↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

みいちゃんと菜の花さん

作者: 織花かおり
掲載日:2023/11/22

ひだまり童話館 第32回企画「ふにゃふにゃな話」参加作品です。

表紙に越智屋ノマ様が描いてくださったイメージイラストがあります。

そちらもお楽しみください。

挿絵(By みてみん)

 


ある4月の春の日のことです。

今(いま)が盛(さか)りの菜(な)の花畑(はなばたけ)がある白いお家の裏庭(うらにわ)にみいちゃんは「よいしょよいしょ」と真(ま)っ白(しろ)な椅子(いす)を二脚(にきゃく)運(はこ)んできました。

そして、お花の紙(かみ)ナプキンをしいた、ちいちゃな白いテーブルを真(ま)ん中(なか)にちょこん。

その上にポットとたらいをセットして、「よし!じゅんびオッケイ」とみいちゃんはエプロンのすそをポンポンとしました。

「あっわすれていた!」

イーゼルにクレヨンでかいた画用紙(がようし)をはりつけます。

『てあらいやさん、はじめました』


 お家の中では、お父さんとお母さんが今ご近所(きんじょ)の優子(ゆうこ)おばあちゃんとあずみお姉さんの髪(かみ)を切(き)っています。

裏庭(うらにわ)にまで「チョキチョキ、ササー」とはさみを使(つか)う音や笑(わら)い声(ごえ)がきこえてくるのです。

ほんとうは美容室(びようしつ)の前(まえ)でお店を開(ひら)きたかったけれど、お母さんが「それはダメ」というので、しかたなく裏庭(うらにわ)でみいちゃんのお店を開(ひら)くことにしたのです。


 菜(な)の花の上をモンシロチョウがひらひらと飛(と)んでいます。

お日様(ひさま)は高く、じんわりと大地(だいち)をあたためます。

みいちゃんも美容師(びようし)さんになるのが夢(ゆめ)です。

でも小学校1年生のみいちゃんでは髪(かみ)を切(き)るどころか、シャンプーもさせてもらえません。

みいちゃんにできることといったら、家でも学校でもやっている手を洗(あら)うこと。

「そうだ!」と思いついてはじめたのが『てあらいやさん』でした。


 あいかわらず菜(な)の花の上をモンシロチョウがひらひらと飛(と)んでいます。

お日様(ひさま)は少し雲にかくれました。

「お客(きゃく)さん、来(こ)ないなぁ」

みいちゃんは、イスの上で足をぶらぶらさせました。

「私、がんばるのになぁ。手をきれいにすると気持(きも)ちいいのになぁ」

そうしてお店の方をみました。

「優子(ゆうこ)おばあちゃんとあずみお姉ちゃん、終(お)わったら来(き)てくれないかなぁ。あ~、暇(ひま)だよ~」


 菜(な)の花の上のモンシロチョウが花にとまりました。

お日様(ひさま)は再(ふたた)び顔を出して、さんさんと輝(かがや)いています。

「最初(さいしょ)のお客(きゃく)さんには、お母さんが作ってくれたクッキーもあげちゃうのになぁ」


 「それ、ほんと?」

「わっ、びっくりした」

見ると、菜(な)の花畑(はなばたけ)の前にみいちゃんと同(おな)じくらいの年(とし)の女の子が立(た)っています。


 おどろいたまま、みいちゃんがかたまっていると

「手をあらってくれるの?そしてクッキーももらえるの?」と女の子がききました。

「いっいらっしゃいませ」

みいちゃんはあわてて、いつもお父さんとお母さんがしているように、お腹(なか)まで頭を下げました。


 女の子はにこっと笑(わら)うと、椅子(いす)を指(ゆび)さします。

「すわってもよいかしら?」

「どうぞ。すぐにじゅんびします!すわってまってて……じゃなくって、お、おまちください!」

みいちゃんはテーブルの上のポットを急(いそ)いでつかんで、たったったったっと裏口(うらぐり)からキッチンに入りました。


 給湯器(きゅうとうき)を38度(ど)に設定(せってい)して、ポットにお湯(ゆ)をくみます。

ふたたび裏庭(うらにわ)にもどると、ピンクのたらいにお湯(ゆ)をあけました。

「じゅんびができました」

「はい」


 みいちゃんはその時(とき)女の子をまじまじとみました。

栗色(くりいろ)のふわふわしたショートカットの髪(かみ)に、透(す)き通(とお)るような白い肌(はだ)、黒目(くろめ)がちの瞳(ひとみ)。

そして白いワンピースをきて、黄色(きいろ)いくつをはいていました。


 みいちゃんは、女の子がどこから来(き)たのかきいてみたくなりました。

でもお母さんが「お客様(きゃくさま)はじぶんのことをきかれると嫌(いや)なこともあるから、空気(くうき)をよまないと」といっていたのを思い出し、まずお礼(れい)をいいました。

「えっと、てあらいやのごりよう、ありがとうございます!」

「うふふ。私(わたし)手を洗(あら)うのって初(はじ)めてなの。どんな気持(きも)ちなのか楽(たの)しみだわ」

「えっ?手を洗(あら)ったことがないの?……ですか?」

「そう。いつも水にひたすだけだから」

(なあんだ。水では洗(あら)ったことあるんだ。それなら、おもいきり丁寧(ていねい)にお湯(ゆ)で洗(あら)ってあげよう)


 「まず右手から洗(あら)いますね」

そういってお湯(ゆ)に右手をひたして、やさしく撫(な)でました。

「気持(きも)ちいい。お湯(ゆ)って気持(きも)ちがいいのね」

「ありがとうございます。せっけんはばらの香(かお)りとラベンダーの香(かお)り、レモンの香(かお)りがありますが、どれがいいですか?」

「ぜんぶ」

「わかりました。じゃあ、右手をばら。左手をラベンダー。最後(さいご)に両手(りょうて)をレモンであらいましょう」

「うれしいわ」


 みいちゃんは女の子の右手にあわだてたばらのせっけんのふわふわをのせました。

いつもやっているように全体(ぜんたい)を優(やさ)しく包(つつ)んでから、指(ゆび)を一本一本洗(あら)っていきます。

「手洗(てあら)いは、マッサージにもなるのよ」とお母さんの言葉(ことば)を思いだし、指(ゆび)を丁寧(ていねい)にほぐしていきました。

爪(つめ)の間(あいだ)もてのひらにのせて優(やさ)しくごしごしして、手首(てくび)もふんわりあわでつるつる。


 「とてもよい香(かお)りね。それに手がすべすべするわ」

女の子はうっとりして、みいちゃんにたずねました。

「どれくらいの時間(じかん)、洗(あら)ってくれるの?」

「手がふにゃふにゃになるまでにはおわります」

「え?手を洗(あら)うとふにゃふにゃになっちゃうの?」

「手を洗(あら)うというより、お湯(ゆ)に長いことつけると、です」

女の子は不安(ふあん)そうな顔をしています。

「あっ、でも病気(びょうき)とかではないよ、ないです。しばらくすると元(もと)にもどります」

「そうなのね。できればずっとこうしていたい」


 「気持(きも)ちいいですか?」

「とても。あなたはお店をしているのよね」

「うん。あっいいえ、そうです」

「じゃあ、お客様(きゃくさま)より手がふにゃふにゃになってしまうわね」

「だいじょうぶです。まだこどもなので、お客様(きゃくさま)は一日に一人(ひとり)と決(き)めているので」

女の子は黒目(くろめ)がちな目を細(ほそ)めて

「それはよかったわ。私はラッキーね」と笑(わら)いました。


 みいちゃんはうれしくなりました。

だってお客様(きゃくさま)になったことを喜(よろこ)んでくれる人がいたのですもの。

それに手がふにゃふにゃすることを心配(しんぱい)してくれる優(やさ)しいお客様(きゃくさま)だということがなんだかしあわせでした。


 「またお湯(ゆ)をたしますので、少(すこ)しお待(ま)ちください」

キッチンに行っておせんたくしたてのタオルも用意(ようい)して、みいちゃんは自分(じぶん)のお店をもてたことがほこらしくてしかたありません。


 「お次(つぎ)は左手です」

今度(こんど)はラベンダーの香(かお)りで裏庭(うらにわ)はいっぱいになりました。

「ラベンダーも良い香りね。でも私(わたし)菜(な)の花が一番(いちばん)好(す)きなの」

「そうなの?私(わたし)も菜(な)の花が一番(いちばん)好(す)きなの!あまいにおいで、モンシロチョウが大好(だいす)きなのもわかるよね!」


 おもわずふだんのしゃべり方(かた)で話(はな)してしまったみいちゃんに、女の子はうれしそうにいいました。

「ふだんどおりにはなして。菜(な)の花畑(はなばたけ)の前にあるお店なんて、すてきね!」

「ありがとう!あのあなたはどこから来(き)たの?名前(なまえ)は?」


 女の子は困(こま)った顔(かお)をしました。

「名前(なまえ)は……ないの。菜(な)の花畑(はなばたけ)の向こう、キャベツ畑(ばたけ)からきたのよ」

(いいたくないのかな?)

みいちゃんの心はしゅっとしぼみました。

でも「どんな時もお客様(きゃくさま)の心を大切(たいせつ)に!」というお母さんの言葉(ことば)を思(おも)い出(だ)して、にっこりわらいました。

「じゃあ、菜(な)の花さんと呼(よ)んでいい?私はみいちゃん」

「ありがとう。みいちゃん」

左手も指(ゆび)まで一本一本を丁寧(ていねい)に洗(あら)って、爪(つめ)の間(あいだ)も優(やさ)しくごしごしします。

もちろん手首(てくび)もわすれません。


 「じゃあ、最後(さいご)は両手全体(りょうてぜんたい)を洗(あら)おうね」

レモンの爽(さわ)やかな香(かお)りが、菜(な)の花さんとみいちゃんの二人を包(つつ)みます。

たらいの中はせっけんの泡(あわ)でいっぱい。

ときどき七色(なないろ)のシャボン玉(だま)になって、二人の周(まわ)りを漂(ただよ)います。

それを見て「きれい」と菜(な)の花さんは息(いき)を吹(ふ)きかけたり、手でつついて笑(わら)いました。

菜(な)の花さんの小さな小さな両手(りょうて)をみいちゃんのこれまたちっちゃなちっちゃな手が優(やさ)しく優(やさ)しくあわあわで包(つつ)んで、汚(よご)れがおちたらお湯(ゆ)できれいに洗(あら)い流(なが)していきます。


 「あぁ、よい香(かお)りもするし、さっぱりした」

菜(な)の花さんは、うれしそうです。

清潔(せいけつ)なタオルで菜(な)の花さんの両手(りょうて)をゆっくりとくるみながら、みいちゃんは(私(わたし)にもお店ができるんだ)とまんぞくしていました。


 「これでてあらいはおわりです。ではいっしょにクッキーを食(た)べましょう~」

「わぁ、うれしい!」

たらいを横(よこ)に置(お)いて、キッチンから持(も)ってきたクッキーとオレンジジュースを並(なら)べます。


 その時、「おやおや、みいちゃん、裏庭(うらにわ)にいたのね」と声(こえ)がしました。

目の前をモンシロチョウが急(いそ)いで、菜(な)の花畑(はなばたけ)の方へ飛(と)んでいきます。

「優子(ゆうこ)おばあちゃん。カット終(お)わったの?」

「そう。どう似合(にあ)う?」

「うん。似合(にあ)う!」

「みいちゃん、裏庭(うらにわ)でティータイム?おしゃれだねぇ」

「ちがうの。お店なの。今お客(きゃく)さんと……あれ?菜(な)の花さん?」

「誰(だれ)もいないけれど……」

「ううん、いたの。あれれれれ」

「てあらいやさん?わぁ、すてき。おばあちゃんもやってもらおうかねぇ」


 みいちゃんは、自分の手を見ました。

ふにゃふにゃしています。

「優子(ゆうこ)おばあちゃん。今日はおしまいなの。またきてね」

「おばあちゃーん。お会計(かいけい)、終(お)わったよ~」

「あら?あずみが呼(よ)んでいる、じゃあね、みいちゃん。今度(こんど)お客(きゃく)さんになるね」

「うん!ばいばい」


 みいちゃんは、もう一度(いちど)自分(じぶん)の手を見ました。

(菜(な)の花さん、いなくなっちゃった。あんなにクッキーを楽しみにしていたのに。また会(あ)えるかなぁ)


 すると、モンシロチョウがみいちゃんの目のまえをひらひらしました。

そして菜(な)の花さんが座(すわ)っていた椅子(いす)にふわりと舞(ま)い降(お)ります。

「あっ!」

そこには、小さな紫(むらさき)のガラス瓶(びん)が置(お)いてありました。

(なんだろう?菜(な)の花さん、忘(わす)れ物(もの)かな?)


 あけてみると、あまい春の香(かお)りががみいちゃんの周(まわ)りいっぱいに広(ひろ)がりました。

「菜(な)の花の香(かお)りだ。菜(な)の花さん……」

菜(な)の花の上をモンシロチョウがひらひらと飛(と)んでいます。

お日様(ひさま)はそんなモンシロチョウの羽(はね)をさらに白く輝(かがや)かせました。


 みいちゃんはクッキーをいそいでおしゃれなビニール袋(ふくろ)にいれて、口も黄色(きいろ)いリボンできゅっとしばって、かわいくラッピングしました。

そしてそっと菜(な)の花畑(はなばたけ)の前へ置(お)いたのでした。


おわり





最後までお読みくださり、ありがとうございました!

何か感じることがありましたら、ご感想などいただけますと幸いです。

どうぞ宜しくお願いいたします。

そして越智屋ノマ様、素敵なイラストをありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 感想書いたと思ってたら書いてなかったー!(※よくやる事です) 読んでいて心が春のようにポカポカしました。 可愛いー! と何度脳内で叫んだことか(笑) 「てあらいやさん」とか「菜の花さん…
[良い点] 石けんを選べるのがいかにもお店らしいサービスですね。敬語を使っての接客も微笑ましいです。 バラにラベンダーにレモンに菜の花、それからクッキーまで。嗅覚を刺激してくれる作品だなと思いました…
[一言]  お店屋さん「ごっこ」ではなく、きとんと仕事としてやろうとしているところが可愛らしくも、立派ですね。  菜の花ちゃん、またいつか会えるといいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。