二話-冒険者
動いた、と思った瞬間にはそれは行動を終えていた。
体から触手のようなものを伸ばし真っ先にユキナの方へと伸ばし、ユキナを締め上げる。
「かはっ…!!」
ユキナの口から声にならない声が溢れる。
「ねーちゃん!!」
すぐさま駆け寄り触手を斬りつけるが、先程と同じように全く手応えがない。
「だ、め……、ゆーき……」
「ねーちゃん!待ってて!!すぐ助けるから!!」
「わたしは、いいか、らっ…」
ぎりぎりと、ユキナを締め上げる力は強くなり、触手は数を増し、ユキナの体を弄る。
「お前ぇっ!!!」
触手やその本体にも攻撃はしかけるが興味すら示さない。
「わたしのことはいいから………これを……」
ユキナは触手に高密度の魔力をぶつけつつ、片手で何やら珠と黒い箱を取り出す。
「この珠を……!!」
「う、うん…!!」
ユキナからその2つを受け取る。
「ねーちゃん……これは……?」
「神様への………おくりものよ……じゃあ、がんばって………ぐっ!?」
触手が更にユキナを締め上げるが、ユキナは魔力を打ち込む手を止めない。
「じゃぁ、がんばって…………ユーキ、私達の神を、作られし偽の神を………魔の、神を……!!!」
その瞬間、珠が光り輝く。
「ね、ねーちゃん!?!?」
「ばいばぃ……」
ユキナのか細い声を最後に何処かへと落ちていくような感覚。
最後に見たのは苦しそうに、しかしこちらをみて微笑むユキナと、殺意を向ける黒の塊だった。
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「うわっ!?」
意識が加速し自分の中になだれ込む。
今まで感じたことのない感覚に吐き気を覚えながらも辺りを見回し、両手に珠と黒い箱をもっていることに気が付く。
辺りは月明かりがよく通る森であった。
「どういうこと…?さっきまではもっと荒れてたのに……」
先程までいたところ-森を抜けてすぐのところ-は人や生物が滅多に来ることもなく荒れていたが、ここは恐らく人か生物が多く来るのだろう。
死体は放置されていないし、少し探したらまだ新しいなにかのフンもあった。
「こんなときは……」
珍しくおじさんの教えも役に立つ。
まさか本当に遭難するとは。
空を見上げ星を探す。
「時間的にはさっきと対して変わってない……うーん…見慣れた星…………あった!!さっきねーちゃんと見た星だ……!!」
ぎりぎり見えるか見えないかの位置にその星はあった。
「それだと……北、か………周りの様子も随分と違うし多分ねーちゃんが言ってた海の先にあるところだよね……」
考える。星の位置がかなり違う。
ユキナの力で空を超え、丸一日移動して来た距離より長く、しかもここは土地勘もなければ敵の強さもわからないし、更に海を渡らなければならない。
果てには食料はユキナがもっている。
「どうするか………海はどんな敵がいるかわからないし僕は泳ぎが得意でもない……となるとここらへんで人の集落を探すのが先決か……けど……ねーちゃん……」
体術では僕が勝っているが頭脳と魔力では恐らく、いや絶対にユキナが勝っているし実戦だったら圧倒的にユキナの方が強いだろう。
そう自分に言い聞かせるが心配なものは心配だ。
それ以外にも資金面はどうするか………海を渡る船があったとしてもまさかただではないだろう。
第一に人里を探して次に資金面か………どこのだれとも分からん小僧をやすやすと雇ってくれる所も多いとは考えにくい……
そう考えているうちに冒険者という存在を思い出す。
確か冒険者は冒険者ギルドというところから依頼をうけ、魔物を殺したりして報酬をうけとる職業だ。
「多分冒険者なら一つの所にとどまる必要もないだろうから資金面もねーちゃん探しも解決、かな…っ!!」
そうときまれば第一の目標人里探しである。
両手にもっていた珠を箱にしまい懐に入れる。
そして高く跳ぶ。
暫く魔弾射で移動していると比較的大きそうな街が見えてきた。
石の柵のようなもので囲まれていてその柵が途切れているところには人がたっている。恐らくは通行料を取ったりするのだろう。
しかし、生憎と今は素寒貧だ。
「今は夜だから空から入ってもバレない…………かも。」
確信はない。しかし今の格好は白のシャツに緑のズボンに黒のマントだ。マントを被ればそうそう見つからないだろう。
「そうと決まればっ…!!」
一気に加速し高度を上げる。
そして、急降下!
人のいなさそうなところである程度広さがあるところがいいが………
上から街を見ると円形で真ん中に大きな家や店があり、外側には小さい家が並んでいた。
「へぇ…街ってこうなってたんだ…流石にこの規模で村はない、よね…?」
人のいない大通りを見つけたのでそこに向かって降下。
「ほいっ!」
頭から突撃していったのでまず道路に手を付きバネのようにして体を最後宙にうかし着地する。
「上出来上出来……」
しかし気は緩めない。
人が来ないうちに路地に侵入し更に路地裏へと向かう。
「ふー…ここまでくればいっか……」
ほぼ真っ暗に近いので暗闇に目を慣らし、辺りを見回す。
「ここなら人も来なさそう……」
荷物を全て出し確認をする。
「ナイフ一本。ばあちゃん特製グレートソード。水袋とおやつの木の実。ハンカチと火打ち石。あとは………珠と箱、かぁ…。あっ。これも………」
懐を弄り今日殺した猪の牙を取り出す。
「御守りって……まさかねーちゃんこれを分かってたんじゃ………なんてね……」
ユキナはそんな回りくどいことしない。
こんなことがおこると分かっていたら素直に伝えるだろう。
「まぁこれが一文にもならないなんてないよね…」
あぁ、段々と眠たくなってきた。
僕は出していた物を懐にしまい、水袋の水を飲み干しマントに包まるようにして道の端っこで眠った。
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「ふぁ〜あ……」
辺りはまだ薄暗い。早朝だろう。
ゆっくりと起きた僕は水袋の水で顔を洗おうと思い飲み干したことに気付いた。
「ありゃっ……」
まあいい、昨日は現状確認で精一杯だったが最後にユキナが言っていた神とはなんなのだろうか……
「私達の神、作られし偽の神……魔の神……かぁ……」
それにその神様へのおくりものだ。
「わからん、かぁ…」
取り敢えず今現在のことに集中しよう。
冒険者ギルドに行き、冒険者になる。依頼をうけて資金面をどうにかしつつユキナを探す。
もっと色々と観光とかしたかったけれど我儘も言ってられない。
大丈夫、大丈夫。ユキナは死なない。
自分に言い聞かせなければ気が狂ってしまいそうだ。
「さて、と。冒険者ギルドの場所……」
この街のことは全く知らないため虱潰しに探すよりはこの街にいる人に聞いたほうが早いだろう。
「できるだけ優しそうな人……」
と街中を探していると少し髭をはやした細目の男性が目に入る。
「あの人とか良さそうだな…」
その男性に近付き声をかける。
「あの…すいません!」
「はい?私に何か用ですかな?」
「その、冒険者ギルドの場所ってどこですかね?」
「あぁ、それなら………」
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僕はその男性に教えてもらった場所に来ていた。
「で、でっけー…」
そこは民家や八百屋などの対して大きくもない家が多い街の外側の場所にしては場違いに大きく、隣には武器屋や宿屋が建っていた。
「確か冒険者ギルドからは街の外に行く人が多いから街の外側にあるんだっけ……」
教えてくれた先程の男性に感謝しつつ冒険者ギルドの扉を開く。
「うっ……!」
鼻につく強い酒と男どもの汗の混ざった何とも言えない匂いが鼻孔に突き刺さり、喧騒が耳を刺激する。
ギルドの中を見渡すと依頼であるものが貼り付けてある掲示板や受付、備え付けてある酒場に多く人が集まっていた。
ガタイの良く筋肉隆々な人が多い中大して背が高いわけでもなく比較的幼い僕のことをみて笑う人や顔を顰める人も少なくはなかった。
しかしそんなことは気にせず受付に並び登録をする。運の良いこと並んでいる人は少なくすぐに僕の番がきた。
受付をしている人は大人しそうな金髪の女性で肩まで髪が伸びていた。
「いらっしゃいませ。ご用件をお申し付け下さい」
「登録をお願いします」
「承知致しました。それでは名前と年を仰って下さいませ」
「えっと…名前はユーキで年は15です。」
「承知致しました。それではこれを。」
「ありがとうございます。」
受付嬢に薄いカードを渡される。
カードには名前と年とランクが書かれていてランクの欄は黒色になっていて、それらからは微かに魔力を感じる。恐らくは魔力で文字が書かれているのだろう。
「説明は必要ですか?」
本である程度知識があるとはいえ聞いておいて損はないだろう。
「お願いします」
「かしこまりました。冒険者にはまずランクというものが存在し、これが上がることで高難易度の依頼を受けることができるようになります。自分の実力に合わない依頼を受けて死亡する人を少なくする為ですね。また、受けることのできる依頼は自分のランクの一個上の討伐以外の依頼までです。どんなにランクが上がろうと自分より下のランクの依頼は受けることは出来ますが初心者用の依頼を受け過ぎたりすると厳重注意となる場合がございます」
これは初心者の分が無くなるのを防ぐためだろう。
「ランクは下から黒、白、緑、青、赤、銀、金となっており、青までは魔物の討伐や依頼の成功度だけで上がることも可能ですがそこからは護衛依頼や長期依頼の成功度、冒険者になっている期間に素行や態度も鑑みて昇格を考慮させていただきます。昇格可能の場合は依頼を受けるときなどに一言かけさせていただきます。
依頼は掲示板に貼ってある紙を剝していただきこちらへと持ってきて頂いて、受注料を払って頂くと受注可能ですが失敗すると罰金が発生致します。」
む、すぐに上がることはできないのか……できるだけ早く昇格したかったが…まぁここらへんの強さも分からないので対してあまり関係ないか。
「冒険者ランクが上がると様々な特典がつき、宿屋ギルドや武器屋ギルドに加盟している店で冒険者カードを提示して頂くと割引が発生し、ランクが高いほど安くなります」
なるほど、冒険者以外にもギルドがあるのか。
「基本的に冒険者同士の争いには口出しはしませんが法にふれた場合向格処分や最悪の場合除名にもなりますのでご注意下さい」
冒険者は荒くれ者のイメージが強いがそれでも法にふれるのは冒険者ギルドとしては看過できないのか。まぁ当たり前だな。
「説明は以上になります。それでは良き冒険者ライフをお送り下さいませ」
受付嬢がにっこりと微笑む。僕も微笑み返しお礼を言うと依頼が貼ってある所に向かう。黒ランクの依頼があるところに行き良い依頼を探していると後ろから声をかけられる。
「おい」
深くドスの効いた声だ。すぐ様後ろを振り向き距離をとる。
後ろにはスキンヘッドの色黒で手にはメリケンサックをつけて、タンクトップの男がたっていた。
「なんですか?」
「16歳の餓鬼がこんなとこに来てんじゃねぇ」
「僕が何歳であろうがここに来るのは勝手でしょう」
見たことがある。どうせ僕みたいなやつをボコすのが目的なのだろう。本当にいるのかとびっくりしたが荒くれ者が多いところだ。そんなものだろう。
「てめぇ…死ぬぞ」
「貴方に関係があるとでも?」
男は深く溜息をつき近付いてくる。
「金は?」
「生憎と持ってません」
「ならその剣はなんだ。剣があればどうにかなるというものでも無いんだぞ」
「分かってます」
「ふん…見たところこのまま依頼を受けるつもりらしいが……テントも持っていなければ食料ももって無いらしいな。ここらでは見かけないし…その剣は村の者に持たせて貰って村から出てきたってとこか…金がないのは馬車で使ったか買い食いでもしすぎたか……」
もとより金はもってないが……それ以外は合っている。
「まぁ…大体。それでなんですか?早く行きたいんですけれど」
「はぁ…お前、何故村のやつはお前に剣を持たせたと思う?」
「え、それは…」
何が言いたいのだ。
「お前はその年にしては筋肉もついているし自分一人じゃ目の届かないところまで行き届いている。手のタコと剣の状態を見ても程よく剣を振って鍛えているのだろう。そしてそれは村の者に教えられて、だろう?」
「えぇ……まぁ」
なんだこいつは。確かにおじさんとばあちゃんに鍛えて貰ってはいたが洞察力が気持ち悪いし目的も分からないので更に気味が悪い。
「何故、だと思う?」
「は?何故って……」
考えたことがなかった。何故、何故…?
「それは……お前に死んでほしくないからだ。」
ハッとする。死んでほしくないから………だからおじさんは遭難したときの対処法を教えてくれたのか。
「分かるか?お前は今その人の思いを無駄にしようとしている。依頼ってのは簡単な物でも一日で終わるのは少ない。それにお前が思っている以上に魔物は強いし採集依頼は採集するものがとれない。お前はそんなところで剣一本で無事でいられるか?」
「それは……」
そうだ。ここらへんの敵の強さなど全く分からないのだ。うちの村より強いのか弱いのか……土地勘もないから迷いもするだろう。
「ない、です……」
「そうだろう。ならやめろ」
それでも…!
「それでも、やらないと行けないんです!探している人がいるんです!一刻も早く!その為には資金も早く調達しないといけませんし……」
「急ぐな。」
何故か、その言葉が深く染みた。
「急いだところで自体は悪化するだけだ。途中でお前が死んだらお前が探している人は二度と見つけられないんだぞ?」
「なら、どうしたら…!」
男が近付き肩に手を乗せる。
「お前は運が良い。明後日頃から冒険者養成講習が行われる。まあ講習といっても多少の座学と実戦だが……それなら1ヶ月程でおわるし卒業できて平均以上なら白ランクに昇格を、さらに優秀なら緑ランクに昇格できる。」
「えっ…本当ですか!?」
それならここらへんの色々なこともわかるだろう。
「あぁ。まあ受講には銀貨三枚だが……持ってなさそうだな。貸してやろう。出世払いで良い。」
と懐から袋を取り出すが僕はそれをとめる。
「大丈夫です。途中で魔物を倒して来たんです。それを売ればある程度のお金にはなると思います」
「むっ……そうか。」
「えぇ。お陰で目が覚めました。ありがとう御座います。えぇと……」
「ガルクだ」
「ガルクさん。僕はユーキです」
「あぁ」
ガルクに礼を言い魔物の買い取りを受付しているところに向かい懐から猪の魔物の牙を取り出す。
「買い取りをお願いします」
「承知致しました」
受付嬢が牙を手に取ると顔が驚愕に支配される。
「暫くお待ち下さい!!」
受付嬢がパタパタと走り去る。
「何を出したんだ…?」
びっくりして後ろを振り返るとそこにはガルクがいた。
「ガルクさん……」
「すまない。少し気になってな」
「えぇ…。まあ出したのは只の猪の魔物の牙ですよ」
「それにしては驚きすぎだと思うが……おの受付嬢はそうそう表情を変えないんだぞ…?」
「そうなんですか……」
「あぁ。それにしてもここらへんには猪はいないが……」
「えっと、探している人に御守りとして貰ったんです」
そういうとガルクは少し顔を俯かせる。
「そうか…」
「えぇ。まあ結構取れるものだったので貰ったときは驚きましたよ。なんでこんなの持たせたんだって。けれどこれを予想でもしてたんですかね?」
あははと笑うとガルクは悲しそうな顔をする。
「そうか……少しお前のことをみくびっていたようだ。思い出を尊重しすぎているやつだと思っていた。ちゃんと判断はできるんだな」
「いえ……それにもっと別の…大切なものを貰っていますから」
そっと黒の箱を触る。
その時、先程の受付嬢が帰ってきた。
「お待たせ致しました!!あ、ガルクさん。、こんにちは」
「あぁ」
心なしか受付嬢の顔は先程より赤くなっていた。
「ユーキさん!あの魔物……ユート大陸のものですか!?」
ざわわ、と冒険者ギルド全体がざわめく。
ガルクも驚いているようだ。
恐らく僕達がいたところはユート大陸というのだろう。
そのユート大陸のものは珍しいのか。まあそんなものか。海も隔てているし。
取り敢えずここを切り抜けなくては。
「えぇと………姉に貰っただけなので僕は詳しくは分かりません…」
あははーと笑う。これで大丈夫な筈だ。多分。
「そ、そうですか…!それで、この魔物の毛皮とかは……」
「申し訳ありません……」
「いえいえ!!そ、それではこちらが代金となります……金貨50枚です。お受け取り下さい……」
カウンターの上にずっしりとした袋が置かれる。
「こ、こんなに持てないや…」
これを持ちながら行動するのはきつそうだ。
「それでしたら冒険者ギルドにお預け下さい」
「あ、はい」
そんなサービスまでやっているのか。ガルクに何枚くらい持っていればいいかと聞くと一枚で十分らしいが一応三枚持っておく。
「それではカードを提示下さい」
素直にカードを渡すとカードにはお預かり:金貨47枚と書かれていた。便利だなぁ。