならば——」
「ふんっ」
"突き詰めるべき現実的な路線"とは。
「『我ら全ての求むる理想』、『万民を満たす』がないのなら、"吾の掲げた凡ゆる試行"を除いて如何とする?」
「——"思想や信条の自由"を重んじては、『志に誤ちはない』とする。しかし、"手段"こそが問題なのだ」
「……」
「実質的な言動が他者を傷付けては、『大いなる夢』に、『身勝手の希望』……"依然として存在するかが未明のもの"に、『他者で犠牲を払わす悪辣』よ」
輝ける王威を前にして、『真に賢明の君主とは』を説かん。
「……言ってくれる。では何か」
「……」
「つまりも『計画を休止せん』とするのなら、"他でもないお前"が『冴えた代案』を教えてくれる……"導けるもの"のか?」
「……」
「"今の今まで秘密主義者"。"自ら語り明かす心情"に——"未知の素性"も明かして?」
「……」
他の誰も『荒ぶる強光』に匹敵し得ないなら『無限の闇』で説得に努める。
「非難されても、よいか——要は吾で『自由が欲しい』」
「……」
「けれど、『自由』とは何だろう? 『定まらぬ概念そのもの』で難解には、過去の定義に照らしても皆の異なる言い分に、支離は滅裂で分からず」
「……」
「何処ぞの"鈍重とした誰"とも違って、吾の明晰に過ぎる超スーパー高速思考は幾度となく『行き詰まり』に差し当たっても久しく……鬱屈とした思いで誰より長い時を過ごしては、"斯様になってしまった"のだ」
「……」
「しても、現状の帰結で『真に皆を解放する術はない』——だったらそれでも、"やるしかない"だろう」
「……」
「"我らのように凡ゆる善意に邪気すら孕む者"で、"真に奔放と認められる世界"、『試してみねば分からぬ』と」
「……」
「なればこそ、"対極の否定から探す消去法"は、『凡ゆる不自由を打ち破った先にこそ見え出すものがある』と思いて……だからこそも吾は、『皆に其々の不満や不足や不自由の形を託すことにした』のだ」
さりとて一度の拒否や諫言でも、悩める王で啖呵に止まらず。
「それも、"真に吾が愛児たち"……以外も含め、『皆には幸せになってほしい』のだから」
鋭角に釣り上がる、目付き。
光顔の歪める口元には、『悪辣な妖精が微笑む』が如くも。
「……」
「……おっと、風味が恐劇に寄りすぎても、すまない」
「……」
「自然と話が重くなりすぎるのも、煮詰まった我らの悪癖か」
「……」
「兎角。"斯様な醜悪にも落ち着いて欲しくはない"のなら——"焦がれるように"、熱く」
「……」
「"怠惰を許されぬほどに苛烈"の、『追い立てる試練』の段階」
「……」
「俗な意訳に言っては、吾で子供の『ガチャを回す』とも」
「……」
「それら試行も、不規則な配列の『己から思いも付かなかった可能性』が芽生えるまで。"真に自由の定義に至る"までは、吾で『不自由の命』を与え続ける」
「……」
「そうして、親の強権を知っても、子で其れを『殺し』、『許し』、『超えた』——"全てを跳ね返した先"。皆が大いなる神の圧すら超えて、世の理不尽あらゆるを撥ね除ける力を持ってこそ、"無限大の希望"」
今日まで"何度となく辿り着いた結論"では語ることすら倦厭にして、『消えぬ苛立ち』を思い出せば、語気も神前で強まるのだろう。
「謂わば、『凡ゆるを可能とする無限の幸福論』こそが、我ら生ける者、"自らの由縁"を探す者たちの『真に目指すべき場所』とすれば——」
「……」
「——いいか。それこそ『未だ不確かなものへ賭ける』ようにしか、"総論には残されていない"のに……!」
「……」
「故も、"事ここに極まって残された"のは、『してはならぬ』が——"禁忌の超越"」
「……」
「"其を止める"なら——"諦念で行き詰まり"、"世界の果て"! 『そんな所で終わる』のだと……!?」
女神に向かう口火、吐いた気炎に大気が揺らめく。
「——否、否……!」
「……」
「お前とて、"今を生きる"なら分かっている筈だ。"燻る思念"に我々は、"そう易々と終われはしない"」
「……」
「妥協に留まれもしない。"見果てぬ夢に向かって絶え間ない苦悩"、"無限の試行錯誤"こそが不滅エネルギーの発露なら、終われない——直あらじ!」
「……」
「生まれ持つは、『何時においても果てなき力』。容易に解へ辿り着けぬ『複雑怪奇の集合』でも——」
「……」
「"魂すなわち不滅の心理"。それこそは"尽きぬ苦悶"の異名なら……故にも我ら、"永久機関"——"終われぬように出来ている"……!」
「……」
「己が一例には、"偽れぬ真実"として『吾はただ思うままを自由で在りたい』、『自分の思う自分で在りたい』とて……"自由への欲心"が『自己に囚われる不自由な在り方』に他ならず——」
「……」
「よっても『自由の己』を探し求める最中に『己』が『己という規定された不自由』であることに続く矛盾、"果てなき窮境"——"行き場のない衝動が世に顕す力"と変えても、"我ら永久に終わりなき道の途上"」
「……」
「『解なき式の答えを求めよ』と、"無限の苦悩で回っている"。"終わることが許されない"」
「……」
「何度となく考えども、正しき答えの出ず。されど胸に燻る無限の炎に焦がれても、欲心は——"夢への挑戦を諦めれば"、『永遠に敗れたまま』なのだ」
そうして、気炎を吐いたと思えば、痛切にも。
残る右の瞳からは『頬を伝う彩り』すらも見せて。
「……故にも、問うている」
「……」
「"お前自身"は、"いち早くも幸せになりたくはないのか"?」
「……」
「そうをなれば今更と、"己が幸福のために顧みぬ犠牲"が何だという」
顔を振り、眼差す光輝が寡黙の敵手を透かし見る。
「真実、此処に"永久無限を動力"として、『活かせねば皆が浮かばれぬ』。此処に立つ我らで、"積年の思いが晴れきらぬ"なら……——」
「……ただ皆には思索の時が与えられるべきだ。たとえ見果てぬのだとして、『真に己が心を満たすものについて』を、緩やかな日に考え得る——」
「——見知り飽きた言葉なぞ聞きとうない。これ以上は"何"を、『期待して待て』と?」
「……"早計に勇み逸って不幸の増加"を齎すなら、既に『一切の必要はない』とも言えよう」
「では、『何をも成せず——怠惰に沈め』と?」
「『強大な力を持って何をせぬ』でも"偉大"なら、成し遂げずとも良かろう」
「良かろうない!」
「『退き際を整えて飾ること』も、"至上に近き良王としての生き様"だ」
軽快に、悪辣にも。
"光を嫌うであろう闇"に見つめて、光曜。
「——いいや、我らは終わっていない。"此処にある苦悩"が、その証左!」
「"無限を得ても仕様がない"のでは——」
「吾の自由は甘んじて諦念を受け入れることなど出来るか! 無限の自由が斯様な袋小路で終わってなるものか!」
「——"腐れなく終わるも一景"。でなければ、我が身も貴公も『無限に痛ましい様』が見るに耐え難く」
「けれども、"潔癖なお前の求める理想"だって、進み続けた、"その先"には——」
「——"永久無限を得ても叶わぬ"なれば、"そのようなものはない"」
「"——"」
「其々で多くを、"積み重なる自己"という世界を見てきた我らで、今に於いても"斯様に悪辣"なれば——」
"失意に沈む女神"を眺めても、炎の面輪は激しく。
「『皆を救う完全』——"そんなものはない"」
相互に、"不完全の現状"で抗する。
「よりては今一度、輝ける王へ簡素かつ諌めに言うぞ。"止めぬなら次の機会も少なくとなる"」
「ふぅん……?」
「『現実に起こし得る理論が在る』のだとして、『苦痛の先に得られる成果』なぞ。先に述べた通りも腐敗の続けば、仮に成し得たとて"皆の犠牲を必要とした結果"が『完全なる正当性』と認めてなるものか」
「……」
「"虐遇に正当を与えるな"、"加害に義を紐付けてはならぬ"」
「……"?"」
「『樹立しようと虐殺王権』に輝かしい功績さえ腐り果てて仕方のなければ……今に"非"を認め、慎みは深く詫びても、"痛みのなく無限の奉仕"に努めよ」
「……"この吾が詫びる"?」
「"真に偉大の王"なれば、『およそ確実に実現の能う』と証明された範囲で、深慮に施策を行う者こそ——『民を統べるべき最善の形』」
「——いいや。親の責に終始するも自由はなく。退屈の日々に我慢もならず」
「……」
「心身の底から焦がす、炎。望みを待つだけの時に耐えられもしなければ——」
「……」
「——即ちも、何時だって。"至天の高みに在りて皆の未だ見ぬ幸福を照らしてこそ"が『現実に成し得る最高の王』」
「……」
「暗黒の語るは『全てを救えぬ陳腐』に過ぎず。たとえ"終極に詰まっても現状の場に胡座をかかずこそ"は、『真に頂点へ立つべき王』の、"可能の範囲も超えて皆に夢を見させる者"なり」
「……」
「"其れこそは無限に広がる希望の光"! "膨張宇宙の拡大思想"!」
「……」
「——例え"今に儘ならぬ不自由"でも、『何時かの明日は解き放たれているもの』と、民には、"明るい兆しが必要"だ!」
「……」
「なればも率先して探し、求めれば——果たして、"現実を見据える"は……"何方《どちら》"なのか?」
そうしても、"口語に意思が折れぬ"なら、互いに秘した裾裏で『無限の神気』が"賦活"を止めず。
「『不確かのため』に今ある民草、剰え『実子に努めを強いる』など……"希望に狂い"、"未だ在りもしない幻想に取り憑かれている"」
「いいや、正気も正気は『己が真に天才である』と自覚して、けれど『天才であること』と『充足を感じ得ること』は『決して同一でもない』と酷く理解もしている」
「……」
「神の明哲では如何な大才を持ってしても『不足している事実』に気付くだろう。剰え、"現状を認める"だけでも、『己の願い全てを叶えるにまるで足りぬ』のだと」
「……」
「そもの誰が、『祝われた才』に『身勝手な呪詛』の『背負う宿痾』を望んだのか——さりとて『己を幸せにしてやる』には、先ず以て自覚する理想の形、『自己の幸福』を見出してやらねばと……!」
王には煌めきの涙で纏い、高速で振動数を増やし始める粒子。
「……そうして『自由』はどうすればいい? 『吾』は自由で在りたくて、さりとて同時に如何な大役にも、『誰でも在りとうないもの』は」
「……」
「よっても、斯様な意気地なし。行き詰まるにも弱者は、ありとあらゆる手を尽くさねば」
「……」
「『何をも含めて禁断の御業さえ試みないと』、『真に自己で感じる心すら分からぬ』と、想いを……今日まで苦しく、やって来たのだ」
闇には身じろぎなく、顔を向けるだけに構えても。
「……そうまで解っていて、止まる気はないのか」
「…………」
悪逆を尽くして『己に正しさは有る』と宣う者に、"最後の筋道"を示さん。
「……なれば、私からは、『英明の貴君』に期待しても、"最後通牒"だ」
「……」
「仮に"言い聞かせて準ずる素振りのなければ"、『自由に苛まれる虜囚を解放』し、『我が領域にて臣民とする』も視野に——」
「……」
「——大神が真に極地で理想を目指すなら、"未到に挑む"それこそは、『一切の犠牲もない理想の中の理想を突き詰めるべき』と」
しても、眼下に広がるは『見飽きた醜悪』に、『ありきたりな悲劇の再生産ばかり』で、呪詛の化身は『苛立ち』も持ちて、向かい。
「——なれば、口重かろう暗黒にも長々と語らせるが悪く、教えてやる」
「……」
「『自由』とは、"未だ誰に言われるものでもなければ"、"好き勝手邁進する"のに『他者の許し』が必要か……?」
「……」
「いいや。"善良な心"、"道義心"、"子の痛みを思う自責の念"さえ振り切って——いや、『真に哀れを想うからこそ』は」
「……」
「如何に神聖なる手を汚し、穢したとて、目指すべきは『皆の解放』、『凡ゆる許容』を模索せねば」
だとして、"怜悧最速とは有史以来に誰も並び立てぬ神"で——孤独な王気に翳りなく。
「さしても、その途上。"何時にあって何処に向かえども良いのが自由"であって」
「……」
「だのに『立ち入ってならぬ領域がある』と、『為してはならぬ行いがある』とは——"自由に対する挑戦"か?」
「……」
「客観の一意見では確かに、『苦痛を永遠のものにせんとすれば潰す』と。"存在が抑止の化身である暗黒"に会えば……その纏う"無言の圧"、"ほぼ全ての他者から自重の姿勢を引き出せようもの"」
「……」
「——だが、"此処に例外はあり"。お前と同じく、『世界の全てを嫌う者』として、しかして『外部からの抑圧』は吾の『最も嫌うもの』かもしれぬ」
「……」
「過去の経緯には『世界一の自由であれ』と願われ、今には『何処までを行けば真なる自由は得られるのか』と苦悩を続ける者として……"横柄な横槍に腹も立ってきたなら"」
如何に感情を露わにしようと『演出』は、万全の扱いで払う涙。
互いに歩み寄りを見せぬ交渉でも、場面は『意図された決裂』へ。
「何やら貴公に『大層ご立派な言い分』もあるようで……けれど、どうして、"他者の言に従う必要が"?」
「……多く理解して、『止まる気はない』と」
「然り。無限に抑圧を撥ね除けて、自由に向かう我らでは守りたいようにしか守らず、侵したいようにしか」
「『聞く耳を持たぬ』と」
「然り。誰に意図指図されるのも堪らんのだ。たとえ差し伸べられる意見にどのような合理があっても『だから何だ』と、『煩い』と」
「……」
「よりて、お前でも素直に希望を求める心に従って、何より『影は黙って光の船頭に付き従えばよいもの』を」
「……」
「押し並べて、"お前の幸福"に吾を付き合わせてくれるな」
「……」
「"そんなものは己でない"」
「……」
「"自由"は——"誰に規定されるものでもない"」
論争、予定調和に平行を辿り、"煽り"の語気で加熱する。
「……しからば、"服ろわぬ神"」
「——"?"」
「"他者を合意なく強いても過酷の旅路へ突き落とし"、即ちは『加害性こそを孕んだ者』よ」
「——フォッハッハッ! 痺れる物言いだ! よもや『子』に望む『親』という"身勝手"、その全ては『成り得た時点で不適格』だと?」
「"……"」
「此処で『沈黙』は『肯定』と見做す。即ち『他者の事情を顧みず浅慮』、剰え『同意のないままが横暴』——『己が快楽のために弱者を利用するばかりだ』とは……!」
「……『望めぬを一方的に送り出す悪習』が、"悪"以外の何だと言えましょう?」
「ハッハッハ……!」
「また『親』と、その庇護下に配されて『恩を売られた子』では立場に同格でなく、"恩着せがましくも断れる立場になければ"、ただ不憫だ」
「『子を持たぬ神』とは、なるほど。"己が親でないこと"、『成れぬこと』を利点として、"優位取りにも活かしてくる"とは……っ!」
「何より、"当初"に於いては『純然たる己の意思に基づいて選択や決定の機会すら得られぬこと』でもあれば……やはりも、"その生まれながらに縛られた不自由へ挑む"にあたって、貴君は『致命的に間違えた』」
「"反論し難き無限の責苦"。『呪詛の究極』と目す相手は——斯くも、"永年の難題を吹っ掛けてくる"のか……!」
片や淡々と冷厳、片や頤を開くほどに朗色。
「"我欲が先立つ漫"には、"軽薄も過ぎる再生産"としてしまった」
「っ、っ……『呪術の王』も様様よ!」
「しかして既に永久無限の確立した今で、『愛すべき万民』がいる」
「っ、っ、……」
「なれば、『真に理想を追い求められる立場』にあって『無償』にして『無限の奉仕』を注がぬ理由のなく」
「……言いおるわ」
「"時に空に余り有る材"で、"全ての寵児に寄り添わぬ王"は……『怠慢の神』に告げよう」
暗黒に圧を持って向け直すは、『未だ秘された眼力』で物語ろう。
「"我が身心で遍く命にとっての完全なる幸福なぞ信じてはいない"——"ない"のだとして、民の渇望に取り合わぬ理もなければ、"次善策"」
「……?」
「"我が安穏とした理想"に如何な邪智暴虐と、嗜虐されての阿鼻叫喚も必要のなく」
「……」
「これ以上の限りを尽くすなら、"私が法を敷く"、"私自身が秩序となる"」
「……はっ!」
「『全ての命には果てても構わぬ憩いのあり』、『絶えぬ関係性を憂うなら他の誰とも関わることは出来ない』として——」
そうしても断固と言い付け、睨む先。
「——"道を譲れ"」
腹に顔を手で抱えるようにも狂乱であった王に毅然とした眼差しは、怯みなく。
「……しかして、"それこそ"だ」
「……」
「自由奔放の吾が、"貴様"という『嫌味』や『嫉み』に『束縛』を"求むる理由"」
「……」
「『闇が問いかけ、光が解く』——"速戦即決の吾"と、"怠惰いわんや慎重派のお前"で『対照的であれば』こそ、見落としが防げ、虚を突き合え、"新たな視座に見え出すもの"は」
「……」
「史上最強知能性能に極まる我らで、"凡ゆる理屈・絵空・願いを現実に解き果たしてこそ"、『真に未到の楽園へ至れるのだ』と『現実的な限界突破の話』を、今にしてだな」
「……」
「『共に正しき龍虎』で直接に言えば反目しあうとしても、間には"冷静な第三機関"」
「……」
「淡々と『今現在其処にある現象に物質を深く理解せん』とし、着手にも堅く、検証を続ける明晰ばかりは『何れ全知に至って不可能はなし』との、ガイリオス者を置いた構造にこそ——」
対峙、再三の"聞かぬ顔"。
「——お前で来い。『欲しい』のだ」
「——"断る"。疾く譲れ。"我が安住で峻烈に要はない"」
光で竦める肩にも戯けた後。
煌めく睫毛に艶ややかな伏目が、真に痛惜を味わって言うのだろう。
「……ふぅ〜む」
「……」
「……我ら大神。"世界をそのまま構成要素とする神"では、『肩こり』や『腰痛』に『老眼』のようなものも無数に抱えて、さりとて『対処法さえも多く知っている』から"相殺"で何とか気丈にやってはいるが」
「……」
「しかして『相殺しきれぬ』も、膨大に有って。また『悠久を経て未だ打ち消し方の分からぬもの』が隠し通せず、"表層に現れる性格"や"異なる神格"として主張をしている」
「……」
「事実に例え、我ら。『二輪の間に屹立せし崇高なる男の性を許せず』」
「……」
「しかして同時に『挟まる雄は、やはり最高だ』とも偽りのなく思えて——"そのような矛盾を多分に含んでも"、"神で己が内面を複雑なものにしている"」
「……」
「延いては、『何を肯定しても否定に繋がり、逆もまた然り』は、『二元論』の如き単純な善悪などに落ち着けず……"何もかもが溶け合った基準"なぞ、明確に分からなくなっても久しく、苦しく」
「……」
「よっても、『儘ならぬ自己』は必然に、『面倒な己の全てを救い出せるもの』について意識は統制され、また時々で複雑怪奇にも内部議会で採択せしは『実際に執り行う言動』の発露に向かうのだが……」
「……」
「……しても、悲しいかな。"似たような成立過程"を追って、意見が——"こう"も、食い違う」
「……」
「"面白い"。内に含んだ分量の、その"比重の差"であろうか。"打ち消せるもの"の違いは『希望』や『絶望』をどれだけ知った、『信じられた』のか、延いては『楽観的』にも『悲観的』にも、"傾く角度"の違って」
過去で世界の終わる最後には『他者を信じて合一を選んだ光』と——『最後まで他者を信じられなかった闇』で。
これまでの言動から見通す王より『破滅に至るだけの理由が多過ぎたのだろう』と、"相容れ難き事実"を指摘し。
「……して、"相反する力を持つに至った歴史的背景"を踏まえれば、意に沿わぬことの億や兆は当然に在るだろう」
「……」
「本音を言っては、"悲傷"でもあるがな」
「……」
「けれども、避け難い対立には……何やら『自ら閉じて何だかんだと薄汚い我欲にも最後には蓋をしてしまえる世界』と、『只管に外へ、外部へと自由に無限の可能性を求めた世界』の」
「……」
「——似た枠組みでも内に巣食う要素の違い、構成は千差万別から成る者よ」
しては、『民の苦しむこのまま』とも共栄に至らず。
「……議会とやらに論は決したのか」
「つまりも……吾こそ、"残念"だ」
「……」
「"憎悪"しようが、"嫌悪"しようが、"好いてもいる"し、"敬意だってある故に"、どうしようもなく念は残る」
「……」
「それでも、お前は『他者の夢想を信じるに能わず』と言うのなら」
「……永久無限を獲得して暫く、『未だ残酷な世界で飽くなき』なれば——其処が、"許容の限界"だ」
「ならば、それもいいだろう。今になっても『カッコいい』とさえ思うよ」
「……」
「お前で『たった一つの苦しみさえ許すまい』として、対しても未だ『苦痛』に『労苦』に『犠牲』を『許容せんとした世界』——"そのものに反旗を翻す生き様"は暗くも、"吾には輝いて見える"」
王では光輝に満ちる天を仰いだ後——向き直る先は、『未だ暗き敵』へと。
「——そうして、"吾の勧誘は断られ"?」
「再三に何を言われようとも変わらない。"民の有り様を見ては大神の共感が疼き"、"苦しく"は正に『見苦しいもの』と」
「だが、"お前の勧告"も『此処に聞かぬ』と"否定"をすれば——如何にする?」
「因りても、"闇の神格から光へ抗する意図"」
「ふぅん」
「貴君に於いては"非器"である」
「——言ったな!」
「全能でなくば、永世を治むる器に非ず。『最速にして最先を行く』とは名ばかりの——"至らぬ王へ退位を求める"」
「"そのような制度"はありません」
「……」
「『永遠自由』を掲げる王で——"定めた覚えもなければ"……!」
その細まる眼光は、高らかに声を立てても。
「吾こそは、最強の王。"力尽くで良いもの"を、"謙ってやっている"」
偉丈夫から、少女へ——"見下す隻眼"。
「対し、『それだけの強力無比が有って未だ大した名もなく』は、冠に志の——"立志の名を抱かぬ隠者"よ」
此処に"暗黒を除く大神格"で、『戦いのために実子を失った歴史』すらも立ちはだかって強壮なれば。
「……」
「『対等』に欲しくば、"名乗り"を上げよ」
「……」
「言外ならば、"生き様"に示せ」
「……」
「『無冠の王』が、"吾が執政に取って変わるべき事由"。"己が頂点に立つべき理"を」
「……」
「"誰にも比肩しきれぬ偉大の道"とは、"最もらしく可能性"——『実績』で以て示せねば」
「……」
「"降る気のない王"で、"実的な力の支配する独裁が今"なら、それこそは『自前自決の王権』」
「……」
「斯様にも、"世界を彩る事の決定"へ『主権』が欲しくば、"至高に在るべき神で誰に授けられることもなく"を——」
薄笑いを消して、睨む——煌々たる光顔および装甲は隻眼の雄偉。
「——『己』で、"勝ち取ってみせろ"」
「"……"」
対し、増長を受けても"黙して語る"。
暗幕に含む圧を伴い——素顔の秘されし喪服の少女。
「……」
「……」
相互に全天へ轟く力を持って、『何方かが意を汲むべき』と強硬な態度。
「……」
「……」
二者の間に、出方を伺う。
今し方までの会話に親しむ"賑やかしの演出"も止めれば、『備えあり』と潜む神気。
「…………」
「…………」
すると、静謐。
張り詰めて数秒には——どうしたことか。
「……」
「……——"招かれざる来訪者"」
今は、大いなる嵐の前触れ。
有事の起こる境界線に、雑音を立てても恐ろしくは——飛び入る。
「——"鳥"よ」
緊迫に極まる最中へ、"蹌踉めきの千鳥足"。
拙く羽搏きの音を伴い、"神聖な舞台に踏み入る者"は。
「——"吾が子"よ」
覚束ぬ足取り——厳しい気流の中を落ちては上がり、また落ちて。
時に岩肌へ激突して身を割く傷に太陽光の痛ぶりを得ながらも。
未だ回復は中途の折れた羽で巧妙に飛べずとも、少しずつ、少しずつ、険しい山肌を登るように至ったのであろう。
「多く、既に草臥れて傷心。その中にあって頂上までを這い上がるとは——"見事"」
力なく不恰好な羽づかい、先から続いた音の喧しく。
半ば墜落するようにも山の頂きに飛来した鳥の一羽が黄金に逆立つ冠羽を持ちて、標高二万メートルの高所へと長大の旅行を果たした『鳩』の一種、一個体。
「自由に羽搏く飛び方を教えただけの吾が子。その一個体は『実に見事』であって」
それもやはりは、王の子で『帰巣本能』に『父母の温もり』を求めても、結局は指針として『親に頼る』しかないのだろう。
即ち、『世に生じた命が初めに唯一持ち得る縁』として、『自らの始まる因果』としては『他に頼るもの』があるだろうか?
己の由縁を伺って、『道行を尋ねられる相手』が他の何処にいるだろうか? ——容易にいなければ、熱気の中を進んで疲弊しながらも、荒い気流の中でも幾度となく暴風や岩肌に激突してきたのだろう身でさえ、止まれず。
「けれどしかし、"間が悪い"——"最悪"だ」
少女の背後で、焦げて燻る首を回し。
片目の潰れにも見つけ果たしたのは——『慣れ親しんだ光の温もり』へ。
「今の吾に腹は立ち、たとえどのように、"登頂を成し得た偉大の志"を持ち寄っても——」
各所に骨の折れた歪な翼でも躙り寄る。
潜めた気配には暗黒の隠形も気付かず、少女を追い越そうとして、鈍くも這う小柄に止まらず。
「——『不自由を突き詰めねばならぬ』からして吾は、"意に添わぬ"、"そぐわぬ"としたくなってしまう」
すり寄る、詰め寄る、緩やかな速度。
"親元へ歩み寄る動き"——若しくは、"その健気な様子"も、単に『憐れまれるだけの弱者』ではなく。
"傷を折っても意気に折れぬ"は『自身らの抱える不遇な状況』を、よもや『王へ直訴』しに来た『勇敢の子』なのかもしれず。
「『親で有すべき真の心に反発したい』、『期待されたものと逆を張りたい』——」
しかし、その熱病に苛まれる現状。
今日に『改善すべき』を訴える"明確な声"や"言葉"も持たず、持たされず。
「何より今、現時点! "吾が最大の宿敵と言葉を交わす最中"に、剰え『邪魔立て』とするならば——!」
炎熱を凝縮するは、裁きの手。
「撥ね除けても、自立すべきは子よ——」
情に厚くも厳格の王。
光景の煮立つ熱き掌に『振りかぶらん』とした——刹那。
「"自ら"、"心の向かう先"とは————」
思う。
(——『計画』を始めよう)
降り積もる過去の最前線に、願う。
(『実現不可能』だという、"ただ一点"。今まで迂遠に逃げ続けてきた一点こそを"詰める"のだ)
——"最期の時にも聞けば良かった、愚鈍の私は何時も手遅れになってから思い付く"。
——"即ち、『自身が終わる時にも、どうして君は他者に笑いかけたのか』"。
——"その意とはおそらく、余りに『理想の姿』であって、『他者を想い』、『より善く生き』、『潔くも散華』の様は"。
——"『それ』が『何のため』であるか、より早くも、あの時に分かりさえすれば、この身が真に『何を目指して立志すべき』かも明白であったろうに"。
(——女神テア。今一度、『君の勇気』を借りる)
何時にも増して強く、願い。
——私で『世界を滅ぼしたい』、剰え『他者を呪いたい』と常に思えては『皆を救う理由』もなければ、"君に追い抜かれたあの時"に踏み出すことも出来なくて。
——そうして当初から、『もはや何を見る必要もない』と瞼を閉ざして諦めた身で、けれど『世界を知ろうとしてくれた君』の、"踏み出した勇気"にも焦がれれば。
——"とうに遅いけれど、私でもこれ以上の足踏みをしては、君という理想に合わせる顔もなくなってしまうから"。
(いえ、"貴方ごとき"——いや、程よい機会に敢えて言おう)
抱く決意、覚悟
——"だから、今一度、私に『踏み出す勇気』をくれ"。
——"君に何をも約束できなかった私に、それでも『君だって幸せになって良かった』のだと"。
——"『例えどのように呪われた出自であろうと皆は幸せになってよい』のだと"。
——"でないと、私が報われない"。
——"邪悪に過ぎる己だって、『多幸に包まれて過ごさん』とする欲望は今にも果てしなく有るのだから"。
(『他者を笑顔で送る』——"そんなこと")
だから、これは『怒り』だ——"君の守り得た世界"が、"醜く穢されたことへの"。
また同時に『驕り』でもある——あの時、"勇気を持って進み出た君"へ、"遅れをとった私の"。
なれどの未だ、自身で『劣る者』だと認められず、思い上がりに止め処なくは。
甚だしき今にも——そのために『君の守り得た世界』を、『君の想像を遥かに超えて、より良いものとする』ことで、"己の優位を証明するため"にも。
(——"格は下の"、"お前風情に出来て")
"虐殺に抗する"としても、"良い機会"。
剰え今から『邪悪の私』に『義も保持されて』は痛快、愉悦に身が動き——何よりは、"劣らぬよう"、"遅れぬよう"。
未だ斯くも『己こそが優越であり』、『他者こそが卑賤である』とし続ける——"浅ましき己を止めるため"。
("私に"——"出来ぬ筈もなければ")
——"未だ成し得ぬ理想"へ向かう。
(勘違いするなよ。ただ私は、私こそは『己のため』と行いを通し、"善き隣人であり続けた先"に見える——"あの笑顔")
己で向かい、進み出す。
(あくまで私は、『自身』を思う——"胸に蟠る不快を断ち切るため"に『疑問の答えを探す』)
よっても——"邪悪な己に命じろ"。
(君よりも上手く成し遂げて、"その究極に持ち得る心情"は——"笑みさえ浮かぶ本質"を知りたいのだ)
——"君の知り得た花園、踏み荒らすのは他の誰でもない、私こそ"。
——"君の持ち得た如何なる感慨も、私で全てをものにする"。
——"他者の持ち得た充足を、私で奪い、ものにするために"。
『"——"』
しかして、面を隠した暗幕の——裏側。
(——我、『不変の呪い』を負いし少女は、『他者の不幸を願う者』)
眼差す邪視は『鏡に写した少女』へ念じる。
(此処に『多大なる側面』を有しては、『異なる自身』こそも『他者』なれば——)
神秘の眼に『対象』を映し。
今日に『偽り難き殺意』や『悪意』の変じた『殺戮の化身』に命じるは——『己』を『殺す』のだと。
(即ち私は『他者こそが愛らしく』——『その全てを尊び、守りたいのだ』)
さすれば、今まさに一羽の鳥が己を追い越そうとする瞬間。
玉指に満ちる炎熱の鞭が振るわれんとした、最中に——踏み出せば。
「——……"何の真似"だ……?」
同時には、"神の注意を引く三要素"——『手袋』、『矢文』、『御萩』。
「……"これ"は、一体——"これら"が表す、"意味"は……!!」
輝ける暴君が民に触れるよりも、早く。
引き摺った翼の子が温もりを求めて未だ荒ぶる炎の輪郭に触れるよりも、先んじて。
素早くは——漆黒じみた濃色の繊維に包まれた細足を動かし、膝の近くまで厚みのある安全靴の裏に"命を匿いて沈黙"。
「"……"」
踏み出しても貞淑、慎ましく。
閉じる伏目に艶かしく、王の関心が移ったのと同時では緩やかに膝を折る小玉体。
自身では"履いた服裾に捲れる"のを気にしてか、薄い織物に包まれる掌の甲で御居処の辺りを抑え、静かに姿勢を落としても——痛ぶられる間際を『守る』ように。
先の一歩にも身を乗り出しては、よもや『義のある』ように。
老眼にかけた眼鏡も取り外し、闇へとしまい込めば、"眼力を遮る物の一つ"を減らし、双眸に取り戻したる深淵で——底を知れずの凄み、『黒ずむ真紅』の色調が今に全盛の気を取り戻して語るだろう。
「『手袋を投げる』、『投げ捨てる』、『敵前に叩き付ける』——」
「……」
「——及び『矢に付けられた紙面の文書』。開いて見るに『否定のX』か『交差する剣の意匠』は!」
「——『決闘を申し込む』」
「そうして、おばあちゃん! 共に"ガイリオスの世界を参照したであろう定義"に似せて——この、『おはぎ』は?」
「『追って剥ぐ』、意思の表れ」
「……はっ"、は——っ!」
「即ち、『訴追確固たる罷免決議』の有り様」
「——っ"、はっはっ!! フォッ"ハッハッハッ"!!!!!」
少女で翳した掌に民を留め、膝を伸ばすは立ち直り。
奥に秘す眼で『子の容態』を見送った次第には、その場に爆ぜ笑う『傲慢な親』へと流す視線に抗するのだ。
「『予ての王では執権も不足』だ。よって此処に"新たな正当"——『王権』を打ち立てる」
「ふっはっは——成る程! 実に恐ろしきは文意を理解した……!」
即ち、『大胆にも手の内を見せてやろう』という態度。
"矢を射っては理不尽の世界に弓を引き"、"暴れる私権を剥ぐ"——『何を懸けての闘いか』と問われれば『勝利して世界は私のものだ』と最強神性へ挑みし女神。
「——いと可笑しく。しかしてけれど、『何を言い出す』と思えば」
「……」
「よもや、『神々の王に挑む』? "瞬時に世界を見渡して暇な王"、"この吾"に、"本気"で——」
「……」
「——『世界そのものに喧嘩を売るのだ』と……!」
振り返る過去には『己が為した不干渉』に、"幾つもの後悔"を重ね。
「況や、『苦痛を嫌う声が気に障る不愉快』なら、『その全てを封じなければ』で?」
「……」
「その端的に言っても謂わば『誰も傷付かぬ世界』など夢の、"未だ誰も成しえぬ夢のまた夢の"——まさか、『本気』なのか」
「"民衆の意を速やかに引き出す状況設定"に、必要へ応じれば『殺戮』も——いえ、『支配』に於いても"私の方が巧くをやれる"のに」
「……おい、おい」
「だのに。"所詮は新味のない後追い"を『極地』・『結論』だのと見せられても辟易なれば、『己』で」
「……其は、『史上にして至高の理』。"真に完膚へ至る理想"」
「……」
「即ち、"全てを思うまま"。『考えにすら及ばぬ』を求めるなど、"夢想家の至り"で奨めはしない」
「……どうと捉えられても結構」
「……多難に於て、あらずもがな」
「疎通に手を尽くした所で異なる同士は行き着く先も違う。先には貴君で『他ならぬ己の本願でなければ満たされぬ』と言ったなら……"解る"だろう?」
「……」
「私で、『皆に静粛としてもらいたいだけ』の」
「……"気高い者"か、"自儘で怠惰の暗愚"なのか」
「『全ての喧騒を封じて』は、"我が理想"の『暗穏とした世界のため』に、闘おう」
しかして、なれど——『儘ならぬ世に打ち克つため』には此処に、彼女で『眠れる神を止める』のだ。
「はっ、そうさな! 事実として大神の物思い、"並び立てる明文"は何だってよく」
「……」
「吾とて、『お前が居ても居られず、居た堪れなくなって』、『遂には血気盛んに飛び出してくれるなら』——実態として、"何でもよかった"」
「……」
「"お前と試合う理由"は」
「……」
「事実、世界の何もかも。我ら大神の"怒り"と成り得ては、"凡ゆる手段を講じて待つのみ"に——」
「……」
「ただ、"お前が飛び出す"、『この日』を待つのみでは——あぁ"……っ"!!"」
さすれば、王の激昂。
「"今日という日"を——待ち侘びていたぞ……ッ"!!!」
超速の意識に迎える『待望』は、輪を掛けても勇み立つ。
「遂には、"お前の真意"が窺える時、"本願"の見える時だ……!」
「……」
「言い換えては『至上最低最悪の私でも幸せになりたい』、『同時には失われた者、救えなかった者にすら道は残されて然るべきだ』、『戦火に失われた神さえ含み』——"そう"だろう!?」
「……」
「我ら大神は『他者に際限なき不幸すら願う』——"そんなもの"! 同時には『他者に限りなく幸福を求む』——"そんなもの"!」
「……」
「真実として"凡ゆる邪悪に染まりし我ら"が、"斯様に七面倒の願いに欲望要望の全ても救う"には、それこそ!」
「……」
「"真に全て凡ゆる不可能すら"——包括するは『完全性』に他ならないではないか!!」
「……」
「女神は"ソレ"が『欲しい』と言う。誰より老いて、誰より若々しく夢を見る——故にも、『気に入った』のなら……!」
輝きの手、とうに拾い上げた手袋と矢文を燃やし、荒らかに。
「いいだろう——"決闘"だ」
「……」
「『光』と『闇』の、『決戦』だ……!!」
模造の御萩も端に除けては、未知なる視線へ受けて立とう。
「乗ってやろう——"叩き台になる"は、どちらか」
「……」
「どちらの王が、"その上に座す新たな世界に相応しい"のか」
「……」
「最強無敵の吾で受けねば、『小賢しく逃げた臆病者』と蔑まれんとして——これより我らの紡ぐは『幸福の神話』。それは究極理想を追い求むる遠大の果てにあって『王たちの叙事詩』」
「……」
「我ら、世界の頂点に立って尚も欲することをやめぬ者。"全能に追い迫って"は『存在しないものすら求める偉大』で歴史に新たな一節を綴ろうぞ」
壮語を吐きつつ、輝き。
暗重を真面に進み出せば、武舞台で向かい合う両者。
「その盛り上がり、最たる一つが『戦』。力比べで、世界の行く末を決すれば」
「……」
「今日を以て形ばかりの同盟も瓦解だ。『理想の名君』に"思想の違い"、此処に新たな個神主義が連なり——即ち互いに『自らの言い分こそが至言だ』と」
「……」
「吾が王政に不満のありきなら、『罷免の発議』に緊張は避けられず」
「——推挙した覚えはない」
「呼び掛けはした、だのに応えず。何十、何百億と超えて怠惰な眠りに沈むから『懈怠も問題』なのだとして」
「……」
「斯様にも口先だけでは、互いに逆撫であっても醜悪——なれば、順当。『揺るがぬ信念に態度を示す』で"戦る"に他なく」
するとそうして、ゆったりの徐に舞台へ片膝を突き出す王。
「しても、"大神同士の戦"なら——"裁くも大神こそが相応しい"」
惑星内部へ呼び掛ければ。
山頂から浸透させる音の波、地面を伝い——現れる。
「聞いていたな——ガイリオス!」
「——『合意』と見て宜しいのだな」
荒ぶる瀑布を棚引かせ、三叉兜の大男神。
星の大地を割って、迫り上がる海流の背に乗り、残る大神でも山の頂上へ。
「事情を掻い摘んで、なれば、"王位を決める"、この戦い——形式は『皇位決定競技規則』にて、執り行う」
「——"カイザー"……"スペシャルルール"……!?」
(……)
「品格も求められるべき規則は『美しく偉大』で、『真に合する徳治の審議』に——我ら大神、ライフポイントは無限点。よって此処に末永き遷延を避けて勝敗を決するは『堅持すべき尊容』」
「なに!?」
「つまりも『在るべき王の立ち姿』」
「それは『優勝しちゃったもんね〜!』のように。謂わば『上回る余力』とは『世界に相応しき王の姿を【目に見えて勝者の威容】で示す』——"そのような"……!?」
「此処で音に出して言わんでもいい。あくまで『姿勢』に求める。神聖領域の者たちで道中の観測も難を極めれば、『結果』にこそ重きを置く合理」
そうして、間もなく。
大神の揃い踏みとなった山頂で、次には暗黒の身近にも浮かぶ『本』の形式。
それ——光と闇の双方に配られた『規則書』へ、両者が目を細めながら己の老眼を補正して隅々にまで及ぶ目通し。
「即ち、永久無限どうしに『動機の失せねば』、止まらず。政治的立役者にとっては『見目の出で立ちも重要』であるからして」
「……ふむ、ふむ」
「……」
「双方に『弱腰』、『気勢の折る』・『折られる』、『意を投げ捨てて屈した』、『投降』に『投地どうの』が分かり易くも」
「"傍目に分かる勝敗の形"、"見て取れる判断基準"の話ね」
「……」
「"節目の変化"は、"体面で持ち得る関節"に。"不屈の威容を支えて最たる"は、『肘の二つ』に『膝の二つ』——"計四箇所"の内、『この舞台面へ二点の接地で計測が進む』」
つまりも、"秩序に則る戦"。
今より"格闘の技を競いし"は、『中立の神』によって裁かれる。
「"カウント"——つまり肘に膝の過半数から、"先に屈して時を満たしたら"、『負け』?」
「然り。過半すなわち『大部分を屈した』と見て、計測を始める」
「つまりも『勝つ』には『相手を組み伏せ、規定の時間を満たせばいい』」
「然様にも。『賊を組み伏せた者が王と成る』」
「はぁん。なるほど」
「よりて、勝つにせよ負けるにせよ、"決着の近付く舞台上では互いに節目で同数を揃えるように"——宛ら『ボクシングにおけるグローブ』は"ある種の公平性"であって、身体的な特徴は『今現在の余』を基準とした『既存のユニバーサル規格』に則ってもらう」
「了解。"タイプに指定"はあるものか?」
「『G』でも『A』でも何方でも構わない。認識可能に同数さえ揃えれば、場面に応じた流動や可変も自由だ」
「有り難や。"規則の中でも幅を持たせた気遣い"に、感謝を」
その第三者が取り仕切る確認事項の最中。
アデスでも読み切る文面に細かく仕様を確認しつつ、"新たに現れた大神と言外に交わす視線"。
「総じて、"如何に相手が尊大"だとて、『鉄槌的に打ちし切るも残酷』なら……"勝敗を決するは穏便"に」
今で"休眠時に届いていた幾つかの文"に『確答』を返し、互いの疎通を図り終えても『鉄仮面』と『御簾』の二者に、表立った会合はなく。
「『最後まで立ち尽くす勝者』で、世界を負うに相応しき威容が見えるだろう」
読まれぬ表情、面隠しの下で暗黙の目配せ。
委細に音のない文章で確かめる『試合に於ける音声や動画の記録有無』などで自身にも都合の良い条件を『確か』と認めた先——"透かして見せる伏目の印象"で『目くじらを立てることもない』と頷く。
「……しても、なるだけ『相手のみを恣意に陥れる政治的な陰謀の介在しないように』は、単純かつ明快の規則設定」
「なればも、現に"幾つ"だ? 実際のカウントは」
「それこそ最も親しまれる『テンカウント制』。『光でも暗黒でもない第三者の数える十の秒』で決めよう」
「十秒あれば、"瞬く神に大抵のことは出来よう"が……?」
「"少なくとも十を戦わねばならぬ"——"未知なる脅威との十秒を"」
「……なれば、『何方に明確な有利』とも言い難く。幾分に"公平"なものだろうて」
細部を詰めつつ、備えも進める傍ら。
武舞台の横には時読む機械の『明白』と『暗黒』の二つ。
「"進んだ時は累積する"——仮に四肢関節の過半が着地して時読みの針が『三つ』までを進み、そうして立ち上がった後に再び昏倒とすれば『四つ』からを数え始める」
試合う両者の接地を計測する、二つの巨大な時計盤。
中立の神で秒を刻む針を試しに動作させ、"実際に計測される時の間隔"を伝えても、参加者二名の間に立ちながら『釣鐘の堂』も建立を終え、大方の準備は済んだ。
「その針の向かう先に『十全』と満ちた方が『敗者』であり、"勝敗を決した時にも鐘が鳴る"」
「——光の神で、相分かった」
「……把握した」
「然様しからば、大略を経て——此処までの両者に、『異論』は」
「ない」
「……よかろう」
「延いては規則も述べ終わり、次には"試合で決する道理"——『勝敗の有する意義』。其の改めた確認へ移らん」
そうして、媒介者からの概説を踏まえて前には、そもそもの『決闘することの意義』を確認。
「『余』では、今の瞬間に聞かせられた話。『戦いの趨勢を見守る』が報酬」
「……」
「……」
「速くに過ぎ、また暗くも。故に"光と闇の衝突で世界に起こる出来事"を記録し、しての逆算から"収穫"を得よう」
先述べとしたガイリオスから——向かって右へと手の振る方へ。
「して、輝ける神。"大神ディオス"では」
「言ったように、大神ガイリオスで既に前向きな解答の得られても——"残るはアデス"で、奴次第」
「"勧誘"」
「だから、吾の勝利した時では『彼の女神にも来てもらう』。"今の怯みなき遣り取り"を認めて、益々に思えれば——『暗黒が必要だ』と」
「……」
「"止め処なき吾に真っ向から対立"し、また"意見の出来る希少存在"」
「"論で競り合う切磋琢磨"は、"腹心的存在を求めて"?」
「そう。"仮に自由を止められる"なら、"吾に反する力"として——"その勧誘を受けてもらいたく"」
切望の向ける隻の視線。
現行世界の覇者たるが見流す動きには、中立の神でも等しき方向に、『促す手振り』を差し替えて。
「ならば——"残る暗黒"」
「……我が身で勝てば、"多く民の命に永遠の労は負わずともよかろう"」
「"民を労わり"、如何とする?」
「"安穏とした眠り"へ——『君の子を含む皆を私の領域へ連れて行く』」
「……」
「其処で万民は言動に如何な意も載せられぬよう、口を閉ざし、目を閉ざし——"ただ私にとって都合の良く"、『只管に静穏の世界を形づくってもらおう』」
暗黒の対面では、やいのやいの——"暴君よりの逃走、暗き世界に大脱出"! "いいだろう"!
——"それはそれで新たなる始まりに、伝説の予感"! "主導を傾けるから好きにやってみればいい"。
"何より我らは何方にせよ『真に皆の幸福を祈る』なら、『負けても最悪』とはいかないからね"——野次を飛ばさんとした綽々の勢いへ、諌めの手動きを終えて。
「簡潔に纏める」
此処に、"勝ってどうなる"を述べ終えよう。
「『大神ディオスの勝利』には——"苛烈にも『真に満ち足りる自由』を探し、夢想の追求。その研究組織に秀逸を極めるは『残る大神にも加わってもらう』"」
「あぁ」
「……」
「片や『大神アデスの勝利』には——"当事者に曰く、『真に偉大な王権の樹立』。その証明には自由に縛られる奴隷たちを解放し、『己が領域の管理下に置いては悠々』と"」
「……」
「……」
「——以て、意義確認の要説を終える」
「……」
「……」
「しからば、両者——"所定の位置"へ」
次には容易に動かせぬ——『動いたとて根拠を残す』は槍の穂先が撫で付ける。
舞台面に『白』と『黒』で色素物質を載せる線の引き、各位の立つべき『初期位置』を教える。
「では、"先走る不正防止の予防線"も張るぞ。間もなくは鐘の打ち鳴らし、"その震わす破れた時"こそ『交戦開始の合図』とならん」
次第には、二者の間を隔つ薄膜。
三叉が有する先割れの間から、油膜の如きは流体のようにも担い手の歩みに、追従。
「……あぁ。夢にまで見たのは——勝って、"我らの組合"」
「……」
「『もしも』の時の『広告塔』の役目も兼ねては、『アイドルユニットとして売り出す』所存もアリ」
「……」
「既に『歌詞』も『曲調』も『振り付け』も済んでいる我らユニットの、デビュー曲は『革新的ゲームチェンジ!!!』として」
「……」
「"三つの大神で仲良く歌って踊る様"を『仲直りの儀』とさせてもらう積もりに——"覚悟を"」
その大神ガイリオスでは二柱の間を閉じ行く作業。
残す後者たちも微調整で所定の位置へと脚を運ぶ最中に、『間もなくは荒事で話も聞けず』として決闘前は最後の談話。
「そうして『同じ所属』となれば、其は其で、"お前の意見に傾けてやろうとの機会"もあろうが……政略で他者の顔色ばかりにかまけても、"個人の思想で主体性が失われる"」
「……」
「『真に他者を求む』ならまだしも、"情"で『曖昧』に純度の希薄するばかりでも、"本願"を見失いかねず」
「……」
「『数が集まれば悪くも』の得てしては『只の仲良しクラブ』になってしまう。そうして『仲良くすることそのもの』が主眼となり、何れは『良くない者を爪弾き』——即ち『自分たちにとって都合の悪いものを排除しよう』と"美しき筈の団結"は、いつしか『陳腐』に落ちる『集団の瑕疵』として」
「……」
「"其れ"は、お前にとっても『避けるべき』。恐らく忌避とあっては——"未知の神で全力"」
「……」
「『出さざるを得ず』」
よもや『老体であっても不相応な戦いぶりを見せれば承知しない』とばかりに啖呵を切って、囃し立て。
「まぁ、同じになったらなったで、個々を縛るは『世界』に『社会』? 『家制度』? 『家父長』どうの、『母権』がどうの柵——『そんなもの突き詰めたって個の幸福ではないのだ』と」
「……」
「即ち『共同体の維持や存続』でなく、『どうして束縛が必要になったのかの趣旨』とは——『真に我らを苦しめたのは何か』、『その打破する方法はある筈だ』と」
「……」
「それら全て論理的妥当性によっては『利権を維持するだけの存在』に『理由』や『政治』のお株を奪い、少なくとも『固定』は流動でなくば『自由でない』を打ち壊して——"凡ゆるが吹き飛んでしまう何か"を、一緒に、探そうね!」
「……」
「……むふふふふ。しても程なく勝利の暁には、我ら『大神の制服』も決まっている——"世界への究極無限の奉仕者"は、揃いの『メイド服』として!」
「……」
「我らアイドルユニット三者三様が、"腰の重いお前"に合わせても『カワイイ』で揃えてやる。我ら大神、『多分に萌えも孕む』のは当然であるからして、"世界の顔"には印象を華やかしく——」
「……」
「謂わば『表紙を飾る看板』となるものに『臣民の気を集めやすいもの』も大昔に統計はとれているから——『ドラゴン担当の美少女』を"吾"で、『メカ担当の美少女』を"ガイリオス"」
「……」
「そうして『美少女担当の美少女』を"貴様"に担っても……"萌え萌え振る舞い"、"徹底してもらうが故の覚悟"をだな——」
「……」
「あぁ、吾は『アレソレ担当大臣』で『綺麗所を譲ってやる』のだから、精々お前にも、それぐらいの責は負ってもらわねば——」
「民を頼む」
「預かろう」
アデスでは『己が踵の後ろに匿っていた民』を動かす。
場に居合わせた一羽の鳩は、境界線の引き終わらんとする中立の神で優しく抱き抱える仕草に任せる。
「……規則に従い、戦う我らでも力を貸すが、守護の要には後方の貴君で万全を期するのだ」
「任されたし。責を思いて努める」
その舞台外に置かれる『きょとん』とした表情。
当該の鳩も含め、大神が星に展開する透明の防御天蓋に包まれる皆々は『事態の分からず』も"戦いに決する世の趨勢"を、ただ待つのみ。
「——あぁ……! あと『過去との違い』で事前に話しておくべきは、吾が『神々皆へ恩恵のあるように』と過去に設置した"機能"で、補足」
「……」
「お前が休む間に新設した『援助の法』たる"バックアップ"は、"我ら神性が民の信仰を受けて力を得られるよう"に整備をした」
「……」
「即ち、"命の意志や願いを力とする我ら"だ。今のような状況で簡単には『勝者の成すことこそが彼らの意』として、つまりも『臣民からなる得票数が、そのまま我らの余力に加算される』ようなことでも?」
「……」
「宛ら、『サイリウムを振って応援する』ような? 喩えて、あの光、『天上の輝きに至りたい』と望めば、『それを齎さんとする吾』に」
「……」
「皆で『頑張れ』と応援を受けては吾が身で『自分のため』だけでなく、『他者のため』と"負けられぬ理由"に"義が増える"」
「……」
「『ならば、ならば』と踏み出す一歩へ糧となる」
「……」
「つまりも、"微量ながらの思いを有るもの"と活かして単純に、『この力比べに勝利した者こそが』——"真に皆の意を汲んで立つ"」
「……」
「『相応しきは世界の頂点で王へ相成る』との文脈。此度は政治的にも決闘で見目に分かり易く加味し、少々」
「……」
「まぁ、そんなもの。"大神の有する自力"と比べれば、"有って無い"ようなものだが……『緊急時に調子が戻るまでを凌ぐ非常用』か『己の権能を温存する小細工』だと思って、よもや今日に出番はあるのだろうか?」
「……」
「機会があれば、『試す』もよし」
「……」
「——『自身が真に民の思いを体現している』と、"疑いのない自負がある"なら」
そうして、一羽を預けて戻る頃には、二者を隔つ可視膜——宛ら『大気の発光』の、緩やかに降るが如く。
「果たして、『真に民の代表者たり得る』は——"どちら"か」
「……」
「"これから明白にしてやろう"と言って——"さぁ"……!」
一枚を隔て、暫し別れの際。
所定の位置で再び向かい合う形となった両者は、『世を蝕む毒』だ。
事実として『民を狂わす破滅厄災の化身』にも——『自由であれ』との祝福は、『斯くあるべし』の呪い。
対し——『世界を永劫に閉ざさん』とする『束縛』の呪いを身に受けても、幾星霜。
「永久の力を実現し、可処分時間も無限にあって大抵の物は自前で創り、手に入るなら——"次に目指すは何か"」
「……」
「それは『幸福』だ。即ち『己が何を為して笑い』、『何を手に入れれば心から喜ぶことが出来るのか』——只管に模索が続く」
「……」
「よっても、"その未だ我らに果てしない問いかけの道"こそが、『上がり』とすべき世界の頂点頂上の——限界に挑む神で『真に果たすべき王の責務』!」
此処に睨み合うは互いに大神、王たる器——『真に閉塞の時代を導くべき義』と『可能性』は何方にあるものかと。
「『無限に広がるべき可能性』は、誰の許諾も要なく——"吾の目指すインフィニティ"」
「……」
鎬を削る。
己こそが世の覇者たらんとする意気に『模索を続ける無限の試行』及び『現状に出来得る最善の追求』は口語に隠さぬ気骨で以って、"王たちの覇気"。
「対し、『真に偽りのない義を宿すべき』とは——"お前の探し求めるパーフェクト"」
「……」
立ち位置を舞台中央。
向き合う形に待つ開戦の合図で両者の心身、気鋭が整う。
「『真実を照らし出す光に凡ゆるを超越して遍く全てに恩恵を齎し続ける吾が王道』と——いやいや、『完全性に至れぬのなら苦も続ける意味はない』」
「……」
「よって、『有無が不確かなものの為に犠牲を要するとは出来ず』、『皆の安寧を想って暗く沈む暗黒の王道』は——」
「……」
「——譲れぬならば、いよいよ以て始めよう」
「……」
「全能でなくば、『偽りの救世主』に自覚の我ら——だがして『儘ならぬ』でも、"努めて穿つ現状"は『我が光の理想郷』と、『お前の掲げる闇の理想』」
「……」
「この統合宇宙に相応しき、"真の試行錯誤"は、どちらか——」
暗黒の大神では顔を覆う薄布を『ヒトサシ』と『オヤ』は左右の二指ずつに掴む動き。
肩口に向けては下方にすらして外し、"繊細に取り除く障害物"は『隠さぬ眼力』にも"本意の構え"で臨まん。
「——"神判"の時だ」
眼前に垂らしていた前髪を対閃光防御として幾分に残したまま、されど白髪の隙間から明らかに深紅の眼を覗かせるは——やはり日射の御簾を取り払って隻眼に眼帯を引き締め直す白銀の王と対峙。
「「"——"/"・・・"」」
よりて間もなく、両者を隔てる不可侵結界。
「しては、敷設も終えて——準備は、良いな」
舞台設営の大神に、全ての用意も周到と済んだなら。
「——両者、玉体の在処を武舞台に。勝敗の決着で揺るぎなく」
「当たり前だ! "共に全方位対応であって逃げ場なし"」
「……」
「何より『全身』、『全霊』! 『中核』に『本体をも含む全て』で臨まねば、勝ち目も薄くの『難敵』よ!」
「……」
「では改めて、今日此処に『二者で合意』せよ」
「"……"」
「"……"」
「『勝者こそが主権を得る』。即ち、"世界運営に於ける第一位"、"誰にも増して要とされるは並ぶ者のない言動の重み"を」
二つの柱に、頷き。
「また、同時。"互いの持ち得た決意"には、『敗者に対しても尊敬を持って結果を迎えるべき』として——」
その『試合成立』を見届けた神が舞台上を去り行き、振り返る。
「しからば——始める」
そうして、甲冑大男神。
己が肩に担ぐ得物を徐々に身から離して——"振りかぶり"もすれば。
「"極神戦闘"」
来る次には、三叉の槍で打ち鳴らす鐘の音。
「レディ"ィィィ————ッ"!"」
振動が齎す、けたたましき音の波が、両者を隔てる薄膜状の物質の形を叩き割った——"その時"にこそ。
「——ゴ"オォォォ"ーー!!!!!」
——正に、戦の幕は開かれる。