7話 目一鬼
更新、再開します。
お父さんが運転する車で『目一鬼』の巣窟と言える場所にやって来た。
その目的は、霊力を増やすために必要な怪異の霊魂を集めることだ。
ついでに人を食う怪異である『目一鬼』の駆除も行う。
「パパは晴矢の邪魔にならないように少し離れるけど、危なくなったら助けるから安心して戦いなさい」
「わかった!」
お父さんに俺はそう返事をして、『目一鬼』がどこにいるのか探すために周りを見渡したが、草木が邪魔をして、遠くまで見ることができなかった。
こんなに見通しが悪いと、物音が聞こえなければ『目一鬼』に近づかれても気づかないかもしれない……。
とはいえ、急に『目一鬼』が襲ってきても、百枚以上の護符を持ってきたので、数時間は無防備に攻撃をされ続けても大丈夫だ。
そんなに心配することはないだろう。
「シル、『目一鬼』がどこにいるのかわかる?」
草木で視界が悪いので、自分で『目一鬼』を探し出すのを諦め、『思業式神』の犬であるシルを頼ることにした。
シルなら地面などに残った僅かな臭いをたどり、『目一鬼』の居場所を探すことができる。
「そっちにいるの?」
『目一鬼』がいる場所まで、シルが先導してくれるようだ。
シルの後をついていくと、シルは少し遠くに見える木の上を向いて、こちらをちらっと見る。
あそこに『目一鬼』がいるようだ。
木の上に目を凝らしてみると、確かに『目一鬼』らしい姿が見えた。
『目一鬼』がいる場所が少し遠く、見にくい。
身体強化の応用で視覚を強化し、『目一鬼』を観察する。
大きな一つ目が特徴的な鬼だった。
頭には角が生えていて、その上には長い白髪が荒れていた。口には鋭い牙が生えており、刃のような爪も持っているので、戦うのが怖くなりそうだ。
大量の護符と、お父さんが近くにいることを強く意識することで、その恐怖を拭い去る。
身軽に動けるようにするため、大量の呪符と護符が入っているバックパックを地面に置いた。
呪符と護符は腰に巻いたポーチと、衣服のポケットにもあるので問題ない。
俺はポーチから、『霊力弾』の呪符を取り出して構えた。
「シル。あいつの注意を引きつけるために、あそこから回り込んで、後ろから『目一鬼』に目立つように近づいてくれ。『目一鬼』が後ろを向いた瞬間、俺が『霊力弾』を当てる」
小声で指示を出した俺の言葉に、シルが頷いた。
シルは足音を立てずに『目一鬼』の後ろに回り込んだ。
そして、シルはわざと大きく足音を立てながら、吠えた。
その大きな足音と鳴き声に反応した『目一鬼』が、俺に背中を向けた。
その瞬間、俺は構えていた『霊力弾』の呪符を放った。
一気に加速した『霊力弾』の呪符は、『目一鬼』の背に当たった。
背中に大きなダメージを受けた『目一鬼』は、その勢いのまま地面に倒れた。
そして、俺が続けて投げていた『霊魂封印』の呪符が『目一鬼』に触れ、『目一鬼』の霊魂を呪符に封じ込めた。
それを確認したら、思わず安堵の溜息が漏れた。
普段、戦っている悪霊と比べられないくらい緊張した。
やっぱり、こういう有利な状況でしか戦いたくない。
死ぬのが怖いからな。
この調子で、俺はシルと一緒に『目一鬼』の霊魂を集めた。
お父さんが周囲の警戒をしてくれたので、戦闘に集中できた。
『目一鬼』の霊魂を十分に集められたが、俺に達成感を味わう余裕はなかった。
身体強化を使わないと、動けないくらい疲れたので、早く家に帰りたかった。
「早く帰りたい!」
「そうか、疲れたか。晴矢が頑張ってくれたおかげで、あと少し『目一鬼』をお父さんが減らしたら、帰ろうか。それまで休んでいてくれ」
そう言って、お父さんは走り去っていく。
お父さんが戦う姿が気になったので、シルの上に乗り、お父さんの後を追ってもらった。
お父さんの後ろ姿が見えた。
お父さんは『目一鬼』を見つけ、疾走しながら抜刀し、『目一鬼』を狙っていた。
静かに周りを見回し、『目一鬼』が他にいないことを確認した。
そして、お父さんは身体強化を用いて、一気に跳び出し、『目一鬼』に迫った。その足は地面を強く蹴り、力強く加速していた。
お父さんは『目一鬼』に霊刀を振り下ろす。
『目一鬼』は身をかわそうとしたが、刀はその動きに追従し、『目一鬼』を両断した。
お父さんは『目一鬼』を倒した後、霊刀を鞘に收めた。
……刀を持って戦う姿は、格好いいなー。
正直、そんな戦い方に憧れないかといったら、嘘になる。
でも、怪異に近づくのは怖いし、危険だからなー。
身の安全のためには、諦めるしかない。
実際にやるとしても、護符を大量に身につけ、俺の仲間が見守っていて、俺より弱い怪異が一匹だけいる状況でないと、挑戦する気が起きない。