帰り道、スマートフォンでチャットを見ると……
帰り道でチャットアプリを見ていたら、見知らぬユーザがいる。
そのユーザを登録し、トークできるような状態にした覚えはないが、アイコンとユーザ名がはっきりと表記されていた。
普通なら、迷惑トークと判断し、ブロックにでもするところだろう。しかし、私はそれができなかった。その理由は相手のユーザ名にある。
小野寺梓……。彼女はすでに死んでいるはずだ。
小野寺 梓
“加瀬さん。私のこと、知っているかな?”
トークルームのメッセージは、これだけだった。
私は訝しく思い、しばらくメッセージを待つことにした。
約5分後
小野寺 梓
“執行猶予が付いたたんだね。おめでとう”
執行猶予……。相手は私が起こした事故のことを把握しているらしい……。
再び、メッセージを待つ
約5分後
小野寺 梓
“私の命は、どうでもよかったんでしょ?”
……。
再び、メッセージを待つ。
約5分後
小野寺 梓
“スマホゲームに夢中になって、ながら運転した結果、私は死んだよね。でも、あなたは平気で歩きスマホができるんでしょ?”
……。
再び、メッセージを待つ。
約20秒後
小野寺 梓
“いいこと教えてあげる。あなた、もう家を通り過ぎてるよ? 周りを見てごらん”
彼女の言っていることは正しかった。
そのメッセージを見ている時、私は道路に立っていた。
気づいたときには、すでに1台の車が私を跳ね飛ばしていた。