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第一章『邂逅』第一節

第一章『邂逅』第一節


 創世の後、宇宙が誕生して——暫く。

 拡大の世を満たす神秘の力とは、多く背景で乳白色(にゅうはくしょく)

 生気せいきに溢るる印象が正しく満天の銀の河として、力強く奔流が絶え間なしに続く無限の海としても凡ゆる方位を駆ければ、迸る光輝の波状。

 それら輝々たる様相が、世界にとって"偉大な父母"たる王の——先の世界膨張の開始された頃合いに『ディオス』と名乗りし神の御業が瞬時に巡った足跡でもある。


「…………」


 そうして、その明々と輝けるばかりの世の中に一点。

 それは光に染まる世界の、ほんの一部。

 明るげな白と対比的な暗色が極僅かに(わだかま)る場に潜伏を続ける、神。


(…………)


 この眩き世界で見掛けることの稀有(けう)と言っても実状と相違ない暗がりは、洞窟にて。

 現在地、『指定した惑星の座標』にて待機をする者。

 当事者の周囲にのみ満たされた暗黒で容易には外界の波動を通させぬ静寂が、自身の領域を隠し通す大神で己に纏う暗雲は低迷に、沈着とされた存在感は薄く。


(…………)


 光を疎う神。

 待ちながらも様子を窺いに視線を外界へと向けた所で、同地は晴れ渡る天の下。

 その陽光が降り注ぐ何処へ見上げても、光芒(こうぼう)に次ぐ光芒(こうぼう)

 時偶に『細かな差異を認めよう』と注視を試みたとして、各地の座標に大まかな位置の目印となる明星(みょうじょう)の天体が数多に、その隙間を埋めるのも明度や輝度の微細に異なっても"目に痛む光輝"が延々長蛇(えんえんちょうだ)の有り様だ。


(……間もなくの筈だが)


 実態として現時点の世に広がる色調は常に背景を明るく、絢爛豪華に騒がしく。

 それら眩き世相も潜む隠者にとっては辟易なら、現時刻は大神らで始めた『無』という宇宙災害へ対処の、後の趨勢と神々の存続を決める"大いなる戦い"も既に『開戦』とされ、幾星霜。

 時は未だ戦時中の半ばにあって、此処に居座る大いなる柱の一角は開戦の早々に『自動迎撃の方策』を構築。

 よりては実戦での実証もとうに終え、先刻までを眠りに就いていたようなものだから——謂わばの"起き抜けに苦手とするもの"を見せ付けられ、"その(ひしめ)く空間に囲まれる事実"を思い出しても寝覚めの気が決して芳しくはないのであろう。


(——……来たか)


 そうして、十重二十重(とえはたえ)の銀河に見遣っていた視線さえ、網膜部の障壁が焼かれる思いに気の濁り。

 だが、待ち兼ねようとしていた心情にとっては幸運にも、暗色の薄靄が外を窺って間もなくの時、程近い場所には——『何者かの影』。


「"————"」


 より具体的な周囲の地形として、暗黒を守りとする彼の者の眼下には鈍色の山々が円錐(えんすい)状の、立ち並ぶ峰は鋭角同士の間にて幾度も光の反射と吸収が起こることから、惑星外と比して薄暗くなった巨石群に挟まれる某所が指定した『外交の場』へと、降り立つ者。


「——現地に(いた)れり」


 着地点は突き立つ巨石に囲まれる中で平坦となっていた鋼の面。

 天雲を割いての降臨に際し、何か重量と重量の引き合う、宛ら磁石同士の引き合って噛み合うような音を立て、安定した姿勢の両脚と片手を用いた三点が広場へと予定時刻より早くの到来に着する。


「……故あっての立ち入りを許されよ。暗澹(あんたん)の王。一角(ひとかど)の守護者よ」


 惑星全土に響くは(かぶと)の中より合成の声。

 併せて(わざ)とらしく音を発した接地にも『現臨の合図』を音の波に広げ、地上に降り立つ玉体。


「……」

「久しき行合(ゆきあい)の受諾にて、恐悦は偽りなき思い」


 周りを囲む天然の巨石に見劣りなしの洗練された生物の威容、頭部に三本の(つの)を頂くとした大いなる神性のガイリオス。

 先には幾日か前で光の波間に揺蕩う信号の、どうにも宛先は『所在不明の大神』として広域に発せられた伝令文を宛名どおりの暗黒神が受け取って、間もなく。

 大神三柱の其々が頂点に位置するのは謂わば、各部の突出から無を駆逐する『正三角の陣』——見方によって『各位が頂点』であり、互いを結ぶ直線も全てにおいて長さの等しく『平等な地位』を表すものにおいて、その隣り合う一つから動き出した気配は彼の者であった。


「だがして、何よりは"()び"とする」


 即ち、アデスという大神に接触(コンタクト)を取ろうとした者が同格の神。

 対し、接触を嫌う前者でも『いつまでも呼び掛けに、がなられては(やかま)しいにも終わりない』と仕方なく断りの一言だけでもくれてやろうと、存在感を出してみれば、その交わす内容に未だ一切の合意ならずも、顕現の意を知って飛来せし神性。

 会合の場として指定された座標へ神の威厳を持って現れた様は、原初の創世より変更が加えられたのだろう容貌が、今に足場とする惑星と比して小さく整えられた体躯の印象も苛烈な光の王らに"圧することなきよう(さか)しい配慮"としたのだろう。


「……」

「有史以来を長く黙然とした神に対して、その"静寂の破れ目"となりし事実を」


 時に異文明と遭遇可能な程に星間航行技術の発達した国家は、接触に際して『相手の認知に理解可能な形』を取る。

 それは『相互の円滑な意思疎通を助けるため』であり、今では大神という己と同程度に強力な世界に対して"融和の道"を探るためでは威圧の少ない、"矮小"に。

 言い喩えるなら"出会いの挨拶に際して頭や腰を下げ"、"敢えてに無防備な首筋を晒す"ようにも——"自ら演出する敗色濃厚の状況"から『敵対などはまるで考えていない』ようにも己の姿を見せている。


「——……詫び言も構わぬ」

「……」

此処ここいでたばかりの宇宙せかいなら、払われて然るべき礼節の教義も未定だろう」


 なれど、態度にも粛然と、先んじていた暗黒の言葉を聞く当該の神。

 大神ガイリオスの聳える玉体は過去に自己の創出した多くの惑星より小さくあっても実態は神聖大樹の如く。

 正しくは、中心の軸が体の(みき)より伸びる(うで)(あし)の其々が一対(いっつい)として備えられ、計の四本は鍛えられた(はがね)の厚み。

 また上部に目を向ければ、彫刻として刻まれた鋭い目付きの紋様が中心となる面構えに(いかめ)しく、広く体表面の材質は光沢のある金属的(メタリック)でいても(にび)を基調とする色は時に(あお)(みどり)(むらさき)の多色をも光の反射に見せる複雑な構造の色であり。

 何より特筆すべきが、新生時の面影を残す象徴として『(そび)える三本(さんぼん)』の。

 謂わば『神の器を現す三叉(さんさ)』を頭頂の角飾(つのかざ)りへと頂き——それら総評しては『雄雄しき鉄駆(テック)』に強靭な装甲。

 つまりも『夢は大きく浪漫(ロマン)の表象』として、(のち)に『男神(おがみ)』として知られる一つの基礎的な形式を新世界に打ち立てた『標本』そのものにも在るのだ。


「よりて、投げられた声の一切を不問とし、貴君で顔を上げよ」

「……神の恩寵、有り難く。御前(みまえ)において(かたじけな)し」


 それすら、今のような"外交"に際しては『更に態度の分かりやすく"窓口"のようなものを備えん』と、不用意に相手を刺激し、『また敵意も抱かせぬように』と対話用の端末であり。

 持ち上げる首より下に揺れる服装は『戦時』の現状に合わせた鎧姿の上に『被服』として此方も多色構造の長い外套(マント)を羽織る——謂わば『礼服(れいふく)』としても、常識の乖離する異界に対し、傍から見れば必要性を疑われる程にも秩然(ちつぜん)(かしこ)まった姿勢の顕著。


「……なれどしかして、我が闇の(ほう)でも『問い掛けに対して一切を言わぬ』ことが貴公の()なる文化にとって礼を(しっ)したやもしれぬのだが」

「あいや、大事なく」


 なれば、往々にして見る者の心に落ち着くものとしても均整の取れた基礎の。

 左右対称の形をした玉体、着地を終えて暫し『謝罪』に『感謝』の意も含めて三点に屈んでいた低頭の身を悠々に起こし、続く言葉に仕切り直さんと臨む。


「何よりこそは、仮定して"己の表意を言葉という形にする行動"が暗黒文化にとっての——謂わば『敢えてに読めぬ空間を作り、行間に確たる意味を見出さない』、『邪推をしようがしまいが差し障る他者には告げず』」

「……」

「つまりも、『余の方の呼び掛けこそ、"寡黙こそが美徳の世界"に口煩い塗炭(とたん)であったのやも』と……最後に、詫びの区切りを言わせてくれ」

「……」

「すまなかった。以後、更に重ねた細心の注意を払わん」

「……我が方でも、思慮の深きを感恩(かんおん)とする」


 しては、互いに熟知せぬ文化の交流。

 受けた不作法の可能性も、非難に『半畳を打つ問題』とはせず、社交辞令を畳まん。

 曲がりなりにも両者で『新しき世界で、新しき希望を求めよう』と同じ陣営に結束した間柄。

 もし、早々と仲違いで、剰えの武力衝突などしては、神の冠する偉大の名も『粗暴』に『短慮』で廃るというものだ。


「…………」

「…………」


 よりて、現時刻に対面する三叉兜(さんさかぶと)の鎧と、乳白の光輝世界に暗い(ひず)みで作る(とばり)

 今暫くは"探り合い"のようにも、他者の意を窺う話から。


「……して、"世に騒ぐ来訪の意図"とは何事なのか」


 待ち受けて先んじたアデスでも節度ある振る舞いを見せ、義のあるように。

 仮に、事が問題に発展することがあり得たとして、『己にこそ非はなかった』と後々の証明を可能とする政治的な立場(ポジション)を意識。

 穏やかな語り口が今に至っては広域に発する声も潜め、『意思の疎通も指定する私的(してき)周波数帯(しゅうはすうたい)に切り替える頃合い』と言外に示し合わせれば、以後が帯域の音質(トーン)も落とした密やかな通信(かいわ)である。


「此処に改め、詳しき説明を求めるぞ。三叉(さんさ)の王よ」


 その論調も、互いに丁寧な抑揚とする声は、ただ問われたことに応答するだけの機械的な知能のような声色。

 また、此処までに言い締めた序論の概括(がいかつ)として、双方の出方(でかた)に大きなも瑕疵なく。

 穏やかな会話が打ち合わせされた劇の如く運ぶ序盤は、創世に携わった大いなる神々の間で波立たぬ気配を維持したまま、実に平和らしく、"本題"へも(つつが)なく内容は進むかに思われたのだが。


「……"それ"についてなのだが」

「……」


 だが、すると。

 長年にわたり続いた安穏の眠りは、時に"真逆の衝撃"を伴って、崩れるもの。


「"これ"に関しては聞き知るよりも、見知るに早く」

「……」

「——つまり、"(くだん)の実物"は、『我ら話題の中軸に立つ(もの)』を、持参した次第」


 とりわけ。

 神で悠久を生きる時の中で、後先にも"悔やみきれぬ"が、この日。


「……"(かみ)暗黒(わがみ)に『見せんとするもの』とは?」

「暫し待たれよ。用意を行う」


 次なる瞬間の"邂逅"にも、記憶は『鮮烈』と刻まれる。


「……どれ。"呼び掛ける事の発端となった女神(めがみ)"でも、喧騒を生じ得たことに対し、詫び言の一つ、二つ」


 呼び掛けられた、"それ"。

 正に舞台の幕を上げるようにも、捲られた外套の裏とは大神の懐より出て。

 進み出る場所には——『何者(なにもの)か』、正しく"親の体躯に隠れていた(ひな)"の如き立ち位置。


「——仰せの通りに」


 鳴き出す声が、淀みなくの清澄——"新たに響いた玉声"。

 その音は当然に呼び掛けたガイリオスでも、その用意を黙して待っていたアデスの発声でもなく。

 即ちが、祖たる神の纏う蝙蝠(こうもり)めいた外套の下——大翼の傘下にもあって姿を現す"第三者"。


「なれば、"未だ知らぬ文化"としても、粗相へは細心の注意を払うのだ」

「心得ております」

「……状況は?」

「つきましては我らが大神太祖(たいしんたいそ)y言付いいつけに従い、不肖の我が身からも現臨せし創造主、"其の一角たる暗黒"へ」

「……」

「"巡り逢いの幸運"へと、"偽りなき謝辞"を送らん」

「……よかろう。()きなさい」

「"……"」


 第三者——"女神(それ)"。

 丁度、ガイリオス第三の手たる尾のように映え出した多腕機構に自らを優しく引かれ、また別の箇所に己の父祖たる神より手ずから編まれて授かった防護の一つ——傍目には"耳上から降りる編み込み"としても手櫛で自身の青髪(あおがみ)を整え、状態の確認を終え次第に傘下より進み、言を述べる。


「——先ずは原初の神へと、この上ない謝意を表する」


 それこそは、"秘蔵の子"。


「何よりは我が興味に、貴方様の貴重な御時間を頂けて……(しん)に、幸甚(こうじん)の至り」


 目の当たりにして——『仕損(しそこ)なったものだ』と。


(……為外(しはず)すものだ。不完全(ふかんぜん)なら、秘匿(ひとく)の身も)


 既に、『女神』という概念が流布している。

 つまり、『情報が漏れ出ている事実』を前には暗黒で心中の穏やかではなく——得てして穏やかでないけれど、『神の増産』へは平時よりも一層と荒く。


(……そして——隠していた(・・・・・)な)


 しかし、たとえ大神で常に苦悩を抱えていても、目下は目前、慨嘆(がいたん)ばかりをしてもいられず。


「——大神ガイリオス」

「何か」

「先に私は、『説明を求める』と発した」

「……然様なり」


 それも、新たな世には『神に出産の可能な例が確認された』などという"一大事"でも。

 なれど、"今日まで秘された重大要件"で『計算された策動』に『陰謀の影』とは、『過ち』の繰り返される感覚を胸奥。


「つまりも改め、『貴君の披露した事物(じぶつ)について』であるが」

「……」


 謂わばの『新たな生命』とは、"呪われた出自を有する暗黒"にとって、『嘆きの要因』であるを憂いて。

 しかしては、実態を正確と認識して対処の方策を巡らせるためにも急ぎ、"事を現状に至らしめた意思決定の本丸"へと『真意』を追って、問いただす。


これ(・・)は一体、"何ぞや"と」

「……しからば、"我ら偉大の創造主"」

「……」

「『全知を目指す』に至っては、『"所産(しょさん)"も知らずして、何を語れるものか』と」

「……『産みの経験なくしても全てを知ることはない』、『その能う実例も示せねば、全能にあらず』と——そのように?」

「相違なし」

「……では、"利己"に基づいても、"己が肉薄の確認のため"に『他者となる子を産んだ』のだと?」

「"理由の一つ"ではある」

「……」

「しかして、"理解"も得られよう」

「……"理解"とは」

「我らには『()が必要』なのだ」

「……」

「全知を探し、全能を追い求める『助手(じょしゅ)』としても、『他者(たしゃ)』の」

「……」


 さすれば、ガイリオスの方便を意訳して——『消失の危難に際して対抗の自意識が目覚めたはいいものの、その後で何処を目指せばいいのか分からない』。

 また——『未だ全容不明の同輩を信用できぬなら、"身内より出た劣化版"の手も借りたい状況だ』との説明。

 対しては暗黒で、『類似した出自から来るであろう苦境の実感』を近しく思えども。

 とはいえ、形式的にあっても『仮にも共通の陣営に属する同士』で、その『誤りで撃ってはならぬ味方の増産』のような大事も『事前に確かめられていない』のでは、心情に寄り添う言葉の少なく。


「……では、よもや『女神(これ)こそは、"我ら閉塞(かんせい)を打ち破る"——『新たな世代の(うつわ)』だとでも?」

「部分的にも、然り」

「……」

「我らは『一度に完成してしまった』からこそ、"既出の己ならぬ"に見出さんともする」

「……"大役"には、不足である」


 しかしてやはり、嘆くばかりに仕様のなく。

 再び見回す現状で此処に神の(いで)ました要件が——"単独ではない"。


「ましてや、"劣る個神(こじん)に追究"など、背負う荷が勝ち過ぎる」

「確かに。余をはじめ『大神すら成し得ぬ』へ挑むには、得てして大分(だいぶ)力量(りきりょう)の低く」

「……」

「『所詮は縮小しか出来ぬ再生産』と聞くに痛くも……ついぞは『大神(おのれ)を超え得る性能』の、謂わばの『技術的な特異点』すら見果てぬままに遠くはあるが」


 今は、"お付きの神性"を伴い。

 大神ガイリオスの来訪に『警戒すべき』が、もう一つ。


「であればも、"複数"。大別は『知識への欲』と『好奇の心』で切り分け、それら誰に命じられるでもなく——」

「……」

「——確たる目処のなくして『ただ始められた我らの原理衝動(げんりしょうどう)は何処に向かうものか』と、冷静に外部的な視点からも見届けてみたいものだ」


 闇の奥より、流し見る。


「…………」


 "物言わぬ女神"——自己が話題の中心に語られる場にあって、発言を求められる前には口出しも、手出しもなく。

 ただ静謐に、自らの両手を下腹の辺りに結んだ立ち姿、神聖な微光を帯びていた眼差しも今や瞼で伏した者が流麗。

 先刻の第一声には相手を慮る口調の柔らかな印象にも周囲の鋭利な岩石群と対照的であり。

 また現に、背景の切り立った岩の隙間を縫って彼女の立つ姿こそが『清涼なる流域』を思わせる髪色も、透き通っての水縹(みずはなだ)と言えようか。


「よっても、"此れなる固有意識回路"で、個体名を——『テア』」


 今し方に名を呼ばれては、急がず悠々と持ち上げる瞼に、睫毛も、大神によって編まれたであろう精緻が左右対称に。

 立ち居振る舞いのみならず、目鼻の顔立ちすら整然と並んだ、"美少女"。


「余の想像せし、『新たな女神』の()(よう)


 細部にまで讃えたくもなる見事な造りで、先述の長髪は腰元にまで届くかという一筋ごとが河川のようにも、流水は音なく落ちて『しなやかな滝』の如くも。

 なれば、耳上を平行に編んだ水髪の、『滝の裏』たる耳元に覗き、揺れる様に目を引く装身具(そうしんぐ)も『落水の飛沫を跳ねる躍動ごと象った』とも形容の出来る、逸品。

 神の眼にも見え難く微細な仕掛けの吊り糸は——いや、連なる(しずく)の二、三が互いの間を引き合う微細な張力によって仕上げられた神秘の装飾であり。


「……はい。再度の御紹介に与りまして——」


 次には、飾りの向かう先と共に視線を落としていけば、肩口から。

 身に付随する『装甲』の輝きに照る瑞々しい肌の首元でも、左右の肩当ては落水の活気を演出する透明な波紋の広がって見える流動であり——そう、彼女の首より下に纏う装束は現に今が『戦時』という状況も考慮され、『神鉄の装甲』に身を包んでいる。


「——私は、『テア』」


 その鈍色も、全身を覆うものでなく。

 接する神の体は玉体の基幹部分を主に大神の授けた叡智によって守らんとし、また神が有する永久無限の下に『新調され続ける結界の面』としても防御機能は鎧の各所を枝分かれに流れ、水光(すいこう)流路(エネルギーライン)としても鮮やかな青の発色。

 しては同時に、膝下まで手厚く防護の恩恵に与る少女であっても実態には軽やかな身振りに、足取り、支える物が更に下部の『マリンシューズ』に先端的科学技術(ハイテック)

 それも『熱き乳海(そら)に沈まぬため』だろう。

 重量を感じさせぬ軽快な足元の備えに何やら『駆動』の震えも聞こえれば、踵付近の後方より『押し出す流れを推進力』にでもするのか『プロペラ』——若しくは時や場合によって余分を排する『ファン』が絶えず気流を履かせている。


「我が祖たる大神に『テア』という名を授かった、"女神(めがみ)一様式(いちようしき)"であります」


 即ちも、以上が『女神テア』。

 総じての『上出来』であって、先の会話に『自身の性能を低く見積もられた』として聞き流し——それさえ、大神の打ち込んだ(プログラム)の集合。

 軽く頭を傾けては、予め教導されたのであろう物静かな所作の、動いて見せる軌跡に『目立つ欠陥(バグ)のない符号(コード)』すら浮かぶようでも、巧妙に織りなされた造りは、ただ(うるわ)しく。


「……しては、どうか、原初に語られる暗黒の貴方様で、以後の御見知りおきを」


 今にさえ創世の神たる『深淵の闇』を前にして、滞りのない発話の様子。

 爽やかな語り口、演じるでもなく、抑揚は丁重であって、気さくに。

 空間に透き通る清涼の声音は、対面の世界記憶に"過去の名だたる名優の幾つも"を想起させ、正しく『大神に連なる若宮(わかみや)の高貴』でも美しき、響き。


(だがして、"これ"は——"鏡写(かがみうつ)し"のようだ)


 玉の声に(ども)りなく、湛える眼差しにも澱みなく。

 先には流麗な声の主で『好奇に満ちたような眼差し』とは、"世界への期待"を隠さぬようにも。

 何よりは、その——"瞳に澄み渡る蒼穹"。

 その周囲で、蒼き湖面に明るい星々の反射を散りばめたような細工も飾って、工芸の(みょう)であり。

 現在地で漂う適度な気温に、水が流れる川に添えられた遠景が深山幽谷そのままに女神の背後で厳しく対比されたとして——そうであっても此処に、暗澹の気に"自然の絶景よりも鮮明に刻まれし事実"が『命を宿す瞳』として、新世界の今に見開かれて在るのだ。


「……()も我が披露目(ひろめ)に貴重な御時空(おじくう)を頂けては、実意で恐悦に溢れんばかり」

「……(なれど、私は……(このみ)は"僅か一端"を除いて『暗黒(じこ)の組成』を明かしたつもりのなく)」


 だがすると、その『世界で初の意図して生産された女神』を眼前。

 間近に捉えるアデスでは、今に己が認識内に現れた『物柔らかの形』へ。


「重ねては深く、心より御礼申し上げます」

「……(秘する暗がりで極一部以外に漏洩を許した覚えは——いや、"僅か一端でも白日の下に"。"創世の爆発(かがやき)を前には少しの緩みも許されぬ"のだったか)」


 口振りも、手付き足付きも、彼女の真横に聳える三叉の威容と比して柔らかく。

 たおやかに折ってみせる腰も、窄めてみせる肩すら輪郭に丸みを帯びて『無害にも等しき手弱女の形式』に見た、"衝撃"。


(……"部分的にも光の奔流で存在を気取(けど)られた"以上、過ぎ去りしを憂いて仕方がない)


 此処に、"己以外の()る神性"を前にしては、過去の出来事に於いて『光放つ初手の一撃』を『完璧には防げていなかった事実』が心に重く、のしかかる。


(……だが、それも予測し得る事態とはいえ、"限りなく肉薄せし同型(どうけい)"の——何よりは『新しき生命(せいめい)』と(のたま)うのか)


 つまりも、"過去には隠形(おんぎょう)の一部を暴かれていた"。

 当時、光の奔流に(さら)される中にも闇の帷は削られ——『其処より漏出した僅か一端の情報(てがかり)』に。

 よっては、"此処まで"——『大いなる御業は神の類似に迫れるものか』と暗に(おのの)くも、瞬刻。


(……(すえ)に恐ろしきは"大いなる神の合理推察"。言い喩えて『化石(かせき)の爪や牙といった小片(しょうへん)』から——『其れを支え()骨格(ほねぐみ)』に、"整う合理性"をも突き詰めた"真に迫る復元図")


 "比しても大きな背格好や胸部を見るに"、"未解明(ときあかせず)の部分には『ならばと開き直っての自由工作』を施しているのだろう"——だの。

 恐らくは『空想の遊び心も添え、斯くも独自の類推(るいすい)を可能』とし、『同じく世界の果てに見る神の理想型』として『斯くも近似の様式に迫れるものなのか』などと——造形への驚きは未練がましく思えども、平然を維持し、問い掛ける。


「……そうして、"貴公の(そば)に在る者"。引き連れては、"その他者(めがみ)こそが題目と関わる"のか」

「——然様」


 ひいては、相手が友好の気を持つ内に、"潜在的な脅威と成り得る者"の情報を成る可く、多くと得るため。

 それも『大神の後継に立つ女神』とは『既に幾つかの試作も済んでいる』と憶測し、よもや『現時点で複数に立脚する可能性も高い』と意を決しても、踏み込む。


「何とは言え事の発端は、以前に三叉(さんさ)の余を筆頭に、"(かど)の目立つ男神(おがみ)を中心とした集まり"に於いて——"此処にある女神の気付き"」

「……(……やはり)」

「彼の女神は周囲と比しての『柔和な己』に疑問を持ち、尋ねられた余の身で答えても"自己の下地"となった『原初の女神』なる概念に(いた)く関心の様子」


 さすれば、重なる悪報。

 曰く『既に現行の世界では多くの神が誕生した』かのように物言いを受け、闇の中では頭を抱えたくなるほど。


「故からに近年(ここ)数億。"隠遁せし賢者と見《まみ》える請願"に"危険性(きけんせい)"の計算を任せても——『それ以上に"お近付き"になってみたい』と、聞かず」

「……」

「斯くして遂には、余も折れて。今し方に『外交の一手段』としての許しを与え、此処に至る訳なのだ」


 諸々への愕然とした心地には溜めた息も漏れ出すよう。

 心で眉を(ひそ)めし、暗黒神。

 大神ならば『謀略狂いの奸物(かんぶつ)』と自覚に知り、明言されたもので『女神はただ、己の参照元を確かめてみたい』と素朴な理由を聞けども、『公言できぬ狙いすら他に幾つもあるだろう』と勘繰れば。


(……如何する。()()を見失ってはならぬ。周到(しゅうとう)に用意する()や明文に(じゅつ)を合わせ、"制御"を図らねば)


 よもや、己の数億(すこし)を意識で(うつ)(うつ)ろとしていた合間に、未だ斯様に無秩序の新世界で『最も大事な決定の一種』が下され、それも『複数にある』とは長く知らされておらず、辟易。


「ひいても詳細は、正に当事者たる女神の口から」


 だがして、差し迫る現実の対処へと、黙する間は一息に。


「はい。太祖の釈明に相違なく。真なる事実としての此度は……"着想の始原たる女神(あなた)"へ」

「……」

「"現状の私"が『女神(めがみ)』として形を有するにあたって、"その大いに参考となられた貴方様(あなたさま)の存在"に興味と、関心を抱いて久しく——」

「——"待たれよ"、女神」

「——はっ」

御身(おんみ)への対応は質疑の(のち)に約束する」

「御意に」


 祖たる神と同じく低頭平身(ていとうへいしん)から発言へ入った女神の麗容へ遮る声を発し、『()』の発端となった大神に向けて、問い直す。


「大神では今し方にも、(なん)と……?」

「何時であろうか?」

「詳細に確認をすべき事柄で『男神ら』と言ったなら、"現時点で如何様に柱は乱立する"?」

「——答えよう」


 よっても此処に改め、かつて創世期のおいて『ガイリオス単独では気配を取れなかった暗黒の存在』に慎重と出る前者が、受動の様。

 恐らく"見破れぬ隠形を持つ相手"を『格上』と看做した下手(したて)では、問いに応じて詳しく情報は語られる。


「大神に次ぐ次世代が新しき者の全てであり、其の数は"(なな)"」

「……」

「しかして、"大神(われら)に匹敵し得る者"が『二者がどうか』と言った所では、"その急ぎに特筆すべき者たち"から」

「……」

「曰く、我ら大神を基軸に敷く三角(みつかど)の陣形から、そこより伸びる新たな左右二つの突出が『無なる異界を滅する戦闘巧者(せんとうこうしゃ)の神々』——らしく」

「……」

「つまりも最たる増援は先鞭(せんべん)に無へと向かう威力兵装——"戦事専門(せんじせんもん)戦闘神格(せんとうしんかく)"」


 概説されしは、大戦に臨む"新たな神兵たち"について。

 よっても此処にアデスは、『己が輝けし宙の海に船を漕いでいた間に次世代となる神々が誕生していた事実』を今日の来訪に苦々しくも知るのであろう。


「先にも大元たる神で曰く『(おう)右腕(みぎうで)』と及びの『左腕(ひだりうで)』に新生したとされる由緒有力の立ち位置にあって——」

「……」

「——それらを加味しても、今や我ら有力諸侯の陣形は『新世界創造に立ち会った大神の三柱(みはしら)』と、『大戦の為にも設計(せっけい)された二つ』を揃え、"(いつ)つの柱が頂点"に()す」

「……」

「即ちも『無』でなくば『宇宙を存在する物』として、法則を各位に塗り替えて行く分散配置が丁度『星形(ほしがた)』のようにも、(いつ)つ」

「……」

(それ)ら、"一つでも万能"に。凡ゆるへ深く通じた『極神(きょくしん)五柱(いつはしら)』」

「……」

「"隙なく力の満ち足りる様"は『五体(ごたい)』として、後先にも『五体満足(ごたいまんぞく)』が『状態の万全性』を表せし語彙の一つにも相成らん」


 しかして、静聴とする間にも黙考の止まぬ暗黒では——"『戦事の専門家』など、『終戦』の(のち)には如何様な『始末』を付けるつもりなのか"、"果たして泰平の世で(つわもの)にも活躍の余地なくば、道に迷って苦しいだけだろうに"。

 "そうでなくとも確たる義のない戦争行為に、謂わば『我ら大神の私的な闘争』に『当事者でない者たち』を、その果てなき道行の『継承者』として扱うなどとは何たる身勝手"——etc(エトセトラ)


(……"難儀な者たち"だ。向かうべき目標の確たるが存在しない、"この残酷な世界に"。剰え、"他者の勝手な都合(のぞみ)で送り出された"のだから——)


 "仕様もない"——混沌の胸中、()に喚いて騒がしく。


「……そうして、『男神(おがみ)たち』と聞き知るに、"(いくさ)の専門たる二神(にしん)とやらだけではない"のだろう?」

「然様」

「しからば、先には貴君で曰くに察して、残る神性は"未完の発展性"に期待した——謂わば、"妙手(みょうしゅ)を探る試験的な意味合い"が色濃くあるものか?」

「余では、部分的に」

「……」

「光の王でも同じく」

「……」


 それでも平静に要旨を纏めれば——今は無との戦い、その前線に臨む有力諸氏の紹介。


「……簡潔にも、可能な範囲で各員の情報を求める」

「相分かった。しからば、先んじた時系列の順に語ろう」


 とりわけ、戦闘にも過去の闘争集積で適応を見せる強大そのものたる大神と、その混ざる起源より研ぎ澄まされた戦意と戦術を引き継ぐ者ら——今し方に『極神』とされた者以外にも話題は及び、案ずる思いに絶え間なく。


「先ず以ての幕を()けた発明が、余の陣営に於ける女神の『テア』と男神は『ワイゼン』——何方も『調査や探索の手合いを広げる目的』」

「……」

「次には光で天帝長子(てんていちょうし)が『男神プロム』。続く第二が分裂(たいしん)の認識を補佐して纏める、王の従臣『女神ラシルズ』」

「……」

「後には余の陣営で先述した二機以外にも、それら"時に危ぶまれる知的好奇心の補助機構"として間もなく予備学習を終えての出撃が『女神ウィンリル』」

「……では、"最後"に残る名義が、"戦闘の"?」

「然りも、戦神(せんじん)。次世代開発の前例を踏まえた幾度もの試行の上で、技量は通じて高まる頃合いに特記二柱(とっきふたはしら)

「……」

(つわもの)たる神の名を『男神ゲラス』と『女神グラウ』と言い——それら"果ての見えぬ戦況と苦境"に得てして『閉塞の打破』を期待されし二神を加えた『七名』で、増員は以上となる」


 しても述べられたのが『新しき柱の名』と、必要とされたなら『各員の背負う役割の特徴』とを公開可能な仕様書の範囲でも秘密回線に渡され、簡潔な遣り取り。


「……情報の提供に感謝する」

「問題はない。無償の融通は先の詫びが一つである」


 しからば、『順に完成度の高まる』とすれば、"最も警戒すべきは最後"、いや『最新鋭』とも言い換え——"取り掛かる手も迅速に極まる光の神"で、"未だ少数に留まる開発"は既に『何処ぞへ至るもの』か?


(……だがして、不幸中の幸いが『(しち)』という総数。未だ数は僅少なれば……この程度は"有事の制圧"に問題もなかろうか)


 状況を睨めば、危懼(きく)の念にも思案。


(……少なくとも、現時点では"可愛いもの"だ)


 再び脇目に見据える『女神(じつれい)』を基準に仮の制圧過程も試算をすれば、『私の不意に伸ばす指先が触れただけでも相手を機能不全の(がら)(あくた)にしてしまっては申し訳が立たないから』と——暗に敬遠する表向きを並べつつ、未だ現実に起こり得る問題へ『干渉』の一手を打たん。


「……しかして私の、先に語られる真相を知って"押し黙った所以(ゆえん)"とは、以下のよう」

「……」

「個神としての懸念を述べるとすれば、其れやはりも——"事前の談合なく重要の決定を推し進めるなかれ"」


 (いさ)めるようにも、言い。


「仮にも我ら同盟で、"突如に敵味方の判別がつかぬ手合い"が増えても難儀せし」

「……」

「我が方の忍ばす展開にも、差し障る不都合が生じるやもだろう」

「……浅慮であった」

「……そうして、"永遠(えいえん)一路(いちろ)にも充足なく"」

「……」

「先の『同士討ちに繋がる懸念』も踏まえれば——"軽々に増やしてくれるな、雑兵(ぞうひょう)を"」

「……深く詫び入り、改めん」

「『これ以上はならぬ』と、"譴責(けんせき)"を()く」


 表層で最もらしく。

 真実として裏には『これ以上の脅威拡大を避けるためには現時竣工のもので打ち止めにさせん』とする意図が(ただ)ちに言葉の釘を刺し、"忠告"。

 しても、『苦悶の生涯は今あるものだけ』とも。

 この時、『新たな意の出現』に複雑な心中の暗黒で、他の大神に示す"厳格な物言い"によっては以後に同様の事態を固く禁ずる。


「つまりも、現時点を以て以降の乱造を認めず。警告は、残る諸氏にも(ふみ)を流さん」

「……であれば、余からも事態の補足として手を貸し、先触れとして放つ釈明に、『大神の過半を占める意見』として文言を添えても穏当な理解を求める」

「然様しからば——速やかに」


 しかして、急がせる暗黒で瞬時に(したた)めた正式の諫言(かんげん)

 緊張の緩和を望むガイリオスでも快く開いた広域回線の形式に載せられれば、()くと世界へ。


「……余の勢力では各位に受領を確認。よっても以後、『意識ある軍備の拡大は事前に原初の神性へ伺いを立てられることになろう』とも、"約定"の意さえ取り付けた」

「……我が意向に沿った迅速な応対へ、謝意を」


 決定には余談を許さぬ即座で以て、各地各員に警告文(メッセージ)

 共同声明を発した場には側に控えていて今に頷くテアを筆頭に、大神ガイリオスを伝ってはワイゼンへ——そのワイゼン伝いには奇しくも彼と座標を同じくしていた光神プロムの耳にも。

 また別所では、実地世界に運用開始(ロールアウト)を間もなくと控えた女神ウィンリルで、今まさに進めていた学習の過程に『原初の女神で示す、出生への否定的な態度』についても情報を追加され、慌ただしく。


 ————————————————


「——『無断に行う軍備増派の不許可』などを求め……以上が、"不遜(ふそん)"にも」


 そうして、『己を除く大神二者が接触する推移』を落ち着き払って傍観としていた、大神(ディオス)


「同じく光の我らへ。"暗愚(あんぐ)の神"より伝達されし内容であります」

「…………で、あるか」


 側近の侍従たるラシルズに同時刻で届いた内容を暗唱とされても——『制限される自由』には、事情に通じた折知(おりし)り顔を変えず。


 ————————————————


「——……"」


 残るは、無を切り裂く閃光。

 誰より最前線に立ち続ける()の勇へも、"未だ光に映らぬ暗黒よりの警句"は語られ——"見通せぬ闇の重低"を以ては初めて身に知る、『これは、"震え"』だと。


「"…………"」


 しかして、この警告。

 今に、"明確に自由を制限しようという束縛(しせい)"こそ、真に強大な圧制者の為せる技なれば。

 後に、"限りない自由を求めて駆ける光たち"で抱く敵愾心(てきがいしん)

 ともすれば『跳ねっ返りの心』を聖なる神聖で燃え上がらせる『火種』になってしまったのかもしれない。


 ————————————————


「……共同での声明に、(ろう)()とする」

「構わぬ。主唱(しゅしょう)たる貴君と比して余の負う責も然程になく——」


 すると、広く光輝宇宙に『生産への訓告』を発した後、三叉の面構えで何やら"言い淀み"。


「……だが、"しかし"」

「……"懸念は在る"と?」

「……実際として、"あの光に列する神ら"へ意見を——其も何より『傲岸(ごうがん)なる王』へ言って、態度に恭順とさせるのは『極めて難しいだろう』と」

「……」


 通信(かいわ)に寸刻の間が置かれては、"(はかりごと)"で下降の論調。


「現に、"霊験(れいげん)の明らかな格上"」

「……」

「『瞬時に世界を満たした輝ける大権勢(だいけんせい)』を前には……"下手(したて)大神()"でも強くを出れず」

「……」

「"警告されても何を仕出(しで)かすか推測困難(わからん)"のは貴君も見ただろう。あの、"行き場のない自由への情熱"に——"(くゆ)る原初の炎"」

「……」

「無限の火種にしての、火力(かりょく)・オブ・火力(かりょく)……そのものの『苛烈な化身』が『(ひかり)』」


 澱む暗色の空間で二者の権能が談話の内容を漏らさず、逃さず。


「其れも何か、言の葉に象るのも難しい……言語的な指摘に対しても踏み(とど)まれぬだろう、"何か"」


 厳重に管理された声波、神々の意を包み隠す。


「往時に『自由』を標榜しては"外部に既定される"ことも『好かぬ』・『積極的には好まぬ』だろう」

「……つまり?」

「つまり、我らでやはり『意の表明には細心の注意を』」

「……」

「余でも、語る思いは『不定(ふてい)で居たい神』へ形とするに憚られ、"暗黙という形式"すら熟慮で発さねば」

「……」

「でないと収まらぬ熾烈に、頂点への自負すら増長して、今や『神々を統べる者』とは『神王(しんおう)』と名乗っても、久しく」

「……」

「無を駆逐したとして"何時(いつ)か"は、『同士誰ぞとの衝突』が、未来(みらい)に避けられぬかもしれん」


 "高度の性能を極めた大神の推測"は最早が『未来視(みらいし)』の域にもあれば、『仮の構想』とはいえ"現実味"も帯びる剣呑の気。


「そうして言えば、『()の王という一角を崩すこと』」

「……」

「時や場合によって『何処ぞの誰』でも力を貸してやれんこともないが——」

「……」


 だがして、同時には正しく日の光の当たらぬ場において。

 二つの大神という極まった柱の作る物陰に、騒ぎの気も引き込められ。


「——……試しに"其処な女神"を見て、"可能性"を感じるだろうか?」

「……よもや此れなるが、"大神を凌ぐ一助"だと?」

「"——"」


 明言せずとも『頷き』を挟み、引き戻す話題は"今日に馳せ参じた理由"。


「やはり基本の自説として、己単独で打倒ならぬを前には、『己ならぬに頼る』ことも肝要」

「……」

「たとえ他者の思惑は緻密な制御の難しくとも、『だからこそ』の自他に"想定外"を期待し、また、『認めよう』と」

「……つまりも、結論に立つ大神(われら)。謂わば『己という閉塞に宛てた超越』の——その"至らぬ次代の作"が、『女神(これ)』か」

「然り。得てして作り手は『己を超え得る何か』で以て、"自らの価値"を証明せんともする」

「……」


 今し方に譴責(けんせき)の手間で正式な挨拶は後とされた『女神』こそ、本来の場の主役であるのだ。


「…………」


 それは薄青の長髪を垂らして沈着にも、毛先の揺れなき従容に。

 だがしてアデスが載せた警告の文言も、先に光の王がガイリオスと共同に敷設した超光の回線に預けられては各所に届いて数秒とない待ち時間であったが——"意味深に間延びした緊張"、察せられぬほど愚かにもなく。


「……我らが太祖、及び闇の神性へは流路の遮る失礼をば」

「よい。発言を許す」

「"——"」


 目と首を伏した略式的な礼の後、上げて見せる紺碧の眼差し。

 気を遣う性能も備えられた良知良能の神は『自身を含む新たな神々の誕生』に関して、自ずから意を申し開かんとする。


「もしや、先んじての賓客(ひんきゃく)たる神々で、"我々の生誕"に、何か——"不都合"が御座いましたでしょうか?」


 帷の奥へと、問い掛ける。

 事を重大に捉えれば、『増派の禁じられれば、よもや己の存在してはいけなかったものか』と。


「……もし、我が身の生じた事実を以て、正しく生じ得た不都合のあれば、どうか、気兼ねなく」


 それは、『既に自滅で閉じた世界』にとって、"音の聞こえも痛切"なら。

 よもや、"未だ功罪のなき命"に、"誕生を果たしただけの己"を『悪しき』と詫びられては。

 剰え、『悪辣な世を引き継ぐ己は存在などしなくて良いものだった』と太古の昔から自認に分かっていた者として——『己ごとを否定される』に等しく。


「…………(……やめてくれ)」

「……?」


 現に状況は、都合の悪く。

 辛くも消滅を免れた程度の暗黒世界、"浅ましき悲劇の無数が集約せし結論"として『己を超えぬ再生産をして何になる』と"産みに否定的な者"にとって——『目前の女神の存在』は苦しいものであったけど。


「……何か、重ねて再びの、失礼を——」

「——まさか」


 恬然(てんぜん)と、言ってのける言葉。

 先行の伺いには"意を合わせぬ"、『逆接(されど)』のもの。


「——滅相もない」

「……」

御身(おんみ)に非はなく。未ださしたることの何をも為さずが、如何にして、断じることの出来ますでしょうか」


 確かに、『目障りが増えたことは不都合であった』、けれど——"事実として世に生を受けたばかりの者は何者でもない"。

 剰え、『何者かであれ』と他者の一方的な願いに断じられ、"呪いを押し付けられるべきでもなければ"——『生まれただけの命』に、"非などあってはならず"。


「事の次第は『無の殲滅にあたって重大な用件が事前の告知なく』、また『識別の必要な友軍に増えられると面倒であった』——ただ、"それだけ"のこと」


 既に失意で塗れた己。

 己にはない『未来への期待に祝福された他者』を恨み——羨み、けれど。

 その絶え間なき『(ねた)み』に『(そね)み』の噴出に対しても、心は何処か『自罰的』で。

 剰えの、未だに『理性的』や『理想らしく』振る舞おうとする己の、未だ有する『生真面目』に『聖女』たる側面にも苛立てば、大神の内で複雑な思惑。


「そうして、貴公を擁する責任の在り処とも話は付いたのだ」

「……」

「過ぎたことには、先述の疑問も杞憂である」

「……はっ。なれば、我が浅薄によって大いなる者へ再三の手間を取らせてしまい、()に恐れ入るもの」

「……構わぬ」

「寛大な措置にも深謝として、暫し待機に身を置きます」


 自身は『邪悪』であり、『奸物』であり、『王の才覚』すら併せ持ち。

 僅かな時に(まど)っても、『ならば目前に在る(へい)の観察でもした方が建設的』と。

 冷え切っているであろう心情の一端すら、光景には映さぬ暗黒。


(……よもや表に出した意は『不用意に巻き込まぬよう』と? 『皆を大切に思えばこそ』? ——我ながら大して思わぬことを抜け抜けと、気の良く繕うものだ)


 "選べた妥当"に見る、己が平静。

 しかしてやはりは、目前に立ち尽くすテアこそ——その名も恐らく『アデスに対する』とした意味合いの、『間者(かんじゃ)だろう女神(もの)』へと軸を戻さん。


「……して。一定の落ち着きに話を戻せば——"どうだろう"か?」

「果たして、"話題に挙がる神は劣るばかりでもない"と?」

「うむ。暗黒の貴意を伺いたく」

「……なれば、問いに一つ。『試し』としても?」

「勿論。此方とて、"大神との学習機会"が、この上なく」

「……では、失礼をして」


 即ち、今日の"能動的な接触"に見え透くは、相手方にも『情報収集の意図』があり。

 その"際どい意"を隠そうともしない神へは、試問の許しを得つつ。


「——()いか? "女神テア"よ」

「はっ。当方で異論はありませぬ」

左様然(さようしか)れば、手短にも」


 "暗黒から"で初には、女神に向けた言葉を投げる。


「曰く『我が身たる暗黒を知りたいのだ』と」

「はい」

「"詳しくは何故(なにゆえ)"なのか?」

「それも、既に述べられた故には『男神との差異』に我が身で疑念を抱いたことに始まり」

「……」

「続けば、世界(ここ)には"異界にて形作られた女神(めがみ)"の、その形式——『女神(わたし)の原型となった神がいる』と聞き知った次第に、興味を」


 しては、『真意』を何処まで隠し、また『偽らん』とするかの探り——『明確な敵意のあれば、多少なりとも濁る口はあるものか』と。

 回線に流れる女神の語調へ、尋ねる者で注視の続き。


「……"如何な流れから"、聞き知ったものか?」

「我が身では、"太祖たる神から"」

「……」

「元を辿って彼にしての彼女では——『光輝世界の王より言告(いいつ)げられる日はあった』ものと」

「……(……文意を解して、『隠さず』と)」


 即ち言の要約も——大神ガイリオスは同じく大神のディオスから伝聞で『女神』という概念を"知らされ"、『その思う理想を形にした』と。

 それこそが、形の明らかな物質界に於ける『女神第一号』のテアであり。

 言い伝えに聞く『起源』を参考にしての"世界で二番目"は『女神らしく』と産み出された彼女自身で此処に改め、事が今日に至る経緯が説明されたのだ。


「しかして、貴君。此度は、ただの伝聞に基づき、"未知へと距離を寄せること"——」


 しては、未知と相対して語る今にも。

 髪と言の葉の紡ぎで、"透き通る色"は時に『有機物に乏しい水の澄んだ色』とも言え、その様相は彼女の『純真な心』を表すようにも無垢なる湖畔の青々——世界で広く輝ける宙域に在っても、際立った印象。


「言い換えても何よりは——"知らぬものが恐ろしくはないのか"?」

「"恐ろしい"?」


 密に仕切られた空間でも、響く音。

 女神の有する、(ゆう)の声——水面に立てる雫の反響が如き、自然の艶やかな玉声を、されど調子外れの一切なくば『常に適度な抑揚』として。


「"この暗黒(わたし)"という、『貴君(おのれ)にとって計算し難き』は、同時に『心の騒ぐ不快な脅威に成り得る』と——」

「……それは」


 場に即した音程を調律と同時に語り上げれば。

 その参考となったであろう神へ向き合っても、余計な身動(みじろ)ぎの一つすらなく。


「いや、そもの『恐れの色を未だ知らぬ』とも見えるが」

「……『大いなる神への謁見』に、"恐れ多い"のだとは存じ上げているつもりです」


 ただ『質疑に応じた誠意を伝えん』と見えれば——それも、果たして"潜在的な敵"が『有力者の実子的な立場に胡座をかいた傲慢』であるのか。

 現状には『愚を犯す蒙昧(もうまい)の気を見極めん』と言の葉で揺さぶっても、綻びなく。


(……其も『尖兵(せんぺい)』だろう)


 仮に『愚子(ぐし)』のそうであるなら、『適当な言い掛かりから内心へ抵触させた理由』を以て、『大義名分から早くに可能性を摘んで楽』なのだが——短期一目(たんきひとめ)で見透かせる程には、思慮の浅薄も見当たらず。


(……名も『暗黒(アンコク)へ向けた』とでも、何某(なにがし)——友好を装い、親密を図る……"計略の")


 しかして、未だ色は底の知れぬ。

 水沼の如きに掴み所のなく、得体の知れない流動に。

 頷きの仕草では涼やかな印象を持って、鎧の肩に落ちる長い髪と流水の耳飾りも『しっとり』に振る舞う者。


「……では、そうしても、なぜ?」

「……?」


 僅かにも『不測の危険性が自覚にはある』と言えば、その"弁える頭脳(しこう)が大神譲りの明晰"に。

 また相手の疑念を返答では極力に濁さず、その端的かつ情の挟まぬ速やかな表意にも『慎ましやか且つ堂々とした振る舞い』は計算高い巧者の平衡感覚か。


「聞くに『太祖』と敬う者に対しても"自ら進言"を押してまで——"貴方自身"が『そうまでをする理由を持つ』と?」

「……それも仮に、貴方様の曰くで『未知こそは恐れ』であり、『恐れとは不愉快』なれば——」

「……」

「つまりも私は、『未知を知って事なしとする』——"その(よう)に在りたい"のかもしれません」


 剰え、既に『己の立つべき自我』で、誰に命じられようと・命じられまいが『自己の目的へ向かう忠実な意思』がある。

 それも、"立志を果たしている者は薄弱でない"。

 何時何時も"己に立つ理由がある者"を惑わすのは難しく——斯くも"侮り難い一定の成熟"を経るまでに、大神で『秘蔵の子』を陣中に深く"隠し通していた事実"。


「言い換えても、『ただ己の安らぎを求めているだけ』」


 恐るべきは『新たな神の出来栄えと、効力を確かめるため』とでも暗に言い、今日に暗黒へと引き合わせた事実。


「心中に『微妙な趣きを捉えん』としても……ただ私は、『貴方を知りたい』のかもしれません」

「……(……甘い囁きだ)」

「単に相手を『脅威』でなく、『同じ世界に併存する者』としても」

「……(……"甘くも正直な密偵"か)」


 因りても未だに暗黒では警戒の維持、遠路を遥々と客神らに訪問されたとして認識阻害の効果は晴らさず——だが、『暗い(もや)の様』へは寧ろ、その『分からないからこその趣深さに魅かれる』と言いのけて。

 テアこそは正しく『女神を知らんとする者』として、その体現する神性こそ『対暗黒神特化』が形を成した"知的な好奇心"の物質的な様態なのであろう。


「加えては、元より『本当に世界とは此処で行き詰まりなのか』も実感に乏しい身で甚だ疑問であり」

「……」

「そうして『自身に調べ上げた凡ゆる要素を検討する』のが、『次代を開く我々の役目だ』とも思っております」

「……」

「よりても今日に、"貴方様と手を取り合える未来"も含め——来訪の意図は、『実地的な精査のため』に」


 それは同時に"工作員養成の究極"が一つとしても、『自覚のなき者』——"ただ当事者が日常の生活を送るだけで諜報の成果を挙げられるように仕上げたもの"。

 また、開発者にして、世の数多なる事象に関心を示す大神ガイリオスでは『単に調査の手が増えても有難い』と『独立的な機構』に仕上げを済ませたのだろうが——『だから』と言って、"明確な個に霊魂を切り分ける必要"は?

 "既に大神"で『万能』なれば、多く他者を要することもなく——あぁ、そうした"出産の一大事"すらも、やはりは『私の情を()(みだ)すため』なのだろうか。


「中でも、その未だ知らぬ興味に関心、己の考え得る最もな優先事項が『我が身と同様に女神として先立つ貴方』であった」

「……」


 清聴の最中には『唐突な一報に少しでも惑乱を見せれば其れこそは痛い所なのだ』とでも、抜け目なく狙い?

 また『その付け入る隙がある』と敵に分かれば、遠回しにも一つの『瑕疵が見出されよう奸策』に——暗黒で深く読まねばならぬ事情に、募らせる厭悪(えんお)の気。


「因りてもつまり、その()いも(あま)いも知り尽くす貴方様で、先達の様相を私にとっての参考にさせて頂きたく」

「……」

「……もし仮にも宜しければ、より具体的には『助言』や『教授』といった形でも」

「……」

「たとえ極僅かな余恵(よけい)でも、現に大いなる賢者の叡智。『我が身で下賜(かし)に願えぬものか』と」


 されどもやはり、語られた言い分を総じるに、"あくまでテアとしての個神は己の好奇心に基づく者"。

 彼女の胸中で浮かぶ物思いに『己がどうして女神なのか?』・『そもの女神とは如何様に?』・『その産み落とした大神とは?』・『世界の根源的な由来とは?』——『ただ己が知りたいだけ』と言い得た者には"悪意を孕まぬ関心それのみ"であって、『悪を成さぬ者に問うべき罪などあってはならず』。


「……此処までを、如何様に思いますでしょうか?」

「……我が身で貴君に桎梏(しっこく)を与える合理も少なく」

「……」

「今暫しを思うがまま、自身で心の如くを求めるがよい」

「……勿体なき御言葉」


 再三に"自他へと言い聞かせる倫理"に、世界の集大成である大神には『己が滅んだ実感』として閉塞の分かりきった身の上。

 果たしては、その一角を務める暗黒で『諦念に沈むまま無知を突き放す』か、若しくは『未だに引き摺る微かな期待が故か』など事の次第を明言もせぬが——事実として言動に選んだ『新世代への様子見』は『今暫しは好きにせよ』と"一定の許し"を言い与える。


「行いを評するにも、順序の『それから』が(ゆえ)に」

「深く、敬服いたします」


 何よりは『足早に去る』——『面倒を避ける』、それがいい。


「そうして以上の内容が、我が身の此度に果たされた宿願であり」

「……(——うむ)」

「また叶うなら、『己から発した提言の概略』を、"相互への確認"としても今暫しの時に述べさせて貰いたいのです」

「要約を、助かる(——(はよ)う、去りなさい)」


 つまりも、靄に『手招き』の形で取って見せる仕草に、女神の顔を上げさせても。


(しか)らば、今後も『未だ過去の記録としてしか知らぬ各種事項について』——『大いなる暗黒からの意見を(まれ)でも拝聴に頂ける』とし」

「……」

「……そうまでを言って、けれど(・・・)

「……何か、問題が?」

「それ、まさしく。『早速』とは不躾(ぶしつけ)に知って、けれどの己で『大切な問い』を今に思い付いた次第です」

「……言うてみよ。我が身とて"先に尋ねた(ぶん)"がある」


 より早くは、"散会(さんかい)の場面へ向かう"のみ。


「だがして、"此処に応じる問いは一つ"のみ。私にも『言えず・明かせず』が正鵠(せいこく)な解答も約束をしない」

「勿論です」

「しては、何か」

「なれば深謝としましても、"初対面に際しての一つ"を」

「……」

「次の機会——"呼び掛ける際には何とお呼びすれば?"」

「"呼び名"であるか」

「はい。当方でいつまでも『未知(しらぬ)』・『未知(ぞんぜぬ)』と非礼に言っては……"障る気"さえ、有りやなしや」

「……」

「であれば、この機会に以降の呼び掛ける"暗号"、"希望する名"のようなものをお聞かせ願えればと」


 今更に『呼び名』なども、彼女で早く決めさせよう。


「例えて仮に『世界を守る将印(はたじるし)』、『暗黒の大将』——」

「……ふむ」

「——などと言っては暗黒の始原たる貴方様で、細かな要望などは御座いますでしょうか?」

「……(それ)も型に苦しく既定はなく、"建前"としても現世は『滅びに抗する結束』の、『皆が共に理想を目指す新しき世の中』なれば」

「……成る程?」

「即ち、"我が身にとっての目立つ不利益とならぬ限り"の……そうした"適当"で良い」

「しては僭越にも、再び当方で幾つかの候補を述べまする」

「頼もう」

「では、"極力に虚飾もなき事実"として……『見えざる貴婦人』や『不可視の淑女』、単純に『大老(たいろう)』や『老媼(ろうおう)』——」

「……(印象が"年増(としま)に過ぎる")」

「『大いなる老婆』とでも——」

「"(いえ)"。でしたら単に『通称』でも構わぬでしょう」

「……と、言いますと?」

「『あ』から始まる音の連なりは、異界においても罷り通り……("未だかつて取り立てて意味もない")——他の大神でも呼ぶ、『ア』の」

「それは……以前に太祖よりお聞きした"創成期における暗黒の名"」

「……はい」

「……では、以後に原初の神性が一角は、簡素な通称の——『女神(めがみ)アデス』」

「"……"」


 それも蛇頭(じゃとう)のように伸ばした暗黒の手、頷いて。

 今し方に『拘りのない』ようなことを言ったものを口煩く。

 己の言い分を『直ぐに覆す』ようでは"示したる大神の気難しさ"に、自ずと相手で『忌避』の念も湧き立つように。


「そうして、尊称の意を忘れずでも単に——『アデス(さま)』などと……お呼びしても?」

「お好きなものに、構わず。今で所詮は他称(たしょう)の一つ……然したる関心もありませんから」

「では、以後に改め、そのように」

「……」

「何より此度に我が求めの終いには、会話を通じて貴方の——"アデス様"でお見せ頂けた『気安くの配慮』にも、深く感謝を捧げます」


 次にも円滑に、発言を終えたテアを退げさせ、残る三叉個神に向けた発信には『間もなく会合を閉じる』と、合図。


「……"計略じみて"は聞かなかったことにしよう。より"確信"の得られた其の時にだけ、『耳を傾けん』と商量(しょうりょう)する」

「……相分かった」


 そしても、『光輝勢力への警戒』を内密とすれば——たとえ"肩入れ"するにも"無軌道な(あれ)"よりは、幾分か分別のあって御し易く。

 性能は今ひとつでも『賭ける』とすれば、"此方"でしょうか——と。


「そうしてなれば、望み通り。私で気の向けば、"若き英俊を借りる"ことがあるやもしれませぬ」

「始終けたたましくも、恩に着る」

「いや。程よき消閑(しょうかん)にも成っただろう」

「しては以後も、気の向く折で構わぬ」

「……」

「どうか虐めない程度に目を掛けてやってくれると、此方(こなた)で大助かりというもの」

「……考えておこう」


 暗黒で、"計画の駒として産み落とされた不幸な境遇の女神"を『逆に利用せん』と幾重にも画策を覆い隠す内側——『そうだ。幾らか邪悪な真相を()に見せても、"こんなものを知る必要はない"と、"知るべきではない"と触れ回ってもらおう』。


「此処までも時を取らせた。重ねて感佩(かんぱい)の気に見送らん」

「……然様しからば、いとまを告げる」


 "未知を目の当たりにして怖気付く少女に危難的な情報を持ち帰らせ"、以て今後の調査を『速やかに打ち止めとしてやらん』と、腹暗(はらぐら)——『次に(まみ)える機会があれば』の話として。


「……女神テアでは暫し身の振る舞いを見せてみよ」

「はい。アデス様もどうか、お変わりなく——」


 斯くなるは女神にも挨拶を言い終え、不可視に染まる神は多くを語らず、隠れよう。


「——また、いつの日か」


 さりとて、去り際。

 意識の(はし)に映る『己の似姿(にすがた)』を見て、再三再四に思う。


(——其れも既に、"私の似姿"。精度の高く、無視にし難い……異界に於いての"独りでに歩く者(げん、がー)"?)


 刻まれた歴史で、時に『蝶よ、花よ』と"愛された形式"。

 だが、その"愛でられるばかりの容貌"が前史に一体、"何をしてくれた"か——思えば『少しの喜び』に『優越』と、『陰惨な光景の数多く』。

 断片を列挙して『好奇』や『期待』や『羨望』に、『妬み』に『劣情』の対象、此処に"総論"が煮詰まっても包括に至るまでの我が身で——未だ、充足はなく。


(剰え、女神の似姿(それ)(ひー)(ふー)(みー)に……聞くに戦神の片割れも同じ様で『(よん)』もいるのだ)


 どれだけ傍目に整おうと、常に抱える不足の念。

 真に理想は、求めども手に入らず。

 喩えに、『夢破れての感覚が常時に付き纏う永遠の時』にも身を置けば——"満たされぬ不完全"とは、"不幸(ふこう)"と感じられ。


(()に見るだけで、匂い立つ。それら"形"に思い、募らせる心の闇が……"その新たな源泉"が、"四名も"——)


 だが、その残酷な現実を『まざまざ』と思い返される姿形に、複雑な情は"手前勝手な怨念"を募らせても——『もう、やめよう』とも。


(——落ち着け。然り。『落着(らくちゃく)』とせよ。『部外者の私』から、"彼女たちに問うべき責"などはない)


 ——"罪悪を問う"のを、やめる。

 ()(せい)を受けた、『他者の都合に産み落とされただけの者たち』に何ら一切の罪はなく。


(何よりは程度の知れる有象(うぞう)など……既に我ら大神の成立してしまった以上、然したる問題ではない)


 ——"問えないのだ"と。

 過去には『()()』として語られるように、それら『生誕が惨状へ至る過程』の多くを見た"理知なる分析"としても、思う。


(重大に思わせる諫言(かんげん)で各位に釘は刺したなら——"それでも()まぬ時"があれば、"方法は明確"に)


 "誰も選べなかった不可避の状態"に、問える"主体的な悪罪"などはなく——何をも最早『悪』と定められるように、追いつ追われつも、"甚だ面倒"なら。


(その次には『敵対の理由』を持って"殲滅(せんめつ)"に出ればよい。そのために全力を尽くすのみなれば——)


 既に『私で疲れた』のだから——内は気重にも暗黒の神は『無関心で世に接する』のだ。


(——(わたし)(みち)は、()まっている)


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