第5話 異世界エルドラド
本当に戦場にいたらブルブル震えることしかできません。
俺達はガルガッドに乗って荒野の東側へと向かっている。すると前方に大きな船? のような物が見えてきた。
「すげえ!」
「大きいね!」
俺とコト姉は感嘆な声を上げるがシュウヤは浮かない顔をしている。その理由はわかるが今はこの世界についてフローラさんの話を聞くしかない。
ガルガッドがその船に近づくと益々大きく見える。黒色に赤のラインが入り大砲のようなものがいくつもついていて船にしては高さがなく平べったい感じがした。
ただここは陸上だ⋯⋯これは陸上戦艦という奴なのか?
そしてガルガッドは戦艦の後ろに周り、機体を置くデッキのような場所へと入る。
広いな。少なくともここのデッキにはガルガッドが10機以上は入りそうだ。
「それではこちらへお願いします」
俺達はガルガッドの手から降りてフローラさんの後についていくと一つの部屋に連れていかれた。
部屋の中にはテーブルと椅子が並べられており会議室のように感じる。
「申し訳ありません。今艦長が来られますので少々お待ち下さい」
艦長? ということはこの船の1番偉い人ってことか。
俺達は椅子に座って艦長さんを待っているが何か落ち着かずソワソワしてしまう。
そしてそれから1、2分ほど時間が経った後部屋のドアが不意に開く。
「失礼するぜ⋯⋯何でもフローラ並みの美人がいるらしいじゃねえか」
「か、艦長~そんなこと言ったらセクハラです~」
部屋に入ってきたのは2人⋯⋯艦長帽を被った中年の男性と⋯⋯。
「えっ?」
俺はもう1人の人物を見て思わず声を上げてしまった。
「どうした? まさかこいつを見て驚いたのか?」
「い、いえ⋯⋯そんなことは⋯⋯」
中年の男性の言うとおりもう1人の人物を見て俺はビックリした。なぜならこの場には似つかわしくないほどの幼い女の子だったからだ。その姿は明らかにユズより下の年齢に見えた。
美少女に見えるが両サイドをゴムで止めている髪型がいっそう幼さを出している。
けど艦長ぽい人と来るってことは実は見た目通りの年齢ではないのでは?
俺はそんなことを頭に浮かべながら相手の出方を待つ。
「あ~⋯⋯異世界からの救世主諸君。私はこの船⋯⋯ヘカテリオスの艦長をしているクロードだ。そして横にいるちっこいのが副艦のアリアだ」
「ちっこいは余計です!」
えっ? ちょっと突っ込みどころ満載なんですけど。救世主って何? それにこのどうみてもユズより年下の人が副艦だって!?
「一応先に言っとくが実はこう見えて年上のロリババアだってことはねえから。年相応の見た目だぞ」
「何ですかその紹介の仕方は!」
アリアさん⋯⋯いやアリアちゃんはクロードさんに対して頬を膨らませて怒っている。
なるほど⋯⋯確かに年相応な感じがするな。
とりあえず色々聞きたいことはあるがこちらも自己紹介をするか。
「俺はリウト」
「私はコトネ⋯⋯リウトちゃんのお姉ちゃんだよ」
「⋯⋯シュウヤ」
まだ目の前の相手のことが信用できないので俺は最低限のことしか言わない。
それにしてもシュウヤのことが心配だ。フローラさんからここが異世界だと聞いて顔色が悪くなっている気がする。何で悩んでいるかはだいたい想像がつくけど⋯⋯。
「そうか⋯⋯大変だったなお前ら」
これまで少しおちゃらけた感じのクロードさんだったが少し真面目な表情をして語りかけてきた。
「そんなことよりあなた達に聞きたいことがある!」
シュウヤは語気を荒げてクロードさんに話しかける。いつも無口で冷静なシュウヤとは思えないほどだ。
「話せることなら答えよう」
「フローラさんはここが地球ではなく異世界と言った⋯⋯僕達は元の世界に帰ることができるのか!?」
シュウヤの言葉にクロードさん達は顔を伏せる。
まさか地球に帰ることができないのか!? ユズや父さん母さん、友人とはもう⋯⋯。
「⋯⋯できるかもしれないしできないかもしれない」
「何ですかそれは!」
シュウヤが再度声を荒げる⋯⋯だがそれも無理はない。クロードさんの答えはまるで禅問答のようだ。
「そうだな。君達の元いた場所への帰還について⋯⋯まずはこの世界の歴史を話させてもらおう」
そう言ってクロードさん達も席に着く。どうやら長い話しになりそうだ。
「あ~確か千年前くらいに邪の精霊機を持つ者にこの世界は滅ぼされかけてな。その時世界を救ったのが異世界からの来訪者ってわけだ」
「クロード艦長滅茶苦茶適当ですね。突然邪の精霊機なんて言われてもわからないですよ」
俺はアリアさんの言葉に激しく同意する。
「いいです。リウト様達には私から説明しますから」
「それなら初めからやってくれ」
「艦長が話し始めてしまったから!」
何やら2人の間でイザコザが起きてしまったがとりあえず俺達に取っては死活問題なので早く話を始めてほしい。
「コホン⋯⋯それでは僭越ながらここは私⋯⋯アリアから説明させて頂きます。まずこの世界エルドラドには地球とは違って気の力、プラーナと魔法の力、魔力が満ち溢れています。今回リウト様達は誰かが召喚の儀を行ったことによりこの世界に呼び寄せられました」
「誰かって誰ですか?」
「それはこちらでも調査していますが⋯⋯ただ召喚の儀を行ってもこの世界のどこに転移するかわからないと聞いています」
「なぜ俺達が召喚されたんだ?」
「それは地球の方はプラーナと魔力が高く⋯⋯リウトさん達をすぐに保護できたのもこちらで空間の歪みと高いプラーナ値と魔力値を4つ観測出来たからです」
そんな理由で俺達はエルドラドに⋯⋯これはもう一種の誘拐じゃないか。
「そしてこの世界には精霊機というものが存在し、リウトさん達がこの戦艦まで乗ってきたガルガッドもその一つになります。とは言ってもガルガッドは精霊機のレプリカで本物の精霊機は特別な属性を持ちこの世界に32機しかいません。そしてその32機の精霊機は高いプラーナと魔力がないと動かすことができないためリウトさん達がこの地に召喚されたと考えられます」
あのガルガッドも凄く強そうに見えたけどその32機の精霊機はさらに強いということか。
「それでこの後がクロード艦長の話しの続きになるのですが、1882年前に邪の属性を持つ精霊機が悪き竜を呼び寄せ世界は滅びかけました。その時に世界を救ったのが地球から召喚された人だったのです」
さっきクロードさんは千年前って言っていたけど随分違うな。
「そして20年前に悪き竜が復活し、地球から召喚された方がその悪しき竜を退け救世主と呼ばれることになりました」
「えっ? ちょっと待て⋯⋯まさか俺達に精霊機に乗ってその悪しき竜を倒せっていうのか? 俺達ただの高校生だぞ」
俺はコト姉とシュウヤに同意を求めるが二人とも神妙な顔をしている。
「う~ん⋯⋯けどアリアちゃんが言ってることに身に覚えがあるかも。お姉ちゃんこの世界に来てから身体の調子がおかしいの」
「僕もだ⋯⋯身体の内から沸き出る力というか⋯⋯地球にいた頃には感じなかったものだ」
「マジか? 俺は何も⋯⋯」
どういうことだ? コト姉とシュウヤのいう力を俺は何も感じない。
「だが君達が優れたプラーナを持っているのは既に実証済みだ」
ここで黙っていたクロードさんが口を開く。
「クロードさんどういうことですか?」
「君達がこの艦に乗ってからヘカテリオスの航行速度は普段の2倍は出ているからな❗」
「皆様のプラーナと魔力については王都に到着したら測定できます。それと悪しき竜はいませんから安心してください⋯⋯ただ17年前に悪しき竜を倒した6人の英雄のうち3人が反乱を起こし、その時は結界に閉じ込めることに成功しましたが⋯⋯」
「まさかその人達と戦うために俺達は⋯⋯」
「召喚した人は誰かわかりませんがおそらくは⋯⋯今この世界は元英雄の国、領土を広げようとしている国、中立を保つ国、そして私達のように争いを止めようとしている国に分かれています。たぶん召喚の儀を行った人は自国に救世主を取り込むためあるいは戦火を広げるために強い力を求めていたのかと⋯⋯」
どちらにしろ冗談じゃない。悪しき竜にしろ人間にしろ俺達に戦えっていうのか?
「そしてリウトさん達が気になっている地球への帰還方法ですが私達も詳細まではわかりません。ですが17年前に悪しき竜を倒した救世主様は地球へ帰還したと聞いています」
一応地球に帰る方法はあるというのか。
「アリア⋯⋯説明ご苦労。ここからは俺が話をする」
クロード艦長がアリアちゃんを遮って俺達と向かい合う。
「地球へと帰還する方法は必ず見つける。だからこのまま俺達に付いてきてほしい」
「それは俺達に戦えってことですか?」
「こちらから戦いを強要することはしない。ただ他国に行かれて俺達の敵になるのは勘弁してほしいからな」
なるほど⋯⋯俺達は一応戦力になるから荒波を立てず友好関係を結びたいということか。それにもしかしたら自分達になにかあった場合地球に帰る方法が無くなるからいざという時は戦ってくれるという打算もあるのかもしれない。
「ザイードならともかくダルフォンの奴らに捕らえられたら強化催眠をかけられ無理矢理戦場に駆り出されることは間違いないからその事態はこちらとしても避けたい」
ダルフォンとは戦場でフローラさんが口にしていた国か。クロードさんが言っていることが正しければ俺達はアカルディアに拾われて良かったということなのか。
俺はコト姉とシュウヤに目配せすると2人は頷いたので言葉を発する。
「わかりました⋯⋯俺達はクロードさん達に付いていきます」
こうして俺達は元の世界へ戻る方法をクロードさん達に託し、ヘカテリオスでアカルディアへと向かうのであった。
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