第三章『離別』
第三章『離別』
斯くして、神と神。
気軽にも交わしたのは、"難問へ挑む永遠の約束"。
言い換えても、『未だ世界の抱える苦悩』に向き合うとし、"悲痛なる核心に迫りて努め続ける約定"に、ともすれば二者で『友誼』さえ間もなく見え出そうという段階を程近く——。
「——……アデス様」
——だが、その矢先。
後に、神々へ"事態急変を思わせた発端"は『片腕が失われた女神』にあるとも言えよう。
「……女神テア——」
「……」
「…………"隻腕"は、何だ」
然る日
再び見えたテアで、"右の肩より先に従来の形が見えない"。
其れも謂わばの『騙し絵』か、正しく『手に物を隠す手品の談義でもしたいのか』と思えども——だとして、"妙に巧手"。
いいや、"大神の私ですら種にも仕掛けにも見当が付かぬ"のは、"現状に於ける心当たり"が『消失そのものに一つだけ』とあっても——"絶技"に過ぎて。
「"戻らなくなってしまいました"」
「何をした」
「『無に触れた』のだと思います」
「……」
「……平時の如くも戦えば、暫しは興味に従い、"後の成り行きを注視していただけ"なのですが——」
「……」
「何やら"侵食の勢い"、"これまでの記録を超過"して——」
即ち、『今日まで押し寄せるのみであった無』に対して述べられたのは——『万能の神すら呑む』ようにと、"明らかな異変"。
「——"感知しきれぬ間に食い破られた"」
「……」
「しては直ちに腕の先に繋がる各種を遮断、破棄した上でも急ぎ、念入りの撃滅を果たしながら後退しても『情報を共有するため』と駆け付けた次第であります」
「……経緯は理解した」
さすれば、世界、この一件を境には慌ただしくも。
"好奇心の塊である彼女そのもの"には、何を説くべきか。
「しかして、『大神の眼からも現状を精査すべく』は——当該の箇所をよく、見せてみよ」
「……お願い致します」
細める紅の眼。
垂れ幕越しに眺める肩口で、今に継続的な侵食はない。
されど、かつて目にした白魚のような細指は勿論に、柔和の輪郭で続いていた女神らしい細腕さえ『不朽である筈の存在に消し飛んで異常』なら——兎角は誠実、診察においては嘘偽りのない懸念で応じる。
「……」
「……」
「……"直ぐに手を諦めた"。『当初から消えるものと腕を切除した』と言ったか」
「はい」
「……確かに切り口で整然と。だがして、『戻らない』とは?」
「……"このよう"、何か、"自身の腕では戻らない"——」
(……其れも、どう言う"訳"、"理屈"、"式"が働いている……?)
「——『己で新たに右腕を仕立てよう』としても、"再生が上手く起こらぬ"のです」
(宛ら、"腕という概念が接合しない"——いや、『まるで当初から当該の事物が無かったこと』のように、"その存在し得ぬ条件下へ場が書き換えられている"……?)
「……しては何か、貴方様の視点に見え出すものしょうか?」
「……残存する気配もなければ、他の点で女神に明確な異常も見受けられず」
「……」
「しかして、仮初でも大神の手で修繕を試みる」
「……感謝を」
その見目には己の似姿で痛ましく思えども、さりとて概覧を終えた現状、深刻に捉えるべき体の異常も見つからず。
また、女神当事者で危篤の気配すらなくば、暗黒で今に出来得る対処として『同盟相手への義理立て』は可能な限りの『代替処置』を施さん。
(なれば、『認識と質量を誤魔化した』とて、"其れに手袋を被せるだけの適当な形"では——"能"うのか。何だ、"これ"は)
己という鍛治の神で手刀を持ち、小突く大地。
眼下、手近な岩石惑星に起こす振動が岩を流動と変え、その奔流、溢れ出す様子が宛ら沼より。
素材を引き出せば、流れ行く事物を"見て"固定し、象る『女神の義手』で暗技の為す『狂気体験』は——事実として『彼女の腕』が『復元不可』なら、『己でない■■』を『自身のもの』と思い込ませる"虚偽の御業"にて。
「動かしてみよ」
「有り難く拝領させて頂きます」
「……簡素な代替物だが、機能としての遜色はない筈だ」
「……動作において、問題なく」
「"不測に備えた念入り"には流転する時空にも細工を施し、以後に状態の進みを遅くしている」
「……至れり尽くせりに、幸甚の至り」
「……」
「其れ、よもや、予想だにしていなかった『アデス様と揃いの手袋』は、災い転じて恐悦にさえ」
「……"時々に応じて好みの色でしか仕立てない"。それだけだ」
「お好みの」
「何より、もし仮に『危機を装って私の慈悲を引き出さんとする』なら、"活を入れる体"で張り倒しても進ぜよう」
「……怖らしい」
処置と共には、問診。
冷静な応答に『当面のつつがなく』も認められれば、一つは安堵とできようか。
「……他なる要所、状態は?」
「総じても体調の面で、前述以上の変化は見受けられません」
「"精神"に及ぶ変化は?」
「敢えても言葉にするなら……"少し"」
「何だ」
「謂わばの『無』という概念の近く、"目に見える現象の意義"を解釈とした際には『全てを消し去りたい』・『何もあってはならぬのだ』と——」
「……」
「仮に言語の形で喩えても——『消し去らねば、終われない』?」
「……『|聞こえた《・・・・』訳ではないのだな?」
「はい。無は無として、語るものはなく。あくまで私の想像する所に——」
「……」
「——"そのような質感"が一瞬、心によぎったくらいの」
「……然様か」
だがすれば、暗黒で演じる『笑む印象の軽口』に、会話の腰を和らげつつ。
「……しては多少なりとも『興味で眺めていた』ものが、気に掛かりますが」
「油断していたつもりはなかったのですが……結果として、不覚を」
「『何が油断か』も定義によるが……事実、他所に"常在戦場の神"はいて、『その者らにしか分からぬ領域で任せれば良い』とも思い」
「……」
「貴君で"警戒を持続させる残心"なら構わぬが、『眺めるだけ』とは見落とすなかれ」
「……はい」
「此度の件を踏まえ、警戒の仕組みも新調せよ」
「"……"」
言い聞かす暗黒で『無事でも』とは欠かさぬ訓戒の場。
暗幕で重くする面影に、相手の認識にも見え易くは濃い色の"圧"も使って。
「……真実として、"我ら研究にも没する大神"さえ、"無に関心を抱く思い"を心に浮かべたのは、一度や二度ではないだろう」
「……」
「即ち、"意識で触れて何となるか"は『"完全に消え去れた"のなら』と、『仮に"悩みも無い"とはどんなに楽だろう』などと……時には、戯言を」
厳かな玉声は、滑らかに。
「しかして、複合の視座に、多様な観点に考え抜いた末での結論が——『ただ終わるだけでも夢の叶わず』」
「……」
「『どころか夢の破れた足跡も残らず』、『それでは轍も無く、後学のためにもならず』、『当然として満ちる己も無くば』——剰え、『誰のためにもならぬ』と」
「……」
「よって叶わぬばかりに、夢も破れて。『永遠の失意に終わっても無様なのだ』と踏み止まり、幾星霜」
語調の緩やかにも引き締める抑揚は、冷徹な印象にも突き刺して『親切心からの釘』と演出するのだが。
「されどそうして、今日。もし仮に"君の幸福"が『終わること』や『無に身を浸す——知識として親しむことにもある』のなら、止めもせず」
「……」
「私に"君を産み出した責務"もなければ、"自滅主義の始末も自己以外に見切れぬ"だろう故なのだが」
「……」
「しかして先述の通り、"現状、己を脅かすものと相容れ難く"」
「……」
「因りても、仮に——"存在しながら無を知らんとする者に道があるとする"のであれば」
「……」
「其れこそは『無の無害化』を一つ、また一つ、"踏みしめるように成し遂げた其の先にのみ"と——……此処に一種の道を示さん」
対し、"右腕を犠牲とした女神"。
眺めていただろう思いに『消滅の利を考えて』か、剰え『何らかの魅力を感じ取っていたのか』は、明言とせず。
「……切なる助言に痛み入り、真に我が身を慮っての言種」
「……」
「何よりは御身に懸念を抱かせたこと。後に形式立てても詫びとします」
「……荷重も要ない。面倒だ」
「……承知」
どころか『余計な心配を掛けた』と詫びつつも。
「……また、しかし」
「……何です?」
「同時に思うは事実として……我らに貴重を超えて"稀有の資料"でもあります」
「……よもや、『敵を知って危うからずため』には『自身の身を資料としても踏み込むべきなのだ』と?」
「……"はい"」
「……」
「其れも、恐らく……時に『狂気的な科学者』や『探究者』にも違いない大神様で、"前例に乏しい学術資料"としては大変に興味もお有りかと」
「……(……自身の事より、『未知を知る』に関心があるのだな)」
"全能に近しき大神すら知らぬ"へ『触れた事実』は、"にこやか"にも。
「延いても先ずは、失った部位を用立ててもらってた"見返り"としても……そうです」
「……?」
「"消失を得た"、この事実。先ずは私とアデス様で"内々の秘密"として研究を進め、一纏には、『どれ』を『どのよう』・『どこまで』を——"公開資料とする範囲"も私と貴方で決めませんか?」
「……?」
息を巻く様子すら、"危機的体験に乏しい若気の至り"に見える。
「つまりも、情報を掴むにあたって、その"諸神より先行とする優越"では如何でしょう?」
「……」
「『無の有する不可解な力』は脅威であって、されど、今後において貴方の立場を助ける『切り札』にも成り得るものです」
「……一理あるが」
「……」
「"大神を抱き込もう"とは、過ぎた度胸だ」
「……それも、あくまで『私の主導』として」
「……」
「アデス様で"単に"、『相談役』をお願いできれば」
「……ふむ」
しからば、『好奇心に知らん』としては諫言にも静止し難く、女神で従わぬのなら——『それは、それ』で方法を変える。
「……なれば、理解を深めんとする女神の意に沿っても、聞かせてもらおうか」
己の意に従って成らぬなら、"他者の思うまま成るように"。
厭う面倒は、より易き方向へ、『優しく宥める方針で誘い、導かん』と——少女で顔前の圧を和らげて言う。
「……『無に触れての思い』を克明に記録させ、『果たして御しきれるものか』と君の所感を尋ねたいのだが——」
「それについても、勿論」
「——利害の調整に先立っては、私からも一つ、『取引』としよう」
「"取引"……?」
"企みに乗り掛かる軽妙な会話"に見せかけては、"同じ船に乗る僚友"の親しみも思わせつつ。
先には相手に"好奇心に逸る危うさ"を見てとり、その"意気盛んの様子"で大神に授けられた忠告へも、『ただ言葉通りの従順に努めるか、どうか』とも疑いの残れば——"最もらしく理由"を以て『監視』を行わん。
「前提として、女神テアで"今の御身"は『支援を必要とした状態』」
「正気では在りますが」
「それでも、"己の予想に反して危機的な状況に置かれたこと"は変わりなく——つまり、"部分的にも君は心許ない"」
「部分的には、はい」
「即ち、"愚かでなくとも単独に足らぬ状況"で、"接触後の経過観察も重要"だ」
「"不覚を取った我が身"で、『未だ懸念は残る』のだと?」
「よって、"暫し私が付き添ってやる"。今までよりも、密に」
「しかし、"その提案"と"取引"に何の関係が? 口語で聞くに、"私はアデス様とより緊密な関係が築けても"、貴方にとっては"さしたる利点"も——」
「……」
「——いえ。よもや、"表層だけでも同盟"を色濃く?」
「然り」
「此度の"不可解な一件"を踏まえ、対外的には『警戒すべき度合いを増した共通の脅威を前に』と言っても——"異なる国家間で行う軍事演習"を、謂わばの『威嚇』として」
「遠からず」
「『協力の用意があるのだ』と、"何処ぞへの牽制"にも使う」
「そう。以前に起こった『光の急襲』も踏まえては、同様の仮定で"貴方と共に在るときの襲撃"を牽制してこそも『二神の勢力を敵へ回す』ということに」
「それこそは、"より密となる距離感"で」
「よっても"私自らの保身"のため、貴方には"利用をされてもらいたい"のです」
「……成る程」
「対外的な見せかけでも、『撃ってはならぬ旗印』として」
「そうして私は『大いなる女神で不安の時を支えて頂ける』……"取引"」
(……見守る間にも『脅威への根本的な対処』にあたれれば、重畳)
表面上にはあくまで"互いに利する合理"を『取引』として、裏の真実として暗黒でただ『女神への監督態勢を念入り』に。
(そうして『無が害を為さないのだ』と、"観測不能なものの安全"を、"如何様に証明してみせるか"が難題ではあるのだが……)
「延いては口添えもしてやる——『女神は危うくあっても無策でなく』・『ただ無に起こった変調は余神で対処困難であると分かり』」
「しても"我が身へ多大な恩恵"のあれば、取引に断る理由もなく」
「『近く大神同盟で抜本的な対策会議を開くべき』、『より本格的な調査活動にも共同で臨むべきなのだ』と告げても——"光の勢力も会する場"で、"君を連れ立って優位を得る"」
「——応じましょう」
暫し、目を離さず、逃さず。
斯くの如きは、倦怠に沈んでいた神。
目前の新鋭に有望を見ても、"己さえ求める世界のため"——"理想実現の可能性"を探るに本腰を入れ、立つ時。
「しからば、道中に遭遇戦があっても私で担うゆえ、貴君は『休み休み』と続かれたし」
「"——"」
「其れ以前には自己診断も含め、詳細な報告を纏めよ」
「はっ」
「間もなく私で査読の済み次第、公的な日取りを決め、出立する」
なれど、ほぼ同時には、偶然か、必然か。
今に統合宇宙の神々が『更に攻勢を強めよう』という時勢に成り行けば——よもや、"無の方面"からこそ『先んじて世界を消失に呑み込まん』との勢い。
"脅かされる立場"にあっては、『反抗の力強さ』が一層と?
"今日まで駆逐されるだけの劣勢"にも——『奇妙な変化』は甚だしく。
————————————————
「——なに……っ!? "これ"は——"無限ソードパンチの波動"!?」
先の非常収集に応じて最も遅くは光神の王たるディオスが所定の座標に乗り込むや、否や——"宇宙の乳白が消える"。
「——ゲラスッ!! "応じぬお前"が、"どうして此処に"……!?」
よもや、神造兵器の製作者たる神で己しか聞き取れぬ振動を感じ取っても。
さりとて、間を置かず目にしたのは『自由奔放で己が戦う以外に耳を貸さぬ戦神まで一箇所に追い込まれ』、『吹き飛んで来た異例』を見るに——いや、"見ざるを得ない目前"で既に、"全方位より迫る無の擬似灰色"。
「まさか、"こうも押し込まれる"、"徐々にも無で指数関数的に量を上回っている"——『我らの無限が劣る』のだと!?」
彼方より響く剣戟の男は今や近くで膝を折り、赤熱に燃える瞳を持った銀の偉丈夫でも纏う光輝の弱々しく。
それら、"今まさに戦闘中の推移"——遅れて認識する諸神らでも"仰々しく神々の収集とされた異変"が『真実』であり、また『俄かに極神さえ押し込まれた異常』を認めれば、直ちに戦意を研ぎ澄ます。
『——女神テアは下がっていろ』
『——"!?" アデス様!』
よりて間もなく——"決戦"の時。
残る存在で一箇所に押し込まれ、逃げ場のなくは『押し返さねば』。
各神に未だ己が権能へ接触を許す信頼は遠くとも、全方位から迫る勢いに対しては期せずして背中合わせのような位置関係が丸く一点に共同戦線。
「それも——"なにっ"!?」
真っ先には、先刻から異常に際して反応の速き神王ディオス。
即座に投げ撃った技は、"敵への対処"として、『空間を撫でる輝きの掌』から世に照らして見せる全面で、"うねり"——だが、よもや敵勢にも『蛇』か『蚯蚓』の如きは、"多重に線の犇く異様な光景"で凡ゆる時空が渦を巻いている。
「"未だ吾の見せていない札"が、どうして——"模倣"!? "逆算"!? "酷似の姿"を!?」
(——"直ちに模倣した"?)
「"斯様な未来は視えていなかった"のに、なぜ——
まさか、"ある"のか? 無と我々の関係は、"正負が逆"で、写しを消す、打ち消す、『真逆なだけ』の……!?」
それらも『存在し得ぬ筈の脅威』が、"目前に現れ出でる様"。
言い換えても『有ってならぬ』の強襲では、先に『ゲラス』と呼ばれた神に血縁で容貌の等しくは共に煌々と燃え盛るディオスでも、比して眉間へ皺をあしらった壮年の姿が戦慄き。
「しては、もしも、仮に、"違っても近しく仮説"が、『そう』なら……"取り合う筋道"すら、なんとでも見えよう筈の————」
動揺から——"仮に敵がいる"なら『その真意たる狙いを明らかにせねば』と、のめり込み。
剰え、"視界に映す無"を傾倒の勢いで、"遮るもののない注視"に左目から覗き見たのなら。
「——ぎゃぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ァァァァッ"ッ"!!??」
輝ける瞳の——失明。
「——グワーン! 吾が眼で才走! よもや『至近で良く見よう』と皆も当然に張っている"安全策を薄めた"、"逸り気に暖簾を払って直視しただけ"で、"これ"か……!」
「我が王!?」
「よく聞け、吾が娘。克明と記録せよ——"無に触れた心境"を、成る可く記録へ言語化せん」
「——はっ!」
「"認識から燃える"、いや、"何か淡々と迫る認知の消失"、これは……宛ら"辛うじて自覚に能う失念"の、"侵食"?」
「"——"」
「故に心で恐ろしく。今や取り戻す方法も……いいや、『己が左眼を忘れたのか』すら分からず——分からぬ」
「"——"」
「何か、"概念"? ……を思い出せずに分からぬが——負って立つ王は、"此処に健在"!」
「然り! 神々が王は神王ディオス!!」
「端的には、『何かくらった』——"目に無粋の"、"ものもらい"、やも!」
この時を以て光の王は、防壁から露見させた『左目』を"概念から"、失う。
「其れも、う、うぉぉぉぉぉ!? 吾が『タキオンの眼差し』が! いや、眼の一つなど今やどうでもいい——それより『敵を狙う』ような"浸透の無"は、どういうことだ!」
「——大事ないのか?」
「其れすら、不確かに。何か、なんだ、"この作用"? 喩えて"瞳の裏返る"ようにも、"自ずから無を求め"、『消え入りたくなるような衝動』は……?」
「止血じみた『眼帯』や『義眼』で入り用は?」
「心のみを受け取り。しかして今は、"触れるほどの距離には来てくれるな"」
「?」
「"今は無に呑まれるような心持ち"ゆえ、宛ら『世界の存続のために何を提案されても裏切りたくなるような危険』で在る」
「……なんと」
だがして不屈の魂にも終わりなく、他なる大神へも現状共有。
先から"遠隔で広く伝わるよう"には光の大音で騒ぎ、並び立つ同格の大神より気遣いのみを受けても、徐に雄々しき姿で立ち直らんとして。
「"貴公の女神の一件"を聞いて、『果たして無に内側のようなもあれば解体に至る内情を窺い知れる』とも思ったのだが……やはり、戦いに興味関心なぞ過ぎたか」
「折も折。哲学は後に回すべし」
「しかし、"可能性を捨て置く思考停止"でも、"全知全能にはなくなってしまう"……!」
「アイデアがあるにしても実験、後にせよ」
「おうとも! "痛い目"を見たのだ。事ここに至っては、"よくよく危険"と理解もしている!」
「"状況"は?」
「"失いしは結晶体"。"深淵を覗き込み過ぎて観測主体の瞳をやられた"。それも光の反射を受けて情報を流す重要機関、凡そ全てを失い、"手痛い"が」
「"戦場に立てる"のか?」
「何とかする。己が完全消失になければ安いものを——」
実際には、"侵食を知って秒より速く緊急の隔壁閉鎖"も成したディオス。
外消部位の『左眼であった部分』では"溢れんばかりの光が常に傷口を抑えつける"とし、これ以上の被害拡大もなく。
「——"しかし"」
さりとて、その急いた興味の弊害では"大幅に気勢を削がれた機関再充填の合間"——『入れ替わり』に期待を送られしは、暗黒。
(——騒いでばかりが、何をやっている)
『前提が崩壊したのだ。事実として動揺も隠せぬ。すまぬがしかし——深呼吸をくれ』
全身を黒づくめで覆う少女は通信の言葉で求められるより早く——『他二神の主力級が劣勢に足を止めざるを得ない』と見るや、誰より前に出て戦う。
(——っ")
だがそうして、他二神が主体となって創り上げた宇宙で、残存する物質と時空を押し出す、謂わば拳の動き。
乳海と星々の熱き土石流を撃ち出せば、しかして"投擲する拳圧"の間接的な攻撃が敵の中核を捉えきれず、浅い手応えに『一時凌ぎでしかない』とも自明。
(——この後に及んで、"己可愛さに出し惜しみ")
逡巡するは、『切り札を切らねばか』。
また、"世界の消え得る間際"に及んで『我ながら』とも。
未だ間接的にも単純な攻めで『短絡的な保身を図る愚か者』では同盟に苦境は続き、自身も苦しく、『伊達に自滅の歴史を抱えていない』と自らへ募る嫌悪。
(——伊達に自ら滅んでいない……!)
痛感には時で秒の過ぎるも暫く、無の反抗には未だ神の力を超えて限り無く。
暗黒の膂力で押し出された次第にも勢力の溢れて舞い戻れば、"大神単独でも決定打にはなり得ない"。
「……ようし、立ち直って感謝。なれば、"光と闇の噛み合わせが悪い"のだとして、交代だ」
「……」
「次は、前衛に出るのが吾と、観測手を主たる役割としつつ各種の支援はガイリオスで頼むぞ……!」
よっては暗黒の攻勢——その隙間は影の糸口に差し込む光。
先に重圧の拳によって領域のない場所へ追い込まれた無は、攻撃と同時に創造されし時空の外枠へめり込むようにも一時的に固定されており——その防備も無い間隙を襲ったのが神々の王による一瞥、閃光。
「——まったく、なんなのだ。無は。残存せしは世界の全てを引き継ぐ大神にさえ、"見覚えの無い"」
『——"分析中"』
「『無が僅かにも方向性を得る』など、それこそ『あってはならぬ』というのに」
『——"多く観測機器の消失"を以ては、"間接的な証明"を引き続きの推奨とする』
「……決定的な隙も無ければ、愚鈍ですらありはし無い? "真に無い無い尽くし"には何時まで付き合えば良いものか?」
『——未だ展望の視えず。仮に"一切の規則性も限界も無いもの"には、"凡ゆる全てが起こり得る"』
大神同士で情報を交わす最中。
腕を組んでは迫り来る無の巨壁を怪訝に睨むディオスで、その実、目にも留まらぬ神速は敵の灰色じみた奔流に対して白き強熱で打ち続く様相。
「……だが、"あの止めどなき勢い"。"衝動の流れ"は吾で見覚えがあるやも」
「……」
「それは宛ら"流流"の『ストリーム』」
「……?」
「それこそは『息吹』として、直に流れを"顎から噴流してきそうなもの"は、即ち——」
だが、"追い詰められて無に立て続けと起こる変化"が一層、甚だしく。
「——ぬ"!? ワー!? とうに、その『龍』ですら——落ち着け、吾! 王が慌てて如何な示しとすれば……!」
苛烈となる攻撃は、『巨龍』の如き。
間接的には"光に映らぬ場所"で見え出す形にも"顎門"が、"執拗に神々を襲う不可視の群れ"と相成った。
「——"明確な敵意"を感じる」
それは『太祖から教え賜った統合宇宙紀元前の記録にも前例がないもの』と——『今に見える初の事例』と広域に伝えるガイリオス配下の知識神。
しかして、『なれば』と、受領せし情報に状況を要約して太祖本尊では従神たちへ『己が身を守るのだ』と忠告しつつ、自身では『勝算に繋がる資料を得よう』と、光の迎撃によって一時的にも攻勢が弱まった無の一部を見計らい、動いて見せる転瞬。
(——"足りぬ")
三叉兜の大男神。
持ち出す穂先は『箱』を描き。
華麗な槍捌きは"謎の断片を囲う"ように『既定する概念の形』を物質化に取り出すも——されどの無は『捕獲』の意も『当て嵌め』も無視して雲散霧消に過ぎ行く。
「——っ! だが、"僅かにも"、これは……!」
"意思なき即妙"に捉え所も持ち得て無く。
「単に従来とは——"規模が違う"……?」
頭頂から尾までを見通せずは"果て無き蛇体"のようにも見える形が、宇宙を囲んで凄烈。
此処で創世に語られて強大な権能を持ち得る筈の神々すらも『礫の如く呑み込まん』とすれば、絶えも無き嵐の壁。
(仮に"超規模"なれば、『芽生えし力量』に『指向性の有るとする流路』を"完璧にも近く隔離"に能えば——堕とせるものか?)
今や長い年月を経て観測や索敵に使っていた星々も次々に消失して、消えゆく光との対比に浮かび上がる様は百足にも酷似した不気味の印象。
音もなくは、線状に満ちた坩堝の如き灰の暴流より、来たる。
時折にも伸びて夥しい数の『触手』や『頭足』のように攻め手が『神を目掛けた指向性』を持って、襲う。
「——はッ! "全天を満たす塒"の様、いよいよ"神話の怪物"らしくなってきたか……!」
その手繰り寄せて消滅を強いようとする動きには槍で斬り伏せ、闇で潰し、自由に燃える神で炎熱光輝も盛んに。
「だが、王に熟慮の求められる立場で暫し神妙にしてやれば、ふざけおって——"吾は己の在りたいようにしか在りたくはない"のだ!」
失いかけの左眼。
忌々しきは幻肢痛ごとを焼き払い、視座に逆巻く気炎を上げる。
「しかして、『無』とは『吾』でなく。"吾が無限の苦悩"を晴らすことも出来て無ければ——"速やかにも"」
よって他方に『無いものを有る』と、片や言葉を発する意思もない一方では『有るものを無い』と。
「道を——"開けよ"」
白銀に溢れる王の発揮と、褪せさす色で押し返す無の濁流。
創出し、消され、消されても、創り出され——果てには"上回る無限"と"己の法則"で『敵を完全に塗り替えたものこそ』は"真に勝利の時"を迎えるだろう。
「——しかして、残る二神も"惑乱"に備えよ」
「——む"!」
「……」
「間もなく『時流は消えて』。近く触れても理解を得たり、"あのようなものには立ち返る過去も、進むべき未来も無く"——"よって『今』に乗り越えねば、我らの歩む道も無いもの"と」
「平然と言うが——"本当"ではないか」
「……(■■——……使えぬ)」
「"各々と対策済み"だろうで、案ずるな。我らに他でもない"今ここに現存して在るものこそ真に本体"なら、既に前提となる過去を内包し、未来に道も進むべきと知る我らには『過去に戻ってどうの』も効かず——」
延いては意思なき暴威の無でも、『大神』という『即座の適応』へ憂いたか——"厄介な時空超越の手段"も消され。
"過去という方向の軸"を、"時流の立つ瀬を消された"ら——即ち此れよりは、"只管に今を進む"他もない。
「それとして、"大きな方向の軸"。"一つの足場と出来る可能性"を失ったのは手痛い。"単純にも動きが制限されよう"から——今は端的に言って、"弱体化"だ!」
よりて無の作り出す潮流に『不退転』の意を呑まされては、残る大神でも戦闘に注力。
"迫る何か"を仮に『非なる物質』と呼んでも件の切り口から『置き換え』を発生させ、光の激流から炙れる残りを三叉が撃っては『常なる物質』に変換——だがして限りも無く、増すばかりは無の権勢。
「しては仕様もなしに。"断絶の時空"も『縛り』と思って"各位の気質に楽しむ"として——目下は、"劣勢を返すための決意で構えても大逆転とはいかぬ状況"」
雄々しく悠然の玉声には、情報を共有しながらも油断なく徐々に陣地を広げていた光神——その宙に広がる輝きを消し、玉体に肉薄する消失の速度すら今に『超常の成長』じみて。
「それこそ苦境に反旗を翻した所で気勢だけでも、"残る一歩"。それこそ『無』なり何なり、『また別の存続していた世界が現れて支援』など——"新たに頼れる後押し"がなければ、どうにも……!」
万事に習熟し、究極を体現する筈の大神らでも未だ勝機の見通せず。
(……っ。"倒すべきでも明確な敵で無い"。"意を叩き折るにも芯の無い"——"烏有"しからば、仕様も無く)
しかして、愚鈍なりにも戦う老婆、己に引き延ばす逡巡。
疑心に満ちる神では『他力を求む』よりも『自己が有する勝算』を探し。
(よって、"別の呪法"を試すべきか。"仮にも境界へ嵌め込み"、"その形ある打倒で以て無にも同等の現象を引き起こす"——『見做し』の)
さすれば、『切るべき隠し札』の、『どれ』を。
仮にも『全てを用いて倒せる』なら、『戦後で【世界を救った英雄】としての立ち位置でしか己の優位もなくなるだろう』として——迫られる、決断。
(しかし、"無を内包した何者かでの圧殺"——"誰"が、臨む)
何より、"無を抱え込めるほどの存在は誰で担う"——『候補』を探し。
("望める"のは、『私』か——いや、未だ悔恨に塗れただけの己で何をも為さず)
"未だ理想を欲して求める己で都合よく他者に犠牲を提案できるわけもない"——いいや、だとして『自身が進み出る理屈を直視できぬ浅ましき本性』は、不様にも『解法』を求めて。
(けれど、よもや『己から進んで無へ肉薄する』ような、『危ういばかりの好奇心』など、いるはずも、いや、『いた』として——)
『——アデス様』
思い当たると同時、後方よりは"然る女神の声"が聞こえる。
『——何だ』
『"手負いの容態"と下げられ、今最も手隙でるのが私——よりては伝聞役として【話】を持ち、暫し会議の暇を持たせられますか?』
『……あぁ』
『しからば、緊急に際して辞儀を省略。"暗黒に対する交渉の窓口"として己が本分を遂行する』
応じれば、互いに危地で落ち着き払い、抑揚にも平坦な声音。
『端的には、"太祖で間もなくお手上げ"。【己の半身たる柱を放るしかない】と言った所——"秘密主義の貴方様で何か手は御座いますでしょうか"?』
『……"試みるべき"は、幾つか』
『まだ、"打つ手はある"と』
『されど、我が身で試す方策を決めかね、"然るべき順序を組み立てても諸神らの意を仰ごう"という折に——』
しては、"心に浮かんでいた発案"が喉元にも。
瞬刻に口篭った暗黒に先んじ、その一瞬が惜しまれるテアから『簡略にも緻密な計算式』と『作戦の内容』が送られる。
『なれば、此方でも既に立てた算段で手が足りぬ現状。未知に期待を願っては書式にも纏めた【必須の圧力】を【アデス様のみ】で提供に能いますでしょうか?』
『……能う』
『しては他なる大神の協力を得ても、その作戦の実行は、"貴方で齎された何かは重力源のような中心"へと——』
『……』
『我が身を"呼び水"、"撒き餌"としても』
『……』
『引き付けた無を一網打尽に、全て——"我らの知る既存の物質に書き換えん"とする』
『……つまりは、【己を世界に組み敷く機構とすべき】と?』
『——はい』
『……しかし』
『案ずるに及ばず。この身は大神ならずも、宇宙を包括するに不足なし』
『……』
『よっても、我が無限の力を以て【等しき無を押し留める物】として』
『……』
『また個人的な感傷から対応を誤りかねない情や神格なぞも封じて、不要なら』
『……』
『"ただ無の進出に応じて力を引き出す機関"として、役立てて欲しい』
その述べられる意にも、淡々と。
テアで、"他の誰でもない己"が『犠牲の柱』となるべき合理的な帰結。
『しかし、不用意に失態とした身で【退るべき】と通達はあったはず』
『不承不承でも我が太祖より認可は得ています』
『いいや、だとして私は碌に君を知らず、作戦の成否に信の置ける訳も——』
『光の王よりも合意を得ています』
『我が理論の邪魔立てをするなら容赦はしない。直ちに意を退け、さもなくば強引にも——』
『——"覚悟の上"なのです』
『……』
『"己で望んだ本意"なのです』
目前には、押し返す二槍が軋む。
苦境なる音の聞こえは重厚なる身の唸りとしても奮戦に努める大神を視野に、刹那を駆ける念話。
『"我ら物の道理を知らんとする神"。その要旨を最も体現せし太祖ガイリオスさえ残れば——"何れに悲願の果たされる"』
『……』
『よっては、彼の者より分かたれた、"好奇心の一類"に過ぎぬ私こそが率先して』
『……』
『何よりは"多くを知らねばの神"で、一度でも"無という存在"に肉薄してしまえば、己を御しきれるに自信も乏しく』
『……』
『恐らくも、また仮に似たようなことをして、アデス様にも余計な懸念を抱かせてしまうなら……【次の機会】とは"今"、"この場所"、"今日という時"であるべきなのです』
『……』
『端的には【無すら知りたい】。しかして、隙なくも強かに生きられぬなら——【此処で無を知り得て終わらん】』
『知らんとする、"其れ"が……"真に貴方の本分"なのか?』
『"然り"』
『……』
『しかして仮に【真なる終わり】が有るのなら、"末尾までを付き添っても観測"——何事も無く戻れたなら、"貴重な記録を持参"としてみせますとも』
『——"知的な充足"、それこそは、"貴方の抱いた本懐"なのだと』
『——"はい"』
『……そうか』
『この身、心も、偽りなく』
『……』
『"己が信じる大切なもののために"』
しかして、再三に説かれれば、"勇敢を欲する場にも志願兵"。
大神の似姿ならば、優秀であり。
"概ね期待通りの活躍もできよう者"を——何より、自己の保身を追求せし神でも、とうに結論は出ていて。
『よりては助力を、願えますか』
遂には、己単独で無へ抗するにも際限がなく。
"自己の可愛さ"、"無に打ち込む方策の全てがいずれ無意味に消失"として"己の価値も無くなりかねない先行き"に『恐怖する意』でも首は——小さく、"頷いてしまう"。
『……だが、他なる大神でも身は切ってもらうぞ』
『はい。太祖では【世界の支柱たる槍】を放り、大いなる光では【先んじて失われ行く輝き】を用い、【その事実も大いにくれてやる】とのこと』
『……』
『しからば、示し合わせも済み次第、残るアデス様で他二神が整えた場に——仕上げを』
しかして意の纏まり、間もなくには此処まで大神が担っていた第一陣にも苦しく。
遂に"大いなる二柱の後退る姿"には押し込まれる防御態勢も崩され、背後には予備兵力として集められていた大神直系たちへも無の及ばんとする強襲——これには"暗黒という不壊と出会い"、以降"まごついていた神"で、何故か。
「g"——u"、…………」
光を超えし速度が、咄嗟に"爪を盾"として防ぎ。
けれど、押し流された先に銀狼の鎧は眼差す光輝の明滅で、背に庇った諸神もろとも活動の気を失う。
『しても急ぎ——大神の皆様に於かれましては各位が"偉大な王"として、"果たすべき理想が有る"のでしょう」
なれば、急を要する世界。
テアで次元を移る最中にも皆と異なる場にいては先述の難を逃れ、大神三柱が揃う最前線には青の女神が乗り込む。
「よっても此処は『一兵卒の我が身』へ、任されよ」
長い髪を揺らせば、颯爽と。
対し、燃える雄々しきと、三叉の兜、闇を纏う喪服。
大神、"自身らにも実力伯仲とする極神の押し切られ"、"その気配が失われた事実"も踏まえては警戒の度合いを遂に極限とした三者で僅かの逡巡に議決する。
「……感荷では女神を詩に加えよう——『比類なき勇気の神話』へ、末永く」
口の動き出す速さから順に、"自由意志"を尊重したのはディオス。
「……非力を詫びる」
次には、"個の悩み抜いて決めた固き自主性を無碍には出来ぬ"とガイリオス。
「"——"」
最後に『他者へ深入りはせぬ』と決めていたアデスの、"世界への献身を決めた覚悟"に掛ける言葉もなき瞑目で——共に頷ける三柱が即応にも『決着の式』を合算。
「……"最後の始末は私が付ける"」
「——"はい"」
その折に見た光景も、永遠に続く生涯には決して忘れることはできぬだろう。
頷けば、見慣れた水滴に流動の飾りも揺れ、毅然の面持ちを湛えたまま——『君』は最期まで、本性を隠す『私』とは違って。
「限定的にも、"女神テアの神格を引き上げる"」
間を置かず、作戦に臨む主要な神の結集。
たとえ過去に"襲撃への教唆をした疑惑"のあっては『光』と『闇』に未だ鼻持ちならぬでも相手への思いを忘れ——各大神の連携が"テアを臨時に四柱"として立ち起こらん。
「有事に際して荷の重く、"大役の押し付け"は『緊急昇格処分』と為す」
「——拝命いたします」
向かい合う、祖と直系。
後者の意思決定を呑んだ三叉兜の大男神は、二本の腕で振るう槍で無の一派を捌きつつ。
他二大および戦いを続けるゲラスで勢いを押し留めた合間には——背より伸び出た第三の腕で譲渡を行う。
「……無にも肉薄できよう力は、"己の知らんとする真実のために"」
「——はっ」
其れこそは、究極神器の一振り。
太祖で両手に爪の如くも二本を持てば、なれど残った『三本目』は己の中軸より持ち出して、宛ら『竜より引き抜いた尾』のようにも。
神の背面から機械的な手腕によって取り出される"秘権"は、正しく『生命中枢の軸たる脊索を、そのまま武器として鍛えた』にも等しく。
「我が太祖より、『筆』を借り受ける」
翳す得物は向かって青き美女の右肩、左肩——終いには正中へ重ねるように立てて。
今し方で穂先に描かれては女神の頭部で実像を結ぶ『王冠』に、及び『神聖を現す槍の譲渡』では真に『叙位』を齎さん。
「以て描くは奔流——無すら呑み込む大河なり」
よって、以後。
大神の証たる槍を受け取ったテアで三又の冠を戴くように『冠位型の認識拡張装置』が目の色を変え、纏う神気も色濃く、蒼々たる化身。
同時には新たに賜る大神の加護を『紺碧の大神官服』として、装甲の凡ゆる隙間へ密に、増産される細胞壁、厚みを増す女神の鎧——限定的にも譲渡された大権能が新たに"無数の泡"を纏い出せば。
「……然して力になれず済まない。光や闇と比すれば、如何にも無理が利かぬ卑小の身」
「いえ。"これは私の望んだこと"。そうして此処に至るまでにも多く願いを聞いて頂けたのですから、恨むことなどありませぬ」
「……掛けられた言葉も、"出藍の誉れ"として永遠に刻む」
「そうして、"最後まで助力や支援に事を欠くことのなかった御身"と、"皆々への感謝"を胸に——」
粛々と儀礼の終わり。
己の中核を残して渡せるだけの全てを手渡した虚脱のガイリオスを座らせ、残る大神にも向き直る表情に凛々しく。
「——参ります」
これより間もなくは『絶対に逃さぬ一騎討ちの時空で身を賭す覚悟』で、"先ず無事でいられない"だろうに。
未曾有の脅威に向かって間違いなくは"何かしらの権能に機能の消失"、もとい"全て己の実存が消え去る可能性が高い"というのに——此の期に及んでも賢しくは、『士気を高めようという表情』で頷いた後にも釈然とした色さえ浮かべて見せる。
『しからば、誰にも追いきれぬ瞬間移動の連続で限定的にも時を止める——"その隙"を突け』
なれば、『若さに負けじ』と。
目前には"年少の脇で締める槍構え"を以て臆せぬ大老らでも直ぐに手筈を追い——"先駆けに爆ぜる"は神々の王。
『"先の侵食へ速やかに応じた抵抗"は一定の功を奏し、即ち、"無限の力で常に張り合え"と言って——だがして、吾が左眼においては幾ばくもなく』
身の弓形、病的に曲げて背筋。
屈折に放つ呻き声、のけ反って咆哮は。
『どうせ消失までに時もなければ、使い潰し、"くれてやろう"。失われゆく吾が左眼の、『臆病』の象徴にして『つまらぬもの』は——"先行きを覗く先見光"!』
瞬時に仰ぎ、見開く。
左眼の空洞に煮え切らぬを開いて——失明間際の飛散光。
『最後には華々しく、"自由への蓋果"! "無いものを打って倒す"なら、多分に無理を通"せねば……!』
消失の前の、"消費"。
"費やす潤沢"には満ち満ちて、己らを囲む無の内に。
瞬時に誰をも飛び越えた先にも、"凡ゆる方位からの挟撃"は左眼を起点として無数に伸びる放射の銀、熱き血潮の輝ける剣山。
瞬時に貫いて、王の落涙に鋭く。
犇きに溢れる熱結界が無すらも収め、彫刻し——"無に満ちていた天の霹靂に割れる世界そのもの"は、輝いて羅列の牙で『敵に噛み付いては離さぬ』ようにも。
「即ち、"無限の力を使い切る"——奇跡の一つ二つ起こせずして何が、何が——うぉ"ぉ"ぉ"! "世界の理不尽"、"何するもの"ぞぉ"ぉ"ぉ"————ッ"!"!"!"!"」
左眼の爆散によって場へと付着するタキオン粒子が、その未来にも過去にもなくの『今』として。
燃え盛って鮮明に浮かび上がらせる熱の力——『無』という実体のない概念にも正しく『本体』の如きを刻印に終え、間もなく。
「"無気を有気に変える"。"万物創成の水"は、"母なる海"よ——起これ」
そうして、その一瞬に焼き付けられた彫刻のような無を前には、神事で舞う巫女の出立ち。
槍は波の紋様を描いて∞の軌跡、穂先は渦を描き出し、描いた流麗は嵐の実態を伴って、神々を囲む無を——それを更に囲う輪郭の線を紡ぎ出す。
「濯ぎ、洗い、流し——"敵無き性を剥離せん"」
形作るは、"水冷の陣"。
無との反応の試行に能う多質の万物を載せても、神王が熱した面をなぞり、冷やし固めるは、火傷に固着させた瘡蓋の如き外殻。
しても、その『存在し無い』を『既知の無害な物質に置き換える』として、『法の上書きが完了』と至るまでには敵の無際限を陣外へ逃す訳にもいかぬから——"女神ごとを撃ち出す"、激流。
「——"!"——」
冠を頂く女神は同じく三叉をあしらった槍からの噴出。
道筋に描き出した水流に乗り、加速しながらにも振り乱す青髪の全てにも『場を制圧せん』とする潮汐の神秘を漲らせ——左手の構えに貫けば、今にも穂先から消えて呑まれようとする接触面を眼前。
「——っ"、アデス、様……っっ"!」
声を上げる。
突き出した右手に自流を支えても、抗い、残る大神で『境界の画定』が済むまで押し留める。
何よりは、中心へ進み出た女神こそを『真柱として仕立てあげねば』と踏み止まり。
そのまま溢れる権能で作り出す、無より多く青の流域へ、自身を含めて濁流に呑ませるようでも——"声"。
「——"女神、アデス"——!!」
飛ばす檄は『大神が情けに深く』、『情にも厚くある』と知る者での、『叱咤』であり。
また、見込んでいた若者より『我が恐怖と苦闘を終わらせてくれ』と、"震えた音"に"苦痛も帯びた声音"で『願われる』ようにも思えては——『暗愚に於いても奮い立て』と、『激励』も置いて別れるようで。
(……"ついぞ我らで敵対することはなく"、剰え、"今に至るまで世界の為に己を捧げる")
その有り様、"絶大な消滅の恐怖に抗っても偉大な奮戦"。
無へと肉薄して消失を始めた装甲の背姿を見守れば、勇ましくも晒す瓊肌を認め——最後には、知己の女神で送る。
(即ち、『終生を通して善き隣神として在り続けた者』へ——)
そうして、"惜別"の仕草には、闇を取り払う。
今日まで己が眼前を遮っていた障壁を——『自他の安全のため』では密かに覆っていた多層の膜を、何処より進出した不可視の腕から。
端を摘んで、左右に引き。
開いて行けば、深淵。
更に、奥底——暗くも神秘に満ちたる領域で、自らの顔を隠した最後の御簾に両の手を掛ける華美。
(私から出来得る——"最後の花向け"だ)
徐に布を持ち上げる動作で、徐々に顕となる双眸。
秘されていた力は今に至るまで従容とされていた眼力に、世へ直接と触れる力が騒めいても——"終わりを迎えられる者"へと、寡黙に。
「"——"」
教示するは、"我が秘密"。
君の知らんとした"華々しきに過ぎる素顔"。
今日まで秘匿されていた真相は、暗く影のある眼差しが陰気のようで、さりとて目鼻に顔立ちも整えば其処にいるだけでも衆目を集め、況や『嫉妬』に『羨望』に『憎悪』に——引き付ける気の数多く。
『……なんだ、何が起きている。よもや、"この神王"が——"震え"を……?』
血色を感じさせぬ色には、代謝もなく。
劣化もなくは、永遠に生ける幽鬼の白肌。
その上の、熱意に飽き尽くした冷淡な表情は、凍て付く湖面に浮かぶ一対の血溜まりの如きさえ、生まれついての眼色であり——総じては"色の抜けた白髪"、"陽に弱く白肌"、"燃焼しきらぬ気重の赤目"。
『なんなのだ……? "女神が注視をしただけ"で斯くも途端に、騒めく心——"光の身の凍てつき"、"波さえよだつ気配"は……?』
擡げる睫毛の長く。
目尻の下には暗原子を伴い、"涙する印象"すら、暗く。
よりて、"悲観的な色味の花"は、周囲に憂慮の念すら抱かせ——さりとて、"暗黒に潜む異彩"のごときは『白』に『赤』で。
それら、"水際立つ"は夜闇に潜むのも困難で、『顕著な出で立ちの愛らしい少女』は、"そのように他者を引き寄せる"、『引き付けて離さぬ者』として生まれてきた。
『"何らかの瞳術"——"何らかの瞳術"……!』
即ち、『卑しきを統べる者』として。
前身には、"他者への嫌悪に不信が募り切った世界"で、遂には『己を悩ますもの全てを滅ぼさん』との"安易に愚かな結論"へ至った末での、化身。
彼女で今に"弱者の代名詞"たる『ひ弱の少女』に身をやつせば、産声としての自答にも久しく——『呪いを負わす単身にて無限の時へ送り出せば、考え無しに軽薄』だと。
剰えは——"この姿"。
此処に、"どれだけ邪悪の素性を口走っても"『往々にして過激の言論が全くの義をもって受け止められてしまう悲劇』が、『麗しき呪』としても——"自身の悪辣な成り立ち"を理解し、夢を見る筈であった若年の目顔でとうに暗く、希望などは隠れている。
『更に、"音が消えた"? いや——"質感が違う"。【光が隠された】と言っていい、無ほどに無情でなくば、反射の反応消失の間際に一層と瞬く、吾が光』
更には、"老体を蝕む数多の苦痛"、『己の経験した記憶』として思い出される『拷問』や『凌辱』、『殺戮』の数々。
今の女神で『主観』としても、『客観』としても、『被害者』であり、『加害者』であり。
"憎しみでしあった数えきれない記録"の山に立てば——"それも愚かなりし我々は最後に『何を願った』か"?
よもや『夢を見たい』のだとは、笑いの種にもならず。
"他者の不幸ばかりを実現してきた馬鹿ども"に『■■は余りに不相応』と——心を焼いても絶えぬ憤りに疲弊したなら、既に諦めは"失落"とした。
『さすれば、"目を見開かれただけでも底冷えする"、"この感覚"は、"知っている"——"他者に執拗と害意の向けられ"、"身の毛のよだつ感覚"は……!』
世界に夢を見ることを止めて、久しく。
誰もがそうであるように、彼女もまた"努力や才能ではどうにも出来ない宿命"に、"自己の責任では説明の付けられない因果"を背負って生まれてきただけの。
祖先より連なる血脈は『悪意ある歴史の到達点』として生来に血で染まり、流し過ぎたのは涙すらも枯れ果てて。
そうして『新たなる命を求めることの、それすら拒絶した存在』で以て生誕とされたのでは——底知れぬ諦念と失意に淀んだ眼で、疼く。
『"目掛ける狂圧"、"瞳術"、"眼力"、【その最たるもの】は——』
たとえ、一度は無の到来に際して『もはや誰にも傷付けられず、誰をも傷付ける心配のない』——"他者という概念の存在しない孤独"を好意的に捉えても。
かつて『消えるのも一興』と永遠の眠りに瞼の閉じようとしていた者で——宿す権能と眼を、今再びに開き。
(『無意義にすら抗わん』とする、"貴方の苦闘"、"勇姿"。確と、焼き付けてくれる——)
反射的に飛び退いた王の、戦慄しても遥か彼方には——原初の女神を起点とし、再拡散した筈の輝きの乳海に開く、黒点。
いや、更に正確を言い得て『陥没の如き暗色』は、宇宙において『其れそのもの』が『黒き目』のような印象で観測され得る光の沈下、形成される降着円盤。
そのやはりは、"世の全て"に"凡ゆる惨劇"、"残虐非道の限り"を『己のもの』として見てきたが故か——『希望も夢も見たくない』との気色から暗く、目の色に無気力なれど彼女の周辺に色濃くなる闇で虹彩は狭まり、重く垂れた前髪の隙間に瞳孔が開いていく。
(——私の、『邪視』へ)
また、眼球に切り開かれるは、古い裂傷に薄暗く、明瞭のない瞳に刻む紋様として。
中央に『斜めの十字』を浮かべて有するは『誰もが苦しみ抜いた世界の権化』として、即ち『真に皆を幸福に導けるものの不在』が『完全なる』の『否定』を表す結論術式を神聖なる文字にも湛え。
何より、"その周囲へと多く浮かぶ切り裂き傷のような呪い"は、"かつて心身の裂かれた痛み"を思って、"その傷口から滲み出て未だ風化することのない深紅"の黒々——今にも続く苦悶の嘆きは『傷つくこともない無』という他を羨み、妬み、『己と同じ永劫に引き止めん』とする。
「"——"」
式の回りだしても宛ら、"暗色にも無数の天体"を宿し、"渦巻く眼"。
見出す神秘的な力、その複数——『真空』、『宝石化』、『静止』、『減衰』、『遅滞』、『抑制』etc——謂わば数多の瞳術が連なった『複合眼力』でも強大なる其々の間に"震え"は、活性権能の出でる様。
滲み出る暗血は『過去に刻まれた痛みの記憶』を『今の終わらぬ怨念』へと転化し、練り上げる呪詛の凝縮——"残酷ばかりの世界"を『見えず』とする力で臨み。
(——だのに、"どうして")
見据える先には煌々と、目に長髪に気色で漲る青の色。
暴れる神槍を持ちて、消え行く己の欠損を凡ゆる元素で補いながら世に溢れ出さんとする無への肉薄で、鍔迫り合い。
(——"どうして"……?)
しかして、『女神』と『彼女の手にする槍』を基軸に、周囲の物質や力場を集積固定とする『楔』や『鎹』の役としても——見遣る者で、"疑問"。
(どうして、君は……"笑っていられる"?)
垣間見える表情は世界を守護する立場にあって健気であって、儚げにも。
面持ちは強かな戦士の上辺でなく。
向けられる剣幕に気付き、僅かに振り返って見せる肩越しに——悩ましげな暗黒に対しても、"安らかに口と双眸を綻ばす"。
(真実として、私では——"別れに喜ばしくすら思う"のに)
なればの必然が『疑念』として噴出——私では『もう君と顔を合わせることもない』、『誰に付き纏われる心配もなければ』、『煩雑な関係の終わりこそを嬉しく思う』のに?
胸に秘めたる事実を言おうと『君は優れた水先案内』、『見るからに面倒な女の意を汲んでは愛らしく』、しかし、『その上で私は自らを可愛く思ったのに』——"どうして"?
(私から貴方には、何も——"確かな約束"などは出来なかったのに)
"微かに笑う表情の色"は『永遠に努めるとの約束を果たせぬ心苦しさ』と、『初めて互いに表情を確かめあった喜び』とが、綯交ぜの。
女神と無を包む時空の圧縮、間際には『初めて見える視線の交差』で、テアの"少しだけ緩んだ口角"。
宛ら、『冷淡な神に眼差しを返す』それでも——『共に過ごした時間は掛け替えのないものだった』、『これまでの協調に感謝を』、『そうして世界が守れるのなら、残される皆に祝福あれ』とでも言いたげに。
(君では、どうして、"その微笑みが示す意"は——)
去り行けば——最後には、無言の間。
アデスが最後に見た女神の姿は、『見返りに微笑む少女』として。
離別その瞬間まで閉じ行く世界に彼女が見えても、笑みと相対した原初の女神で顰める顔貌に力は強まり。
「"————"」
包み切った暗色の、収縮、その直ぐさま。
目の合う女神たちで、共に胸の内は黙した別れを終えて——大いなる戦いにも暗き終止符が打たれる。
(——何なのだ)
————————————————
しかして、間もなく。
続く時空に『敵の打倒』を報せるは——『光』に『塵』にと、見知った物質の、爆散。
「…………終わった、のか」
それも"女神が大いに健闘した証左"であろう。
無を呑むに余剰分の冷却水が放射状に降りしきり、光を受けては煌びやかな虹に揺蕩う中で隻眼となった王が呟く。
「みれば、こうも呆気すら無い……あぁ。消失の危機が過ぎ去ったのだとして『次に如何せよ』と先行きも、虚しく——」
瞬時に爆発の音も焼き切れた其処は、残る熱の引き伸ばされて薄まる空間。
灰色のようでもあった世界全体が徐々に煌々と、晴れ渡る全天の様。
(……今に問おうとした所で、彼女はいない)
しかし、澄み渡る世界に歓喜はなく。
今に再び熱の乳白が背景を染め直し、無を置換しては『世界に物質が溢れる現状』の、これこそは『存在を訴える神々の勝利』にあったとして、尾を引くが寂寥。
(『無とは何かを知らん』として……けれど当然に"無となっては何も"、『残らぬ』ではないか)
周囲で輝々と拡散した『分子』に『原子』や『素粒子』の、更に——そのどれも"生命の躍動を感じ得ぬ冷たいばかり"。
先まで『女神の一部であった筈の水』で苦闘に息衝く気配も消え失せれば、今に闇で覆い直す顔の横を通り、過ぎた物質にも『ただ軽い水』として流体の溜まりは眩き宇宙を漂うのみ。
「——探す幸いには『大神ならぬ非力を庇ったグラウ』が……しぶといな」
「……見えるのか?」
「あくまで『成れぬこと』をして『論理エラーを起こしている』だけ」
「……他は?」
「共に押し流された残りの神々も、銀狼が盾となって勢いを壊したからには『衝撃に気を失っているだけ』のようだ」
「……救われた恩に礼を言う」
「目覚め次第に伝えておこう」
しても、戦後。
全天を見回す王の右眼、頻りに泳いで状況を照らせば。
「……しかし、女神一柱のみならず、吾が作の収奪戦神まで見通せぬ——『気配の無い』、"これ"は」
「……」
「……」
「何処へ、誰ぞ知らぬか——"吾が傑作は、何処に"」
震える声は、ひとときに。
「……『これから』と言う、"真面目な神"であったのに」
揺れる心を、諦め。
「——だが、憐れむことも、そぐわぬ」
一度の瞑目を経ては毅然の王威に、『不明者たちへの祈り』を捧ぐ。
「たとえ彼の者たちは己の意義を消失したのだとして、それでも己が心の如く『本懐を成し遂げた』のだ」
「……」
「即ち、『自らの由に偽りなく向き合えたのだ』とも、大神にすら難義の道を越えて——"真に世界の存続へ多大なる貢献を果たした者たち"に、"至上の敬意"を」
(……)
「決断に畏敬を。自我を手放す即断に至った者らは、紛れもなく英俊——その消失した両名については実質の保有権利は変わらずも、"いつにおいても限りなく敬うべき対象"としては『無限階級への特進』とする」
「……」
「……」
「——異論はないか」
しかして、王の進言に翻す異もなければ、総じた大戦の被害が『女神テア』と『戦神ゲラス』の二名。
「……"見届ける"ことを果たせども、至らぬ力を詫びる」
「……いや、『己が始末を付けるべき』を、諸侯に劣る力量で怖気にも震いて失した——『詫びるべき』は余であるのだ」
「……」
「何よりは"女神の願い"、長年に渡って聞き届けてくれた事実へ、感謝を」
「……」
「難役も任せきりとしてしまった」
「……私自ら望んだことだ」
「"授かりし慈悲と恩"を忘れず、何時しか返すべき時は来るだろう」
それら『作戦行動中に消息を絶った二柱を偲ばん』としても、『悔やみきれぬ思い』は覗くに、無限を生ける者たちでも感情の始末は暫し時を要するのだろう。
「——しても兎角、共通の敵も失せて。一先ずは"存続するとなった世界"、『次に我らはどうするか』」
暗黒に見つめる眼下にも、"この世界で現状唯一の惑星"は——いや、"女神の消失と同時期に現れた塵たち"は、集っても『微惑星』と呼べるかの『種』の如き印象で。
「『己の求める理想』とは、『其処に至るはどうすべきか』を考えねばならずとも——以後は暫し、暇」
「……」
「……」
「静養も落着も好きにすればいい。時空の縛りもないままに、自由へと」
その小さくも、"女神の遺体"。
後に『戦争被害を偲ぶ碑石』の如くも『青き星』と成り行く過程を横目には、三者で儀礼的な処理も終え、残存する意志に再び各位の道を歩み出す。
「今や周囲に舞い散る物質で無の脅威も感じ得ず。されど経過観察で念入りには『一つの星』と纏め置き——引き続き『失われた者たちの捜索』、または『無や異界の索敵』に『侵略プログラム』でもある吾が無限の光輝についても"延長維持"としておく」
よりて到来せしは、輝度を下げる乳白宇宙。
沈む色は暫し『世界に散った英雄』の弔い。
王の手振りに光の喧騒を鎮めつつでは、『水の惑星』を『新たな世に根幹を成すもの』として丁重に宇宙の中心へ取り上げても——『誰もが忘れ難く』と、"喪に服す期間"が今なのだろう。
「よっても暫しは、『水冷』に思いを馳せよう。その冷静にして怜悧なる才が失われたことを惜しんでも……我ら神の創造施策については、その後だ」
しては期せずの"場に応じた格好"が、『切なげな笑み』を知っても胸奥に"蟠り"の残った少女。
「今に存在する宇宙に、凡ゆる全てが『勇者たる女神』と、『無情にして己を省みぬ生真面目なバトルマシーン』——"諸氏らが犠牲あっての|物種《ものだね"と知れ」
(…………)
「彼の者らの血潮は海流、隆々たる勢いには鱗や角質で研磨されし大地とも——」
(……"せめての答え"も、『知れぬ』では……)
「天にも伸びる美髪の凡ゆるが、万物混成の汽水に——巡りて支える新たな世界の礎と成り行かん」
(……"勝利"と言うに、程遠い)
謳われるは賛美だとして、"最良の結果に至らぬ胸中"。
他者に騒ぎ立てられるのも煩わしく、喪服の揺らいで背を向ける。
(此処で確かに——"失われたもの"は在ったのだ)
重い足取りに踵を返せば、"約束も失われた寂寞"に、暫し闇は隠遁とする。