第四章『魔を統べる者』第三節
第四章『魔を統べる者』第三節
その後、音声の途絶えては暫しの間。
「……」
光の消え、女神の立つ場に仄暗く。
「——今し方、当事者間で交わされた意見の取り纏めも終了した」
少女の身に適当な靴も履き直し、眼前に薄布状も下げては。
暗闇の外套も羽織る折に、残る大神からの声掛け。
「また、送られた大綱へは、"現状で確かな意思を有する者"として『自身』を筆頭に『女神グラウ』の署名——」
「……」
「——及び『大神ディオス』の限定承認も得て、各位に必要な手順も済ませている」
「……痛み入る」
武舞台の端で、降りた先。
共通として深く外套へ身を包んでは、大男と少女で談合の様。
「……そうして、矢面に時を預けても、暫し、労を掛けるだろう」
「構わぬ」
「次には、"仮想の実証実験"を主として、"新世界創設"に伴う『論理的および倫理的正当性』、『法的根拠の裏付け』等も、代行を願う範囲は追って通達する」
「御意に」
簡潔に交わす言葉が、以後に『暗黒が主導する世界』へ向けた諸事の確認であり。
「……しても、復権せしは"古き律"」
「……」
「"未到で終わる不完全性の肯定"とは、『赦し』の現象によっても——今日これからの後世において、絶対的な力に"齎される畏敬"では、皆の振る舞いにも多大の影響を及ぼすだろう」
三叉を戴いた兜で語る、展望。
「なればの余でも、"身の振り"を考え直さねば」
「……」
「"存在そのものが抑止と成り得る"を前に、『意に沿わぬ活動は控えるべき』として——」
暗に先行きを伺う、"探り"の意でも。
「……」
「要旨としては『他者と関われぬ以上、被害も加害もなくば、誰もが善良な一般市民でいられる』——違いないか?」
「……概ね、相違のなく」
返答を引き出して、間もなく。
「補足としては——"困難に立ち会っても持ち得た知性が何のためであったか"」
「……」
「得てして知略に『勝者』と『敗者』。『奪い』、『奪われ』を切り分けて——けれど、『知性においては【何方でもなく】を選べる』のだと、"証明を続けよ"」
「……"多く時間を必要としそうなもの"だが?」
「"期間中"は領域に容認された『中立地』としての機能と共に——"神の健闘を期待する"」
「相分かった」
男神の側で、"自身の腕と腕に交差する"簡易的の会釈。
「しからば——『幸福に至るため』、『その実現する方法を模索せよ』と、云々」
「……」
「『時の許されるまで』を——」
「……」
「造化の神でも『真に偉大な責務を果たさん』と——此処に、善処を誓う」
片方の脚から退いては、滞りなく身を翻し、回頭。
「……『中立』としても、勿論」
「……」
「付け加えるとして——"今日まで奴が留まっていたこと"」
「……」
「"膨張無限は拡大の化身"が、"そうして今日に至るまで惑星の一つにしか拡散をしない"、『縮小の路線にあった』ことも事実だ」
「……」
「また、"世界を救って己の存在を散らした女神"へと——その遺骸の上に花を添える行いで『この星に理想郷を作らん』とする心も語っていた」
持ち出す槍には空間を突き、崩したるは"新たな次元"を掘り進まん。
「……しては、議論の場も用立てておく」
「……」
「時には暗黒の勅命を果たしつつ、暫し再び趨勢を窺わせてもらおう」
そうして、方針の摺り合わせも済み次第、また一つ神が身を潜め——。
「……」
時空の穴も塞がり。
大いなる柱の過ぎ去った後では、戦闘の最中、"背後に匿われていた一羽の姿"が——"安らかに"。
「……」
命には焦燥もなく、"瞼を閉じ"。
熱の病に追われた荒い喘鳴の一つもなく、"息を引き取り"。
その僅かとて、機関に生じる動作の失われて久しくは——『塗り替える世界』で即ち、"既に変革は始まっている"。
「"——"」
渦巻く眼力に付随しては世界も回り、始動せしが『転換』の法。
(『生体構造、掌握。生命理論——停止』)
見つめる先に、仕上げも間もなく。
一例には、再び水の惑星を囲んで連星にならんとしていた火種の片方を潰し——場を空けられた時空に生成される、"新たな質量"。
(『同時には肉体よりの剥離処置を開始——以後の段階は■■■■を基本とする』)
同座標。
一瞬で凝縮された光炎の後には、その忽ち弾けても現れる——"暗き洞穴じみた天体"。
(『また常なる確認を要した細部に、"斯様な事態"を想定されて【暗色に輝々とする各命】へ仕組まれた各種詮索動作についても——解体要項の基礎は、とうに実証を終えて』)
深重に見えるは『鉄球』の如くも、忽ち色を等しく宇宙の闇に沈めば、実存を隠し——明確な場所も不詳となって、"音もなく皆を連れ行くもの"。
(『内的非常事の幾つも考慮に入れては【懸念へ対処の仕掛け】——"先ず以て異分子の入り込む先"は、"前哨の"』)
その、"創設された目的"。
神で『威力を殺す』、『悪意を殺す』、『己を殺す』——"殺戮に特化"しても『万能の魔眼』の応用では『肉体』と『それ以外』に、また『個々』などで引いた境界を操る。
延いては宇宙や世界そのものに見出す数多の線で仕切り、"接触し得る線は殺しつつ"、生命諸氏の活動が『ただ一点へ向かう』ように。
しては、それら躍動の向かう先にも、宛ら『飼い慣らす』ようには可能性を殺め——魔性で行使する『断絶の力』は以て『万民の隔離』へと向かうために。
(『隔離場所は【■■に次ぐもの】として、模造や欺瞞の仕組みを幾重にも、"核心部分を最後まで保持しておけるもの"と調整——』)
備え付けられる『機能』としては——多くの命に生ける過程で情報を集積するのなら、それら『ある種の重み』を増した段階では肉体よりの解離を起こしても、"間を置かず暗黒の領域に引き寄せられる特殊な重力場"。
大まかな順に要約しても『魂の根幹を成すもの』を『剥離させ』、『引き寄せ』、それら膨大な情報量に施す『極限的な圧縮工程』も神域の技術で済ませれば、『並外れて精緻な収容および管理体制を整えるための機構』と言えよう。
(『隙間なくは終末世界戦闘も視野に入れた防護の術を巡らせ』——後で多少に暴れてみるか)
また現に、設計に掛かった手応えが、"手中に収めた一時に"——"手放す感覚"。
それを以後には『自動で行う永続』として。
各位の有する情報は『そのまま』にも容量一つ一つを分子に原子に素粒子に、それ以下にさえあって最早存在するか確認の怪しく『外敵に捉えられぬ不可視の状態』としても『秘密の世界』に安置する。
(…………)
一連の流れが『世界を作り変える』に等しい大事業であり——"其れら全て"も、果たして"彼女が単独に為せる技"なのだろうか?
多く詳細は闇に秘されて疑問は残るが、しかし、先には"光の王すら予見しきれぬ緊密性に勝利を"成し遂げ、此処に『揺るぎない覚悟と実力』を示した者。
「……」
今さえ、委細を語らず。
当事者を除いて術理の全容は分からぬが——"其れこそ"は、『もはや誰にも観測をさせないため』でもあり。
「……」
ただ"密やかに進む計画"は、"変わり得た世界"に窺い知る事の出来る実態として『不可視に忍び寄る魔手』の如く。
音もなくは、ただ静かにも、『魂の収奪』に諸氏で"瞳よりの輝きは失われ"、"脈動の失われる各位で肉の体"、"零れ落ちる魂"の——其れこそは『死』という"終わりの約束"。
「"……"」
また、"それら魂の隠匿先"は誰も知らぬ特異点の、奥深く。
遥か、遥か遠く、時空の移ろいすら及ばぬ不変の秘境にて『究極の守護結界』たるものでは、誰も互いを触れられず、音の響く余地なく。
何よりは、暗黒の御業で視認も能わぬ領域に暗ければ、即ちも『星の大海原に沈んでは誰も見通すことの出来ない程に溟き世界』——よっても以後、これを『冥界』と呼ぶもの。
「"…………"」
しても、『粛然と在るべき其処』で、"望まぬ労を強いられることもなく"、"目にするだけで辟易に垂れ込める顔とも二度と出会う必要もない"。
何より『許されざる』は、"未練がましく他者を呪う霊となる"ことも、"魂の再利用たる転生の動作なども苦痛の連鎖で認められる筈がなく"。
しかして、それら『認否を定めて魂を預かる者』とは『管理不行き届きのなきよう、"誠実でなければならぬ"』として、『己への枷』を嵌めた暗黒の——改め、今日に冠した異名の一つが『冥界の神』としても。
(…………ふむ)
それらを成し得た、今に。
"世界から多くの命が隠れた日"は、とても——とても静かであった。
(……多く皆の寝静まった頃合いが、気で休まり)
其処には数分前まで引っ切りなしであった悲鳴もなく、喘鳴もなく、鼓動はおろかの脈動の一つすらない静穏。
(……これで、漸く——)
宇宙の色にも夜闇の見え出し、その移り行く様を後生の語彙に喩えるなら、『深まる夜』のようにも。
ただ世界は静寂であり、清閑であり、"孤独を好む彼女の理想"へ近付いて。
(——……少しは、落ち着いたものか)
誰に嫌悪されることもなく、疎まれることもなく。
以後の世界で仮に『夢で他者との関わりを見る』のだとして、それすら誰に干渉し得るものでなくば——今暫しその孤独に浸る少女で『秘された世界の完成』と『己個人でも完結した領域』に安らいだ、ひととき。
「"……"」
だがそうして、神で偽りなくも"巻き起こしたのが死の嵐"。
「"…………"」
事実として、周囲で『息を引き取らせた』、その数多を見知り。
星の頂上から眼下に臨むは遺骸の山々にあって、『引き起こした中心』に——"微笑む"。
「…………ふふっ」
あどけない、少女。
(……"今の色"は、『見目に相応』であったか?)
神の一存に命の進路が定められた世界では、黒く包む指先が、"暇を潰して楽しむ"よう。
対比に映える白い毛先を『回して遊ぶ』ほど、『積み重なる死』を前にして——それでも、"神の愉快"は極まる。
(……畏まった物言いに、今更か)
宛らも愉しむは、"己以外すべての沈黙で奏でる音楽"。
(……そうして、"厳粛に合わす"なら、身共は何を語っていたものか——)
しても即ち、"孤独を求める暗黒の王"で、その行いは何時においても『自分のために尽くす』もの。
(何か言葉の掛ける圧で『理想の王とは、なんぞや』、『真の指導者、かくあるべし』と喚いていたが……——"そんなもの"は知りませぬ)
よっても、"完全なものが未だ発見されぬ世界"。
新たに名乗りを挙げた王権に為す様が『自分勝手に他の命を奪い去らん』とした振る舞いの。
傍若無神に正しくは、『魔王』と呼ばれて相違なく——"全ては誰も傷付かぬ世界のため"。
(諦念に沈み切って出嫌いにある私では、"ただ煩い口を封じるのみ"——)
その目論見、勝てば『誰も傷付かぬ』の悲願成就は——然りも『誰も傷付かぬという彼女の理想』が、"大きな前提"として『完全などない』という事実に突き付けた『現実に起こし得る次善の策』であり。
(——"不平不満のなく"。『全て皆の事なし』を以て、"頂上")
謂わば、『完全なくば』の『否定的な論』に立脚した論理的の帰結であって——では、"もし"?
(……面倒ですから、『それでいい』としてやります)
少女で『その論拠が崩れ去るようなことのあれば』と——"あり得ぬ可能性"を夢想して、可笑しくも。
死体の溢れる大地では、控えめに、音もなく微かに口の端で上向けば、今暫し独りの安堵を楽しみ。
(…………"論"としては、"弱い"か?)
毛先で口元の前に渦を作り、指に合わせて回す、『ぐるぐる』と。
(……さすれば——)
印象としても巡らす情報、思索への耽り。
(偽りなくは『己が惰眠を貪るため』に——『世界の皆を死へと追いやるのだ』、と)
回し続けて、解ければ。
指遣いから転じて、掌——『世界を呪うことしか出来ぬ己』で『盛大に呪ってやろう』との自虐が年老いても茶目に、"失言の出掛けた口元を覆う"よう。
また、単に気品のある少女が『誰にも邪魔されぬ夢見で寝覚めも良かった』と、日常の何気ない幸せへの気付きで『くすり』と笑い、"単に綻んだ表情を隠す"ようにも。
(……"其れこそ"、だ)
楽しみを見ては『無邪気な少女』であり、同時にも、積み重ねた過去に『諦念』や『疲弊』の気色も帯びては無駄を持ち得ぬ動作が『老婆』の如く。
また、『皆を死なせて気の良く』が、やはりも偽りなく『魔なる者』では『己から世界へ投げ掛けた無限の悪問』——『無敵の術』にて嘲笑う。
(皆を、"罠"に嵌めてしまおう)
"全ての生きとし生けるものよ"——"我が享楽のために命を捧げろ"。
"拒否権は原則としてなくも"——『厭う』なら、"私という王を超えて行け"。
(……『■』を)
"然り"だ——『いつ何時』の『何処』の『誰』が『何であろうと構わぬ』と、"寛容を示した者"は。
(……其の、"意図"は——)
真実として『自身以外の皆に死を願う』、"究極の非寛容"にも在って。
(『いつ』の、『どこ』で、『どのような者』が『実在する』のか、『しない』のか、如何様な『神』に『君主』や『王』が『君臨する』のか、『どう』か——"そんなもの全てどうだって構わない")
皆を、弄び。
(つまりも、"真に正しく肝要である"のは『|皆が幸せであるか、どうか』——"その最良にして最上の策を成し遂げた時にだけ"、『義が宿る』よう"世界を作り変える")
"いや"——『試せ』。
(易く言い換えても"弱点"は、『仮に皆の全てが他者の幸福を祈ることができた』のだとして——其のように『誰も傷付かぬ世界が私の手に依らず実現した』のなら、"冥界の存在する意義に正当性も失われてしまう"ということ)
——『必勝の術』に、"嵌め込め"と。
(……仮に証明しては、温順に天蓋を外し、禅譲の順を追っても良いのだけれど)
言葉を掛ける対象は『己』へと——『其の要件が満たされぬ限り負けてはならぬ』と呪詛を仕掛けて、末永く。
(其れも"私と言う悪魔の"、"悪魔による"、"悪魔のための証明"に、謂わば『皆が幸福とは何か』に"決定的な解"を見出し、『実現に向かう真の楽園を証明できた時に』——だけ)
神で、皆を試さん。
(故に、"必勝")
問う意図も——"既に多く犠牲の上に成り立つ私"で『■■は作れない』のだとして、"これからの皆"には、どうであるか。
(『否定』が『否定で返される』ことなど——"ありえる筈もなく")
解法の在処——皆の構築せし『一切の瑕疵がない完璧な理論』を『献上されてのみ打破に能う』は論理の式。
(故にも、"無敵")
そう為す心も、やはり最たる要因は——"何もかもが面倒だから"。
(つまりも持論とする『完全への否定』で勝利を得れば——『永世に渡る安息』と成って、『私の悲願が叶う』)
今に民を思えども、己の前史を踏まえれば、『対話による平和的な解決』なども、諦め。
過去には然る者が言った『善』も、別の者に言わせて『悪』でもあれば、"其の両方を兼ね備えて久しくある身"に、もはや"混然一体"で区別の付けきらず。
(しかし、けれどは、もしの、仮にも『二重の否定』が成されたなら——『皆の願いが叶う』ように)
よりて、『己を彷彿とさせる全ての命』に同情心から居場所を与えても——それらを逐一に細かく切り分け、『悪』だの『邪』だのと全てに判断を下すのも"甚だ面倒ですから"。
(其れこそは、"大いなる神にとっても大それた"——"真に未到"が『大願成就』の構えとして)
故にも、今日よりは個々の『善』や『悪』に各種の性質——"他者と関われぬ以上"も『無害』であって『不問』とする。
(……何と評されようが、構わぬ)
神で意図して"精巧にも粗らかとする術理"で皆を包む。
(目に障れば、耳にも。全ては、まったく……面倒ですから)
しては、もし仮に此処で彼女の心の声を聞く聴衆のいれば、『奸策』、『卑しくは奸物』など、様々。
女神に"聞き飽きた誹り"の言葉が聞こえるのだろうが——だとして『何も見たくない』、『聞きたくもない』と取り合わず。
(『なればこそ』も、やはり——私は、『皆ごと世界を滅ぼしたい』との、"嘘偽りのない思い"に向き合おう)
それら、得てして民衆の声など『己の境遇を嘆く』か、『不幸でない他者を嫉むもの』で堂々たるは巡り。
しかしてそれでも停滞を感じさせる現状に、『口煩く打破を求める』なら、それも、神が——『事のなく静謐を望む私のため』に、"皆を黙らせてやる"。
(『偽りなき平穏』を望むからには、"言い立てる瑕疵の何一つとしてない"——『完璧』それこそを求める)
平易には、"口を閉じさせる"、"不平不満の何一つ聞こえぬようにしてくれる"。
死して誰とも関われぬなら、"私が皆を守ってやる"。
神で『皆の自己実現』を無限の力で支え、『凡ゆる願い』を叶えても、『その凡ゆるを捨てることさえ君次第に』——『生まれた時』に、『住まう場所』も、望むなら『親』に『血縁』すら、"凡ゆる因果を各位の好むまま"として。
("凡ゆる喧噪もなく"は、即ち、"民の求める全てに過不足はなく"——)
時に、何も自身で意識をしていたくなければ、"只管に目を閉じて微睡めばいい"。
それすら『悪くはないのだ』と保証を続ければ、皆の誰にも『悪』や『有害』などで定義認定の機会を与えない。
(——"完全なる幸福")
其れこそは民衆が有する『魔』の成し得る時を奪い続け、『害悪』に『禍心』の統制者。
とうに"実行せしも証左"が、"他者を害する可能性の全てを御し"、"統べる"からこその『王』として——『魔を統べる王』こそは『邪悪な自身』の振る舞いにも『役割』を課す。
(……"そんなもの"が、存在するだろうか)
その挑む故も、端を発するが『自身』から。
今とて暫し孤高の玉座に黙すれば、不動である体との対比にも——"心情は震えの続き"。
(…………)
過去から続いて、幾久しく。
当初からは『願った覚えのない他者の幸福で自他を縛り付けられる』のも、殆に疲れ果てるとなっては『もう終わりにしたい』とすら思えども。
(……存在など、しない)
しかして、『未だ抜かりなく』も、大神。
常には『現実的な計画』と、『非現実的であっても真に理想』を思えば。
勿論、『自身が敗れる懸念』も考慮し——仮にも『真に他者の幸福を願い、望み、その実現を喜べるような者が大勢いたら』、"冥界神の立つ瀬"に『正当性もなくなってしまうのだが』と。
それは——"怖い"、"怖いな"?
いずれ"己の存在意義"が、"義の根拠が奪われてしまう"のは——少女の神で態とらしくも、恐れ。
(……するわけが、ないのに——)
描いた式は『誰にも完全な幸福などないのだ』と、前提。
故にも、"私の次善策"である『誰も傷付かぬ世界』こそが『現時点での最上の理想』として成り立つのに——"いや"、"いや"、"その前提をひっくり返されてしまうと大変に困るな"?
即ち『反証』とは、"誰も成し得ぬ反転の反転"で、驚天動地にも驚き、老体にも響きは酷の——でも、『ただ他者の幸福ありて喜ぶ』とする者なぞ、"然う然にはいないのですから"。
(存在——"しないのだとして")
故に『必勝』、『己は無敵』。
ただ嘲笑う魔で、巫山戯ようと——『だとして』は、いくら己で茶化そうと。
(……"何処ぞの女神"は、『努め続ける』と)
何度、"目を背けようとしても偽り難き"は——皆のこれまで全ての、『その凡ゆるが空虚に成り果てる瞬間』や、『哀れな皆へ贈られる珠玉の絶望』すらも、求め。
未だ『不幸は私にとっての甘露の』、『これまでの犠牲でも飽き足らず』は『より多く』、『より凄惨で滑稽な』、『この胸に抱える全ての苦痛さえ快く感じられる劇が欲しい』と無限の欲が止まらず——なれば、"どうして"、"どのようにすれば"、"この積み上がった重荷を下ろせるのか"?
(『理想へ迫り続けることこそ、何だ』と)
それら今日までに悩み、悩み尽くし、多知万能で足りず。
ついぞ凡ゆる日々に確かな答えの見出せなければ——『現状、完全なものなど存在しない』と分かりきったものを。
(恥ずかしげもなく、高説に。口生意気にも小細工の言を弄していたが——)
だが、そうして。
"現時点での未踏"に『ないなら、ない』で——"それでも"、"欲しく"。
(——……やはり、腹立たしい)
転じても神で『何ら確証がない挑戦』へ臨むには、『それだけの理由があるから』なのだ。
言うなれば、『此処に何も約束をされていない』という、『理不尽にして不条理そのものへの怒り』を抱え——思いの過ぎても『凡ゆるを妬み』、『執拗に呪わん』とし続ける——それら『いつまでも見苦しく』は、『浅ましき己を止めるため』にも。
(先を知ったような物言いに、常若が進むばかりの……苛立たしく)
斯くして、名もなき神で『魔王』と呼ばれ、己に『冥界の神』として成立し、それでも『求めるものへ未だ足りず』と。
其処で、たとえ『何者に成ろう』と、『成りきれず』とも——いや、欲したものは如何な肩書きでもなく。
己は、斯様に理屈を捏ねなければ『踏み出す理』に『勇』も見出せず、『決して真の勇者にはなれない』のだとして——"叶えたい夢があり"。
(……さりとて、"思いが積もる"も『面倒』では——)
其れも、たとえ『叶わぬ』のだとして——"未来を諦める理由もなければ"。
(——負けてばかりもいられない)
"胸に抱いた理想は偽れない"。
"実現したい本願"のあれば、"力を尽くすのみ"。
"日々を努めて理想へ肉薄"していなければ、"己に救われた感慨は得られぬ"なら——『納得できぬまま』だとして、その続く永遠、どれだけの苦痛か。
(『見当たらない』なら『ない』でも、なんとか。私で『諦めるにも飽きた』かもしれませんから——ふっ。『誰のため』だとも勘違いするなよ)
よりても『耐え難く』は『待ちきれず』——進め。
(ただ『私のため』、『己が誰より賢く優秀で結論を言い得たのだと誇示するため』にも……『面倒と"思いながら進むが極意"』だと、今にも示してくれましょう)
"皆が幸せになれる完全な理論がない"のだとして——否、『皆も幸福になって良いのだ』と。
"誰にも文句を言わせぬ真に完璧"、"完全"で、"偽りなき絶対"の、"証明"を。
少年少女、老若男女、千差万別、多種多様、烏合の衆には勿論、微細な者さえ一つも逃さず——『ただ行うのみ』と。
(そうと決めれば、確認の作業も何処までを進めたものだったか——)
現には——冥界で目覚めた然る鳥は優しく親役の教導で以て、果てしなく空を羽ばたける。
その思うまま、望む限り、時には『地を駆ける千鳥』になっても良し、『河川や海辺を揺蕩う水鳥』になっても問題のなくば、勿論、『鳥以外の何か』にも。
またたとえ『今日までの日々に学びの機会を得られず』で『己を満たす手段を知らずに、空想の幅を狭められる』と感じれば、先ず以て『修養』から始めるのも良く——それら勿論、『君の望めば』。
安穏とした永い時の中で、『己の心安らぐ分野に領域を少しずつ広げてゆく』のも——"大いに結構"として。
(今に鳩の方とも話は済んで……次には、"蛇会話")
それら"実地稼働を確かめる標本"として安らかな物思いを見せてくれた『鳥』や『魚』や『樹木』に『微生物』たちへ礼を言い。
先まで『薄ら笑い』としていた魔王の気色も、渦の中へと過ぎ行く。
(久しく使っていなければ、非礼があっても問題に、今一度の修練を終え次第——)
去り際には、暗き眼差しの奥。
先まで乾いた灼熱の大地で力なく倒れていた『目目雑魚』が——暗転の後、"無惨に欠けていた胸鰭の修復"を知り、"周囲で溢れ出した水に親しむ様"も見て取り。
しても、その孤独や、いずれ『多種多様な仲間』にも満ちて『水槽』か『大海』かで泳ぎ出すだろう様——『冥界の実働』を、また一つと確認すれば。
「……」
顔に下ろした暗幕の裏。
口の端で微かに緩め、儚くも。
一匹の魚を見に終えては——いや、『魚の幸福』とは何だ。
(——……私も、向かおうか)
明記し難くは、明言もせず。
各位の好む外観や仲間の有無など、個体差にも依拠して定義し難くは、ただ『個しだいの現状を願うままに描け』と——単に思いて、送る先。
「"————"」
其処で『泳ぐ』のもいい、『飛ぶ』のだって構わない。
時には『漂うまま』にも、『漂流をしなく』たって構わず。
個の世界で何を『変えて』・『変えず』とも、『選んで』も、『選ばず』ともよければ——"誰にも侵害されぬ夢"を、心の如く。




