第7話 最弱の能力
アカルディアの王都に到着すると俺達は馬車に乗り換えすぐに王城へと案内された。
ここに来るまで外を見てみたが中世と近代化が混じったような街並みだったな。似たような石造建築の建物が続いている所もあれば日本の住宅街や高さはないがビルのような物も建っていた。
「これからリウトさん達はアカルディアの王様や王女、貴族の方々に会って頂きます」
引き続き案内をしてくれているアリアちゃんから今後の予定を聞かされる。
「滅茶苦茶緊張するメンツだな。これは粗相をしたら打ち首にされるじゃないか?」
元の世界にいた頃はそんな偉い人と会う機会がなかったからどうしても緊張してしまう。
「そ、そんなことありませんよ」
「それならアリアちゃんは何でどもっているの?」
「本当に大丈夫です⋯⋯たぶん」
この娘たぶん言っているよ。アリアちゃんはあまり裏表がなさそうだからこれから行く玉座に要注意人物がいるのは間違いなさそうだ。
そして俺達は王城の長い廊下を進んでいくと黒塗りの重厚な扉が眼にはいる。
この奥に偉い人達がたくさんいるのか⋯⋯何かトイレに行きたくなってきたぞ。
「それでは参りましょう」
しかし今更トイレに行きたいと言えず兵士が扉を左右に開いてしまう。
俺達はアリアちゃんに続いて玉座の間に入る。中には30人ほどの人がいて中央には玉座に座る中年の男性が、そしてその両隣には俺と同じくらいの年の女の子と肥った男性が立っていた。
おそらく座っているのが王様で隣にいる女の子が王女、もう1人の肥った人は宰相ってところか。
俺達はアリアちゃんに習って王様? の前に行き片膝をつく。
「異世界からきた救世主達よ。私がこの国⋯⋯アカルディアの王⋯⋯カーディフ・フォン・アカルディアだ」
アリアちゃんがチラリとこちらに視線を送ってきた。これは自己紹介しろということかな。
「俺はリウトです」
「コトネだよ」
「シュウヤだ」
俺が名前を告げるとコト姉とシュウヤが後に続く。
「詳しい詳細はクロードから聞いている。仲間の1人をザイードの者に拐われたとか⋯⋯元の世界に帰ることも含めて私達に任せてほしい。もちろんその対価として精霊機に乗って戦うことを強要しないつもりだ」
クロードさんと上層部の人達が言っていることが食い違っていたらと少し心配していたがどうやらそれは杞憂に終ったようだ。国のトップの人が公の場で宣言してくれたから覆ることはないだろう。
「国王様! 我が国は異世界からの救世主を3人手に入れることができました。これを遊ばせておくことはないかと」
この国の人は信用出来そうだと思ったのも束の間、国王の隣にいる肥った男が大きな声で意見を述べてきた。
「だが宰相よ彼らはまだ少年の身⋯⋯他国との戦争に出すなど⋯⋯」
「20年前の救世主も彼らと同じくらいの年齢だったはず⋯⋯この好機を逃す手はないかと」
おいおい⋯⋯話がどんどん変わってきているぞ。この宰相とか呼ばれている男はまさか俺達を戦争に駆り出すつもりか!?
「確かに采配殿の言うとおりだ」
「救世主様が我が軍に力を貸して下されば百人力です」
「だが国王様のお考えは⋯⋯」
周りの貴族達も俺達を戦わせることに賛成の意見が多い。
冗談じゃないぞ! もし俺達を戦いの道具として使うならアカルディアを出ることを検討しなければならない。だがこの国を出て行く所なんて⋯⋯エルドラドに知り合いなどいない。俺達には戦うしか選択肢がないのか。
「現在我が国の領土は他国に脅かされています。このままでは国民を護ることは不可能です。これも天の采配と思いどうかご決断を」
貴族達の声が聞こえたからなのか宰相はここぞとばかりに国王様に言葉を畳み掛ける。
「ええい! そのようなことは認められぬ! 彼らが自分の意志で戦うならまだしも我らの都合で戦争に駆り出すなど言語道断! 私の命令に従えぬものは前に出ろ!」
国王様が一喝すると玉座の間は静寂を取り戻す。どうやら誰も国王様の意見に反対する者はいないようだ。
ただ宰相だけは言葉にしなくても納得していない表情を浮かべていた。けれどこれで俺達は戦いに行かなくて済むということだ。
「わかりました⋯⋯ですが救世主達の能力を測定することは許可して頂けますか?」
「うむ⋯⋯よかろう」
能力の測定? これはヘカテリオスでアリアちゃんが話していた属性、プラーナ、魔力のことか。
能力を測定することに異議はない。俺も自分がどんな属性を持ち、どんな魔法が使えるのか楽しみだからだ。
地球から召喚された者はプラーナ、魔力が高いという。さっきアリアちゃんに見せてもらった魔法のように元の世界ではできないことをやれると思うとワクワクが止まらない。
「では能力を測定する魔道具をこちらへ」
宰相が命じると玉座の間の扉が開き、兵士達が人の身長ほど大きな水晶を運んできた。
「救世主よ! この水晶に触れるがよい!」
宰相が声を高々と上げ宣言する。
さっきから感じていたがこの宰相の偉そうな態度に無性に腹が立つ。それに俺達を戦争の道具にしようとしていたし。
「触れると属性、プラーナ、魔力が表示される。まずはそこの男からやれ」
最初に指名されたのはシュウヤだ。
シュウヤは宰相の言葉に何も言わず、スタスタと歩き水晶に手を掲げる。
「うわっ!」
「きゃあ!」
すると水晶から眼が開けられないほどの黒い光が発せられ俺とコト姉は思わず声を上げてしまう。
「どうやらシュウヤ殿は闇の属性をお持ちのようだ」
「闇属性を持つものは攻撃力に優れていることが多い」
「これは期待できそうな逸材ですな」
周囲にいる貴族達がざわめき始める。
シュウヤは闇属性か⋯⋯男なら一度は憧れる属性だな。
そして黒い光が収まると水晶に文字が浮かんでいた。
プラーナ⋯⋯16,521
魔力⋯⋯12,623
「おお! プラーナ魔力共に5桁を越えているとは!」
「さすがは救世主様だ!」
周りの反応を見るとシュウヤはとても高い数値を出したことがわかる。
しかしシュウヤは周囲の反応とは裏腹に能力を測定し終えても涼しい顔をしていた。
おそらく本人は元の世界に帰ることを考えていて他人の声など入っていないのだろう。
シュウヤはカノンちゃんのことをとても大切にしていたから無理もない。
「次はそこの女だ」
そして宰相が偉そうにコト姉に向かって指示を出す。
コト姉は一瞬ムッとしていたが相手にしても仕方ないと思ったのか水晶に向かって手を伸ばす。
すると水晶は青色に輝き一瞬でこの部屋が水で埋まってしまう。
「ちょ、ちょっと待て! 溺れるんじゃ!」
「リウトさん大丈夫です。これは水晶が生み出した幻ですから⋯⋯その証拠に息をすることができるでしょ?」
「あっ⋯⋯本当だ」
俺はアリアちゃんに言われてパニックから立ち直ることができた。それにしても部屋全体が水に埋まったということはコト姉の属性は水なのかな?
「水属性か⋯⋯これもすばらしい」
「これはプラーナと魔力値も期待できそうですな」
周りの貴族が感嘆の声を上げている。
どうやら俺が思っていたとおりコト姉は水属性のようだ。
そして部屋に溢れた水が消えていくと水晶に文字が浮かび上がる。
プラーナ⋯⋯11,841
魔力⋯⋯13,232
「おお! またプラーナ値、魔力値共に5桁を越えているぞ!」
「さすがは地球からきた救世主様だ!」
「これはもう1人の青年にも期待できそうですな」
コト姉は巨大な魔道具の水晶で属性とプラーナ、魔力を測定しこちらに戻ってくると周りの騒ぎを見て照れた表情をしていた。
次は俺の番⋯⋯地球から召喚された者はプラーナと魔力がとても高い。現に俺の前に測定した親友のシュウヤと姉のコト姉は凄い値を出したようだ。
俺は期待を胸に能力を測定する水晶に手をおく。すると水晶から辺り一帯を覆う白い光が溢れる。
「ま、眩しい!」
「こ、このまばゆい輝きは!」
「かつてこのエルドラドを救って下さった救世主様と同じ⋯⋯」
「ひ、光の属性!?」
それってすごい属性なんじゃ――。
俺の心が高揚していく⋯⋯これはプラーナと魔力値もかなり期待できるんじゃ⋯⋯。
そして玉座全体を照らした光が収まるとプラーナと魔力の数値が水晶に写し出されていた。
プラーナ⋯⋯5
魔力⋯⋯5
先程コト姉やシュウヤが出した値とは程遠い⋯⋯というかこれって最弱の数値なんじゃ⋯⋯。
この後俺玉座の間は騒然となり、俺を見る宰相や貴族達の眼が期待の眼差しから失望の眼差しに変わるのに時間はかからなかった。
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