第3話 異世界転移は突然に
いきなり荒野にいたら何を疑いますか?
目の前には荒野が拡がり時折強い風が吹いて砂埃が舞っている。
「えっ? ここどこ?」
俺達は道場にいたはずだ。たしか光の玉が広がりそして眼も開けられない状況になって気がついたら――。
まずは一緒にいたコト姉達を確認するために周囲に目を向けた。するとすぐ近くに呆然と立っているコト姉達を見つけ俺は一安心するがユズがいない。とても信じられない話だがあの光が俺達をこの荒野に移動させた可能性が高いと思う。あの時声は聞こえたが少なくとも道場の中にはユズはいなかった。だからユズは自宅にいると思いたいが――。
「ね、ねえ⋯⋯これは夢?」
サヤはあまりに現実離れした状況に声が震えていた。
その気持ちはわかる⋯⋯だがこれは現実だ。目の前の景色、風の匂い、肌寒い感覚⋯⋯これは夢では味わうことができない。それにシュウヤに目を向けると深刻な表情をしているから間違ってはいないだろう。
「わ、わかった! リウトが私達を薬で眠らせて、この助けを呼んでも誰もいない場所で如何わしいことをするつもりなのね!」
「えっ! そうなのリウトちゃん」
「そんなわけあるかあ!」
俺はサヤの血迷った言動を激しく否定する。さすがのサヤもいつもと様子が違い慌てているな。
「そ、それもそうね⋯⋯ごめん。あまりに現実離れしたことが起きて気が動転しちゃったみたい」
「そうだぞ。もし本当に決行するならシュウヤを連れてくるわけないだろ? 俺はハーレムが好きだからな」
「前言撤回! さっき謝った私を返して!」
どうやらいつもどうりのサヤに戻ったようだ。このよくわからない状況⋯⋯メンタルがやられてしまうと心が病み負の連鎖にはまりそうだからな。
「ここ⋯⋯何にもないね」
コト姉の言うとおり360度見渡しても人工的な建物は皆無だ。今の日本に山奥でもないのにここまで何もないなんてことあるのか? まさか俺達は外国に連れてこられた?
「スマフォの電波も入ってないな」
シュウヤは制服の胸ポケットからスマフォを出し見ている。
幸いと言っていいのか手合わせの時俺が奇襲をかけたため俺達は制服姿のままだった。
「今の日本で電波が入ってない場所なんてあるのか?」
俺はシュウヤに問いかけつつ自分のスマフォを確認するがやはり電波は入ってなかった。
コト姉とサヤもスマフォを確認しているが2人とも首を横に振る。どうやら俺達と同じ結果のようだ。
となるとここは外国か? あの光で俺達は気絶してここに運ばれてきたと考えるのが普通か。いやそれはおかしい⋯⋯スマフォの画面を見てみると日付も当日のままだし時間も16時03分⋯⋯つまりシュウヤと手合わせをしていた時からそんなに時間が経っていない。
そうなると俺の秘められた力が解放され皆をここまで運んでしまったのか⋯⋯なんて現実逃避している場合じゃないな。とりあえず今は行動に移した方が良さそうだ。
「ここにいてもしょうがない。全員で周りに何があるのか少し探索してみるか」
俺の言葉にみんな頷く。
本当は余計な体力を使わないために誰か1人が斥候役として辺りの調査を行うのが望ましいが、この異様な事態で何が起こるかわからないからなるべく固まって行動した方が良いだろう。
だがどこへ行こうか⋯⋯周囲には荒野と岩しかない。シュウヤは元々口数が少ないがコト姉とサヤはこの状況に不安を覚えているのかおとなしい。とても意見を聞けるような状態ではなかった。
「ちょっと待ってくれリウト」
しかしそんな中シュウヤが突如声を上げる。
「何か⋯⋯聞こえないか?」
俺には何も聞こえない⋯⋯いや⋯⋯耳を澄ませていると何か車が接近しているような音が――。
「聞こえるな⋯⋯どこからだ?」
「あっちじゃない?」
サヤは東側を指差すが大きな岩がありその向こう側は見えなかったので俺達は移動する。
すると岩の向こうから何かがこちらに接近していた。
「リウトちゃん⋯⋯あれなんだろうね」
コト姉があれと言った理由がわかる。迫ってくるものが何と言えばいいのか表現ができないからだ。
二足歩行で移動しているそれはまるでテレビアニメに出てくるロボットのように見える。
しかも一機だけではなく複数機はいるようだ。ロボットの形状は2つ目で一本の角がありスリムなボディで片手にライフルのような物を持っている。そして先頭を走っている機体の色は青で他は茶色だ。青色の機体が隊長機という奴なのか?
「リウト⋯⋯向こうからもロボットが来ている」
俺達はシュウヤが指差す西側の方に視線を向けると背中にキャノン砲がついている四足歩行の虎? のような機体が近づいて来ていた。
「なんだなんだ、いったい何が始まるんだ」
「地球にあんなロボットいた?」
「お姉ちゃんも初めて見る⋯⋯日本で秘密裏に作られていたのかな?」
サヤとコト姉は突然現れたロボット達を見てさらに混乱している。無理もない⋯⋯よくわからない所に連れてこられてあんなロボットを見せられたら夢だと普通は思うはずだ。
あの光の玉、スマフォの電波がない、見慣れぬロボット⋯⋯考えたくはないが俺達は別世界に来てしまったんじゃないか⋯⋯はは、何言ってるんだ俺。そんな非現実的なこと起きるわけないじゃないか。
「とりあえず助けを求めよう⋯⋯ここにいてもしょうがないからな」
「リウトの言うとおりだ」
俺達は声を出し東側と西側にいるロボット達に向かって声を上げ手を振る。
「おおーい!」
「止まって~」
すると両方のロボット達が俺達に気づいてくれたのか進路を微調整しこちらに向かってきた。
これでこの荒野で野垂れ死ぬことはなくなったか。だがあの機体に乗っている人達が良い人だとは限らない。何かあったら俺とシュウヤでコト姉とサヤを護らないと。
だが事態は最悪の方向へと進んでいく。
東側の二足歩行のロボットはライフルを構え、西側の虎の機体は背中のキャノンを発射体勢に入る⋯⋯両軍の照準は俺達の方へと向いていた。
そして大きな音と共に両軍から青白いビームのようなものが放たれ戦いが始まる。
「お、おい! ちょっとまって人がいるんだぞ!」
しかし俺の叫び声は爆発音にかきけされ、両軍の戦いは続けられていく。
「きゃあっ! リウトちゃん!」
「リウト!」
コト姉とサヤが戦いの恐怖からか俺に抱きついていくる。2人は俺達が護らなきゃ! だが正直あの機体が放っているビームは5メートルはあろう岩をあっさりと破壊する威力があるため俺に何か出来るのか?
いや今は考えている暇はない! とにかくこの場から離れないとビームにやられて死ぬだけだ。
「ここから逃げるぞ!」
俺はみんなにこの場を離脱するよう指示をすると3人とも賛成の意を示す。
「ああ」
「う、うん⋯⋯」
「わかった」
東側には二足歩行のロボット⋯⋯西側には虎の形をした機体がいるため俺達は北側へと走り出す。
くそっ! 何でこんなことに!
何故俺達がここにいるか、何故戦いに巻き込まれるのか文句を言いたいことは山ほどあるが今はこの場から逃げないと⋯⋯。
俺達は全速力で走るとなんとか両軍の間から逃れることができたのも束の間、青色の二足歩行のロボットが俺達の行く手を遮る。
「こいつ⋯⋯俺達を殺す気か?」
「リウトちゃんどうしよう⋯⋯」
俺とシュウヤはコト姉とサヤを護るため前に立つが⋯⋯。
でかい! この二足歩行のロボットは20メートルくらいの大きさがあり、動きも素早い。ここは荒野のため隠れる所もないので正直詰んでる。
あの手に持っているライフルを向けられたら俺達は為す術もないだろう。
緊張感が辺りに漂う。
この青い機体に乗ってる奴は俺達をどうするつもりだ? いやそもそもこの機体を動かしているのは人間なのか?
俺は青い機体を睨み付け、その一挙手一投足を注視していると青い機体の胸部の部分が開きヘルメットを被っている奴が上から降りてきた。
顔は見えないが身体の凹凸のラインからして女か?
女という概念が合っているかわからないがとりあえず俺達と同じ人間のように見える。
「私達はあなた達に危害を加えるつもりはありません。私に着いてきてくれませんか?」
女性と思わしき声で俺達に危害をを加えないと言う⋯⋯信じていいのか?
だかいきなり荒野に移動させられ頼る相手もいないのは事実。しかしもしこの女性のアジトに連れていかれ、油断した時にコト姉やサヤが人質にでも取られたらアウトだ。俺達は返答に迷っているとヘルメットを被った女性はさらに言葉を紡ぐ。
「あなた方がこことは違う世界から来られたことは知っています」
「なん⋯⋯だと⋯⋯」
今この女性は何を言った? 違う世界だと⋯⋯。
「そ、それはどういうことですか?」
俺は少し声を震わせながら女性に問いかける。
ここは地球じゃないというのか!? それと何故俺達がこの世界の者じゃないと知っている!?
「いきなりの事態で戸惑うとは思いますが、まずは安全な場所へとお連れします」
突然のことで信じられないが安全な場所へ移動という意見は賛成だ。
二足歩行のロボットと虎の機体の戦いはまだ続いているのだから。
「このままここにいるのは危険だ。とりあえずこの人に着いて行こうと思う」
「そうね。私も賛成だわ」
「リウトちゃんがそういうならお姉ちゃんに異論はないよ」
「みんなに任せる」
反対意見はない。ならば逸早くこの危険な場所から離れるのが先決だ。
「わかりました。あなたに着いていきます」
俺達が了承すると二足歩行のロボットはしゃがみこちらに手を差し出してくる。
「ではこのガルガッドの手にお乗り下さい」
ガルガッドとはこの二足歩行のロボットのことか。それに今自動で動いたよな?
だが今はそんなことを気にしている暇はない。
まずはシュウヤが手に乗りそしてコト姉を引っ張り上げる。そしてその後俺がガルガッドの手に乗りサヤを引き上げるため腕を伸ばした時⋯⋯。
戦場の流れ弾がこちらに向かってきた。
俺は慌ててサヤの手を掴もうとするが届かず戦場から飛んできたビームが地面に着弾し、けたたましい音と共に爆風が巻き起こる。そしてその衝撃でガルガッドは体勢を崩しサヤが数十メートル先まで吹き飛ばされ地面に倒れている。
「サヤ!」
俺は思わずサヤに向かって大声を上げる。
くそっ! 俺がもっと早くサヤを引き上げていれば! だが今は後悔よりサヤの身が心配だ。
「大丈夫か!」
「うぅ⋯⋯柔道の漫画読んでて良かった⋯⋯」
どうやら上手く受け身を取ったようだ。サヤは元々運動神経がいいが漫画を読んだだけで受け身ができるなんてどんだけだよ。
しかし今はその運動神経に感謝だ。
俺はガルガッドの手から降りサヤの元へ近寄ろうとするが⋯⋯突然一機の虎型の機体が現れサヤの真上に陣取る。そして腹部から光が放たれるとサヤの身体が浮かび上がった。
「サヤ!」
まずい! サヤが虎型の機体に吸い込まれている。このままだと⋯⋯。
「ちょっとやめなさい! 何するの! リウトォォォ!」
サヤは必死に叫びもがいているがどうすることもできず、そのまま虎型の機体に回収されてしまった。
「サヤ! サヤ! ふざけんなお前!」
だが俺の叫びも虚しく虎型の機体は振り返り猛スピードでこの場から駆け走ってしまう。
「このまま逃がしてたまるか!」
俺は急ぎ青色のガルガッドの元へと戻る。
「リウトちゃんサヤちゃんが⋯⋯」
「連れ去られたのか!」
コト姉は顔面蒼白で、普段冷静なシュウヤでさえサヤが誘拐されたことにより声を荒げていた。
「ああ」
そんな2人に対して俺は頷くことしかできない。
しかし俺は何も出来なくても青色のガルガッドに乗っている女性ならサヤを助けられるはずだ。
「おいあんた! 仲間が拐われたんだ! 助けてくれ!」
ガルガッドのコクピットに戻った女性に向かって大声で叫ぶ。
「申し訳ありません⋯⋯虎の機体スティルタイガーの機動力に追いつくことは⋯⋯」
「そんなのわからないだろ!」
ヘルメットを被った女性は申し訳無さそうな様子を見せているがそんなことはどうでもいい。そしてサヤを拐った虎の機体達は目的を達したのか全軍西側と撤退し始めた。
「早く追いかけてくれ⋯⋯サヤが⋯⋯サヤがぁぁぁっ!」
だがすでに虎の機体は遠くまで退き、この場には俺の絶叫が木霊するだけであった。
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