５話 霊力を増やす方法
――転生して六年。
俺は小学校に入学した。
陰陽師になるために必要な技術である霊力譲渡、霊力穴蓋、身体強化などの総称として、霊術がある。
霊術は陰陽術と違って、霊力を操るだけで効果を発揮するものだ。
陰陽術は呪文を唱えなくても使えるが、霊力操作をしながら、陰陽術の構築と制御が必要になる。
そんな霊術と陰陽術の完成度を高める努力を毎日欠かしていなかった。
他にも呪符を作ったり、呪符の精密操作の練習をしたりしているので、俺は同年代の陰陽師の中でかなり強い方だと思っている。
といっても、俺とは違って相手は正真正銘の六歳だから、俺の方が強いのは当然だ。
自慢にはならない。
将来、大人になったときも、俺の方が強いままでいられるように努力する、それだけだ。
そんな努力も、俺にとっては楽しいことだから苦にならない。
俺の前世に陰陽師や退魔官なんていなかったから、陰陽術や霊術を使うのは特別感があり、面白い。
だから、俺は陰陽術を自分から学びたいと思える。
でもこの世界では陰陽師なんて珍しくないので、陰陽師の家系の子供は学校の勉強のような感覚がするらしく、陰陽術を自分から学びたいと思う子供は少ないようだ。
この陰陽術に対する意識の差と幼児の早い時期から陰陽術を学べることが、転生した俺の強みなのだろう。
なので、陰陽術の鍛練を疎かにすると、すぐに凡人陰陽師になってしまう。
そんな未来は避けたい。
しかし、陰陽師の修行に集中しすぎてしまい、俺には友達がいなかった。
同年代の六歳の子供との接し方がわからなかいことも、友達が作れない理由の一つだ。
中学生くらいまで友達ができないことも覚悟しておくべきか……
そんな悲壮な覚悟をしながら小学校の廊下を歩いていると、悪霊に取り憑かれた子供を見つけてしまった。
悪霊は保育園だけでなく、小学校にもよくいる。
悪霊は人間の負の感情――怒りや憎しみ、妬みなど――を糧にして成長するので、保育園児より豊かな感情を持つ子供が多い小学校にいる悪霊は、保育園にいる悪霊より強い。
だから、この悪霊は人間に憑依できるくらいの力を得られたのだろう。
良い機会だ。
陰陽師のお母さんが新しく教えてくれた『悪霊祓い』と『霊魂封印』の陰陽術を試そう。
俺はポケットから『悪霊祓い』と『霊魂封印』の呪符を取り出す。
ちなみに、身を守るための『結界』は、自分で陰陽術を使う必要がある呪符ではなく、身の危険が迫ったときに自動で効果を発揮する護符を持ち歩いていた。
不要なときは護符の陰陽術が発動しないので、札を作る霊力と手間が少なくなる。
俺が『悪霊祓い』の呪符を投げると、呪符は悪霊に憑依された子供を目指して飛んでいき、回避されることなく命中した。
すると、悪霊が憑依していた子供の体から追い出された。
子供の体から追い出された悪霊は、何が起こったのか理解できずに呆然としていた。
その隙に、俺は手にしていた『霊魂封印』の呪符を投げた。
呪符操作を行い、悪霊の背後に回り込ませた呪符は、悪霊に気づかれないまま当たった。
呪符が触れたことで、悪霊は攻撃されたことに気づいたようだが、もう遅い。
『霊魂封印』の呪符によって、悪霊の霊魂が呪符に封印され、さっきまで悪霊がいた場所に呪符だけが残った。
俺は悪霊の霊魂を封じている『霊魂封印』の呪符を手元まで引き寄せた。
この呪符があれば、やっと俺の霊力を増やせる！
今まで、霊力が足りないから呪符や護符を作る回数を抑えていた。
呪符を作れる回数が増えるのは、かなり嬉しい。
それに、霊力を増やすことができれば、今の俺の霊力では作れなかった強力な呪符が使えるようになる。
それが待ち遠しくて、小学校の授業が終わって、すぐに帰宅した。
悪霊に取り憑かれていた子供は、夢でも見ていたかのように何も覚えていなかったので、適当に誤魔化しておいた。
いそいそと悪霊の霊魂を封じた呪符をテーブルの上に置き、俺は『霊魂吸収』の陰陽術を使う。
この術は、呪符に封印した怪異の霊魂を術者が吸収して、術者の霊魂を成長させるものだ。
霊魂が成長すると、霊力は増える。
しかし、『霊魂吸収』という術は、使用難易度が高い。
俺の陰陽術の技量を見てくれたお母さんが、ようやく教えてくれたばかりの術だ。
年齢が十二歳(小学六年生の誕生日)になるまで霊魂は成長する。
体の成長期と似たように霊魂の成長期があるわけだ。
六歳の時点で『霊魂吸収』ができる技量を身につけた俺は、あと六年くらい霊魂を成長させ、霊力を増やすことができる。
一般的に『霊魂吸収』ができるようになるまで、陰陽術の経験が五年くらい必要だと言われている。
陰陽師の家系では、陰陽術を理解してくれる六歳くらいから、陰陽術を学び始めさせる。
親が子供に陰陽術を教えるのが早くても、子供は理解できないし、なかなか興味を持ってくれない。
そして、子供が陰陽術の練習を始めてから五年経ち、『霊魂吸収』ができるようになった頃には、霊魂の成長期が残り一年くらいしかないので、あまり霊魂を成長させることができず、霊力も増えない。
また子供の代わりに親が怪異を呪符に封印して渡したり、怪異が封じられた呪符を買ったりして、子供に大量の霊魂を短期間に吸収させて、霊力を増やすこともできない。
暴食が体に悪いように、霊魂を吸収しすぎても悪影響がある。
霊魂を成長させて霊力を増やすには、適量の霊魂を時間をかけて吸収しないといけない。
俺は霊魂の成長期が他の陰陽師より五年も長いので、途轍もなく有利なのは明らかだろう。
この霊魂の成長期に、他の陰陽師との差を大きく広げることができれば、他の陰陽師とは隔絶した霊力の持ち主になれる。
それくらい霊力があれば、強力な式神を何体も使役し、怪異と戦わせることができるので、俺は安全な位置にいるだけで、式神が怪異を倒してくれる。
――そんな理想的な戦いができる陰陽師になりたい。
そのためには、怪異と積極的に戦い、霊魂を吸収する必要があるのだが……
……なるべく危険な目に遭いたくない。
理想の前にある大きな壁に気落ちしながら、俺は今後の計画を立てていくのだった。
