第一章『邂逅』第三節
第一章『邂逅』第三節
——某日、某座標。
付け爪の一つは眼前に浮かばせた斜掛へ、漆の黒を小筆によって塗り付ける仕草。
(——"指の飾り"も綺麗なりし。なれど、"戦闘用の武器とは違う物"か?)
幾つか円や角形を組み合わせた幾何学の紋様で花々の如くも印をあしらい——『こうではない。不似合いだ』と塗り潰す早筆に一面は黒々と変えて。
(……宛ら塗装に用いた水溶液を、"その流れるままを象る神秘"は如何様な技術のものか——)
内に多く『邪を宿す己』で『美しく着飾る』に悩んでも道具を隠し、指定した座標の幾つかを大まかに周遊としながら、"然る神"を待つ者。
以前に件の女神と『喪に服す装い』から転じて『服飾の自他に与える影響』の話をすれば、今には『周囲に他者を遠避ける効果』を思い、『敵対の程ではない穏当な表現』についてを模索していたのが輝々なる世界に暗黒の有り様。
(——果たして、仕組みを聞いても良いものか……"純心に尋ねる素直"では『あまりに可愛げあり』と"侮られてもしまう"か……?)
その待機、暇を潰す理由。
凡そ千年前の先刻で女神テアより『喪服の多様なる形式を自作の図鑑に纏めて持参の次第』と報されては、急ぎ調整した二度目の機会に腕を撫し。
(……"評価は過小"でも宜しいか)
眼前の垂れ幕で揺れようと、音を隠した動き。
相手が由来とする物質界に曰く『花弁の色形や性質に見る"花言葉"なるもの』でも、今日は『"含みを持たせた表現"についてを女神と論じよう』と幾つかの試作も持参し、実物の一つを懐より取り出して見れば。
「…………」
"造花の黄色"を、流し見に。
暗中に姿見も浮かばせ、試着のようにも耳元で宛てがっていた少女の御機嫌は——なれど、"此より装飾は衝撃に粉砕される"。
(……何より、女神テアは博識で在っても、未だ実例に乏しく。興味に聞き知りなだけの好奇心の塊で、危なげも少なからず)
そう——正しく衝突による"破砕"。
"運ばれるように誘導された穂先"に打ち付けられ、間もなくこの『極神同士の交戦に得られた手応え』は、以後に高まる警戒で世界の趨勢を左右する『運命的な出会い』と言うにも能えば。
(よりても『悪害に熟知する私』から。一つ、二つと、"警戒の作法"を説いてやらねば)
日頃から『巡り合いを難儀』と言えども——身を以って実演することになりしは、"過激な思想との衝突"。
(……そうなのです。『外交』の此れ、決して異なる世での服飾多様に引かれただけでなく)
言い転じても『戦禍の化身との接敵』は、"既に始まる戦いの中"こそが相応しかろう。
("あくまで皇女殿下に相応しい振る舞い"を示す『教導』として、恩を、売るだけの————)
————————————————
『——ウォ"ォ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!! 理不尽に抗え! "自由の剣"! 誰にも不本意で従わぬは【使われぬ聖剣】として——"自由意志に基づいてのみ全てと戦え"——ッ!!』
上述の威勢、過去には『神産みの儀』。
二柱のうち——片や『【生ける永遠】とは突然の理不尽に苦しんでも、争わねば』の狂気により。
当時には『自らの燃える右腕』を再三に打ち鍛えるものとし、その『閉塞を斬り開く期待の切断』によって独立自我を形成したものが謂わば『無敵の大神に傷を付けて』——『聖なる剣の者』と。
『——"因果を結ぶ"。【大神を傷付けん】とするなら、その最も適合理は【大神を傷付けしもの】として』
もう片や、『自由』と『"それ"に縛られる不自由』の『自己矛盾』や『何か小難しく気取った? ——それら一切合切も、ふきとばせ!』と、ひたすらに苛烈。
なれどは大神に『【滅ぼすなかれ】と良心の呵責』も持っては『頭痛の種』を自らカチ割って——同じく『大神の瑕疵』に飛びだした者が『論理にて武装の神』。
『既に【大神の瑕疵】で証明は為された。"大いなるを加工しての武装変成"は、また【神】としての再錬を経ても——独立せし、"刃"』
即ち、『大神を斬滅し得る』は——『既に斬滅した刃』として。
不自由に悩み、悶える自由の王——『自らの居たたまれなくなった』が故の、『他者に見る理想』を形として。
『例え双児のように発端や起源を同じくしても、"分かたれた者"で異なるのだ』
よりても、殻を破って出でる。
王の嘆きに堪らず分化した側面は——いいや、既に『強烈な個』としての『荒ぶる自我』を内包せし新たな神。
内より輝ける王自身の頭を貫いた『矛』にて。
『我らは、違う。完全に同じ軸、座標には存在出来ぬ故にも、視座も違えば同じものは聞こえぬ、見えぬ——今よりは触れて思うことも"全て異なるだろう他者"へ……!!』
つまりも、『己から分離させし』は『加速する風』と幾度となく身を撃ち合い、遂には『切断した腕』の鋭利で——神。
また『良心』や『善なる』をはじめ『【自由】と【横暴】の区別し難くも悩まねばならぬ』と、『近似の問責に苛む頭』を叩き割って生まれたものも——神。
『新たな誕生を祝し、"自身の作に超えられるものなら一興"として——"己ならぬ己"。"閉塞"に"無限"も超えに超えて、吾を苦役から、解放してくれ……ッ!!』
降臨は、時空の加速を経ても『忌まわしき諸事の超越』を狙う王で嘆きが作りし最後作に。
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その熱量、"そのもの"は。
描く直進の光波——獣の耳が放つ照準の波に照らされ、"進路に一切の不純を破砕"。
また、標的が接近へ気付けるだろう距離には、既に身を焼かれても——いや、"気付けぬまま"の直後に。
(全ては、『都合の良く』と進んでもらう——)
唐突、刺突。
貫いたのは、槍の穂先。
今この瞬間にも『耳に吊り下げる道具で飾るなら、"穴を開かぬままでも無傷"が【無敵】の表象』——そうと考えていた女神の身で『一対の槍』が現に、"肩口から串刺しの大穴を開けている"。
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「——ふぅん。そうして? 熱戦でも『親と子の微笑ましい一幕』は『キャッチボール』のようなもの。謂わば『稽古付の後逸』で、『奇しくも闇に向かって閃光の刃が不運にも飛んでしまっただけなのだ』と」
よっても鋭く眼光、宇宙を駆けた軌跡。
産み育てた神で、見送る視線に晴々しく。
此処に『戦いに始まり、終わるにしても戦いへ殉ずるべし』・『戦い、戦い、戦い、戦う』・『それこそが』——『戦の神』としての完成度を『凄まじき』とした頃合い。
「後に、謝罪の文言を届けよう」
"凶刃"を差し向ける教唆と為せば、独り。
「……あぁ。暗黒の奴とて『光の速度』に『熱の刃』を、身で以て『体験』に知り得るのだから——"収穫"としても、悪くはなく」
言葉を残して、戦闘の推移を見守らん。
「しても、鬼神よ、『白明に鳴らぬ闇』を暴き立てよ。神の創作の愈々以ては——『大神超え』の"挑戦"だっ"!!」
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("私のため"、それだけの————)
会敵——初に見えるは"出会い頭の八つ裂き"のようにも。
生後まもなくより母体の神王と切り結んできた神で、闘争激化の規模拡大が、加熱。
及び、加速し——遂には先端より膨大に吹き出す光のエネルギー。
重ね重ねの、波状の刃を常に新しく入れ替え続ける爪のようにも腕では『備え付けの矛』を刺し、その担い手、本体——四足で飛び付いた姿が、『白銀の獣』じみても輝々。
剰え、『目まぐるしく戦況に応じても照射の角度を微細に変える』は"意思を持った武器"のようにも『頭頂での突き立つ耳』——受動に聞くのでなく、『敵の内部より圧倒する破滅的な音波を放つため』の『兵器として作られし』は、"戦に臨む神"の姿。
『——G"r"r"r"r"r"……ッ"ッ"!』
刺々しく炎、光で象る鋭利な輪郭線。
生来より纏う大鎧で外部の誰にも触れ難く、触れようとする他者の手を委細は粉微塵に弾き飛ばすもの——光の嵐から出でし者は『戦いの神』で白銀。
鎧の形相は伝承に名高き『狼』を模しても——"銀狼"。
中心部に一際輝く横長が眼力光波増幅装置を有しても、身に纏う先鋭の光輝は『肘』や『膝』や『肩』よりも伸びて列柱が『開裂』の為の武装として——濤波、顕現。
『——Gu"u——a"aaa"a"a"a"aaa——ッ"ッ"!!!』
至近に『未知なる暗黒』を感じ取っては、玉体の節々に関節の各所から溢れ出る光炎の奔流を更に研ぎ澄ましても——全身より突き出す槍状炎。
光の圧縮して放つ烈波、重ね掛けの詠唱に押されても、より鋭く。
両の手に星彩は鉤爪に穂先を振るいし神で燃え、盛り——貫いた獲物に追い撃ち、吼え、猛るばかり。
(——————)
その襲撃者は『無を超えて頂上』の、突き上げられる女神に合わせても空間すら拡大を続ける光輝無限の体現者。
だがして、"世界の化身たる暗黒"でも各種の技量は極限の名手に在れば『万が一にも貫かれぬ万全の備え』を『無敵の防御として着込んでいる』だろうに——なぜ?
"貫かれたのか"——その論理的帰結も、簡単だ。
かつては『無を討ち滅ぼす』という名目に"無"を『広がり続ける世界』とも捉え、その敵とも捉え難い無に一穴を穿ち、"破壊し尽くすための兵器"として生み出された——『無敵に対する戦神』であったから。
つまり、『世界の構造を切り崩すための緻密な計算で練り上げられた神性』が——敵が強大であれば殊更にも『世の転じた大神』ですら、現に『格好の標的』として。
動作に順を追えば——瞬息の一手で空間を満たしては、全方位に走る光の奔流、『位置が不明の闇』をも吹き飛ばし。
次に『重くも激突の手応え』を以ては『ほぼ同時に繰り出した二手』で、より正確に敵を撃ち続く軌道修正の動きから『屈折した稲光』の如くも破滅の槍に、描いた閃光。
(——————)
輝いて、晴らす。
闇の防壁ごとに身を貫いた武装は、腕と甲に添えてあっても、罷り間違って『盾』と呼べるものでなし。
宛ら『獣の爪』のようにも腕の延長線に突出し、煌めく星より放散する光の線を『儘』と刺突の武装再編成にした一対の貫きは、"爪と爪の間に燃える銀炎"が時に蒼くの『青方偏移で噛み付く』ようでも、急速激。
即ちも、"足音を置き去りにした接近"に際して、そもの『攻撃された』という認識すら未だ獲物でなく——それこそは『敵に対応の意識を持たせず』の"超電撃戦"の前で鈍重な意識は、されるがまま——『吹き飛ぶだけ』に過ぎず。
「——『——G"u——a"a"a"a"————ッ"ッ"!!!』
しかして、効力を発揮した備えの一つには、女神テアへ宛てた『身の安全を図れ』といった書き置きを場に残し。
自身では、無への駆逐で異なる区間を担う『襲撃者』と『標的』で、"端から端への距離"が有れば、少なからずも『異変に気付ける時の間』があったのかは——やはり明言の隙もなく、分からぬが。
貫かれし玉体は己が意識に認められずとも、此処に『吹き飛ばされる身』は、"ただ既に起こった事象"として『数えきれないほどの天体が己に打つかる衝撃』——『壊滅的な音階が連続して、後に尾を引く長音となる中』でも『震え』に知り——"知覚できずとも物質と物質で干渉し合う事実"。
(————")
即ち、『敵から我が身に触れた』のなら——それは同時に『私が敵に触れた』のだとも言える。
よっても、"予測可能な状況"。
"常に疑心暗鬼の大神"にとって、"凡ゆるを想定した狂気"さえ有して当然であり。
敵を『繰り返す八つ裂きの無限にせん』とする激烈の力に晒される中——"遅れ"を取っても"原初の女神"。
「——■『——"!"』
此処に『謎の作用』を及ぼしては、対峙していた急襲の神——電撃的な一撃の後で、"その神の矛が急激に重く"。
相手を貫いた腕の手応えが、緩慢にも『沈み始める不可解』と知り。
さすれば、件の破壊神で『甚大な異変』の違和感を感じ、『一旦に飛び退こう』としても——もう遅い。
「——■■『g——u"、g——ッ"』
宇宙の弾ける力を幾重にも込めた多段の刺突が『機能していない事実』に気付く——"その時には遅い"のだ。
既に"得物"は、"神の見えざる手の中に"。
槍の動作は掌握され——よもや、"少女の身の丈より大きな武器"が?
疑わしくも事実として、『正中を狙った必殺の技量』は、未知なる神の纏う圧力によって強引に目標を『肩口へ』と"逸らされて"も——『停止』を命じて、撫でる指。
「——■■■『——g"、u"——a——』
"熱を奪われる"ようで寒々しく、光に触れる違和感、"夥しく不可視の触手が掴んでいる"。
か細き少女の腕で以て、闇が神秘の光を呑んでいる——訝しく、怪しげで、"おかしい"のだ。
"世界の化身たる大神"とは『偽りなく万能』にして『無敵の神』。
なれば、『不意打ち』とはいえ"最たる強豪に触れる"こと——巧者にしての戦略家が『意識外の攻撃に無防備だった』と?
大神とは絶対の力、その重き要である玉容の本体へ——如何に"究極の戦士"とて大した妨害もなく、『すいすいと近付けた』こと?
その『存在が観測された事実』さえも疑えば——『不可視にして未知なる存在』で、たとえ全天に渡る索敵を掛けられても『偽装なく露骨に気配を晒した』ことに『作為はあったのだ』と。
今まで襲撃どころか『目立つ接触も警戒して身を潜めていたのだろう神』が『呑気に逢瀬へ出かける』などとは『単純』に非ず、『無謀』に有り得ず。
寧ろ、『女神テアとの交流』を利用して『己が表舞台に出ていく最もな理由を得たのだ』とも言えよう奸物で。
抑の、"待ち合わせの時間まで残り数百の年がある"のに『ふらふら』としていたのは——何もかも、"おかしい"のだ。
『——ッ"!!』
なれば即ち、"必然の策士"。
短兵急にも『同盟の相手が攻め込んでくること』、『裏切り』、『横紙破り』の如きも計算に入れ込んで——"如何にしても宇宙の光に先手を取られる"なら、"譲って待った"。
極限の熱波に『己の肉が削られること』にも備えていたのは——然り、此処で『不可視の存在に触れられる』こと自体が『誘われた』ようにも、"一つの意図した罠"なのだ。
『——"!?"』
よりての、計略下——猛々しき槍の縁を女神の指で、なぞる。
暗くも薄布に包まれた玉手で、白き肌の細くは肉感的にも『攻撃を逆算から把握せん』とする指遣い——『光速の正体』を探る動作が艶めかしく。
熱を帯びた槍の輪郭を、ただ指の腹で撫で付け、擦り上げる如くも、『敵性の光』とは"膨張の形式"や"熱を帯びる性質"を『至近の距離には初』と確かめ——這う先が得物の頂点に至った後では、"力強く"。
『離して——』
『——ッ"!?"』
『——"くれるなよ"』
"掴む"。
己の手で、槍の二本ごと。
両肩に丸太を背負うようでは、腕に装着された武装ごと——光輝の玉体を確と抱え込んでは身伝いの念話が『手離すことなかれ』の命令。
言い終えては、暗黒自身にとっても未だ熟知せぬ光を身に受けて『それでも倒れられぬ時に』と用意していた一連の動作——表情は嵐に揺れて垣間見える幕の裏に少女の口を歪ませて、ほくそ笑む。
『——ッ、ッ"』
しかして、口語なき話しかけに『斯くも身近に寄れば離さない』、『離れさせない』と伝えれば——此処からは『光と闇の心中』だ。
『ッ"——!?』
未だ奸物の情味を解さぬ未熟を突けば、肉を切らせて柱を断つ。
たとえ、自身の未だ知らぬ埒外の輝きに敗北を喫したとして『次に繋がる戦果は持ち帰る』ものと。
己が権能に"脅威を引き寄せる危険"も承知で『吸着』に傾けていたからこそ"反撃の瞬間"を勝ち得たならば——貫かれた肩で傷口からの闇、いつしか冷えて凝固の雁字搦めでも。
『"————"』
妖艶の視線で言外に語れば——"共に"、"堕ちましょう"?
『——""!?""』
先までの立ち位置に"重力場"を置いて、過ぎ去った其処に広がる"不可視の洞穴"——深淵内部に引き込む力を、"碇"に。
また、何時ぞや宇宙に点在させた不可視たる設置の数々も、其々を結ぶ線が"鎖"として吹き飛んだ己を『集結点』としても無言に縛りしは。
"綿密に編んだ呪詛の紋様"、備えた事前の己に曰く——"僅か一瞬にして全てを塗り替える創世の光など、真面に相手取るのも馬鹿らしく"。
"愚鈍な己に万全な反応が叶わぬとは百も承知していた"——だから、『反応が能わずとも反撃は可能』とするように。
("————")
"自縄自縛の具現化。
"煮詰まる悪性"は『他者の全てが憎らしい』、『その活動を不利の不自由と腐らすため』では手段を選ばぬ"不滅の怨念"——『容易には消えられない』が故にこそ、"全て呪っても終われぬだろう執念"として、凄まじく。
作り出す『無限にして最弱の無敵』を喩えるなら——"手を振り上げられただけで身がすくむ"ような、"声を張り上げられては萎縮して震え上がるしか出来ぬ"ような。
それら数多の心身に刻まれた悲痛の記憶も噛み締めて、練り上げても、『弱さ』が故の哀しき装甲。
喪服の少女で『他者を信じられぬなら』と常に応戦の武装を用意した『拒絶の構え』で在っても——"その己を否応なしに動かす秘訣"を組み上げ、編み上げては正に『意思なく動く傀儡』のように。
"自動の糸人形で身を縛る表象"は『連鎖』にも"自己"とは『逃れられぬ怨恨』の塊で、"終われない"のだ——『恨み、晴らさでおくべきか』と。
「■『——g、a"a——』■」
"己の意義主張が完全に無意味"と心から納得できるまで、終われない、"納得などしたくもない"。
故に、この程度で我々を倒せるとでも——『倒れてやるものか』と噴き上がる執念、無限の炉に焼べる炎。
現にも、過去で何度となく"悲劇"を積み重ねた先にも『禍心を宿す私』という呪詛は晴らせなかったのだから——それこそは"未だ解呪のなき"、"果ての見えずも無限"。
今に呪いの重みで、立ち位置すら容易には変われず。
己を卑しく規定してきた様々な呪詛、"心ない言葉"に"残虐な行為の数々"——それら"記憶"を思い出すたび身の捩り、"跳ね上がる痛みの想起"すら利用し。
その一つ一つ、"身を強張らせる恐怖"、"絡みつく萎縮の繊維"で縛っても——今に『非のある者を吊り上げる』ように、"脱出不可の自己"へと敵の威容を括り付ける。
「■■『——g、u"——』■■」
よって、これより互いに身を打つ衝撃の一段、二段——段階的にも軌道の修正。
及び、その吹き飛ばされて網目に突っ込む度に女神の姿勢が、より力強く、より確固たる——"矯正"して遂には静止の直前に怪腕の力で槍を掌握。
"不可視に這い寄る圧力"も光神の印象には『巨大な掌』と感じさせる圧倒的な権利能力——身を近く触れた瞬間に、"毒蟲の壺"より溢れ出す。
夥しき数の百足の如くも、這い出して鎖の多線は極まった威光すら覆い隠す暗に閉ざして——搦め、離さず。
「■■■『"—g"、—"—』■■■」
此処に張り詰めた投擲遊具——いや、"吊るして投げ打つは投石機"。
「■■■■『""、—、—""』■■■■」
引き伸ばされた線が——"巻き戻る"。
「■■■■■『——a"——』■■■■■」
一連を見れば、手負で鈍くも、痙攣めいた震える動き——肩口に突き刺さる槍ごと不可視の閃光を掴んで。
敵の『貫き通せぬなら捩じ切って壊そう』との意図にも無意識は対応し、槍の暴れる回転にも絶妙の逆回転が威力を相殺、伴った光波の音を掻き消して。
此処までを一瞬に行われた、その攻防の結果は、"暗き少女の地平に渦巻く"ようでも急転直下——"組み合い"からは"投げ技"のようにも、いつしか謎めいた力の回転量とは敵の速度を上回った時点で位置関係の左右や上下で入れ替わるようにも。
攻めと守りの、入れ替わり。
槍の刺突に飛ばされながら、"道すがらに捨て置いた痕跡"を宛ら『血痕』としても掻き集め、それも既に引き戻る途上で"冷やし固めた頑健が無数"となっているなら——その数多へ叩き、付ける。
『g——a"『"『"『"『"『"『"『"『"『"『"『"『————————
鎧姿の頭部では一瞬——跳ね上がる獣の顎。
両者を渦の中に引き込んで落ち続ければ、神の中核も振るわす多段が纏めて『相手のみ』に、打ち付け。
(————"?")
——その後。
"速くに過ぎる襲撃"と遭っては、未だ状況が呑み込めず。
(——……"敵襲"……?)
飛び出した先。
技の威力が減衰しきった果てに両者の着する翡翠の大地。
薄く緑がかった地盤を砕いて転がれば、それでも自前に開いた重力場の上。
「————」
(……"誰"ぞ)
煩雑の気にも、乳白の空を眺める仰向きの状態から腕を使って俯せへ。
次には片方ずつに肘を立てても上体を起こし、終いには膝でも立ち、先んじて身を起こすは喪服の少女。
「————」
(現状を鑑みて"極神"の。されど、"幾らか調伏に易き"は……)
「——…………"?"」
(……女神にも似ていれば、『女神のグラウ』と言う者か)
見回した顛末、ひとしきり。
眺める先には大鎧で正しく"失神"にて、一時的に破壊の衝動が気を失い。
担い手の制御から離れた槍は少女が肩口に刺し、奪ったまま。
「…………??」
(……戦闘神格も"未だ暗黒が表面を削る熱き鑢"のごときは、『内に響かせ、食い破ろう』ともする"兵器"だろう)
「……——"!"」
(……ではさて、"賠償"とするを何ぞや)
付近で燻る炎の消化。
未だ周囲で『喧しい』と少女が手振りで払った先に、より鮮明なるは『鎧の兜より獣の耳が飛び出た銀狼』の姿。
即ち、『襲撃者の事実』を認めてからも、暗黒で暫しは此処に見えた相手を捨て置き、問わん。
「——"選べ"」
「——"?"」
「此処で『暗黒によって終わるのか』」
「……?」
「或いは『終わりなき生で永遠の苦悩に挑むのか』」
以前の邂逅と同様で『後顧の憂いを断つべく』は、目立つ瑕疵なく対応、つまりも『理知の化身』として振る舞おう。
それも相手の意を認め、また尊重し、『あくまで私に責められる謂れもないのだ』と、"外敵にも示す模範"の儀。
「我が提示する道は二つに、一つ」
「……な、ぜ」
対するは、咄嗟に応える意思も薄く。
曰く『破壊』の意識に起こされた神格で、だがして『壊れぬ』と出会えば、"処理に惑う動作"の表出。
「……"何故"とは」
「……世の全ては、『破壊神に壊される』、『その一点でのみ意義がある』と——」
「……」
つまりも『己の内で咀嚼しきれぬもの』を知って、"複雑な思い"。
戦の神で『ならば、それでも』と『難解の強敵を解くための手掛かり』を己でない外部に求め、初めては『質疑の声』として。
此処に学び知った共通言語、"己にも搭載された表意の機能"を明瞭となり行く認識で思い出し、その容易く扱える事実を基に見様見真似で会話を投げ掛ける。
「だのに、"壊れぬ"……"壊せぬ貴方"は、一体……?」
「……『壊せぬものが在った』——ただ、"それだけ"のこと」
しても、"不具合"、表層にも及んで、"内部的熱暴走を防ぐため"には一時的に開放とされる鉄仮面の下顎部。
言葉と共に吐き出される熱波に宝石の大地は溶け、女神の身じろぎに連動しても槍状の耳飾りの放つ鋭利な衝撃——爆煙の中にも切り出されし晴れ間。
「……理解、不能」
「……」
「……加えて勝者に『与奪の権』を手にしたなら、"どうして我が身を破棄していない"?」
「……」
「"大神にとって脅威に成り得る敵手"を」
清く澄み、刹那に垣間見えるは神の一側面。
出でた先に翡翠の地肌は破壊の余熱で融解し、水蒸気に逃れる気化が多分の光景で枯れ果てる地上に在り。
だがして、それら急激な上昇気流の集まりで吹き荒ぶ嵐の只中で、自然災害の一切、熱波や大雨に爆風をも闇の輪郭に触れさせず、息の乱れぬ姿勢に物ともせず。
「『自らで戦うのも気詰まり』が故」
「……"?"」
「しかして何よりは、"一応の同盟"。其れも"勝手代わりに戦う自軍の戦力"——減らしたとて、詮ない」
その、少女の有り様。
"戦禍に見舞われても確固たる威容"には、グラウで勇み、蹌踉めきながらも踏み出す足に地殻の割断。
衝撃の届く星の中心核とは索敵兵器の炸薬を刺激する熱も十二分に、"地平の歪みも目に見える"ようでは間もなく、星の崩壊は引き起こされるのだろうが。
「更には、"不意に自己を脅かした威権"への、"憤慨"などとは」
「"?"」
「責める所か、"寧ろ"——『喜ばしい』とさえ」
だがの、それでも。
爆ぜる情景の荒れ地に在って"炙られる暗重の気配"——惑星内容物の溶けて地表に溢れ出した塩素の湖においても、その光景に反射せず。
各種流体の気化して噴出する大地にも、光輝の神に投げかけられる視線で物質崩壊も伴う数多の照射を浴びたとて、未だ全容の掴めず——嫌気を差したのかは毒の煙も、顔の前では軽く手振りに一蹴として。
「"??"」
「そも、"初撃は見敵必殺"。『只光ならぬ超常の神秘』を知り——」
「……」
「及び実際には『神の熱』。"身に味わう観測"を経ての——"今"」
背景に響く、雷。
それより甚だしくは宇宙の場を震わす破滅的の声にも動じず。
破砕される岩壁や鏡面の如き翡翠構造体に、飛び散る水面の僅か一部にも、姿の映らぬ原初の神性。
「私は『平穏無事』で、『この場に立てている』のです」
「……"?"」
「故にこそ、その"返す礼"は、謂わばの『褒賞』にて」
「……」
「今一度、問おう」
己の肩口に向けて翳した掌の、引き離す一振り、二振り——不可視の力は実体に触れずして、己が玉体を穿つ槍の一対を、引いて。
抜き取れば、小さく渦を巻いて整う小玉体に傷口なく、流血の一滴さえなく。
没収した得物も『懇切丁寧に返上してやる』と言わんばかりには光神の前へと突き刺し、捨てながらに毅然とした口で言う。
「神よ。貴方は」
「……」
「"貴方自身"は——"何を願う"のか」
「……"なに"、を……?」
「生じた命そのものに貴賎なく、『拐かされただけ』に罪の謂れもなく」
「……」
「"誰に定められる悪"でもなければ」
「……」
「"女神グラウ"。"貴方自身"が選べ——『終わる』のか、『続ける』のか」
「……それ、は」
「……此処は無限の旅路に宛てもなく、止め処なく。生とは苦しみを重ねるばかりのもの」
「……」
「しかして強大であろうと、矮小であろうと"力は力"であり——其が『壊すための力』でしかないとして、『破壊の対象や方法を選ぶ者は貴方自身であるべき』だ」
そうして、問われれば。
此処に見えた『未知なる暗黒に不可解』——"未だ解体しきれぬ魅力"を感じた破壊の神で、終焉を選ぶ理もなく。
「……"わた、し"……?」
「……"己が心の頼り"はあるか」
「"わたし"……『私』は——」
「……」
「——……"知りたい"」
「……良いのか?」
「……?」
「"その進む路"は何時何時も、"自他との苦闘"に満ちたもの」
「……」
「よっては"無限の悪戦がその身を待つ"——それでも、『己を続けよう』と」
「……はい」
「"世界"を——『知りたいのだ』と……?」
「っ……——"はい"」
「……」
「それでも、私は……『知りたい』と思うのです——」
「……そうか」
光の刃で撫でた印象は小柄の玉体、見るからに可憐で——なれど、今に『凄惨の環境でも変わらず壮健に立ち尽くして見せる勝者』は"底を知れぬ怪物の華美"で、"幼き神"の決断を見届けよう。
「……ならば、その身に刻みんだ我が呪い——」
「"——"」
「——背負って生きよ。永遠に」
決まれば、今や『古い敵』に翳した手では抜け目なく鎧の機能を概覧。
同時には、"先刻の反撃に付与した物"とを追加して呪詛の補強、"己を有利とする多少の抑圧機構"にし終えても。
「……そうして、今の私は機嫌がいい。其れも君が『光の秘密』——その一端でも白明の下に晒してくれたのだから」
「——……」
「大神たる私の気が変わらない内には——"去れ"」
施し終えては——"去れ"、"去れ"。
鈍重の玉声でも一頻りに思考を揺さぶった後で踵を返し、星の崩壊を背に飛び散る破片の影へと紛れ。
(……『報告の全て』へ目を通すにも、如何ほどか)
創世初回の『気付けぬまま』・『動けぬまま』に比べては『今回の防備で一定の効力を得たもの』と手応えはあったが。
多少の上手く運べた程度、無邪気に喜んでばかりもいられず。
(『間に合う』か——『間に合わせる』のが、面倒だ)
再三には、『改善せねば』との決意。
危機的要因に対しては『僅か一瞬にも優位』を得て、少なくとも『対等の場』を確保せねば『交渉らしい話にもならぬ』として、開発を担う者の頭の痛く。
(『——"惨たらしい報復が必要"でしたら、いつでも、"この邪——』——"黙れ"、邪悪。煩いぞ)
"新たな手掛かりや技術の発見"に、また『復讐の機』と見て躍動する者がいても——ただ発明家として、腕を鳴らさん。
————————————————
斯く様は、新たな歴史に"初"となった『神々の衝突』——しかして、『女神たちの会合』に滞りなく。
(…………)
故には、"襲撃を受けた後に隠遁の期間が長ければ"、"損害の程を知られる"から。
しても、気丈の振る舞いを変えぬ暗黒で、"敢えて"に『他なる女神との交流会は予定通りに開催してやろう』と再度に指定し直した複数座標の、近辺。
『——……一方面は遠く離れた彼方にて、先まで目指していた"待合の"——しかして、"急激に煮立つ宙域"』
某所、某時刻、然る惑星に付随した小天体。
小型の衛星を砕く振動と共に歩いて行けば——実体に先行した文より、"飛び掛かるような勢いの女神"で"暗黒への憂える態度"が馳せ参じる。
『気付けば、遠方の目前には"真新しく"、"真っさら"の。既に純白であった世界を"明度の異なる閃光"が裁断して、進み……ただ、"焼き塞がるは裂け目の色"』
天より降り立つ、青の神性。
乳白を背景に負って、比して鈍色は灰を基調とする砂岩や礫を主とする地表へ目立った風のなく、波もなく。
『それら【天体の跡形なくも吹き飛んでいた事実】を見ては、当初は事態の分からず——されど、"付近は貴方と約束をした場所"と見て取り、【御身は無事か】と急ぎ、駆け付けた次第で』
身のこなし、柔らかに。
なれど、着地しては低くした身で迅速かつ鋭い眼光の一瞥——二瞥。
装甲や権能の有する警戒の度合いを鋭敏に、一頻りは『周囲に異常なし』としたテアで、彼女の長髪に棚引く色は流した視線の軌跡にも類似した色調の尾を引く。
「……問題はない。"修練からの流れた槍"が『身近を掠めただけ』のこと」
「……しかし、『早くは来たるべからず。管轄に戻れ』と。『矢庭に渡される書き置きだけ』でも、却って憂慮は募るもの」
続き、着地と共に"膝を折った低頭の姿勢"が略式の礼も済まし、視線を相手に定めて立ちつつ、口語の発話。
「"憂慮"……?」
「はい。僭越ながら、心配りを」
「……よもや、伝承に"一方的な権威の恐るべき"——『不可逆的な機能停止』を意味する『死没』を我が身、『この永久が没する』のだと?」
「大事御座いませんか?」
「まさか。"末永く無限"もある今に、有限の道理など要なく——」
「……」
「"苦痛や損耗に定める限度らしき"も所詮——"無知ゆえに外部からは観測し難い待機"の、謂わば『静中の動』というだけのもの」
語り始めの話中には『死没』という"太古の概念"に対しても『大神で含蓄のある素振り』を見せられ、何を言えずとも僅かに逡巡の好奇。
「因りて、"真に容易く完全な終わりを迎えられるなら"——」
「……」
「——誰も、苦悩などはせず」
されどのテアで、"独り言つ少女"の気になっても。
今は『己が興味』より、『相手への配慮』を優先。
「しかして、事故の相手とも和解は済み……残る、『生存の報告』。それのみでは貴君に不足であったか?」
「……憚り乍ら、今仰って頂けたことすら安堵を得るには『些か』と」
「何故なのか——此れは何も貴方の応対や態度に過ちがあったと批難して正すのでなく、『誤解のなく』は単に我らで、"以後の関係を円滑とするため"に伺う」
「其れも、"大神"なれば、常時に先を読む神算鬼謀。『自身に事のあれば』と半ば自動的に振りまく文言も数多く備えてありましょうが」
「肯定」
「故からに——"只の一報"を信用とするには、"頼りない"」
「しかして、"現に神は此処にいる"。それも『極限の神との衝突にあって原初の女神は健在』・『無傷なら、敵うべくもない』と、"触れ回るべき威容"の在り——」
一方の、アデス。
"自己の存在を誇示して見せる"に手で悠然と払う白の長髪が『見目にも気を払う余裕のあり』と、態とらしい所作に『無事』の意味を為したのであろう。
「だがして、それでも——『更なる開示は必要』と?」
「故も言えば、『単に私が心配』なのです」
「ふむ……?」
「私自身、己の由来となった原初に抱くを掴みかね、『その正体を知りたい』とも言って久しく」
「……」
「よりて『損失とされる』のも惜しまれては、多く確信に迫る情報を求めん」
「……」
「総じてやはり、『貴方の無事を知って安堵を得たいから』、来た」
「……」
「有事を危惧し、準備を携え——"気にかけ"に」
(それも関心を持ち、好奇の心を抱いて、剰え"脅威の計り知れぬ他者を慮る"とは……本当にお節介な奴よ)
しからば、テアの口に明かされる要約も『単に厚意』や『善意』と呼ぶべきものか?
指で己の毛先を弄ぶ様にも、しばらく。
瞬刻に膨大な処理を行う思考の最中にも、暗黒は何度目かに捉える目前の相手を未だ内心に扱いかねる。
(どころか、『表に乗り出す理由"』として体よく利したのは私の方だというのに……ともすれば、"者質として巻き込まれる可能性"も未だ残され、危うげの)
「その一つでは、こうした物など」
「……(斯様な私に、心を配る謂れもないのに)」
すると、懐から取り出される、何か。
女神の手から水を振り掛けて起動せしは"鼠火"のようにも、回り。
「身を案じる今日に向けては、我が身で『医療の神性』を重点的に獲得してきたのです」
「これは?」
「そうして、我らの技術の幾つか。何が未知に適用できるか分からずとも、曰く『繭』の如きは『ポッド』など」
「……」
「色々を、持ってきたのです」
地面へ投げた回転物。
素早く回るうちに周囲の岩や砂やの物質を巻き込んで、それらを素体に作り出される筐体は、中に澄んだ緑色の水溶液を溜めて待つ。
「それも我が世界、最高峰の設備で以て貴方の身を案じるために——」
「使わん」
「お使いに——"ならない"?」
「"治療に向けた診察"で、"見見と状態を確認される訳もない"」
なれど、素気なくと峻拒をされては。
治療に備えて何か白衣を被ったり、可動性の追求や物に引っかかる邪魔の少なくは洗練された看護師の装いに着替えていた——『切開』や『縫合』の器具を持ちても仰々しい医療班の女神で首傾げ。
「それは……」
「……」
「……そうです」
「……けれど、我が身の未知なる神性へは、果たして如何な治療を想定していたのか——"興味は"あり」
「……しては、如何な治療法が最適かと考案し……"時に原初の御姿で重要な臓器など持ってありますでしょうか"?」
「臓器。持っていないやも」
「……神槍に突かれて傷や、創などあれば……塞いだり、縫ったりは」
「そもの表皮。切り込める刃や針のないぐらいに頑丈やも」
「……」
対する暗い少女のアデスで、『それでも断る空気を悪くはしまい』と軽妙の受け応え。
己から見て『異界に由来する技術の程度』には興味のある心が話に乗ってやりつつ、ややに含む茶目の気が意地の悪く『適用の不可』を報せながらも、暫しの口に遊んで付き合い。
「それに、例え『内へ乗り込む』としても『恐らく規格外の私』では、"優に耐荷重量を超えてしまう"」
「……凄まじいのですね」
「何よりは政治的や戦略的の観点からも、我が身を預けるに能わず」
やんわりの、固辞。
あくまで相手の想う気持ち自体は否定せず、事の理を説く。
「要ない」
「……過ぎた真似でありました」
「気に病むなかれ。元より対閃光は厚くしてある」
「……では本当に、"無傷"で?」
「損害も僅かなら、回復についてまで貴方が心を配ることでもない」
「……はっ」
「何より大神ともなれば、その手の保養処置にも自前で無数に用意はあり」
「……」
「よっては自己の修復にも余念なく。残るは"永遠稼働の動機付け"……"生涯を送る理由"さえ確かなら、我らの現臨に終わりはなく」
斯くして、示された救助や支援の必要性の薄い事実。
説かれては、『蒼輝の鎧』が粛々と医療従事者の表層を張り替える女神で『戦時』を思わせる姿に舞い戻り。
「されどの厚意、無碍に扱う非礼を詫びよう」
「いえ。大事のなければ、重畳で、この上なく」
此処に未だ良く知らぬ相手の苦境を知って案じ、それでも悉くを『無用』と退けられた身は——だとして『他者の無事であること』に落着とした笑みさえ見せる。
「……私では、思いだけを受領する」
「"……"」
しては、それら『安否確認の配慮』や『協力の申し出』に『信用を得て付け入ろうとする意図』の有無は兎角——"やはりは、誰にも事なしで悪などは成立し得ない"。
今に示された『他者の平穏無事を喜べる者』に"微かな希望"を思うのは——『大神』すなわち凡ゆる究極に通じ、"真に理想の王道も追い求める者"で『民の健やかに善良な様』を喜ばしく思わざるも得ずに。
然りも、"暗黒世界の踏み終えた経験"で、たとえいつかは"幸福の確約ない悲惨な現実"に、"打ち拉がれて皆の多くが絶望に成り果てる"のだとして——『少なくとも今は異なるのだ』と。
「"……"」
「……(……にこやかだ)」
今に、"誰もが邪悪のようではない"——『成り果てる前にも止めることは出来るか』と。
"青い希望"を抱くことすら、多面には偽りのない心情。
「"……"」
「……(よっても、斯様に『信用を売り買いさせる手合い』が、義に厚くもある策略家の大神にとって——"手強い")」
つまり、"無慈悲にして冷酷でもある筈の大神"でも——"少なからず情に訴えられて感じるものはある"のだから。
相対する女神から『貴方のことが心配なのです』・『失われることに耐えられないのです』と快くさせる台詞を吐いたかと思えば、『見返りを受け取るようなことは、まだ』と損得勘定を狂わせてくる難敵へ。
(時として"真に有効な諜報"とは、正に『友好』の形。不正や不義を用いず、純粋に他者との信頼を築き、精神的な接近に自ずと口を開いてもらう——"相手のことを教えて貰う"は、"信頼の立場"に)
言い換えても『敵に回すと厄介な者』へは、その対処方法が大きく分けて、二つ。
一つとして『潜在的脅威である内に始末をつける』か——若しくは『然う然うに味方として取り込む』か。
(なればもやはり、後に己で改める真偽は兎角で、『自ずから情報を明かしてくれる』のだ……"追い放つ理由もない")
合理に基づいた、帰結。
現に、実態として"多少なりとも利を提供してくれる益虫"へと、色良い声で呼び掛ける。
「……君はたとえ打算の含まれても、"他者を慮る善良な神"のようですから」
「……私が、"正直"や"素直"で、また"質のよく"——『善良』の定義に……?」
「誰に報酬の約束をされずとも献身的。判断に技量も、優秀」
「なんでしょう、お褒めに与り大変に有り難いのですが、やたらと急に」
「"……"」
「いえ、我が太祖で覚えがあります——参照できる過去の記録が膨大な大神にとっては、事あるごとに印象的な記憶を呼び起こし……"何か孤独な物思い"、外部からは脈絡の読めぬ詠嘆の様」
「しては、共に類似の形式を取るなら勝手知ったるもあって都合のよく」
「……つまり?」
「つまり、"私にとって有用な手駒"と示せるなら……『新たな世を行く秀逸の水先案内』として側に近しく、控えさせてやらんことも……?」
「つまり、"買われている"……『側控え』とは、暗黒界に於ける『副官』や『参謀』のようにも『取り立てて頂ける』のだと?」
「今後の貴方次第だ。"真に私へ利を齎す者"と、行いで以て示せ」
「……さすれば、『望むところ』と言って——」
その意味するも、"軟化"。
疑い深き暗黒世界の神は、未だ捨てきれぬ敵意と警戒を持っても——『懐柔ぐらいは考えてやっても良いものか』と、彼女なりの歩み寄る姿勢に道は険しく。
「——事実、我が太祖に『手土産に贈る詩文の一つでも見てやろう』と、『襲撃の直前で引き留めるような言葉があった』と明かせば、『何者かで示し合わせただろう』疑念は、"半ば確信"へ至った折にも」
「……ほう。君でも、そのように読むか」
「方々に恐れ多く、断言までは。しかし、"状況から鑑みて警戒を怠る理由もない"と。未だ敵でない私から、一つ」
さりとて、未だ陰謀の渦巻く世界にも、『信じたい』と思わせる者はいて。
「また何より、外交特使として『勢力間の不和に繋がる動き』は許容できかねるもの。如何に我が太祖とて、"外圧を受けたのだろう状況"を鑑みても許せないのです」
「?」
「融和な外交を図る最中にも正しくの"横槍"を入れられ、怒っている——ですから、先述の訝しんでいた段階には兎角、今よりは正式に"抗議の文も送る予定"です」
「事をそこまで細かに明かしていいのですか? 剰え、"楯突く"ように」
「アデス様に関することで裁量は多く私に任されていますので、問題はありません。また抗議のあれば、以後に『過ぎた真似』を強く牽制し——そういった観点からは、『太祖よりもアデス様へ心を配るという事実』は一定の信用を頂けるものかと」
「"鞭で打った後の飴"かも知れませんので、まだ」
「しても、行動で示し続けます」
その地道な歩みで、向かう先とは。
「例には今より考える『抗議文』、アデス様にも一度『監修』を願って頃よくは、"貴方にも利用可能な申請手順"なども含め、『確認』や『補足』でお助けできますので」
「しても、諸事は『内部で行う自作自演』の可能性が捨てきれないのですが……」
「そうして、もし、"私が抗議をした上で仮にも二度目を踏んだなら"——神は『内憂』にして『外患を誘致した』として『逮捕に踏み切ろう』と思います」
「可能なのか?」
「やはり、アデス様に関することで決定権は、"大神に比肩するもの"ですから」
「"取り押さえる実力"として、どうなのだ」
「"従容として頂けぬ"、その時は……私や女神ウィンリル、男神ワイゼンが束になっても敵わぬでしょうから——その時は、場合によって、"お力添えを"?」
「……ふふっ。何やら物騒にも『私と貴方で大神を捕縛する』など、夢のような話です」
「それこそ、『夢』とは謂わば『理想』を——『それらを現実に起こせる選択肢』を保持するためにも、やはり『排除を考えぬ友好こそ』は『凡ゆる可能性を手にするにあたっての一番の近道』でしょうから」
「……ふん。それもたとえ、いくら我が身の立場を気に掛けても——"未だ私から貴方へは見返りの約束もない"のですよ?」
「——構いません」
理想に向けた実践を続けるテアでは、端正な面輪を崩さず。
冷静には一度の瞑目を挟んで伝える、"己が行動の意義"。
「勿論、多くを知らんとする私で、貴方の口からも各種、未知なる情報についてをお教え頂ければ大変に喜ばしいことなのですが——」
そうして、暗中に神を震わすは。
これまでに敵意も悪意も、おろか意識も無い脅威を駆逐する変わり映えしない緩慢な日々に——『新たな兵』としての神性を知って、出会い。
その高揚なく、無と戦うばかりの日常にあって『後に続く世代』の意図を訝しみ、その一つは戦の神との衝突で『やはり他者とは相容れぬか』と敵の害した負傷に思えども——同時には『重き身を慮るテア』に思い起こす、"忘れ去った筈の善良"。
「——何よりは、"他者の充足も願って友好の道"に、私のみでなく、"相手がより多く有望の可能性を掴めるようにも"」
しての再考としては『本来は斯くあるべき』と、『悪が前提にある』など余りに悲しく老神で。
自身とて『"未だ初々しく邪悪にも染まらぬ後進"に、新たな学びを得られれば』と、『暫しは見守ってやってもいいか』とすれば——とうに他者を呪い尽くして滅んだ胸中に、清澄の声は響き。
「今と、その先に"貴方が健やかでいられること"——それだけでも、私には……十分なのです」
揺り動かされても、隠された表情に俯き——さりとて、その後に宿る『期待』の眼差しで視線は、"今は共に未来へと向かう"のだ。