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9話 転校生

 俺はシルと一緒に『目一鬼』の巣を襲撃することで、大量の霊魂を手に入れた。

 これで、しばらく霊魂を集めに行かなくて済む。


 いつもは安全な場所で、陰陽術や霊術の練習をしているが、霊力を増やすために必要な霊魂がなくなると、仕方なく式神のシルを連れて、『目一鬼』の巣を襲撃し、大量の霊魂を集めている。


 できれば、俺は安全な場所に待っているだけで、シルに霊魂を集めてきてもらいたいが、シルは『霊魂封印』の陰陽術が使えないので、そんなことはできない。


 親に怪異の霊魂が封印された呪符を買ってもらったり、怪異と戦って霊魂を集めてもらったりするのは、さすがにない。

 できる限り、自分のことは自分でやるべきだろう。

 親に頼りっぱなしにはできない。


 自分で怪異の霊魂が封印された呪符を買ってしまえばいい、と考えたこともあったが、その呪符は高いし、所持金もないので諦めた。

 戦うことなく、安全に怪異の霊魂が封印された呪符を得られるなら、誰もが買うという単純な話だった。

 一応、俺が作った護符を売り、そのお金で呪符を買うという選択肢もあるが、護符という名の通り、自分の命を守ってくれるお守りを沢山あるからといって、減らすことはできない。


 結局、自分で怪異の霊魂を集めるしかない。






 小学三年生の二学期に転校してきた少女がいた。

 彼女の名前は、高橋たかはし佐奈さな

 父親の仕事の都合で、田舎に引っ越してきたらしい。


 転校して知らない人しかいないためか、彼女はとても不安そうしていた。


 進級してクラス替えがあればよくあることなので、彼女もすぐに学校生活に慣れるだろうと思っていた。


 男子が彼女の可愛らしい姿を見て興味を持っているし、話しかけにいくだろう。


 俺はそれほど興味を持てなかったので、彼女が困っていることがあれば助けようかなとしか思っていなかった。




 高橋さんが転校してきて、一週間。


「ねぇ、外で遊ぼう!」

 クラスメイトの一人が高橋さんに話しかけた。

「……あっ、……えっと、その……」

「早く行こうぜ!」

「そうだな!」

 同じクラスにいたもう一人が、高橋さんを誘ったクラスメイトを急かし、二人は高橋さんを置いて学校の外にボールを持って遊びに行った。


 高橋さんは非常に人見知りをするようで、クラスメイトに話しかけられても、すぐに返答できず、何を話そうか迷っているうちに、話しかけた人が我慢できずに彼女から離れてしまう。

 そんなことが何度も繰り返され、高橋さんに話しかける人がいなくなってしまった。

 

 さすがに高橋さんが可哀想だったので、俺からよく話しかけていた。


 俺が最初に話しかけたときは、数分くらい彼女の返事を待っていたが、今では高橋さんも緊張しなくなったのか、普通に会話ができるようになった。


 未だに他のクラスメイトを相手にすると、彼女の口数が減ってしまうが、友達もできたようだし、少しは成長している。


 俺には友達がいないので、彼女に負けた気がする。

 学校でクラスメイトと会話はするけど、学校が終わった後に誰からも一緒に遊ぼうと誘われないんだよなー。

 俺の普段の態度から、子供ながら一緒に遊んでも楽しくないと感じ取っているのかも知れない。


「鈴安くん、放課後は何をしてるの?」

「ほとんど、陰陽師の修行かなー」


 高橋さんから聞かれたように、放課後は陰陽師の修行ばかりしていたので、俺はクラスメイトと遊びに行ったことがなかった。


「鈴安くんの将来の夢は、陰陽師?」

「そうだね。でも、もう陰陽師として仕事をしているから、将来の夢ではないよ」

「ええっ! もう働いているの!? 陰陽師って怪異と戦うんでしょ? 危なくない?」

「危ないよ。だから、修行して少しでも強くなりたいんだ」

「……そうなんだ。ねぇ、その修行を見に行ってもいいかな?」

「いいけど、つまらないかもしれないよ?」

「それでも、いいの!」


 なんで高橋さんがそんなに陰陽師の修行を見たいのかわからないけど、見るだけなら邪魔にならないし、いいか。


「……わかったよ」

「やった!」

 彼女は瞳を輝かせて、可愛らしい笑顔を見せた。


 なぜか、とても喜んでいるようだが、本当に面白いことはないと思うよ。






「……高橋たかはし、……佐奈さな……です」

 

 このときの私はとても緊張していたので、自己紹介で自分の名前しか話すことができませんでした。


 新しい学校に転校してきたばかりで、誰も知り合いがいなくて、心細かった。


 転校してきたばかりの頃は、クラスの皆が話しかけてくれましたが、上手く話せないでいるうちに、私から離れていってしまいました。


 ぽつんと、クラスに一人で座っていても、誰も話しかけてくれませんでした。


 そんなとき、私の前に大人びた少年――鈴安(すずやす晴矢せいや)くん――が座り、話しかけてくれました。


 急に話しかけられた私は、何を話したらいいのかわからず、不安そうに彼を見ているだけでした。


 鈴安くんは笑顔を浮かべて、「無理に話そうとしなくていい。ゆっくり考えていいから」と言ってくれました。


 その言葉通り、鈴安くんは私が話すまで、ずっと待ってくれました。


 焦らなくていい、そんな気持ちになった私は、少しずつ話をすることができました。


 嬉しかった。


 お父さんとお母さん以外で、初めて会話ができたから。


 初めての、お友達を見つけた気がしたから。


 それから、私たちは毎日一緒に過ごしていました。

 鈴安くんは、とても優しくて、よく私を励ましてくれました。

 彼と一緒にいるだけで、幸せな気持ちになれます。


 クラスでも、私はもう一人ぼっちではありませんでした。

 鈴安くんがきっかけを作ってくれたおかげで、新しい友達ができて、ほんの少しだけ自信も持てるようになりました。


 そんな鈴安くんは、小学生ながら陰陽師という危険な仕事をしていました。


 鈴安くんが死んでしまわないか心配になった私は、できる限り彼と一緒にいられるように、放課後にするという陰陽師の修行にもついて行きました。


 鈴安くんは困惑していましたが、それだけ不安だったのです。

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