第一章『邂逅』第二節
第一章『邂逅』第二節
そうして再びは、どれだけの歳月が過ぎただろう。
かつてディオスが広げた空間を『各々が望むままに満たさん』とし、今や宇宙全体、各所に散りばめるよう設置された星々、天体。
創世から暫しの背景は無限光の創りし世界として輝きの乳白に満ちたものであったが、程なくして追加された様相が白色とした中にあって『常に周囲を警戒せし』が金銀に揺らめく星々の。
謂わば、『恒久の光』を持って既に開拓された空間を照らす『恒星』の日射と——。
(…………)
また比しての明暗が分かれる一方は、熱き宙域で泡沫の如く点在せし『冷たき集塊の星』が後に『惑星』とも呼べよう足場であり——どちらも、"不規則な配置に合理性"。
"満遍なく散りばめた方が当たり易い"、"しかして読まれる規則性もないように"——それら、"気配も無きを報せる索敵の地雷"。
星の体積にして大部分が消失に呑まれた瞬間には、『自重の崩壊』で己を維持できなくなったエネルギーの散逸せしが『花』の如く。
今まさに、消失間際の叫びが『火花』——以て『無との接敵』に"開戦"の合図とする。
(……『無』の、往来)
即ち、『無に対する探査機』としても星々は、『監視』と『警戒』に『索敵』も兼ね、更には担う『迎撃』、その初動。
たとえ、『無そのもの』に迫る気配の無くとも、その『不可視の侵食』が始まったことを報せる"機雷の自然的な凝集"であり、宇宙を星々の浮かぶ『海』に喩えたなら、漂う様が『水雷』にも。
此処に『無へ対する間接的な証明』が『ゴロゴロ』と煩さき『神の鳴子』でもあり——つまりも新世界における『天体』本来の意義は『自ずと泳ぐ魚雷』めいても『機雷こそが星』である。
(今日も今日とて『無味の戦』が始まれば……)
更に砕き、言い換えても『恒星なら突如として灯りの消える』ような。
その他の様々な天体に於いても『当該質量の一部分を無に呑み消された』ことで『不安定となった自重に起こる爆発などの崩壊現象』を契機とし、配置された神の各所で『開戦の兆し』を身近に知る。
(……果たして、『似せの女神』で如何程のものか)
そうして、今の実態。
幕を開けた接敵戦も、所詮は『戦術』も『戦略』も、『戦法』どころか『戦意すらない"何か"を捻るだけ』の——単調な作業に高揚のなく、敵意もなく。
無味乾燥の一幕で、因りてからには『難敵でも何ら無いもの』、『個神でも対応は容易だろう』と、傍観。
「…………」
"余程のない限り、手を出さん"。
暫し黙す原初の女神で、『目前の戦闘』を観察するのみにあれば。
(……元より無抵抗の戦。"単独にて戦線を拡大する"らしき、御大層な『専門家』とやらに任せておけばよいものを)
積極的な参戦を忌み、潜伏せし。
ある惑星の、ある地平より。
眺める遠見の、認識する視界には——。
(何よりは無限で、"止め処にし難い武威に主張"……『戦後の始末』を考えるべきでしょうに)
柔肌の指先を注ぎの口として。
最も小さき指よりは、流麗に滴る水——零れ落ちては足下に展開する、領域。
「"————"」
"攻防一体"の、其れ。
いつしか広げきった水で、無の接近で半径たる凡そ七千キロメートルを呑まれつつに音を立てて瓦解した星ごと・爆ぜる衝撃ごとを包んだ様子が『即席の手榴弾』に巻き込むような流れ——数の『一』と『一』が並べば足して次に続くが『二』、その前述した後ろ二つの足されて次が『三』、同じ法則で『五』、『三』と『五』では『八』といったように『辺の長さ』を続けて——それらで囲めば、奇しくも方々に瞬く『渦巻き銀河』と近似の数列から『螺旋の構造』に生じる。
(……態々と手の内を晒す必要もなければ、現に殊勝な者よ)
見遣る先には、羽根車付きの靴。
踵の先から拡がりし水景は、花弁が如き『水の輪戦法』で、"控えめ"にも。
(要は"地続きの世界に連綿とした繋がり"へ——"落とした波動"を周囲に伝え、"現象"と成す)
渦巻く水が『無い筈のもの』を誘い込み、『既存物質への変換』に導く水路の型取り——宛ら『乳白の壁紙において無色の汚れを洗浄する』ようにも。
(——無駄のなく。"かいばむ技量"として悪い手ではないが……"出力"としては、劣る)
そうした御業が『大神に比肩するものではない』にせよ、事実に『天敵を既知の概念に置き換える』とすれば、見紛うことなき『水の自力生成』が創世の一端に流れを汲みし『神話的存在』の証左。
(其れも『創造』と『置き換え』が順次『無害な塵粒とする』——私であれば、"未知の"。彼の女神では『水』を主とした"存在明確の物質"であり)
しては、緻密の流体力学を主武装とした女神で戦闘、終了。
(そうした技芸も自身の太祖より学び得た、『万物を動かす』に"基本的な動作の一つ"なのでしょうか)
程なくしては、濡れた指先を撫でて、拭い。
喩えて、"蛇口からの水流を堰き止める仕草"の後。
「…………"?"」
(他にも『諸神の性能』とある公開された資料を流し見ては、正しく『水流』に『風流』、『磁流』など、など——"流れ"が、単純に便利なものです)
宙域で青き女神の漂う現在地は、既に『指定された座標』の近く。
よっても、今し方には"偶発的にも起こった星の消失"からして、さすれば『原初の女神も【警戒】の意で付近に居られるのでは』と思ってかは、『所在を尋ねる』ように小首を傾げ。
「…………」
肩口から澄んだ色の美髪を溢し、今暫くを無言に待ち受ける。
(……ふむ。そうして良能にも『悪くはない』と見えるが……如何に手早く"退却"は願えるものか)
たが、対する韜晦の神では、"しかして何と適当にあしらったものか"。
それも、今日に呼び出した事の発端は前回の接近の折に『気の向けば目をかけてやらんこともない』と言ったが故の、"形式的な交流"。
前もっての考えでは『詳細な居場所を明かさまま』、『指定した大まかな座標の近辺で一言二言』を掛け、ともすれば『学習の様子を見守るだけ』に済ませようとしたのが、謂わば『履行証明作り』の当日にあり。
(『勤勉な良い娘』でも付き合わせるに忍びなければ……此処は正しく『来客のもてなし』でも教授し、『払う』意の『箒の掃き方』などで暗に『引き取り願いたい』と明察に浮かばせてみようか)
やはりも、『手短かつ穏便に果たそう』と。
だが、"最低限の義理を立てつつ場をしめやかに終わらせる最善の策"とは『周到に用意した何れを繰り出すものか』と思えども——再認せし女神への熟慮に押し黙る時で、"目標に新たな動き"。
「"——"、"——"、」
(……"水の模様"に、形は……『花』の類でしょうか……?)
無の往来が過ぎれば、時に『彩色も無い様』が『灰の如く』とも喩えられた色味も、とうに乳白へ染まり直した場。
「"——"、"——"、」
(次と次には『鳥の羽撃き』に『風の吹く』……『月明かり』も模って、揺れる花々が『月下の美神』)
予測通りに脅威も捩じ伏せては。
戦の終わりに関心の対象を移し、その『見えざる何処か』へと合図を示す、テア。
顔合わせの初回を経ても彼の女神で、今に望む『二度目以降の接触』に際しては、過去に見た相手の振る舞いに『多兵より寡兵で、静粛の様態を好む』と察しても、今に態度は口数を少なく。
(……だとして『騒がず』も、我に同調して気を引き、"効率的に相手を知らんとする方策"でありましょう)
しなやかな身振り、手振りに、"成る可く音を発さず"。
伝え聞いたのだろう過去の記録によっては『花』や『鳥』や『風』に『月』と呼ばれた『明媚』の様を水で模作して噴出させるなど、広大な宇宙で"自身の所在"を捉え易く。
「……既に周囲の湧き潰しも、私で、気を払う備えは完了していますので……どうか」
個神に『接触を待つ様子』が時折に載せる声量も控えめに、必要最低限の意を示すばかりに、配慮をしたもの。
「再び御時間を、談話に充てて頂いても……頂けると、大変に喜ばしいのですが——」
斯くして、そのようにも見て取れば『物静かにも出来て、己を精進させる学習にも意欲的な者』は事実として——『嫌いでない』と多少は許したくなるもので。
(……さても、どうしたものか)
いいや、そうして、"撒く言葉は餌"であり。
言い換えても『都合の良い教導』は『更に自ずと私的な好みに合わせるよう』に、"段階を踏んだ調教"と画策しても、暗き陣中に篭る気配で未だ表出のなく。
「——で、あれば」
するとの、二の手。
未だ『己が警戒の対象』と知ってか知らずが、テアから。
正しく"次の方策を手で扱う仕草"には密やかな声も付随させ、一端は懐に仕舞い込む掌、次に『細かな物品を摘み出した動作』にも観察者で見張らざるを得ず。
「……"此れ"などは、如何でしょう?」
(…………"?")
「"私という女神の最新で作った化粧品"。"構造の色を再現せしは口の紅"——」
("…………")
「——または、"趣きの変わる象形"。"動作する性質はそのままに流体を磁場に留めた物"など」
その取り出して見せる態度すら『極力に政治的な意図が介在しない世間話になら、相手も応じ易いだろう』と知ってか。
はたまたの"知らず"か? 『意図された無垢で純真なだけ』なのか?
「そうした"見好い装飾"の数々につきましても……私で、"御紹介は出来るもの"と」
兎角。
知者で常に『何らかの思惑』が含まれる口語には、女神で女神に『新作の装身具』や『美容品』の話で誘われて。
「……そうした申し出についても、如何いたしましょう?」
しては、かねてから最低限の外交用に使っていた薄暗き靄姿で、所在は付近の惑星にあり。
雲海の抱く中では、切り立つ峰に仙郷らしきの岩山。
その中腹より——動けば。
暫しの腰を落ち着けるのにも適していた天然の屋根の下に、先ずは『ひょっくり』と晒す気配——闇の深奥で今日という日に備えて新調した『面隠しの帷』が星の外にも細やかな振動を伝える。
「……"今し方の気配"は……よもや?」
『……この呪物が、"何処ぞの誰が与えた物"を、身に付ける訳もないでしょうに』
「——"!" 応じて、頂けました……!」
『……("索敵の範囲"、"速度"も此れ程)』
「やはりアデス様で、お近くに——"其処"に、いらっしゃるのですね……!」
『然り』
「でしたら今より恐れ多くも……私で、お近付きになっても?」
『……"好きになさい"と言ったはず』
「——再三の有り難き御言葉には、再四の感謝を捧げます」
また通信越しに聞いて『謁見を許される』となっては、近場の星に日射は遮られ、一点に暗くなる場所を察し——即座に星外からを滑り落ち、舞い降りる一輪。
(……"一見"だけは、くれてやろう)
女神としての実体に落ちれども、美髪や服で枝や花弁の欠けもなく。
摩擦の熱と雲を振り払って、"しなやか"に同地を訪れては、引き続きも『未知なる』に対して言葉を選ばん。
「そうして『譲られた物が不安だ』と仰るのでしたら——"DIYレシピ"も、御座います」
「……"でい"?」
「其れ、流し見るに都合の良く」
「"れしぴ"、『レシピ』は……『方法を書き起こしたもの』と把握していますが」
「はい。ですので『敵方で用意したものを危ぶむ』なら、"その説明書きや設計図をお見せするだけ"の」
対しても、暗黒。
二度目の会談に応じた者では『辿る話の運びに"認識しただけで成立する攻撃的な式"が編まれぬものか』と、警戒をしつつ。
たとえ『他者に己の時空を奪われる折衝が嫌い』であっても、事実として『異なる文化に惹かれた』ものか。
「しても、『構造を己に分析してから』であれば、"毒の混ざる危険も少なく"」
「……ふむ」
「故に、もし仮に記された様相を気に入って頂けたのなら『御自身でお作りになっては』と言ったものが——『為す』・『其れを』・『自分自身で』の意味合いに『DIY』」
「……成る程」
「古い言語を組み合わせた物言いです」
「……真実なのでしょうか?」
「……"既に配布されたと聞く辞書"にも載っていますのに。全文を網羅されているであろう身で、御冗談を」
「……うむ(……やはり、"生誕以前にも女神の知識は及ぶもの"か)」
まして、"出自に異なる世界の文化"が未だ己にとって不鮮明なものなら。
よもやも、以前に大神ガイリオスが『子への期待』で言う通り、『閉塞の世に生み出された者で【苦境を救う何か』が有りもするのでは』と——"淡い嘱望の念"で?
もしくは『未だ夢見がち』を"冷笑する視点"でも、果たして『憐憫じみた気まぐれ』で声に反応してやったのかは、原初の神性で明確には表さず。
「……またそして、過去には『好奇に逸る己』を省みても、"此方から一方的に情報を聞き得る"のでは『公平』も『対等』もなくに『無礼』と思った次第に」
「……」
「因りての今よりは先んじて、改めて貴方様に『お近付きの印』としましても——"先ずは私から"。『己の情報を開示する』ことに努めてみせます」
「……丁寧なものです」
「いえ。こうした"姿勢に示す"のも、謂わば『和平へ向けた道作り』にあれば——」
相手で自ずと『情報を溢す現状』に都合も良ければ、多くを口頭に差し挟まず。
「——……現に、"御紹介"へと進めても?」
「……形の残らず、嵩張らぬ方法が我が身にとっても有り難く」
「……でしたら、それも重畳として。神の温情を側に、我が方で話を進めさせて頂きます」
その"流されておく眼前"には、未だ『大神』という"多面の本質"を理解しきらぬだろう女神。
聡明でありしは彼女自身で『自己に掛かる嫌疑の視線』が『異界よりの尖兵』に"思われるよう"と察しても、同時には個に許された方針として『敵対』などする理由もなく。
ただ青い彼女は『未知を知りたい』と言って、そうしても『知るのに最も早き一つが対象そのものから教えてもらうこと』であり——つまりも『一番の近道』が『友好の地道なのだ』とでも、続け様は『現状で敵意に乏しいこと』を強調。
「なればの、早速。手早くは私の身に着ける"耳輪"など、如何でしょう?」
柔らかな口調に、言及した事物を自身の側頭に指差しては、『身を着飾ることに興味がおありでしたら』と、手始めには自身の装着している耳飾りを紹介し、"その有する実用的な機能"をも明言とする。
「耳の飾りは周囲の状況に合わせ、揺れて、"音を立てても先触れ"」
「……」
「自ずから波を発しても、反響定位の如くは"目標の位置を探るため"にも扱えましょうか」
その語る間近に、音もなく、物陰から這い出てくる闇。
「……また『揺れ物』に引く、"注意"。特に意味を持たずとして『相手に警戒の気を割かせる』とすれば、単に身に着けるだけでも"機能の美"に『付けては得』とも思う次第」
「……合理である」
「しかして、『単に洒落で楽しむ』ことも"自身に活気の漲って"、大いに結構なものかと」
「……分からぬでもない」
「……アデス様でも、左様に思って頂けますか」
「しては、どうだろう。周囲を動き、回し見ても?」
「それも、はい。勿論のことです」
「……では、少々の失礼をば」
這い出ては、近く。
要望を聞き叶えるテアで手ずから黒の手袋に覆われた指先が当該の装飾で機器の『解除認証』を押し、耳元からは外した物を、仰ぎ見せる掌に載せて。
(——『溶質』に『溶媒』の、"循環溶液の色"なども見えず)
深淵より覗く先には、外したばかりの耳朶で、針を貫通したような欠陥もなく。
装飾と関連しては『脱着機能』に『使用者で状態変化の度合い』など——諸事に興味を持った暗黒が、警戒心から直接には触れずとも青き美女の周囲を『ぐるり、ぐるり』と見回れば、『危険性』や『発言通りかどうか』も確かめる『走査』の類でも行っているのだろうか?
「……」
「……(だが、"勘違い"をするなよ、女神)」
「……」
「……(此れは女神の加工技術を見遣ることで……そう。"その性能から成る脅威度"についても、"より正確な測定が可能"ということであり——"瞬時に色や形を変える"などは暗黒の私でも容易なのです)」
「……」
「……(なれば、『形に色さえ変わって見える物を貴方で如何様にして装飾へ落とし込んだのか』など、問い質したいだけ)」
「……」
「……(ただ『異界の様式にどれ程の差異があるものか、剰え、『新たな発見のあれば』と心を沸き立てることもなく、ただ『偵察に赴いただけ』なのです)」
しては、誰に聞かせるでもなく言い訳の様。
「……兎角、『私を出し抜ける小細工でない』とは、分かった」
「……左様ですか」
「また、『美を追い求めた作品に悪いものでもない』とさえ」
「お褒めに与り、恐悦の至り」
今に『複雑な己へ示しを付けた』次には、『与えられた情報への対価について』を考慮としてやる。
「そうして、"私にも自慢の品"、"此処に覚えはある"ものです」
「……? それは……?」
「現に今、"濃淡の可変で透かしも自在な布のごとき"を……"顔の前で着けたり"」
「…………なんと」
その"情報の差し出し"も『対等』を狙って『円満』の構築。
"和議"に於いても相互の遣り取りが重要なら、暗黒の未だ見ぬ口に述べられたのは『相対する女神も未だ知れぬ概念』が『好奇心を軸に構成された神の好物』として興味は津々に深まるように——『もっと知りたくば』と、"優位"を得て誘い込む手口。
「では、それも仮に例えば、私に手早く思えるものなら——"水溶液にどれだけの不純物を混ぜる"か、どうか」
対して、『未知なる相手が装う』との情報を『直と教えられた事実』に瞠目しながらも、テア。
神秘を宿す彼女で、己の顔の上から下に掛けて『ずらす動き』の右手が眼前に水の膜を張っては、残る左の指が差す岩肌の先で手頃な小石を砕き、塵滓を調達。
次には、其れも指で『くい、くい』描く流れに引き寄せつつは、膜へ——"顔を覆った垂れ幕"に含ませては、含有した物質の『細かく砕く』か『再びの凝集』で日射の遮る程度を変えても、"色も濁らせて見せる透過具合の調節"を片手間に実演。
「また——"タイツのデニール"のように」
「……ふむ?」
「"伸縮性に富んだ編み地"で、"繊度的な単位の一つ"」
「ふむ」
「布生地で『繊維の太さ』・『重さ』によって、色の濃淡を調節するような——」
次には、背面から手前に持ち出した己の青い長髪を伸縮自在に即席で編んでも、発言の内容を分かり易く。
「その手の御業を、現に——"アデス様の世界"では主に、"どのような材質"で? "如何様な仕組みで変化を"?」
「委細を答える義理はない」
「——失敬。出過ぎた物言いでありました」
されどの。
好奇心の躍動に素気無い答えを返されれば、己の水幕を外し、打って変わって冷静に取り直した粛々の、表情。
「…………」
されど、されどには。
輝いていた瞳も消沈とし、落差に哀愁の雰囲気すら漂うのが、"気色は豊かにも沈痛な女神の模様"を目前に——よもや、『可哀想』とも?
(……女神で何かしらの成果を持ち帰らないと『業績の不充分』で、"叱られしてしまう"のでしょうか?)
思慮の深き視点では、『剰え、怒鳴られても面倒』。
しからば『手切れ金』の代わりにも、『土産で何を持たせてやりましょう』と。
(なればの、後から『一方的な取引で不義があった』と騒がれても面倒に極まりなくは……せめてが、"開示された情報の見返り"に——)
しても、予てより考えていた計画の策定は、"穏当に"。
(——"等価"としても『既に知られた類似ぐらい』は、"より詳しく"を教えて上げましょう)
狙うは、『怯えさせつつ、成果を得させつつ』の。
相手方の所見に『深入りは危険』と知れば、『一定の成果で手を引いてくれるやも』と期待も込めて、"試そう"か。
「……ですが、『外した飾りの戻しても良い』として、申し出への協力に、感謝を」
「……いえ。それも有意義な場を頂けるのです。アデス様では何なりと、引き続き私にお申し付けください」
「しては、貴方の纏う一式も性能だけでなく、『自他の触れる目にも楽しむ』という心の持ちようは、己が身にも通じて理解に能うやもしれません」
「はい。機能を損なわぬままでも、"洒落た装い"。心で同時に快適と壮快を支えては、素晴らしく」
策謀も多分に含む者で、視察を続ける意識の先には飾りの性能を確かめられたテアで、再装着の手付き。
垂れる髪の隙を縫い、着け終えては振り乱すようにも揺らして『動作の再確認』とする仕草に、切り出す間を見計らう。
「……別の要所に目を向けても、上下一続きが優美な仕立てで、中々のもの」
「勿体なき御言葉」
「其れも"ただ身を守るだけ"なら、肩口を覗かせる必要はなく」
「……」
「けれど、"流転する水の肩当て"に透き通って、"木目の細かな肌の質を阻むことなかれ"を見るに……"外目の印象も流流と拘った"のでありましょう?」
「はい。多く教えは太祖からを授かり、自らの興味で率先しても細部の仕上げに趣向を凝らしました」
「……重ね重ねに、見事な作です」
「それほどでも」
「それでいて、『戦場に赴ける装甲』も両立の作は、"鎧のしじま"を見るに『枢密を保持した状態で万全の権能行使を支持する役割』もあるのでしょうが……」
「……」
「……よもや"全容の其れ"までは、御教えになれぬものでしょう?」
「……仰る通り。お聞きになられた、其処までは」
「……」
「まだ、如何とも」
今は大戦の最中で『平服が戦闘用の装い』とも言うのなら、いずれに『仮想敵とも成り得る相手の力量を計る意味合い』でも、簡単な探りを入れつつ。
「……"言い難いもの"も御座います」
「……(……『出方次第』と)」
事前には『自ずから情報を開示して一方的に貸しを作る』とも見える——そうした相手の態度も踏まえてつまりは、一連の言動が暗にテアでも『重要な機密に関わる情報は"相応の形式"に従ってしか開示し難い』のだと推定。
「…………」
「…………」
よっては、テアの暗黙の了解とする態度へ合わせつつ、"見目の話題"と至った所では自然な流れに、『交換』を。
「……けれど、そう致しましても不躾に質問なのですが」
「……何か?」
「ここまでを聞くに、やはり……原初の女神に於かれましても『装いは楽しむもの』なのでしょうか?」
「……"手掛かり"には、同列に『大神』と語られる貴方の祖を思い浮かべるといい」
「我が太祖では……『衣装替え』に『整髪の講習』などでも、時に実演を交えては『気分転換に心の躍る』と楽しげにも見えて——」
「……」
「——"その歓喜雀躍の様"は、見る私でも王族の晒す瀟洒な振る舞いに、感じ入るものもありましたが……」
「しても、"大差はない"だろうか」
「——では、やはりアデス様でも、"お楽しみに"……?」
仮に、『期待されたもの』を与え、『返し難い恩』を売ってみれば——。
「……」
「それは……大変に興味深く」
「……しかして、ともすればの今日、貴方では——"異界の神たる私"へと『様相の観測』を、『期待』して?」
「それは……何と言いましても」
「……」
「隠せず言えば、そのように」
「構わず。しても——『なにゆえ』であったか?」
「それとて、『女神』という己の宿す概念そのもの——『その源流に於いても知見は得たい』と以前に述べた思いで、変わりもなくば」
「……なればの私からも、"今日の取引に臨む一定の印"は、『真に女神の有り様』を御覧に入れても構わぬのですが」
「しかしまさか、それも当然に、『先ずは貴方様へ信頼に足る様子をお見せできてから』、『今日に実質の初回では不可能に同然』と——……"?"」
女神で——"どうなってしまうのでしょう"?
「……」
「……はい」
「……」
「…………"なんと"?」
「『御覧に入れても、構わぬのですが』」
よっても、未だ各所に敵の全容が秘されて知れぬ今に。
その"持ち札"を使っては『各陣営よりも相応を引き出さん』とする展開で、暗黒の神は重い腰を上げる。
「それ、よもや」
「……」
「まさか私に、アデス様の御姿を、見せて——"此処に見せて頂ける"と……!?」
「貴方が強く望むなら、私としても『和議の証』に一考としていたところ」
「——でしたら、それはもう。そうまで言って頂けるのでしたら是非に、いとお願いしとうも御座いまするのですが……?」
「……ふむ?」
(……万事順調の、さすれば。『相手から望んだのだ』という正当な意義明文も手に入れた所で——即ち『私の能動的な威圧にはならぬ』とした間合いで程良く、間もなく一端を『指南』に覗かせる時でしょう)
「で、ですがもしかし、アデス様では本当に……『構わぬ』と?」
「……"危ぶむ"のであれば、無理に強いることもありませんが」
「いえ、そんな。現状、貴方様を危険視することなどが、あるはずも」
「では……"望む"のですね?」
「はい。さすればも、是非……どうか。"類い稀なる機会"を、此処に」
「……了承しました」
「……お願い致します」
「なればの暫し——待たれよ」
「——はっ"」
即ち、アデスの向かうは『披露目』の機会。
此処に大恩を得ては従わざるを得ないだろうテアを伝い、『皆に恐れ多くの威容を広めん』と、雲深き仙郷に示される『原初の神性』が一つ、『暗黒』の——"世に初めて表出させる姿"とは。
(……そうとなっても、耳飾り。言われた通りが揺れ物も悪くない。取り入れてみようか)
"姿"——とは。
(斯くに意を決すれば——そうです。祖たる神より知識の委譲も受けていれば、彼の辞典にあった『喪に服す』意味合いも知っているのでしょうから)
「……」
(其の、見目に表す『喪服』を素体に、"遊んだり"もしてしまえば……周囲の関心を除けて)
そうを言って、どれだけの月日が経つのだろう?
「……」
(それら一応の主題、方向性をも決すれば、残るは細工。正面に"愛らしき織物"の装飾も結んで……"でかでか"とした物は派手も過ぎるか? 印象はあらぬ方向に持っていかれる起点にも……?)
「…………」
(であれば胸元、あくまでも端に添える花の形が慎ましく)
「……姿を、お見せして頂ける?」
「——今暫し待たれよ」
「は、はい」
「すまぬが、私にも"様々な視点での拘り"がある故に」
「……わかりました」
公開すると言ってなれどは、極みの域に立たされた者で『作者』にして『表現者』は、『鑑賞する者』としても"拙い生半可"を許容し難く。
平たく言っても、"拘り"、"己で以後の立ち居振る舞いと密接に関わる"なら『一応の基準点を超えたい』とする。
(——急かされても、その凡ゆるで納得するとは難しく。けど、闇に呑む一色で相手に与える印象が余りに重く甚だしければ……時として息苦しさには、"開放"の道)
重役の立場で安易な露出を『軽率』と避けるとして、脇に添えた花の形を段のある表層で切れ込みのようにも——刺繍、鰓のように。
(仮に喩えて『呼吸を為す衣服』——また借用とする過去の文脈で『斜線を交差させた"×"の花』を要所にあしらい……印象的に、魅力的にも)
繰り返す足踏みに、縫製機を急がせる。
(されど、先鋭にもあって取り付き難く。"取り付く島のない断崖"、"取る関わりを持たせぬのが絶壁"なら……我ながら神経質なまでの出来映えを、この機会に仕上げて御覧に入れましょう)
しても、数分。
見通せぬ闇の傍らでは粗相のないよう慎重に振る舞わんとする女神へ配慮としても、暗中に歳月の圧縮。
この短時間に新しく作り出した物を基軸とし、過去から持ち出した様々な種類の試着も終えたなら——"現状に出来得る最善"、決定。
(……然り。『悪魔的』に、そうですとも。"描写に手間の掛かる装い"では、"相手の認識に正確な像が残り難くしてやりましょう")
至っては、姿見に映る『無駄のない完成形』で——見つめるだけで"思わせぶり"になってしまう『憂いの眼差し』も、眼前に垂らした覆面の裏へと隠して、場に臨まん。
(そうして、慄くがいい。私は服し、表する——"君たちの生誕"に『哀惜』の意を)
斯くして現れるのは、襟を正し、櫛で一通りを梳かし終えた者。
「——……参ります」
「——あっ、はい。宜しくお願い致します……?」
愈々と、靄より進み。
何十億、ともすれば其れ以上を隠棲に徹してきた原初の神性。
(不謹慎にも現実という悲劇を憐み、喪すら楽しんでやる。見よ。私が不完全に示す、"愁傷の思い"を——)
"暗くも気の重い"——『女神の姿』とは。
「よりては改め、"初回"となる対面に——"御挨拶"」
其れ、暗黒が有する始まりの姿。
徐々に光輝世界で輪郭の像を結んで、朧げに。
「——"!"」
時に"彼女"は『怨嗟に満ちた侮蔑』も、『いと貴き』とする『羨望』に『賛美』も一切に己が身へと引き受けて——世界の果てに顕現せしは、過去の宇宙で今日へ思い描くに至った『理想の極地』が一つ。
夥しいまでの数えきれない怨恨、口にするのも憚られる各種様々な犠牲の数々によって織り込まれた『呪いの詰め合わせ』が、謂わば『悲劇的なまでの贈り物に当選してしまっただけ』でも、事実として、"呪詛集合体"。
悪辣の化身は今尚に、過ちの積み重ねに自滅を招いた身の上で、今になっても『生存』を願って図々しいものが忌まわしく、呪われて——身に宿す『悲嘆』に『狂気』に『絶望』で、『終末』を願った世界は、重く。
その凄まじき自重では、小さく。
外目に『脆弱な印象』とは『弱者の立場すら利用する悪女』に『毒婦』や『妖婦』で『"邪悪にあれ"』と願われて——此処に『少女の形』が真向かいの女神と比して一段と小さい背丈、なだらかな胸部に膨らみすら優に頭ひとつ分の少なく。
「——"初めまして。第二の女神"」
神体は、純粋な好奇で迫りし者へと向かわん。
その"新たな出会いへの期待"に満ちた眼差しへは、されどの、嬉々とした碧眼に対しても"不釣り合い"の印象が『喪服』を纏い、粛然と語り掛ける場。
「我こそ、"この私"こそは……通る名を『女神アデス』と呼ばれし神性」
「"————"」
対し、好奇心を抱く女神も『突然に喪服の現れて』は、『未知を畏敬とする感情』で一概に『否定』の言までは述べられない。
よもや、己が『忌避されるべきの喪服に魅力を感じた事実』として、暫しは『物言えぬ様』が複雑な情動の処理。
「女神——"テア"……?」
「…………失敬を」
言い換えて『気圧された』ような瞬きの間にも、既に『相手で場の主導』を持っていかれれば、"悪魔の御業"が流れを握る。
「……では、尊容を拝し奉りしは、"我が目前の姿こそ"——"原初の"」
「然り」
其れも言葉で表す『一世界の主』たる形容は、先ず以ての配色が『漆黒の如き暗色ばかり』。
中でも頭頂、早くに目に付いたのは前面に押し出される顔の構えで『頭より覆う帷』に嘘はなく。
総じて身に纏う素材は糸の練りに薄くも透けて見えるよう、さりとて深みさえ持って地肌の見えず。
肩口にすら羽織る幾重にも、浅闇の箔を重ね、印象は『小柄に重たげな外套を背負う』ようでも『暗冥に沿う暗闇の色』が『実像を認識に結ぶことすら意図して難儀とした有り様』を——なんと言おう。
「……さすれば、言葉の忘失をも非礼として。我が方でも改め——お初に、お目に掛かります」
「くるしゅうない」
「……」
「どうか暗黒の前でも気を易く、"例の如く"を保たれよ」
「……御意に」
つまりも——ひどく、"神秘的"?
宛ら『日照りの中に現れた涼しげの避暑地』のように?
煩わく息苦しい日常の中で『自身を逃してくれるかもしれない非日常への扉』が目前に現れた瞬間の、暗い色でも鮮明な味わいを以ては光輝世界に真昼の暗所?
光の届かぬ影の領域が『強烈な日の下で奥深い洞穴』じみても、乳白世界にとっての対照的は、ただ鮮やかに——見る者の視界に"不思議な誘い"を呼び起こし、此処に『深淵なる魅力を湛えし者』が一体『何だ』と言うのだろう。
「……」
「……」
時に『白』が『清廉』や『潔白』と関連づけられて『汚れなき』が『未だ何にも染まらぬを純白の色』と捉えられる文化圏なら、"その一部すら感じさせぬ色"が対比的に見える?
つまり『貞淑』すら表すのが白色ならば、片やの真逆と思しき『黒系統の色に身を包む者』——それでも顔や背中の要所に、帷を身に着けるのは『露出に対して慎みの深い処女』のようでもあって。
だのに、それでも、淑と些か趣きの異なる深い暗色を『破墨』のように重ねた存在感も、圧倒的に極まるなら——その装いは過去の世界でも『未知なる色』に対する印象や、また『安直な色調の選択で洒落ていない』などとも否定的に評される——つまりも『忌み嫌われる禁忌』とされがちな様相で、だのに『嬉々的に着飾るのを楽しんで』——なんなのだ。
即ちも『秩序然』と『秩序に反する』を併せ持てば情報に統合性が取り難く、『観測者の認識に不具合"を引き起こさん』とした悪辣な意図が順当に作用し、叙述の乱れに困ってしまうばかり。
「……"?"」
「……(……見ていますね)」
しても——いいや、"なんら一切が不自然なこともない"。
得てして主観に扱う『常識』とは、また別の世界では前提とする文化の大きく違って『非常識』であるのも真実なれば、『その多くを同時に内へ含む』ようでも。
つまりも、"矛盾を孕みながら自然に成立するような神"が『大神』という世界の化身で『全ては必然』が、意図した姿。
今に見えるは、顕現した世界の統一意識に、なれどの複雑な神の多側面は『出会いの場にそぐわぬ意味付けで服飾を冒涜』。
同時には、『洒落で着こなす衣服』も例として、纏う外套は——『マント?』、『ケープ?』の折り重ねる前面も、『左からの布』が『右の布の上を覆う』ようにが、時に『性別どうの』、『利き手のどうの』と様々な意図や印象を操る策謀を施しても——いや、もはや、"新世の此処で過ぎ去った面倒は知らずとも良い"。
「……"??"」
「……(……とくと"観る"がいい)」
それも言えば、『複雑すぎてどうとでも表現できてしまう』のが殊更に難しく。
"幾らでも深読みできるもの"なんて、『底無しの深淵』に他ならず。
もしと仮定しても『書き尽くす』には、"生涯の全てを費やしても狂う"のだから——だから、今よりは各地各時刻での要点を絞って描写したければ、その『要』とは『各位が世界に示す実際の言動』だ。
「……」
「……」
たとえ、彼にしての彼女らが胸奥に何を思おうと、『真に成すべき』と実質を伴って世界に現した『それこそは最優先の何か』——"己に定める傾向"の、『斯くあるべし』と、『自身に進むべき』とした『希望の表出』であり。
その"察し合う交流"に『巧者でもある者ら』は『相手が身を置く文化』をも利用して——『その揶揄する何処までを読み解けるのか』、『何をどう読んで如何様な解釈を下したのか』。
今に現れるだろう言動に、それら反応を様々な箇所に垣間見て、『相手の思慮的な傾向』を計り、『力量を分析』し、『己にとって如何な価値のあるものか』と、既に"他者を試す態度"。
それも謂わば『牽制』にして『試練を兼ねる場』が、現在に繰り広げられる『披露目の機会』であった。
「……」
「……」
それこそは『大神』、広き世の創始に立ち会った者で絶対的な存在が試す。
決断に至りさえすれば速やかに『不要な因子の排除』にも能うのだろう『強大な威力』を裏に秘め、ただ其処に顕現して在るだけでも息を呑ませる圧倒の身。
「……」
「……」
今に概貌としては全身の黒く——いや、『色の見え難き暗き衣』を纏って。
他者を寄せ付けぬは深く、圧を放って『寡黙な貴婦人』のようにも。
示された印象は薄暗く、仄暗く。
「……」
「……」
その最たるが前面を覆い、『邪視を隠す顔の帷』と、その深淵なる色調に合わせた妖艶な装いで『視線や体は乱りに相手へ触れぬよう』——『直に触れて腐らしてしまわぬよう』では手足の指先も漆の如き暗黒に包んでは、肌身も隠す手袋をしている。
「……今暫しは、お時間を」
「"……"」
足袋にも覆う墨黒の装甲で、脛当てのある厳めしい安全靴に分厚い踵も履いている。
「……」
「……」
加えて陰気を醸し出すのは『肩口に白肌の色彩を楽しみたい襟ぐり』ですら斜線交差の紐掛けを採用しつつ、容姿の大部分を隠しているのが先述に漆黒のような薄布。
それこそも、小柄な玉体の下部で簡素に丸みを帯びた闇を纏っては黒色——いや、何度と言っても"不詳の魅力"は暗黒盛装。
小玉体で若々しくも、女性の形で広がる腰元には降着円盤を縁装飾のように、端には赤方偏移の"赤み"を添えて——"意図した配色"は呪いの神で『敢えて』に見せ示す、"警告の色"でも。
「……」
「……」
如何にも『危うい』のだろう『魔性』の香り、如何にも恐ろしく『魔女』の、否が応でも見て分かる『不穏な気配』の存在。
映す姿で『容易に触れられぬ』とも示すのは、暗き彼女の周囲、『当事者を避ける』ようにして光輝世界の捻れて曲がる薄靄の健在——応対に際して『未だ物理的にも心理的にも壁の高き』は隠形を形作る"重力レンズの効果"さえ利用し、『境界線』を飾って。
「……暫し再びは情報処理の都合で黙ってしまい、失礼を」
「……問題はない」
また辞典で見知り、聞き知った過去の風習に照らしては『悲劇にこそ似合い』な『喪服の少女』の。
彼女で一見とすればの不自然にも、悠然とした立ち姿で——『理不尽の世に祝うことなどない』とでも?
「……」
未だ表意の明言はなく。
しかして、闇の杳杳で見せるは『引き上げて良い』との手振りに。
低頭としていた青き女神で起こされれば、その碧眼の向かう直線上で、神秘の帷に包まれた尊顔の形も見通せず。
(……なれど、現状このままでも埒の明かず)
未だ秘匿され続く双眸は、けれどの実際として、暗中に湛えて薄くも垣間見えるのは深淵に潜んで、赤く。
また、首元や衣服との隙間に新雪の如き色調は髪や肌の色目立ちして、白く。
総じて纏う闇衣との対照が相俟っても"出色"の出来であり——それら"生来からの不変を背負う少女"は如何にして当該の姿に『囚われる』ようになったのか?
(……時の移さずは『彼女の意向』を伺ってみましょう)
生まれながらに気怠い質は"老い"て、いと"色の抜ける"ように、また"小さく"、『女であれ』と——明言もなければ、分からぬが。
仮に、『前史に求められた容態』が、"そう"だとして、それら『■弱の凝縮』とされた成り立ちの理由など、"呪詛の集合体"にて余りに露悪も過ぎようもの。
故からに詳しく経緯に宇宙の始終を書き記さんとしても限りなく、此処で事の詳細を明確に語る理由もなければ。
「……さしあたっては、隠す面輪を除いても——"どうでしょう"?」
「……それは」
しかして今に、対峙する者。
対面に分かる真実として、"手入れの難度"から『高貴』を表す表象として使われる『長髪』や、柔和の形の印象は『見目良い花』の如き両者で——やはり、『女神』としての共通点。
「果たして、貴方の聴き知る如く」
「……」
「真相として"私"が、貴方の認識で『女神』に映っているのでしょうか……?」
「……」
俗には、"正しくの流麗"。
全体として流線を意識した構造が『流れこそは流行り』なのだとも言えようか。
注視するに、芳顔をはじめとした細部は微小に拘る視点で見れば大きく違いの際立つが——宇宙的に広大の視点を持つ大神に言わせては『丸くて表面に凹凸のあれば、"良く似ている"』とのこと。
つまりも『女神』と呼ばれる存在に、顔立ちや肩口、胴回りや腰回りに『男神と比しての丸みを帯びる』が通例。
また此処で、敢えてに二者の『顕著な差異』を指摘するのなら、向かい合う者たちで『背丈や、胸部の厚みに大きな差異』を見出す者もいようが——それもやはりは宇宙物理的な視座に基づいて考慮をすれば『数十センチから数千キロの違いなどは所詮が誤差』であり、其の小さくも小綺麗に纏まった姿は『共に美しき尊容』だと言える。
「……類型の幾つかが、見えては御座います」
「……」
「時に理髪の長く、秀麗。見遣る視線に立ち留まる粗もなければ、全体として鋭利な型の棘でなく」
「……」
「流麗を意識した滞りのない調和が、"整然"と」
その華々しきを、比較して。
再三に青き女神でも言及する通り、向かい合う二者は『鏡合わせ』のように大まかな形の似ていて、背丈や胸やの起伏あるなしで大きく違うように見えても、それもやはりは"小さな認識世界"での話。
敢えてに『微細な世界を捉えよう』としない限りは、宇宙規模の観点で『小石』も『惑星』も『どちらも丸く酷似』とするのだから——現時点に示された『他なる世界に由来する創出物』で重要なのは、それら『女性の理想』に『共通する部分があった』ということ。
つまりも時に、"大神たちの過去に秘す意味"で『女性』とは、『命を抱く形』で『柔和』にも定義する『角の少ない弓形の線美』に近しく——『女性なれば』の『豊穣を表す"ふくよか"』と『貞淑の"慎ましやか"』で胸部や臀部の"騒ぎ方に思想の違い"もあるようだが——兎角、骨張るよりかは触りの良く、『優柔の美』を表すものとして、共通。
手足に腰付きに体付きで『丸み』を帯びては『豊富な栄養を蓄えた』ような象形で、前史に於ける『様々な性的観念を引き継がされた意』での同輩、同形式——思うに『美女』とは正に『美しき女神』という型の様式で、『心に描いた絵が異界の感性たちで似通ることもあった』が故に。
「……その各所、我が眼前で御覧に入れて頂き、再三の恐悦」
「……」
それら、正しく、"奇妙な類似"を持って。
ともすればの過去には大神と前史で、『未だ形ならぬ物を形と成す工程』には、その至るまでに決断の連続を経て、たとえ至高の領域に至れずとも、『現時点での己が知り得る最高』の、全力を尽くしては『己が理想』を削り出さんとし——此処では『真に美少女の原型』、その"異なる世界起源"に端を発しても、『同じ主題』で収斂的に煮詰まった形式が『共に頷ける項目を複数に持っただけ』のことでもあろうか。
「……しかし、けれど」
「……」
「"稀有に喜ばしく"としましても——これやはり、一目には『敵わぬ』とも」
するとの。
髪に目に青色で揺れて、頷き。
テアで続ける想いは、"甚く感心"の様子。
「……"其の意味合い"とは?」
「表し難くも喩えるなれば……仮に一つは『応用の基礎となりし基本の形』」
「……」
「言い換えて『何処となく簡素にも小綺麗と纏まり』、言うなれば『発展しがいのある様相』」
「……」
「『様々な可能性や拡張性への期待じみても無限の色を載せる形式』が見えて在り。『少女』と在れば、"原初の女神らしい貴方様"の方が……"やはり"」
「……」
「何か、『軽量の極地』で——『完成されている』ような」
此処に同様の『女神』という似姿を持つ己で、身を忙しなくする動作は『鏡合わせ』を疑って?
即ち、『差異を探す』ようにも落ち着きなくが髪の末端にまで気を払い、己が流麗を分け、指に青を遊ぶ様。
「事実、此方で『未知なる女神』を再現するにあたっては、空想で埋めた要素も数多く」
「……」
「"その噛み合いきらぬ不整合"? 所謂として『構造上の問題を解決するための緩急』は、時として我が身で"流れ落ちる滝"のように」
テアで自身の源流たる大神ガイリオスより色々を授かっては、却って『着込む己が要素の過多』に思えるらしく。
見目に起伏の有無を比べても、要旨としては『相手方で無駄のない基本の美』を賞する。
「比較の我が身で一種に、"胸元は瀑布"、各所へ運ぶは流れ」
「……」
「"無限強大の循環を易くするため"に『自然な起伏を活かした構造は合理』でも……"その必要も少なく"は、『当初から女神として完成している個体』で、何か」
「……」
「正しく、"未知なる構造"、"構築"の御様子であり……」
「……」
「仮に『律し易い形』としても、"如何な方策が御身様を安定的に保持する"のでしょう……?」
「……」
関心は、瞳にも宿る。
碧眼に浮かぶ星々で瞬きの数々が観測角度を微細に変え、大神の御前にも好奇の躍動を隠さず。
「時として我ら有形明確の神が戦に向けて様々を着込んで飛び回り——なれどの片や"戦時下での質素麗容"は『黒衣の少女』」
「……」
「『大神が即ち世相の化身』とは、凡ゆるの揃って完成。"当初の姿からも戦闘に適した神秘"なれば……絶大の力を宿す御身で、如何な論法、術式が、"斯くも見事に収まるもの"か」
「……」
「"その全容"。"成り立ちの経緯"。また、"我が眼前に身を映したもうた真意"についても……やはり、深読みに堪えて相違なく」
「……」
「『底の読みきれず』は、なれば果たして、"これほどまでに考察しがいのある"——謂わば『深淵そのもの』とは……"一体"?」
「……」
一方の、黙して静かな女神は、上述の淀みなく、緩急の何方にも過ぎぬ語り口を受けながら。
言及が為された通りには、『敢えて晒す』に"何かの意"が載るだろう『女性の形』——『麗しき少女の花貌』で敵境に心理を読ませず。
「……総じて、実に——」
「……」
「——『底を知れぬ』が、"興味深い"」
「……(……"興味深い"?)」
しかし——"悲悼の象徴たる喪服を洒落に着こなすとは、悲劇を楽しんで酷く冒涜的なのでしょう"。
"よっても近寄り難く、『関わるべからず』と諸神に触れ回ってもらいましょう"——画策していた暗衣の身。
(……よもや、『単に興味が勝るのだ』と?)
驚きは、"予測との誤差"。
「……時に、女神のテアよ」
「——はっ」
「……我が身からも"問いの一つ"を構わぬか?」
「……勿論です」
相手方の姿勢に"晴れぬ疑念"を有しては、再度改めての意を発する。
「では、問い掛ける」
「"……"」
「今し方の分析で貴方は、"我が様相"を『興味深い』と述べられましたが——」
「……」
「——見せられても、"恐ろしくはない"のか?」
手入れの成した睫毛を下から、上へ。
改め、瞼を開き、暗幕越しの瞳が見遣る先へと言葉で問うのは。
「……"その意"とは?」
「"悠久を隠された姿に露見の真意"——眼前に確かめられ」
「……」
「何よりは被服。"暗き印象の被衣"に然り」
「……」
「あなた方の事典から引用した『喪に服す姿』の……"喪の敢えて装いに粧し込む女神のこと"が」
"恐ろしくはないのか"?
"隠す計略の多き胸"に手を当てても——『女神の玉体これこそ』は。
また、"君も『望まず少女に生まれた神』なれば、『己が斯くの如く在らねばならなかった元凶』を見ても——『恐怖』や『嫌悪』に『憎悪』の色も、"果たして一切が存在しないものなのか"?
「……それは……」
「……続く選評に忌憚のない所思を許す」
「……」
「我が身で服飾の委細に興味のあれば、"有形に知悉した貴方の言葉"を求めるが故に」
尋ねる訳は覆い隠しても、問いの本質に偽りなく。
原初の女神を目撃する感嘆に対し、今日までくぐもらせていた声の障害も『少女の身』を明かして以降に取り払っていては、残すが暗幕のみに声音で、より相応に。
「……なれば、失礼をして」
「"……"」
「我が言葉の、幾つか」
「……(——さあ、共に女神。『確かと認めての一声』は何とする)」
しては、応じたのも玉声。
強大な力を持ち合う同士で『意思疎通に誤解の少なく』は、"対外的に良く通る声でなければいけず"。
しても、様々な"演出の意図"も多分に含めれば、必然に声調は"優れた演者の声"として、此処で両者は共に"女性の鈴声"の。
けれど、清涼感を思わせる青き女神のテアと異なり、何処か暗黒の化身では"甘く蕩けて深淵に爛れる如く"も——"脅威度の計れぬ底の知れなさ"で『忌避を呼び掛ける意図』にも、待ち。
「……」
「先ず以て『喪に服』とは、太祖より聞こえし過去の記憶において時に『凶事』を表し」
「……」
「また『見目に悲哀を偲んで、落ち着いた色合いを有する』……"そうした衣装"を差しての『意味深きを恐れはしないのか』といった物言いなのでありましょうが——」
しかして、同じく優れた発声法を知るテアで震えなく。
己とは質の異なる神へも怖気を示さずは、『ただ理知で説く』が毅然の様。
「——それでも。大神の皆々様におかれましては、『多く複雑な事情がお有りなのだ』と伺っております」
「……」
「よっても、過去と異なる今では『古い仕来り』へ必ずしも縛られることのないよう——たとえ気の向くままに振る舞われても、其れを私から問責とするのは何様で、『門違い』とも」
「……」
「『既に過ぎ去ったこと』として、"かつての禁を楽しむ"のも『現状、大いに構わぬ』とさえ思います」
「……つまりも——『今を好きに楽しめ』と」
「……一個神の意見ではありますが」
「"目前で威圧を受ける今"になっても……『恐れは先立たぬ』と?」
「……はい。元より我ら、創造の主たる神々へ"畏れて敬う"などは承知の身」
「……」
「たとえ御身御姿の振る舞いに心の震えたとして、其も"私にとっては刺激"なら」
「……」
「望外で驚きつつも、心境でさしたる変化はありませぬ」
その愈々は『創造の絶対的な力を持つ一柱』で『正体は喪服を着込む少女』であり。
また『"それこそが基本の形"と見えれば狂うだろう』との指摘にも——『元より貴方に興味があって来た』のだと。
即ちも、『【未知を知りたい】と思って訪れたのだから、例え示された如何な印象にも前持った意が大きく変わることもないのだ』と——発言は鷹揚にして、"如何な拒否の感情"も見えてはなく。
「何よりは、此処に来て、"未だかつて目撃の許されぬ大神の姿"を拝見としましても……兎角は何か、"凄い"」
「……」
「きっと、"すさまじい"」
「……」
「私と似て、けれど、『決定的に違うもの』とは何か、『違いは、何故』と」
「……(……それこそは、"貴方の負った役割"なのでしょうが……)」
「"様々な謎"に関心の有れば、知りたい。貴方に興味深く、『ただ知り得てみたいのだ』と思えて——」
「……」
暗黒の胸中に『敵地を見知る機能』と睨んでも、たとえ、『当事者に悪意のなくとも油断もできぬ』として——されどの『執拗と言うにも野暮』が、言い切る度には口の端を固く結び、真剣なテアの様子。
「——被衣の通り、やはり正しく対面となる御尊顔で、『お出しにならず』も意味深く」
「不平か?」
「いえ。それもまた、『ミステリアス』で宜しいかと」
「ミス・てりあす」
「我々の世界における『面妖』であっての、"神秘的"。"思わず気を引かれるような魅力の状態"を表します」
「……用法を覚えました」
しては、"言葉どおり未知に畏怖としても現状を変え得る何かを求めた意欲的な姿勢"——過去には滅び、閉塞した世界よりの出身で、『異なる文化に見える可能性が、ひどく魅力的に思える』と心情にも理解は出来るものだから。
よっても、『彼女の言は部分的にも真なのだろう』と納得せざるも得ず。
現に、『目に見える地雷』の一種として各所にあしらった『斜線が交差する印』も『触れるな、関わるべきでなし』と"否定的な色味"を暗に載せてはおいたのだが——今や異なる世界の相手に文化背景も一様でなく、単に『興味は津々』の様子。
「そうして、我が表意に趣旨を戻せば——"折角の新しき世界"」
「……」
その無害のようにも、少女。
明媚な瞳を『畏敬』に『好奇』で『期待』にも輝かせる女神は、傍目に"悪くはない"。
たとえ今し方に『無の鎮圧で見せた一瞥』で天体を御する力の有っても——あどけなく。
「"過去には扱い辛くも"、"今で純に色や形を楽しもうという気概"は、心象に程近く」
「……(……されど斯様に愛敬らしく。純心に、"魔性の私"で接すれば、逸る好奇は何時までを正気でいられようか)」
隠し立ても、少なく。
戯れの如く暫時には悪辣の神で『案じつつも試す態度』で青い少女の相手をしていれば、『未知を前に恐怖より勝る関心』の実態で雰囲気は"飾り気のない明朗"のものへと傾かされ。
「また言及とする一例に。各所にあしらわれた物は"斜線が交差する特徴的な印象"——正に何らかの意味を示した印の象に……邪推を省けば『黙して語る花』の」
「……」
「正しく伝聞に"綺麗の代名詞"ともされる『花』の飾りを、ふんだんに扱って華々しく——」
「……」
「——"それを己の印象そのものと出来た"のなら、『美』や『華々しさ』を"己のもの"として取り込めれば、自己の魅力に対する信頼も一層。確信となっても安堵は、得られる自信に愉快な心を待てそうです」
見目にも若い才女は、学びの盛りに純真無垢。
たとえ『多分に意趣を含んだ振る舞い』に対しても、純な心は『先ず以ての解釈』から入り、『貴方にも複雑な事情があるのでしょう』と"配慮"すら備えて理知に極まる。
(……聞き及んだ評判に違わず、物分かりの良くて、触れる言葉の小気味よく……『英才』にも違いない)
さすれば、『おどかしてやろう』と邪の気で仕掛けた身、近くに居続ければ対照的にも、愚かしく。
「そうしても、やはり。我々の交流、その主体。可能な限り政略の意図を排した、『成る可くの和やかな場』とするためには——」
「……」
「でしたら、女神の集う好機。私も当の形式について未熟であることもありますし、今後も"花に喩えられる我々"で、純に——"その魅力を探求する合議"のようにも願いたいのです」
「……ふむ(——それも絵面で悪くない。確かに、『只の二輪で華やぐ』こと、"ひどく平和に映りましょう"が)」
暗黒の毒気も清澄な水に晒されては、立つ瀬なしに場へ合わせる他なく。
"希釈されるような心持ち"で——『苦手』だ。
「その経緯とて、アデス様で御目見得いただく際にも『身支度で時を掛ける様子』の垣間見えれば……同じく、『女神の服飾』に興味もお有りかと」
「……間違いでもない」
「因りても例には、先んじて『耳に垂れる流動の飾り』であったり、未だなくは『多様に結い上げた髪の話』などを続け——」
「……」
「願わくば——"今後も"。"互いに利のある意見交換"として……どうでしょうか?」
「……"純に飾りの意見を交わす"」
「はい。異界の文化で異なる視点。異なる着眼点や、要点に……気付けることの一つや、二つ」
「……」
だがして、一方のテアでは怖めず。
同じく『女神という共通の立場にある者』として、その『上辺を整えられた呪い』を——いや、『平和的に楽しむ談義の場』では『多様な知見を与え合えるやもしれぬ』と囀り。
「話題の例えと致しましても、斯く……"異界よりの私からも辛うじて供出に能う意見"が、より……アデス様で完成しても、『そうであるが故に際立つ差分の美』など」
指先で青く流れを梳かしきり。
紐状に描いた一筆が細幅の織物を実体化とする仕草。
「なりかたちで、映える物——輪郭線に"転調"の趣きで、目覚ましく」
「……」
「言い換えて『拡張性の高く』は、"花に添える蝶"など」
「蝶?」
「はい。より具体的には、"暗色の主体に添える色"として時には『賑やかしの要素を増やしてみる』などが……それは、もう」
そのまま線を折っては、己に掲げ。
形に正しく『花に留まる蝶』のような装飾を持って、面と向かう眼前に同じ長髪の風体を見据える。
「精彩、多彩に。アデス様で数少なく御目見得としてくれる『豊かな白髪』でしたら、如何なる有彩色とも似合いなのでしょうが——」
(……そうであろう。我が暗黒は慎ましやかにも、万物を引き立てる色彩)
「——"花々の筆頭で赤く"。添える形で『大きな斜線の交差』など」
「恐るべき大神で愛らしいにも程がある」
「駄目なのですか……?」
「……直ぐにとは、気難しい」
「基礎が素晴らしいのですから、恐らく要素過多の高芸も似合いますのに」
「……時に女神は、"齢"というものを考えたことがありますでしょうか?」
「"齢"。確かに、服飾の選択で過去には『装い』と『年齢』で密接な関係にあったとも聞きましたが————」
けれど、此処までが暫し数十分。
半ば流れる話で一方的にも女神テアから幾つかの情報提供があったとして、『貸し借りも残さぬが吉』であり。
「……兎角、それはそれで。重ねた年とも比は際立ちますでしょうし——」
「だがして、『長年を寡言』と過ごして分かるように、私とて"自内の複雑で忙しい"のだ」
"以後の政局的な立ち位置"を踏まえては『後腐れもなく足早な別れ』としたいのだろう暗黒で、遣り取りの最中にも"散会"に向けた話を回そうとする。
「即ち、"以後に話し合う機会"について、私から約束できることは、何も」
「……"次の機会は頂けぬ"と?」
「然り。よもや仮に貴方が、"自ら用いる権能"——先に見せた『水流を扱う戦闘について』などの教示に能わぬ限りは」
「——『水』とは軽元素。創り易く、扱い易く。また加える圧力に、混ぜる質によっては自他で如何様にも成り得る"利便性の高い物質"なのです」
「……ほう?」
「転じて『運搬』・『輸送』の"基本的な合理"とも言えば、扱いが序の口から秘奥に通じて見えることすら、当然の帰結かと」
「左様なのか」
「はい」
すると、聞くに見ても——"戦略的に重要だろう情報も取り扱いについては彼女自身に一任されている?"
それも、態とらしく隠し立てされるよりは清々しく、気の良く。
しかして『読心巧者の大神』に通じぬものは『悪手』と最初から切り捨て、『正道に気の良く取り入らん』とする判断だろうが——状況から確定的な推量と見つつも、『なれば』と対応の調節も臨機応変に。
「……なれば、"貴方が執拗に付き纏わぬ条件"に、一つ。『此方から合図のあるまでを呼び掛けぬ』なら」
「ご再考、頂けるのですか」
「"今暫しの歓談"とする」
「……"面接"の、『それ次第』と言うことですね」
「"……"」
(——やはり愚鈍でなく、理知であり。"交渉の余地を残す窓口"として『青い女神』が悪くはない)
どの道と『末永き余暇の潰し』に、『新進気鋭に未だ悪でも善でもない存在』に可能性を探る意図でも。
暗黒で発する言葉の扱いでは、『貴重な会談の機会をふいにも出来ぬだろう』と明言に要求せずとも"誘導"し——『あくまで自身の利』、『情報交換の相手には有益』と"利己的な活用"を模索して。
(……傍で愚かしく騒がれても面倒だ。精々は"賢しく振る舞ってもらう"としましょう)
「——因りては私も『露見されし能力』の対価に一つ。『機会に繋がる要件』を」
「お願い致します」
「以降に見える私は——"暗愚を好まぬ"」
(適当な、吹聴で……斯様に"己を着飾ってやります")
通達するは、"次の機会に通ずる条件"。
逆説を言って『言いつけを守れば大神の気に触れず』、『再三の拝謁にも能うやも』と思わせぶりの手引き。
「……『暗愚』。"此処での意味"は?」
「"愚かしく"、"馬鹿げている"」
「……"厭う理由"をお伺いしても?」
「見飽きて、"退屈"だ」
「……成る程。"倦厭"ということで」
"見飽きて、退屈"は——"得てして利害の衝突する世界に個の先鋭化"。
"甚だしくは他者の尊厳に心を配らず、皆の成り果てる衆愚など"。
「……つまりも、かつて存在したと言う前身世界。その始終を見据えた者にとっては『愚かさすら常套』の、『有り触れた』、謂わばの『つまらないもの』であったのでしょうか?」
「……どうであったか——」
"極まる悪は過去で見飽き、ほとほと見たくはない"——『痛みきった良心』に抱くそれすら、偽りなき心で。
「——加えて言えるものは、私で『悪辣』や『醜悪』の類いも好まぬのだったか」
「……『悪辣』で『醜悪』……"同じような意味合い"では?」
「……どうだろうか。名称で分けられている以上、"殊更に区別"の意味が載るのでは?」
「……」
続けて『悪を好まぬ特質』を見出させ、女神テアに於いては接触を図る今後の振る舞いに『成してはならぬ』と定めよう。
「……さすれば、しかして——"今"であれば」
「……」
「"創始されたばかりの現世に確たる規範がない"」
「……」
「つまり未だ『明確な悪』も、対立事項の『善』とすらも"定められていない現状"は……"悪の顕現を嫌う貴方"に於かれましては『一種の理想』ということにも?」
「……然様と在るやも知れません」
「……?」
「そうして貴方を遇らう神では質疑に応じた"適当"の素振りを見せつつ——その実では"何一つ"として『真相を発してはいない』のやも」
「……それ、よもや。凡ゆるが渾然一体、成りし神での複雑怪奇」
「……」
「諸事の多く、"何もかもを好き好み"。同時には"忌み嫌う傾向"にも在れば……『発言は全てが虚実』であり、『同時に真実でもある』と?」
「……」
「では、当然と、こうしている今も私の言動、我が身の"無知にせがむ振る舞い"に対し、"苛立ちの気"も『必然に有している』のでしたら……『一層と慎みは深くすべき』で御座いましょうか?」
しかして、間を置き。
「……どう在ろうと、"今の私"で『他者を慮る姿勢』は『評価すべき』とする」
「……御評価を?」
よってからには言外にも『悪ならぬ』は『善』の発案者で——『在るべき範』の振る舞いを、"暗黒自ずから"と多少に実演してみせる。
「其れも『毒にも成り難く』を選び、『無用の対立を避けん』としては、"穏便の道を模索する貴方"で——」
「……」
「それら『害なき』を目指す試みは"理想を探し求めても挑戦の道筋"であり——"先行き"の興味深く」
「……」
「さしても、"他者の温情に触れての過去に感じ得た喜び"すら——世界において呼び起こされる記録が、皆目の嘘偽りにもなければ」
場を沈ませる重い切言は呑み込んで、政治的緊張を避けるためには、穏当に。
「……つまり、平易には大神で『論を分かち合う相手』の存在も、時としては"幸い"なのだ」
「……では」
「それも興じてきたのは『永遠に惰性以外で続く理由はあるものか』と、新たな目標を探す口遊び」
「……では?」
「……暇な私の長話へ付き合って頂けて、多少なりとも"謝意の如き"も持ち合わせは有るのです」
「なんと……恐れ多く」
親身に接する仲でもないのに、諸事を問題とせず会話を速やかに終結と出来るようには、『謝意の表明』で"自身に言わす工夫"も多分に面倒なのだが。
「よりて殊更に畏縮の必要もない。未だ若き身空で色々を試してみるといい」
「——はい」
「……さりとて、笑み顔を多用するなかれ。安易に微笑まれては誰ぞ『勘違い』してしまうやも」
「……?」
「"表情が相手に与える印象"や、"受け手で覚える複雑な情緒"についてを、知らぬなら、知らずともよい」
「いえ。アデス様で深く存じ上げるなら、それも是非」
「……」
「『貴方の話し相手ぐらいにはなれるもの』と……努めて私も、知りとう御座います」
それでも、暗幕に秘めての、細めた視線。
透かしに覆われた華奢の肩を竦めても、老賢は"真相に続く言葉"を贈る。
「……兎角は、無に抗う余暇においても、我ら多様に陳腐な結論を有する大神で、その未だかつて至れぬ領域に貴方のような新参者——『新しき世代が辿り着く夢』を見ては、様々に試行を続けているのかもしれません」
「大神で……"夢を見る"?」
「それも願を懸けられた貴方がたにとっては『傍迷惑』にも程がありましょうが——多くは、"子供じみた夢"」
「……」
「"漠然とした将来に期待ばかり"を掛けて。なれども、"未明の領域で実際には多く己で判断と苦悩の連続が待ち受ける"というのに……それら"向こう見ず"を『幼稚で未熟』と呼ばずして何と言う」
「……」
「それも"行き先に確たる成果も報酬も与えられるわけではない"。剰え誰に"約束"がされるものでもなければ……酷く」
「……何も決して悲観的に、そのようなことばかりでは」
「……」
「何より私自身、計り知れぬ未知と相対して弾む心も有りますし……」
(……そのように"作られた"からだろう)
「……」
「……」
(結局の所で、"解なき旅路に同意なく"——何よりも"一方的に送り出したこと"こそ『出生の抱える業』なのだ)
さすれば、こと此処に至るは"残酷な運命"——『その背負わされた貴方を、私は"憐れ"に思う』とまでを言えず。
"呪われた真相"には深入りと出来ぬまま。
"そうまでを教えてやる義理"に、或いは"気付かせてしまう理由"も持たぬまま——花々の沈黙は過ぎて。
「……ところで、拝聴としたことはありましても、未だ『親』に対比される『子供』・『子』という過去の概念については良く知らぬままだったのですが」
「……気になると?」
「はい。未だ知らぬを気になりますので、宜しければ熟知にあらせられる貴方様で御教授を頂けると」
「……其れも、今し方の文脈で"夢に溢れた比喩"なのです」
「"夢"の象徴?」
「得てして未だ理不尽を知らぬ、幼いばかりの童心とは現実を知らず、"夢見がちな時期の"」
「……成る程」
「純真に未来をより良きものと捉えられる幼さを『熟れぬ』とも言い換えて……だからには活用の例の一つが、別の場面で老骨にとっては新しい世代の活気が『子供らしく』と思えたり」
「……そうして、"若き力の"。"未来に可能性を切り開くこと"に『親』なるものは『期待を掛けた』のだと?」
「……私で、そうまでは言っていない。其も己らが『これだけの権勢を得て未だなし得ぬ難関』に、『あどけない者を挑ませる』のだと……"身勝手"も甚しく」
「……」
「即ち『夢を見るにも限度がある』」
「……?」
「私は『そうとすべき』に思います」
「なぜ?」
「一方的に期待を懸けても、其れに応えられぬ他者を苦しめてばかりの"祝福"などは、今日においそれと再現されてならぬのです」
「……」
「……良いな?」
「"……"」
「……こほん」
無言にも『謝意』に表す低頭を受ければ、間を取り直した咳払い。
「それら事実を教えても、貴方の謹んだ振る舞いを期待したいものであり」
時として『面倒な事象に気を宿された』と思えては、改めて彼女を含む神の個別にも『浅慮が産む悪虐について』を詳しく話す——『直接的な訓戒の機を設けるべきだろうか』と思案しつつも気の怠く。
「——そうして、今日の話は終わりです」
「あ、もう。何かの御時間が……?」
「貴方の話を聞いた私でも、新しき服飾の作成に心が燃ゆる」
「それは……また」
「よっても思い付きを忘れぬ内に、形とする作業へ速やかに移りたいのです」
「でしたら何よりは、此度の機会を頂けて重畳。改めましての深謝を申し上げます」
「こちらこそ」
テアの深い礼節に対しては、アデスで後方へと片足を引き。
ややに筒状衣服の裾を持ち上げる仕草で、最低限の返礼。
「それも、まさか。"異界に於ける服飾の例"まで。原初たる女神の姿で御紹介を頂けるとは夢にも思わず、万謝にも」
「それ、何より」
「さしても、先述した通りには"次の機会"を如何に致しましょう?」
「次回が在るとすれば、貴方から言ったように『貴界における洒落の表現いくつかを再び用意として頂けた時』でしょうか」
「御意に」
だが果たして、その純朴善良の姿勢も、何時まで続くものか。
疑心に手慣れた大神は悪意にも敏感であり、『拙い襤褸を出せば忽ちに上回る敵意で闇は大水すら呑むだろう』として——それ以上に『子は純朴すぎても心配になってくる』のが老婆の心というもの。
よもや、"その清廉な有り様が他者に付け入られ"、『汚されてしまわぬか』と?
まだ世の理不尽を多く知らぬ『無知の相手を憐れむ』ようにも——いや、『他者の存在は比較して我が優越に浸るため』と暫し許容に目を掛けては、次なる機会を匂わせる。
「話し種の用意が出来次第も、如何様にお伝えすれば?」
「何処ぞでも、適当に。大まかに戦地で私の預かる方角へと、『色付きの水』でも流しに置いて頂ければ」
「了解しました」
「さすれば、輝く世界に見えるだろう虹。我が眼力でも逃さず」
「"……"」
「その上で『振る舞いは忠告した要件に見合う者か』として、貴方に『次の機会のありなし』を明白に伝えるものとする」
「……例え可能性の僅かでも、真に有り難く存じます」
斯くして——ひらり、翻す外套。
間もなくは、動作に合わせて燻る印象。
「……仮に『新規の作』を用意頂けるなら、見せて分かるように私で『暗めの彩り』が好ましく」
「確と記憶を」
「拝見に能えば、私で気に入る一着一品のあるやもしれません」
「なれば、私としましても、『何が神の琴線に触れるのか』——」
その闇は痕跡もなく、周囲に響く音もなく。
明確な去り際の挨拶もなければ、輝界で暗き色は密やかに岩陰へ溶けて。
「——楽しみに考え、お待ちしております」
「……——」
切り立つ峰の仙郷より、また何処へと常闇で姿を隠さん。